高校生からの夢だった、バイオの力で人の役に立つこと
―バイオの力で、人の役に立つことがしたい。
武田は、高校生の頃から「光合成の力で世界を変えたい」という夢があった。
2015年10月、鈴木秀幸とともに米国でのバイオ燃料向けミドリムシの培養研究から帰国すると、バイオ燃料開発課の課長であった嵐田から声がかかった。
「ミドリムシなどの微細藻類を商用のバイオ燃料の原料として生産することを見据えて、低コストかつ安定的に大量培養できる方法を確立させてください…!」
入社以来ずっとミドリムシの屋外大量培養や研究をメインとして行ってきた武田の次の挑戦が、こうして始まった。
世界初の試み・日本のあぜ塗り技術を応用した
培養プールの建設でミドリムシ生産を低コスト化
2016年4月、武田は、バイオ燃料用のミドリムシの屋外培養に協力してくれる事業者を求めて日本全国を駆け回った。そして、3カ月後にようやく「ぜひ一緒に挑戦したい!」と名乗り出てくれたのが、三重県多気町に木質バイオマス発電所を保有する中部プラントサービスだ。
そして2016年9月。
ユーグレナ社は、中部プラントサービス、三重県、多気町の協力のもと、木質バイオマス発電所より、排出される排ガス・排水・排熱などを微細藻類の培養に必要な二酸化炭素源やエネルギーとして用いる燃料用微細藻類培養プールを木質バイオマス発電所の隣接地に建設することを発表した。
その後、武田は工事の設計から施工の管理、さらには培養設備導入に向けた機器の選定まで、多くの人に協力してもらいながら手掛けていった。
しかし、まだ低コスト化への挑戦は終わっていない。
「さらに低コストで培養するにはどうしたらいいのだろう…
そうだ!培養プールの設計方法自体を変えてしまうのはどうだろうか?」
従来の微細藻類培養プールはコンクリートでできており、費用がかかるうえに工期も長い。培養設備の導入を進める中で、そもそも培養の土台となる培養設備自体を変えてしまうことを考えたのだ。
そこで、武田が目を付けたのは、100年以上の歴史を持つ岡山県の農業機械メーカー、小橋工業が保有する農耕技術、とりわけ水田造成技術だ。もともとは小橋工業より「水田造成技術を微細藻類の培養に活用できるのではないか」との提案をもらっており、2014年より微細藻類の効率的かつ安定的な培養方法の共同研究契約を締結し、研究を進めていたのだった。
そして、ついに2017年7月31日。
ユーグレナ社は小橋工業の水田造成のあぜ※塗り技術を応用した世界初のあぜ型微細藻類培養プールを建設・稼働を開始することを発表。
※あぜ…土を盛り上げて固めた田と田の間の仕切りのこと
1,000平米規模の大型プールを実際に建設した結果、武田たちの研究により、土壌をあぜ型に固めて建設するため、コンクリートで建設された培養プールに比べて建設コストが 10 分の1程度となるほか、建設工期も4分の1程度となり、大量に必要となる燃料用微細藻類の生産コスト削減や生産量拡大への迅速な対応が可能となることが明らかになった。
あぜ型微細藻類培養プールの規模は、培養規模の拡大に合わせて2018年中には更に大型のプールの増設を進める予定だ。
武田は毎日試行錯誤しながらも、「光合成の力で世界を変えたい」という高校生の頃からの夢の実現に向かって、着実に一歩一歩進んでいる。