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【語らひ人Vol.5】小笠原 清基 (小笠原流三十一世宗家嫡男)

【小笠原 清基|小笠原流三十一世宗家嫡男】



株式会社curioswitchがWEBの記事や映像コンテンツなどの制作を担当している、NPO法人七五。
ここでは、NPO法人七五の活動についてもご紹介します。

文化の継承や創造に関わる方々をお招きして、お話を伺う特別企画「語らひ人」。

今回のゲストは、NPO法人七五へご賛同頂き、「SHINAGAWA 武士の学校ー 徳川家の弓馬術 」(※1)でもお世話になっている、小笠原流三十一世宗家嫡男小笠原清基さんです。

(※1)「SHINAGAWA 武士の学校」(https://www.school-of-samurai.com/) 小笠原流一門による武士の礼法と弓術と流鏑馬の特別体験授業。徳川家も学んだ今に続く伝統文化の面白さや奥深さに、子供から大人まで楽しく触れて頂くイベント。本年は7月22日・23日に開校予定です。

「武士の学校」の開校に先立ち、礼法・弓術・流鏑馬のワークショップを理事長近衞忠大が体験しながら、小笠原流の歴史と、未来に向けたビジョン、礼法と弓馬術弓の学びが役立つ生きる術等について、語らっていただきました。​

​今回は特別に、会員でない方にも、全文公開しております。ぜひ、じっくりお楽しみください。



目次​

1.小笠原流とは
2.小笠原流のお稽古
3.小笠原家の家訓「教えることを生業にしない」
4.伝統を未来へ繋げるために
5.生き抜くための伝統文化
6.SHINAGAWA 武士の学校 開催に向けて

小笠原流とは

近衞:本日はどうもありがとうございました。礼法・弓術・流鏑馬のかなり凝縮されたワークショップでした。改めて、小笠原流の礼法と弓馬術はどういうものなのか教えてください。

小笠原:初代小笠原長清が源頼朝公の師範をしたと言うのが始まりであります。そこで教えていたものが礼法と弓術と弓馬術と言うものになるわけです。

もう少し遡ってみますと、平安時代は公家の時代でしたので、その公家文化を参考にして、源氏としての式法を作ったというのが正しい表現になります。それが1187年のことになります。そこから室町時代は足利家、そして江戸時代は徳川家に仕えをして、礼法、弓術、弓馬術を将軍に教えていました。

将軍としての指揮法ということになりますので、上に立つ者としての心構えとか、あるいは上の者としての立ち居振る舞いとか、そういった観点になります。一般的な武家文化とはやや違うかなと思います。


近衞:なるほど。
武士の学校」と聞くと、武術訓練をするような印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、小笠原流においては、将軍として、人の上に立つための作法を身につけるという要素が重視されているわけですね。

小笠原:そうですね。
武士は武器を扱っていますので、それだけ力があると言うことになります。そうした時に、力があれば何でもできてしまう訳ですが、力があるからこそ、人間力、人としての力というものを身につける必要がある

なので、いわゆるお作法ごとではありません。上に立つ者としての心構えを、弓や馬を通して身につけていく。そう言った、お稽古内容、教育内容になっています。


小笠原流のお稽古

近衞:小笠原さんも、ご自身は小さい頃から厳しい修行に耐えるといった感じでしたか?

小笠原:小笠原家はどちらかというと、生活の中に溶け込んで行く形を取っていますので、改まって稽古をしましょうとか、今からやりますということではありませんでした。例えば食事の時には正座をして食べましょうとか、勉強する時は姿勢正しくやりましょうとか、本当に基本的なことだけでした。

それは弓も流鏑馬も同じです。ですが、自分が若い頃にしていた稽古を今の方々に話すと「それはとてもじゃないけどできない」と言われます(笑)。

近衞:小笠原さんのご子息は小学生でしたよね。育ち盛りの遊び盛りだと思いますが、今のお話ですと、やはりお稽古は強制されてない?

小笠原:全くしないですね。弓を引いたり馬に乗ったりしていますけれども、もう本当に特に何も教えないで、自由に引いて自由に乗って、もう少し何かをしたいのであればそこで教えてあげましょうって言うぐらいのものでして。

やっぱり、教わってできることは教わったことまでしかできないじゃないですか。自分で工夫をしていくので、それ以上のところまで行き着くのだと考えています。

近衞:お弟子さんたちに対しても、極力自主的に工夫をしながら、皆さんが自然にやっていけるように、と言うような指導方針なんですね。

小笠原:そうですね。大枠はありますが、決して型にはめて行く稽古ではありません。
根幹とする考え方に沿ってそれぞれに合った稽古方法で進めて行く方法をとっています。自分の個性に合った稽古をしたい方にとっては良いと思います。

近衞:なるほど。昨今、一般の方々がお稽古できることって、ものすごく幅広いと感じます。
例えば、ボルダリングとかスケートボードとか、新しいスポーツが出てきて、子供たちが簡単に選べないぐらい習い事がありますよね。選択肢が沢山ある中で、やはり小笠原流だよねって言ってもらえるようになるために、どんな工夫をされているのですか。

小笠原:「何もしていない」っていうのが結論になるんですが(笑)。選択肢が多い中において、やってみたいと思ったらできると言う環境が重要だと思うんです。やれる機会がない状況は駄目だと思うので、そこは工夫して間口を広げています。でも、その次の段階においては、私たちはこれなのでやりたい方はどうぞっていうスタイルです。

結局相手に合わせていってしまうと、時代時代に合わせてウケを狙う形になってしまって、本来自分たちが伝えたいものから離れてしまいます。自分たちの稽古や行事をして、伝統というものが伝わっていくわけです。

やるべきことをやっていった結果として、あまり人が入らない、続いていかないと言うことであれば、それはそう言うものなのだと思うしかない。やりたい方がやれると言うことが一つと、あとはそれをやってみた時に、変な感情、嫌な負の感情を持たないと言うこと、この二つが重要なのかなと思います。

伝統文化って、上意下達が多い。結果として、理不尽なことも多くなりがちです。

やっぱり、なぜ今この指導を行ってるのか、ちゃんとお互い納得するというか、言われた方も確かにそうだなと思えるような形をとるべきだと常々考えています。

小笠原流は、代々そのようなものだと思いますよ。頭ごなしに「こうしなさい」ではなくて、「このように動く方が効率的だし、機能的なのでこうなんですよ」と言う指導です。


近衞:相手が納得できるように説明することはとても重要ですね。確か、時代に迎合しないようにするために、家訓として流儀の指導を本業にしてはいけないのですよね?

小笠原:はい。江戸時代までは将軍家に教えることが家業だったわけですが、明治になってから一般の方にお教えするようになりました。その時に、一般の方に教えるということを本業にするなという家訓ができました。その理由は色々ありますけれども、今自分自身がこの家訓はすごく重要なんだなと思うのは、やはり礼法というものは、あくまでも日常生活に生かされないと意味がないと思うんです。

伝統的に武士はこうだったからと言っても、武士の存在しない現代においては納得がしづらい。じゃあ伝統的な礼法をどういう風に今の人たちに受け入れてもらえるようにするのか。

矛盾しているように感じるかもしれませんが、時代に寄り過ぎず、かと言って、離れすぎず、ちょうどいいところを進み続ける。それは、家業を本業にせず、一般社会を肌で感じていなければできないと思っています。

小笠原家の家訓「教えることを生業にしない」

近衞:なるほど。そして、ご自身は製薬業界で研究職をやっていらっしゃる。

小笠原:はい。なので、普段は実験をしています。

近衞:製薬会社のお仕事をしながら、平日の夜や休日は小笠原流の活動をなさっていると思いますが、お休みの日はあるのですか?

小笠原:そうですね。コロナ禍の前であえれば、本当に何もないオフの日は、1月の3日間だけ、といった状態もありました。けれども、今はもっと休みの日は増えている気がします。

近衞:平日の夜も、こちらの教場にいらっしゃるんですか?​

小笠原:週に一度は、必ず夜こちらに入るようにしています。それ以外は、稽古場ではなくて、事務仕事や講演会の準備、打ち合わせを他所でしています。

伝統を未来へ繋げるために


近衞:小笠原さんは、積極的に本を執筆されたり、ビデオを出されたり、あとはウェブサイトもかなり充実していると思います。色々な発信をされている中で、どういったことを心掛けていますか。

小笠原:発信する媒体にもよりますが、まず、あまりにも砕けすぎるのは良くはない。理由としては、ここまで長く、この流派を伝えて来てくださっている年配の門人にとってみると、そういうのをあまり快く思わないんですよね。

かと言って、今の若い方達にしっかりとしすぎたものを発信し続けていても、あまり意味がないというか、見られないんですよね。なので、その間をなるべくとろうとは思っています。

どっちつかずになって言ると表現されることもありますが、やはり門人の方にも目を向けないといけないし、かといって、外部の方にも目を向けないといけないので、その辺のバランスを良く考えながら発信しています。

近衞:わかります。縦軸があっての横軸ですよね。

小笠原さんや私の世代だと、もうあと半世紀ぐらいは頑張らなきゃいけないと思いますけど、これからますます時代の変化が激しくなる中で、流儀の継承で意識されていることは他にありますか?

小笠原:どの伝統文化も共通だと思うんですが、お稽古されている方の構成というのは、ご年配者が多くて若手が少ない状態で、この後、国内の人口はどんどん減っていきます。日本の外に目を向けざるを得ない訳ですが、その先に何があるのかと言うことなんです。

国外の方が稽古したい、それは全然良いと思いますが、並行して国内の対応をしっかりとやり続けていかないと意味が無いと思います。外国に目を向けていれば稽古される方の数は増えるかもしれませんが、本当に先に繋がるのでしょうか。

あるいは、時間とお金に余裕のある50代を中心に国内の門人を増やそうと、その方々への発信を強化したとします。それは完全に資本主義のマーケティング思想です。

思うに、伝統文化は、誰でも受け入れていくものです。どこかに絞ってしまうと、結局しわ寄せが来ます。

近衞:そうですね。僕自身が密かに思っているのは、外国の人の方が日本人より客観視ができるので、日本人もをすっかり忘れて気がついてないことを翻訳してくれて、最終的にはその価値を、未来の日本人に再認識させてくれる存在になりえるのではないか、と言うことです。

だから、仰る通り、どこまでそれが本当に未来につながるのかという疑問はあるにせよ、外国に目を向けることが、巡り巡って国内向けに大事かなとも感じています。

ちなみに、小笠原流の外国人のお弟子さんは現状いかがですか?

小笠原:コロナ禍で増えました。アメリカとかロシアとかポーランドとか。

近衞:それは、何をきっかけに?

小笠原:コロナ禍になってオンライン稽古を本格的にやったんです。それまでは、細々とはやってたんですけども、本格的に始めたら、一気に増えました。

ただ、1年以上お稽古を続けていただかないと小笠原流に入るか入らないかのお話もしませんということをまず明確にしています。1年間オンラインでやって、それでも続けたいという方達が、入門されています。


近衞:若い方が多いのですか?

小笠原:そうですね、下は10代、上は70代もいらっしゃいます。

近衞:お稽古は日本語ですか?

小笠原:私が日本語で話した内容を、通訳してもらっています。


近衞:素晴らしい!


小笠原:今は国内用と外国用と門人向けのオンライン稽古を毎月それぞれしています。アメリカの方もヨーロッパの方もいらっしゃるので国外用は日本時間の午前2時にやっています。そうすると、アメリカもヨーロッパもちゃんとした時間に受けれますよね。日本だけちょっと苦しい時間なんですが(笑)

近衞:大変ですね。そこまでされているんですか。

小笠原:お稽古の内容は録画もして2カ月間であればいつでも見れるようにはしてあります。日本だと年配の方はインターネット環境が少ないので、稽古場でインターネットができる方に見せてもらいながら、一緒に稽古をすると言う活用もされています。

老若男女、国籍を問わず、みんなに均等に情報が行きますよね。


生き抜くための伝統文化


近衞:小笠原さんは『生き抜くための小笠原流礼法』(方丈社 2021)という著書を出されていますが、日常生活における礼法のいわゆる効果効能というものをどうお考えですか?

小笠原:先程申し上げたように、小笠原流というのは「こうすべきだ」ということではなくて、あくまでも「この考えを達成するためには、この動きの方が合理的ですよね」と言う稽古をします。

考え方があって動作があるので「この場合は、その考え方でこう言う風にしましょう」と言う判断ができるようになります。自分で考えて対応していくことになるのです。

例えば、災害が起きた時に、どれ程の人が生き残れるのか?つまりは、「生きる力」です。

「生きる力」というものは、小笠原流に限らず、伝統文化の中には含まれているのかなと思います。

近衞:納得です。現代は何でもマニュアル化されてしまっているので、その根底にある、なぜそうした方が良いのか?と言う背景があまり伝わっていないのです。

小笠原:そうですね。もう最初に決めた人は、いろんな経験のもとこう言う時にはこうだなって判断をしているのだと思います。その判断をした人の考え方も伝えていかないと、誰も育たないんですね。

例えば、こういう撮影においても、光の加減が良く無いと思えば、近衞さんのように、稽古場の障子を外して良いですか?となる訳です。過度にマニュアル化されてしまうと、臨機応変に対応できなくなると思います。

SHINAGAWA 武士の学校 開催に向けて

近衞:さて、来る7月22日・23日は、SHINAGAWA武士の学校が開催されますが、今回は「礼法と弓術」、「礼法と流鏑馬」ということで、昨年とはちょっと趣向を変えました。参加を検討されている、特にお子様連れの方に、ポイントというかアドバイスしていただけますか?

小笠原:一般的に「弓をやるメリットはなんですか」と言う話になると、多くの人は集中力がつきますとか姿勢がよくなると答えます。それは、弓に限らず、サッカーだって、空手だって、何だって一緒だと思うんですね。

弓だからこそと言うのは、何か?止まっている的があって、ただ引っ張ってただ離す。

弓は、実に単純です。けれども、毎回、同じところには飛んでいかない。

単純なことなのに、自分が実現したいことができないわけです。

じゃあ、どうやったらそこに向かっていけるのか?と言うのことを、自分でゆっくり考えられるんです。

相手は止まっていて、自分はただ弓をひっぱって離す。

自己実現をするためにのプロセスを、ゆっくり考えながら達成できるのが弓術の特徴だと思います。学業でも仕事でも、何か困った時に、自己実現をするために自分の心と向き合い考えていく。そのための訓練が、弓術で培われると思います。

一方、流鏑馬は、自分の身体と向き合う能力だと思います。自分の身体をどうやって使っていくのか。例えば、心の病気になる方が最近多いですよね。自分の中の不調とか、自分の中のちょっとした体調の変化と言うのが、わからないのだと思うんです。

ところが、馬の上という安定ではない中で、自分が常に真っ直ぐにいようと思ったらば、自分の足先から指先までしっかりと動かして、自分の状態が今はどうなのかっていうのを考える、感じる必要があります。そういう訓練をしておけば、自分が今疲れているなとか、ちょっと今精神的に危ないんじゃないかとか言うのが、感知できるはずなんです。

やはり、流鏑馬と言うものは、自分の身体を知る為にやるべきだと思います。己の身体を知るために馬に乗り、何か壁にぶつかった時に越える訓練をする。

それが、流鏑馬です。

近衞:かなり哲学的ですね。


小笠原:ちょっと子供には難しいかもしれませんね。大人の皆さんには通じますかね?


近衞:はい。親はそのような世界を求めていますよね。じゃあ、子供がそれを実現できる教室があるかって言うと、他になかなか無いですから。

小笠原:今は相対的なものが多いじゃないですか。どうしてもライバルがいて、他人と比較されることが多いと思います。でも、弓術も流鏑馬も相手はいません。当たった外れたと言う比較はあるかもしれませんが、そもそも当たるか当たらないかは自分自身の問題です。
そういう意味では、相対的ではなく、絶対的なこととしてできる競技というか武道を、お子様と一緒に体験できる貴重な機会としての位置付けが、「武士の学校」なのだと思いますよ。

近衞:同じことを考えていました!代弁して頂いて、嬉しいです。今日はありがとうございました。

※この記事は、2023年の6月に作成されたものです。


編集後記

「語らひ人」第五弾は、いかがでしたでしょうか。

「武士の学校」にもご興味あれば、ぜひご自身で体験にいらしてください。

ご予約は下記サイトまで。

「SHINAGAWA 武士の学校 2023」特設サイト

https://www.school-of-samurai.com/


数に限りがありますので、お早めにお申し込み頂ければ幸いです。

礼法ワークショップ特集はこちら

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