株式会社コルクは2012年に創業。クリエイターのエージェンシーとして始動し、徐々に事業範囲を広げてきた。
2019年からは事業部制を導入。「マネジメント」「MD」「スタジオ」の三部に分かれ、連携を保ちつつそれぞれが事業伸長に注力している。
今回はMDチームの黒川から、受け持ち事業の内容、現状と見通しを開陳してもらう。
■MDチーム 黒川久里子の場合
黒川久里子が受け持っているのはMD、すなわち物販部門だ。
呼称は物販だが、本人としてはこれを文字通り「物を販売している」とは捉えていない。作品の新しい楽しみ方を提示しているというか、作品自体が一人歩きしていくのを手助けし、プロデュースしているという感覚。そのわかりやすいかたちのひとつとして、モノをつくり販売する活動がある。
「たとえば『宇宙兄弟』なら、このすてきな作品をどう楽しみましょうか? どんなことをすると、より身近な存在になります? とファンといっしょに考えているつもり」
商品化ありきではなく、作品の楽しみ方をともに探っているうち、商品化も視野に入ってきたりする。
そうしたプロセスを、ことのほか大切にしている。効率化をすべてに優先させてしまっては、コルクがやる意味を失くしてしまうので。
「極端にいえば、個人的には単に物販の売り上げを伸ばすことには興味がない。それよりも『宇宙兄弟』全体の売り上げや認知、人気を伸ばしていくことに注力したくて、その過程で物販もどんどん伸ばせるならばそれはうれしいこと」
コルクの作品を世界中の人に読んでもらいたいし、みんなで作品世界をもっと深く掘り下げていきたい、というのが根源の欲求である。その熱量に寄与するための物販を展開していきたいと思っている。
となると、商品をどう開発しつくっていくかは難題となる。ただ瞬間的に目を惹き売れればいいというものづくりはできなくなるので。
「作品が好きな人に、その作品らしさを渡せるものをつくらないと。漫画を読んでいる時間だけ作品に浸るのではなくて、リアルの世界でも作品に触れて楽しんでもらえるように」
漫画作品はバーチャルの世界で展開するが、それをリアライズ、すなわちこの世に在らしめるためにモノをつくるのだ。
「なので商品企画のコンセプトとしては、作品内に出てきたそのままのアクセサリーだとか、あのキャラクターが使っていそうだなと思わせるグッズなどができないかと探ることに。服飾にしても、キャラクターの絵柄がどんと大きくプリントされていればいいというのではなく、日常でふつうにおしゃれにたくさん着てもらえるものにする。
加えて重視しているのは、商品と出逢うアプローチ。それも丸ごと楽しんでほしいので、発送に使う段ボールから梱包を解いたときの見た目や香り、商品告知するSNSの文言まで、徹底的に世界観を構築する。商品との出逢いを演出したいし、受け取った人がモノを購入し使用することを最高の体験として感じてくれたらいい。『わたしのスタイルがここに詰まっていた』と思ってもらえたら何より」
想いを伝えるために細部にまでこだわり抜く。それは作家がキャラクターの表情ひとつを何度も描き直しより伝わる作品を目指すプロセスと、まったく同じことだ。
当初はエージェント業のみ手がけていたコルクがMDを始めたのはいつごろで、どう発展してきたのか。
始まりは2015年だった。通常、漫画の商品化は作品の映画化を機にグッズを出すという程度でそれほど一般的ではない。作品のグッズ化に関しては、むりやりマネタイズするようなやり方はどうかとの意見も社内にあった。
が、商品を出すと意外やファンが喜んでくれた。カレンダーを出せば「こういうのを待っていた」「作品に触れる機会が増えるのはうれしい」という声が多数寄せられた。このころはアンケートなどでファンの意見を聞きながら商品を作っていった。
熱気を感じ、商品開発に力が入るようになった。ただし、開発のしかたとしては、あくまでもコルクらしさを堅持しながらである。とにかく商品数を揃えようといったことはせず、つくり手の自分たちが欲しいと思えるものをつくろうという姿勢を崩さなかった。
スタッフで合宿しコミックを読み続け、「このシーンが現実にあったらおもしろくない?」などと話し合うなかで商品のタネを探した。
その方針がファンにも響いた。事業開始から2年目で売上が1億円を超えた。
そうなれば当然ながら事業計画・目標が立てられるようになっていく。事業の展開と「好きなものをつくる」こと、双方のバランス維持に腐心した。
2018年から専任のスタッフもつくろうとの流れになり、チームが形成され、現在の事業部へと発展していった。
現在MD業務に注力するコアスタッフは4人。ほかにチームとしては6~7人が参画し、LPづくりや物流をおこなっている。
事業としての整備は進んだが、いまだ最重視するのはコンセプトの擦り合わせ。つくりたいものは基本的にスタッフの個人の想いから出てくる。そのアイデアをマーケティング的にイエスかノーかで判断していく。
「発想のしかたはスタッフによってさまざま。世の中の動きをよく見て、いまならこれが熱いよという人もいる。スマホケースだとかパーカーだとかまずはモノありきで、それを作品に落とし込むとどうなるかと考えていく人もいる。いずれにしても、私はこういうものが欲しいんだという内側から出てきた想いが大事。となると、マンネリになるのはよくないし、あまり特定の人の発想に頼っていると偏るので、いろんな人が事業に関わってくれたほうがいい。多様性は大事にしていきたい」
この事業を担うに向いているタイプはあるのかどうか。
「まずは作品が好きかどうか。あと、こだわりはある程度あったほうがいいけど、商品化するにあたってはそこも捨てられる人。矛盾するようだけど両方大切。ファン的な気持ちと仕事との折り合いはつけられないといけないので」
事業の伸長度としては、前期は前年の維持で横ばいだが、ここまで急拡大してきたなかで自分たちがどんなことをしていきたいのか話し合いを増やし、整理できたのは大きい。ここから人も増やしていきたいと考えている。
こちらは、作品の新しい楽しみ方を提供する。それを受け取るファンが、自分の「好き」で暮らしを満たしていってくれるのなら、すてきだし楽しいことだと思う。そんな循環をつくっていきたい。
当面の課題は、作品との関連性と、商品としての完成度をどう両立させるかという点。たとえばファッションブランドのようにファッションで自分や世界を表現をしていくというような服と比べると『宇宙兄弟』の服では、ファッションデザインの部分で追いつかない部分もある。コラボレーションも積極的にしているが、オリジナルとしてものづくりをする際に、モノのクオリティをどこまで追求していくのかという悩みは、ずっとついて回ることになる。
ただ、時代は「自分にとって意味のある消費」を求めているというのも感じる。そうした風潮がMDの追い風となってくれることは期待できるのではないか。