この記事では、先日の第五次観光立国基本計画観光立国推進基本計画 | 観光政策・制度 | 観光庁に基づいた日本国内における観光産業、観光産業化に対して現地の具体的な状況を元に考察を行うものです。
※記事作成者の感じた想いや主観や、ヒアリング先からの一次情報を加工せずに提供すること重要視しており、この内容および提案が全て客観的な正しさを担保するものではないことをご了承ください。
夏の湘南には、毎年大量の人が訪れる。
江ノ電は混雑し、片瀬江ノ島駅には長蛇の列ができる。海沿いの道路は渋滞し、海の家には若者たちが集まり、SNSには夏の風景が流れ続ける。
一見すると、湘南の夏は“盛り上がっている”。
しかし、その裏側で、湘南の海の関係者たちからはこんな声が増えている。
「昔より明らかに厳しい」
実際、藤沢市の観光統計を見ると、7〜8月には観光客数が100万人規模で増加している一方で、宿泊者数には大きな変化がない。つまり、湘南の夏は“日帰り観光”によって成立している。
さらに興味深いのは、海水浴客数の推移だ。
かつて400万人を超えていた海水浴客数は、現在では200万人を下回る水準まで減少している。一方で、年間の観光客数そのものは増えている。
つまり今、湘南では
「人は来ている。でも海には来ていない」
という現象が起きている。
海水浴客で賑わう湘南の海と江の島の風景
「海の街」から「消費の街」へ
かつて湘南に来る理由の中心には、“海水浴”があった。
朝から海へ行き、BBQをし、夕方まで滞在し、そのまま夜まで遊ぶ。「海の家」という業態は、その長時間滞在を支えるインフラの一つだった。
しかし現在、湘南で消費されているものは少しずつ変化している。
- カフェ巡り
- 食べ歩き
- ドライブ
- 江ノ島観光
- SNS映えスポット
- サウナ
- ワーケーション
など、“海以外”の目的が増えている。
湘南は今、「海の街」から「ライフスタイル消費の街」へ変化しているのかもしれない。
その変化が、海の家の現場にも現れている。
海の家で起きている変化
以前の海の家では、朝からBBQ利用が入り、昼にも別の団体が来る“2回転”が当たり前だったという。
しかし現在は、昼頃に来店して1回転するかどうか、という店舗も少なくない。
若者が減ったわけではない。
むしろ湘南には人が来ている。
変わったのは、「長時間滞在する理由」だ。
- 宿泊しない
- 夜までいない
- 海に入らない
- 飲酒スタイルが変化した
- “なんとなく1日いる場所”ではなくなった
海の家は、単なる飲食店ではなかった。
着替え、休憩、飲食、出会い、イベント、音楽——。
「海の家」とは、本来「滞在時間を伸ばす装置」だったのではないだろうか。
「帰れない街」江ノ島
湘南の夏には、もうひとつ大きな課題がある。
“帰れない”ことだ。
江ノ島周辺では、深夜になるとタクシーがほとんど捕まらない。朝まで営業している店も少なく、コンビニなどで始発を待つ若者も多いという。
その状況を知っている人は、早い段階で藤沢駅周辺へ移動する。
さらに、夏の宿泊料金は高騰する。2万円前後まで価格が上がることも珍しくなく、そもそも宿泊施設自体が少ないため、すぐに満室になる。
駐車場料金も高い。
結果として、多くの人が車で来る。しかし、その場合は誰か1人が飲酒できず、“移動制約”が体験そのものを制限している。
つまり湘南の課題は、“集客”ではない。
「滞在設計」なのかもしれない。
海の家のビジネスモデルの変化とは
海水浴客の減少は、海の家の経営にも大きな影響を与えている。
オーナーの高齢化も進み、自ら運営するのではなく、場所を貸し出す形式が増えた。
その結果、企業や外部事業者が運営に入るケースも増えている。
最近では、若年層を呼び込むためにIPコラボ型の海の家も目立つようになった。
例えば、
- 僕のヒーローアカデミア
- 学園アイドルマスター
- にじさんじ
などとのコラボ施策が行われている。
また、企業側でも「夏予算」を活用し、海の家をプロモーション拠点として使いたいニーズが増えている。
実際に、スキンケアブランドなどによる海の家施策も行われている。
「片瀬東浜海水浴場×ニベア 夏の美肌応援大作戦」
海には、まだ“未開拓市場”がある
興味深いのは、海の家には依然として「行きたい人」が多いことだ。
実際、BBQ予約は友人づてで入ることも多く、“行くきっかけ”がないだけの潜在需要が存在している。
つまり今不足しているのは、「魅力」ではなく「導線」なのかもしれない。
例えば、
- 法人向け福利厚生
- ワーケーション
- 団体BBQ
- 社内イベント
- チームビルディング
など、“海×法人”の接続には大きな可能性がある。
さらに、都内からの往復バスと海体験をセットにしたパッケージも考えられる。
- 往復送迎
- 飲酒可能
- 手ぶらBBQ
- シャワー
- イベント
を一体化することで、「帰れない」という課題そのものを価値へ転換できる可能性がある。
「夏以外」の海という可能性
また、視点を変えると、湘南には“空いている海”も存在する。
辻堂や茅ヶ崎の海水浴場は、ローカル利用が中心で、外部からの来訪者は少ない。
しかしそれは逆に言えば、“余白”があるということでもある。
- リトリート
- ワーケーション
- チーム合宿
- サウナ
- 地域コミュニティイベント
など、“夏の混雑”ではなく、“静かな海”を価値化する余地がある。
もしかすると、湘南の本当の可能性は、真夏ではなく“夏以外”にあるのかもしれない。
海の家は、「夏の飲食店」ではない
海の家は、単なる夏の飲食店ではない。
人を滞在させ、人をつなぎ、街との接点を作る、“都市インフラ”に近い存在だ。
もし湘南の未来を考えるなら、必要なのは「もっと人を呼ぶこと」ではない。
「長く滞在したくなる理由」を設計することなのではないだろうか。
観光客は増えている。
しかし、その人たちは本当に“街に滞在”できているのか。
湘南の夏は今、その問いに向き合い始めている。
※弊社では地域課題や産業課題を明確化し、デジタル技術とシンクタンク機能で新たな理想的な移動社会を目指したスタートアップです。ぜひ弊社応募職種についてご興味いただけますと幸いです。