Medii Guest Talk vol.3 「国家資格を捨ててくる、リスクテイクとコミット」ーーグッドパッチ土屋氏が感じた、医療×起業家の本気
「Medii Guest Talk」は、MediiとMediiを応援してくださる方との対談シリーズです。今回は、株式会社グッドパッチ 代表取締役 兼 CEOの土屋尚史さんと、Medii 代表取締役医師の山田による対談をお届けします。
土屋さんと山田の出会いは、Medii創業から7ヶ月後の2020年9月まで遡ります。
多くの起業家にアドバイスしてきた土屋さんが、エンジェル投資をした数少ない企業の一つが、実はMediiでした。
大学生の頃に慢性骨髄性白血病と診断され死を覚悟したと言う土屋さんの医療・ヘルスケア領域への思い、そしてMediiとの出会いや関わり、今後への期待まで、存分に語っていただきました。
目次
ビジネスモデルも知らないままプレシリーズAで出資した決め手は、リスクテイクとコミット
21歳で受けた死の宣告と、心に刻まれた起業家の感覚
圧倒的な社会的意義と社会的価値。使命感のある医療・ヘルスケア領域でのデザイン
事業が拡大するほど、救われる命が増える。リスクテイクとコミットで、患者の未来を切り拓く
<対談者プロフィール>
株式会社グッドパッチ
代表取締役 兼 CEO 土屋尚史氏
Webディレクターを経て、サンフランシスコに渡りデザイン会社でスタートアップ支援に携わる。2011年9月に株式会社グッドパッチ設立。2020年6月には、デザイン会社として初めて東京証券取引所に上場。「デザインの力を証明する」をミッションに掲げ、プロダクト・サービスデザインの領域だけでなく、戦略領域や組織領域、ブランドなど貢献領域を拡張させている。2023年6月、株式会社丸井グループの執行役員CDXOに就任。
株式会社Medii
代表取締役医師 山田 裕揮
慶應義塾大学医学研究科卒。日本リウマチ学会専門医・指導医として現役の臨床医でもあり、自身も難病患者。当事者としての課題からMediiを起業し医師向け専門医相談サービス 「Medii Eコンサル」を立ち上げ、全専門領域と、指定難病の99%をカバー。難病・がんなど革新的な新薬の増加が顕著である高度医療の適正拡大に貢献し、多数の大手製薬企業との新しいビジネスモデルを実現。
ビジネスモデルも知らないままプレシリーズAで出資した決め手は、リスクテイクとコミット
土屋さん(以下、敬称略):山田さんとの出会いは、弊社のデザイナーがMediiを業務委託で支援していて、ICC(Industry Co-Creation)サミットでお会いしたところからでしたよね。
山田:はい、2020年9月にスタートアップ・カタパルトに登壇した時に、土屋さんがいらっしゃっていて共通のお知り合いの方にご紹介いただいたのがきっかけです。
土屋:Mediiはコロナ禍が始まった頃、2020年2月の創業ですから、その後すぐに登壇して優勝してたんですね。その時はまあ頑張ってくださいね、みたいな話でしたけどその後、弊社のメンバーも交えて一緒に食事にも行きましたよね。
山田:はい。その食事会で、ご病気のことを伺ったり、グッドパッチさんが組織崩壊を乗り越えて上場されていかれた話も含めてお伺いして大変勉強になりましたし、Mediiの事業のことも少しお話しさせていただきました。
土屋:その時から今のビジネスモデルだったんですか?全然分かってなかったですね(笑)。
たしか、チームを含めて課題が色々山積みって話を聞いて、そんなのあるあるですよ、大丈夫ですよ、って話したのは覚えています。後は、お医者さんで起業家っていうのが当時珍しかったので、そこはよく記憶に残っていて、それで確か1年後くらいに出資のお話をいただきましたね。
山田:思い出してみると、当時私としては真っ暗闇の中で、一人もがき苦しんでいました。現COOの筒井さんが入ってくれた2022年頃までの2年間くらいは、何も見えない暗いトンネルにいたような感覚でしたが、土屋さんが乗り越えてこられた様々なお話をお伺いして、勇気をいただいたのをはっきり覚えています。
ちなみに、なぜそんな初期の実績もないタイミングで、私のおこがましいお願いにも関わらず、出資の話を受けてくださったんでしょうか。
土屋:そうですね。真面目にお答えすると、2つ理由があるかなと思います。
1つは、やっぱり自分も維持療法が必要な病気の当事者として、医療・ヘルスケアっていうのは、自分に深く関係する領域であり、興味の向いているインダストリーのひとつにもなってるんですよね。
そして2つ目は、リスクテイクとコミットです。日本の国家資格で最強とも言えるお医者さんという立場を捨てて来ているということに本気度を感じました。そこに、山田さんの人柄や、グッドパッチのメンバーとのご縁が重なったという感じでした。
やっぱり私利私欲でやってないというのが大きいんです。周りの大成している起業家も多数見てきて思う私が投資する基準は、起業家の人柄や事業ドメイン、社会的意義くらいしか見てないですね。当時ビジネスモデルもほとんど理解してないまま投資を決めましたから。ほぼエンジェル出資です。
シード期とかアーリーフェーズの投資っていうのはもう、人とマーケットに尽きますね。最初に始めたサービスって大体ピボットしてったりするんで。
ただ実は、数千人の起業家さんたちとお会いしてきた中で、エンジェル投資をしているのは4社くらいしかないんです。
山田:そうなんですか!その中の1つに入ってるのは嬉しいですね。
土屋:他はサンフランシスコで働いていた時の会社の、当時会ったこともなかった後輩とかですからね。そこはもう無償の愛って感じなんです。Mediiに関しては、領域への関心と、山田さんという人に気持ちを動かされたという感じですかね。
21歳で受けた死の宣告と、心に刻まれた起業家の感覚
土屋:私は21歳の時に、慢性骨髄性白血病と診断されました。同世代の方は分かると思うんですが、当時ちょうど「世界の中心で愛を叫ぶ」という、長澤まさみさんが演じる白血病のヒロインが亡くなる映画をやってたんですね。それを観た4ヶ月後に、自分が白血病になったんですよ。当時はもう自分が死ぬイメージしか沸いてこなかったです。
ただ、本当にありがたいことに、たまたま自分がかかった慢性骨髄性白血病というタイプにだけ、新薬が承認されていたんです。この薬のおかげで、今も生き延びることができています。
※土屋さんの記事:病気になってからちょうど20年(https://note.com/naofumit/n/n76a8801eeaee)
山田:まさに、今もどんどん革新的な新薬が増えてきていますが、ちょうど最新の医学の進歩によって、そうやって助かる患者さんが出てきていたんですね。
土屋:ただ、治験が始まったからとか、新薬が出たからと言って、すぐにその薬を使うのは難しいところがあると思います。まだデータが少ないですから、その薬が選択されるかどうかはお医者さん次第とも言えます。
私の時は、第一選択薬として処方してもらえましたが、白血球の量が異常すぎて、初めは別のタイプの白血病だと思われていたりもしたので、正しい診断を受けられることも大事な要素だと感じています。
山田:今土屋さんにお話しいただいたことがまさにMediiがやっていること、そしてやっていきたいことに、つながっているなと感じます。使い方が難しいことが多い近年の新薬は、承認されても患者さんまで簡単には届きません。診断・処方を行う医師が、使いこなせるかどうか。ここが結構難しいんですよね。
当時の白血病の治療といえば、骨髄移植も選択肢に挙がっていたと思うのですが、これは非常にリスクが高い方法なんですよね。
土屋:私も骨髄移植が選択肢として挙がっていました。一度体の血液成分を全て無くすので、最悪命の保証がない可能性があるという話でしたね。
山田:こういった治療が当たり前な中で、新しい飲み薬だけで治りますと言われても感覚的にはなかなか信じられないのではないでしょうか。
土屋:だからこそ、医師も少しでも使ったことのある専門医に聞きたい、ということですよね。
私はおかげさまで、結局骨髄移植は受けないまま今までこれていますが、若い時は本当に無茶してましたね。自分のブログにも書きましたが、深夜に病院を抜け出した時は大目玉を喰らいました(笑)。
山田:医療従事者としてそのエピソードを聞くと、正直土屋さんバグってるなと思いますね(笑)。ある意味人とは違う、起業家の素養と言っていいか分かりませんが、そういうものが元からあったんでしょうか?
土屋:リスク感覚がバグっているというのはあったかもしれないですね。サンフランシスコに行った時も、英語がしゃべれない、家も決まってないまま行ってますから。当時8ヶ月だった娘を連れて(笑)。
元来の素質的なものもあったかもしれませんが、やっぱり自分が21歳で死ぬかもしれない病気にかかったと言うのは、今は大きな財産になりました。この人生は長くない、というのがはっきり刻まれた感覚があります。
それのおかげで、その後の、起業も含めたいろんな場面での意思決定の速さだとか。ここで立ち止まってはいけない、という意識に全部つながっています。私はデザインの領域で起業しましたが、いつか医療やヘルスケア領域のビジネスに携わることができたらなと、ずっと思ってたんですね。 そしてたまたま出資という形で、Mediiに関わることができて、それは僕からすると願っていたことを実現できたという感覚でした。
山田:こちらこそ、本当にありがたい機会をいただきました。あのタイミングで土屋さんに出会えたからこそ、私の覚悟もより固くなりましたし、今にもつながっています。
圧倒的な社会的意義と社会的価値。使命感のある医療・ヘルスケア領域でのデザイン
山田:土屋さんも医療・ヘルスケア領域に想いがあったということでしたが、土屋さんのご専門のデザイン領域との関わりや、デザイナーにとっての医療・ヘルスケア領域についてははどうお考えでしょうか?
土屋:そうですね。デザイナーにとってはまだまだ新しい領域ではないかなと思いますね。ヘルステックの事業が増えてきて、ここ数年で、結構ちゃんと力を入れている大手の会社さんも出てきたなと感じています。
発展途上の一面もあるので、デザイナーにとって最初から選択肢に入ってこないケースもあるかもしれませんが、逆に言えばレバレッジが効きやすいタイミング=チャンスになるかもしれません。そして何より、圧倒的な社会的意義と社会的価値のある領域ですよね。医療はイメージが湧きづらく責任が重く感じる人もいるかもしれませんが、やりがいや手触り感を大切にしたい人にとって、使命感を持って働ける場になると思います。同時に、急拡大している製薬企業の革新的新薬の市場に今までのサービスにはなかったビジネス的価値を届けることができているMediiの新しいビジネスモデルのデザインもまた魅力の一つかもしれません。
その中でもMediiは組織がまだ成熟していないので、デザインチームだけというより、会社全体が一体となって動けるフェーズというのも面白いんじゃないでしょうか。
山田:おっしゃる通りです。今がちょうど40人くらい、学校でいう1クラスくらいですね。ワンフロアに全員入れる、メンバーそれぞれの顔・役割が分かる、今後の事業・組織の成長をみんなで作っていくフェーズですね。
土屋:デザイナーにとっては、部門から発注されたデザインをすることに留まらず、クライアントの課題解決や、事業にコミットしたいという思いを持った方にとってもいいでしょうね。そういう人が入るべき、そして、そういう人を入れるべきフェーズであると言ってもいいと思います。
スキルや経験値というのは、どんなところでもしっかり向き合っていれば必ず磨かれていくわけですが、医療、ヘルスケア領域というのはステークホルダーが多様で、非常に想像力が必要で、難度が高い。これからもっと世の中に対する認知だとか、共感されるようなブランドをつくるという部分を担って、Mediiのサービスの成長をデザインの力によって実現することができれば、デザイナー個人としてもかなり力がつくと思います。
今ならそれを起業家の近くでやっていくことができるわけです。しかも、起業家自身がユーザーである医師のバックグラウンドを持っていて、難病患者でもある山田さんなんですよね。それに誰しもが、自分や身近な人の病気を経験していると思いますので、そこに思いを持ってやっていこう、患者さんの人生や未来を変えていこうと思える方にぜひチャレンジしてほしいですね。
山田:自分の仕事を通じて、人生を通じて、なぜ何を社会に残したいんだろう、ということを考えた時に、Mediiの事業や今回のお話しが少しでも心に触れる方がいらっしゃれば、ぜひ一度お話させていただきたいですね。
私としては、間違いなく社会的意義を持って、社会的・経済的価値を作れる場だと言えますし、その思いを一緒にできるメンバーのいるこのチームに飛び込んでみてほしいですね。
土屋:会社、組織として、本当に社会のためになることを、本気でやっているかどうかだと思うんです。繰り返しになりますが、医師としてのキャリアを捨てるというリスクテイクをして事業にコミットしている山田さんと一緒にやることにも意味があると思います。
山田:その結果として最終的に、人が欲しいと思う大きな価値を提供することができればお金は自然とついてくると思っていますし、そういう仕組み、戦略を作れるかどうかは、まさに我々起業家・経営者の責任です。ただ、そこにもデザイン経営を含めたデザインの考え方がとても!重要だと思っているので、デザイナーの皆にも支えていただきつつ、チームでしっかりやっていきたいと思っています。
事業が拡大するほど、救われる命が増える。リスクテイクとコミットで、患者の未来を切り拓く
土屋:Mediiの事業のコアとして、やっぱり患者さんの命が救われる、健康が守られるという人と密接に関わる部分があると思うんです。別の言い方をすれば、「救われなかった」を減らすことなんですよね。
そして、事業が拡大すればするほど、救われる命が増えていく。これは稀有であり、非常に尊いことだと思います。これだけ大きな社会的ミッションを担っている会社ですので、ミッションの実現に向けてしっかり大きくなっていってほしいですね。
山田:ありがとうございます。今回土屋さんがお話しくださったことは、まさに私たちのサービスのナラティブ、いわゆる物語的な部分だと感じています。一人ひとりの物語が僕らにも、そして患者さんたちにもあって、専門医の先生方の知見が我々のサービスを通じて主治医の先生方に届き、さらにその先にいる患者さんの物語が変わる瞬間に立ち会えるというのは、とても尊いことです。
そして同時に、一人ひとりの患者さんの人生を、未来を、運命をを変えていることに対して、喜びと同時に責任を感じています。
土屋さんにおっしゃっていただいた「リスクテイクとコミット」というのがまさにそのままだと思いますが、自分と同じように、診断がつかなかったり、すぐには新薬が届いておらずに苦しむ方を自分たちの代で最後にするという強い想いと覚悟を持っています。Mediiのミッション「誰も取り残さない医療を」に共感して集まってくれているチームの皆と共に、これからもこの初心を忘れず未来を切り拓いていきたいと思いました。今日は本当に素晴らしいお話と機会をいただき、ありがとうございました。