Mediiでは、患者さんやご家族をゲストにお招きするトークイベント「Medii Patient Voice」を定期開催しています。Mediiメンバー全員が、医師の先にいる患者さんを強くイメージし、ミッション「誰も取り残さない医療を」の達成に向け取り組んでいくための理解を深める大切な場です。
今回は、難病サポートfamiliaやまぐち代表の岩屋紀子さんにお話しいただき、当事者家族から見た医療のリアルと「誰も取り残さない医療を」への想いをお届けします。
難病サポートfamiliaやまぐち(なんふぁみ)
webサイト:https://www.nanfami.net/
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絶望を救った医師たちの連携
1999年2月、岩屋さんの息子さんは大阪市内の病院で生まれました。出生時の血小板の数値はわずか8,000/μL。血小板が少ないと判断される目安は10万/μL※1で、その10分の1以下という値でした。重症の黄疸があり呼吸も弱く、極めて重篤な状態でした。
岩屋さん:
「まさに、幸せの絶頂から、どん底の暗闇に突き落とされる経験でした。まさか我が子がこんな状況になるとは。まるでドラマのような時間でした。」
息子さんは直ちにNICU(新生児集中治療室)に運ばれます。しかし病名はなかなかわからず、その間に何回もの検査と輸血が繰り返されました。我が子を抱くこともままならない状態。原因不明の病気への不安と自責の念に押しつぶされそうになっていた岩屋さんを支えたのは、看護師たちとの日々のやり取りでした。
岩屋さん:
「言葉にできない不安を、NICUの看護師さんたちがすごくサポートしてくださいました。交換日記をつけてくださって、それが今でもすごく温かい思い出として心に残っています。この体験が、私が今行っている患者家族支援の活動にもつながっています。」
そして生後5か月。息子さんは、指定難病「血栓性血小板減少性紫斑病」の先天性の型である「先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)」と診断されます。
先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)とは?
必要のない血のかたまり(血栓)ができないようブレーキをかける「ADAMTS13」という酵素が、生まれつき足りない病気です。ブレーキがかからないため全身の細い血管に小さな血栓ができます。その材料として血小板が使われて数が減り、細い血管を通るときに赤血球も壊れて貧血が起こります。感染症をきっかけに命に関わる状態へ急に進むことがあります。根本的な治療はなく生涯にわたってつきあう病気で、足りない酵素を補う治療が必要になります。国内では110万人に1人と推計されています。※2
治療が遅れれば命に関わるこの病で、なぜ生後5か月という早さで確定診断に至ったのか。岩屋さんが「絶望を救ってくれた」と語るのは、医師たちの2つの連携でした。
1つ目は、出産を担当した産科医と小児科医が診療科の垣根を越えて緊密に連携したこと。
2つ目は、小児科の医師たちが自身の人的ネットワークを駆使し、外部の専門医に協力を仰いだことでした。この疾患の診療と研究で知られる県外の大学病院へ検体が送られ、遺伝子解析を経て診断がつきました。
岩屋さん:
「一刻を争う中で、先生方が診療科や地域や施設を越えて素早く連携し専門医を巻き込んでくださったおかげで、息子は生後5か月という早さで診断確定に至りました。」
その後、地元の山口県に移住してからも、この「連携」に救われます。岩屋さんの知る限り、山口県内にcTTPの専門医はおらず、かといって県外の大学病院に通い続けるのも現実的ではありません。山口県の主治医が、県外の大学病院の医師と連携をとりながら診療を続けてくれました。
岩屋さん:
「厚かましくも『先生、この専門の先生に連絡をとってくれませんか』とお願いしたら、先生はそれを嫌な顔ひとつせず受け止めて、ちゃんと連携をとってくださいました。出産時も、地元に移住してからも、私たちの家族は本当に素晴らしい先生方に出会えました。」
病気はもう1人の家族
cTTPは、感染症や発熱を機に急激に状態が悪化する恐怖と常に隣り合わせの病気です。しかし、体の内側で何が起きているかは、目に見えません。何の前触れもなく体中に青あざができ、原因のわからない頭痛や腹痛、嘔吐に見舞われる。風邪や発熱をきっかけに2週間ほど入院したことも、幼少期に2、3回ありました。
青あざができていないか。お腹は痛くないか。頭は痛くないか。息子さんの体を確かめることが、岩屋さんの毎日の習慣になっていきました。
岩屋さん:
「そうした日々の中で私たちが決めたのは、病気を『敵』とみなさないことでした。もう1人の家族として、生活の一部として迎え入れようと。病気を見守り続けることで、cTTPと一緒に私たちも成長させてもらいました。」
治療においては、足りない酵素を含む血漿を補う「血漿輸注」のため、25年間にわたり定期的な入院を重ねてきました。高校卒業までは一泊二日の入院、その後は日帰り入院へと変わりました。しかし近年、新しい遺伝子組換え製剤が登場し、外来通院1回30分程度で完結する治療へと劇的に変化します。治療が切り替わった日、息子さんはご自身のSNSに率直な気持ちを投稿していました。
岩屋さんの講演資料より
岩屋さん:
「本人は『今まで日帰り入院に使っていた時間が浮いている状況を、どう使おうかなぁ』と話してくれました。家族にとっては『早く終わって家に帰れる日常』ですが、当事者にとっては『突然6〜8時間の自由時間が生まれる』ことへの戸惑いもあったようです。」
現在、息子さんはご自身の得意なことを生かし、eスポーツプレイヤー兼コーチとして社会で活躍しています。
岩屋さん:
「病気は人生を制限するもの、諦めさせるものではないと息子の姿から学ばせてもらっています。適切な医療につながったことで、息子は夢を追いかけることができています。どの子にも自分らしい生き方を選べる可能性が開かれていてほしい。生まれ育った地域にかかわらず、誰もが尊厳を持ち夢を諦めずに生きていける温かい社会を、Mediiの皆さんと共に創り上げていきたいです。」
110万人に1人の病気を、医師はどう疑うのか
cTTPの発症頻度は110万人に1人と言われ、国内の登録症例では、2024年4月時点でcTTPと診断された患者さんはわずか72名※3。多くの医師にとって、一生涯かけても実際にcTTPの患者さんを診療する機会はほとんどないと考えられます。岩屋さんは、この希少性が、患者が適切な医療に辿り着くまでに3つの壁を生んでいると話します。
- 情報の圧倒的な不足:診療経験を積む機会そのものが限られるため、初期症状から疑い、適切に診断・治療することは極めて困難です。
- 医療の地域格差:希少疾患の専門医は全国に点在しており、どれほど大きな病院であっても全領域の専門医を抱えることは不可能です。そのため、患者が受診した地域や施設によって、専門知見へのアクセスの可否が分かれてしまいます。
- 制度のすき間:小児から成人への制度切り替えや就労サポートなど、医療以外の生活支援においても患者家族は常に不安と闘っています。
だからこそ、岩屋さんは当事者家族として、主治医にお願いしたいことが2つあると語ります。
岩屋さん:
「1つ目は、生活者としての患者に寄り添うことです。病気だけを診るのではなく、学校生活や将来の就労といった日常にも目を向け、どう自分らしく生きていくかを一緒に考えてくれる主治医の存在は、これ以上ない心の支えです。実際、息子に関わってくださった先生方は、私たちにとって第二の家族と言ってもいいくらい温かく寄り添ってくださいました。
2つ目は、1人で抱え込まず、外部の専門医を頼る仕組みを活用していただくことです。先生がすべての希少疾患の専門家であることは、本当に物理的に不可能だと思っています。だからこそ、どこに住んでいても専門医や専門施設の知見にアクセスできる、そのための窓口であっていただけたらと、家族は常に願っています。」
27年前の「奇跡の連携」を、当たり前にできるなら
岩屋さんがMediiのミッション「誰も取り残さない医療を」を知ったとき、「病名がわからないまま検査と輸血を重ねた、27年前のもどかしさが消えるような感動を覚えた」と言います。
岩屋さん:
「息子が今こうして生きていられるのは、医師たちが縦横のつながりを駆使してくれたからです。それが『たまたま運が良かったから』であってはなりません。
主治医の先生が全国のトップの専門医に相談できる仕組みが日本中で当たり前になれば、私が受け取った奇跡の連携を、すべての患者さんが、住む場所にかかわらず等しく受け取れるようになると思っています。」
岩屋さんが「27年前の奇跡の連携をシステム化した仕組み」と受け止めたのが「Medii Eコンサル」でした。Medii Eコンサルは、診断や治療方針に悩む主治医が、その領域に精通したエキスパート専門医とともに症例を検討できるプラットフォームです。
岩屋さん:
「この仕組みの最も尊い価値は、地方の医師を孤立させないことにあると確信しています。目の前の先生がカルテを前にして『何かおかしい』と違和感を覚えた瞬間に、トップの専門医と対話ができる。これがどれほど先生方の支えとなり、その先にいる私たち患者家族を救うことになるか、本当に計り知れません。」
そして、講演の最後には、岩屋さんからMediiメンバーに向けて期待の言葉が贈られました。
岩屋さん:
「皆さんが日々、熱い思いでお仕事に向き合っていらっしゃる、その先に必ず、私たちのような患者・家族の笑顔が待っているはずです。すべての人が等しく適切な情報と温かな医療を受け取ることができる『格差なき地域医療連携のインフラ』を、皆さんの手で作り上げていただきたいと願っています。」
Mediiとして
講演を受けて、Medii代表の山田からも想いが語られました。山田自身も難病の当事者であり、現場で多くの難病患者に向き合ってきた膠原病専門医でもあります。しかし、その原体験があっても「患者さんの状況を、完全に『わかる』と思うことはない。だからこそ『わからないことを知ろうとする姿勢』が重要だ」と語ります。
山田:
「私たちは『取り残された患者さんを支えたい』という思いを持って一丸となって動いているチームです。しかし事業の構造上、日常業務の中で患者さんに直接向き合うきっかけはなかなか持ち得ません。その『知る』ための重要なピースを、今回のお話からいただけたと思っています。
一人の医師がすべての疾患を網羅することは構造的に難しいです。そして、診断がつかずに不安を抱えている方が今も現実にいらっしゃいます。岩屋さんのお話を伺って、自分たちの取り組みの先に患者さんとご家族の人生があるのだと、実感を持って受け止めています。
『わからない。だからこそ知らなきゃいけないし、もっと知りたい』というスタンスを私たち自身が持つこと。そして、先生方がご自身の鋭い洞察力で拾い上げたわずかな違和感を起点に、全国のエキスパート専門医と一緒に検討を重ねていけるような環境や文化をつくっていくことが私たちの大切な役割だと思っています。岩屋さんも同じ「誰も取り残さない医療を」目指す仲間として、これからのより良い医療の未来を一緒に創っていただけたらと思っています。」
岩屋さんが27年前に受け取った「奇跡の連携」を、幸運ではなく、誰もが当たり前に受け取れるものにしていく。Mediiはその実現に向け、これからも邁進してまいります。
岩屋さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。