東芝の研究者、産業革新機構(現INCJ)のベンチャーキャピタリスト、そしてMistletoeのCIO(最高投資責任者)へ。15th RockのGP、中島が歩んできたキャリアは、常に最先端テクノロジーの最前線にありました。
その根底にあるのは、単なる「技術好き」を超えた、エンジニアとしての矜持と「技術を社会に実装したい」という強い想いです。巨大企業の研究職を経て、ベンチャーキャピタリストとしての経験を積み、やがてディープテックVCを自ら立ち上げた中島。
彼が信じる「技術で世界を更新する」という哲学と、投資テーマに掲げる「Human Augmentation(人間拡張)」に込めた意味について、じっくりとお話を伺いました。
─── 学生時代は制御工学を研究されていたそうですね。当時はどのようなことを専門にしていたのでしょうか?
大学時代は「非線形適用制御」という制御理論を専攻していました。飛行機の自動操縦システムに使われるような高度な理論で、変微分方程式をひたすら解き続ける、まるで数学科のような毎日を過ごしていました。
一方で、就職にあたっては、当時ノートPC「dynabook」を世界展開していた東芝に入れば、自分の夢が叶うのではないかとも考えていました。その夢とは「ポータブルデバイスを使い、手元で映画が見られる世界」です。
当時はまだガラケーが主流で、ようやく「写メール」が普及し始めた頃でした。手のひらサイズで動画を楽しむには、高速な無線LAN規格が不可欠であり、その未来を自らの手で実現したいという思いで研究に励んでいました。
─── 入社後、実際に世界の最前線で研究開発に携わってみていかがでしたか。
東芝の研究者として無線LANの国際標準化に携わっていた当時、日本の技術力は世界をリードしているという実感がありました。しかし、いざビジネスのフェーズに入ると、その優位性は活かしきれず、待っていたのは「完敗」という現実でした。
その最大の要因は、圧倒的なスピードの差です。日本企業が規格の確定を待ってから動き出すのに対し、シリコンバレーのスタートアップを中心とした海外勢は、規格策定と並行して開発を進めており、その結果、彼らは日本企業の半分以下の期間で製品を市場に送り出していたのです。
衝撃的だったのは、コア技術以外は外部から調達する合理的な開発スタイルや、投資家と起業家が循環するシリコンバレーのエコシステムでした。技術で勝ってもビジネスで負けてしまう現実と、アメリカの凄まじいダイナミズムを目の当たりにし、「自分も技術の知見を活かし、経営や投資の側から挑戦したい」と考えるようになりました。
─── その後、MBAを取得し産業革新機構(現INCJ)でキャピタリストとして活動されます。研究者から投資家への転向に、迷いはありませんでしたか?
実は、当初から投資家を目指していたわけではなく、将来経営者として独立するための経験を積むという意図がありました。そのためには「圧倒的な数のケーススタディ」に触れる必要があると考えていたんです。
いわば、将来経営者になるための修行として、投資の世界へ足を踏み入れました。当初は、一つのことを深く掘り下げる「研究者の癖」が抜けず、ビジネス全体を俯瞰する思考へ切り替えることに苦労しましたが、徐々にキャピタリストとしての感性を磨いていきました。
─── その後、孫泰蔵さんが率いるMistletoeへと移られます。決め手は何だったのですか?
孫泰蔵さんの「起業家であり、投資家でもある」という立ち位置に惹かれたからです。単に出資するだけの組織ではなく、自ら事業を創り、技術や事業に精通した人が投資を行う。それこそが本来の投資家の姿ではないかと感じました。
ここで学んだのは「徹底的な起業家ファースト」の精神です。価値を作っているのはあくまで起業家であり、投資家は伴走者であるべきだという信念は、泰蔵さんの下で働くうちに骨身に染みました。
─── そして、15th Rockを設立されました。投資テーマに掲げた「Human Augmentation(人間拡張)」には、どのような想いが反映されているのでしょうか。
VCは次世代の産業を創る存在である以上、明確な投資テーマを掲げるべきだと考えています。
そのなかで、Human Augmentationというテーマに至った背景には、非常にシンプルな原点があります。それは「アイアンマン」への憧れです。
主人公のトニー・スタークは、誰かに作ってもらうのではなく、自ら発明するエンジニアで、その力で世界を変えていきます。 その姿に強く影響を受け「自分で作ったもので、世界を変えたい」という思いが、スタートでした。
─── キャピタリストとして、最も大切にしていることは?
「起業家ファースト」の精神と、現場への敬意です。
これまでの投資先でも、現場に入り込み、生産歩留まりを上げるために社長や現場のメンバーと泥臭く向き合いました。投資家が上から目線で語るのではなく、「現場こそが価値の源泉である」という感覚を常に忘れないようにしています。
─── 最後に、VC業界を目指す方へのメッセージをお願いします。
ぜひ、自分だけの「武器」を持って飛び込んできてほしいです。15th Rockでは、新卒を採用するつもりはありません。24時間365日、命懸けで事業を考えている起業家に対峙するには、自らの業界で成し遂げた成功体験や、独自の専門スキルが不可欠です。
また「Change the world」「世の中をこういう方向に変えたい」という大きな志を持つこと。技術や事業を通じて未来を変えていきたいという強い意志を持つ方と、新しい産業を創っていけることを楽しみにしています。