ゼロスペック株式会社は、IoTやAIなどのテクノロジーを活用し、灯油配送の効率化を支援する「GoNOW」などのプロダクトを開発する、札幌発のスタートアップです。
今回から始まる「率直にお話しますシリーズ」では、普段は表に出さない開発の裏側、うまくいっていない部分、組織としての課題まで、包み隠さずお伝えしていきます。
「キラキラした話」ではなく、リアルな現場を知りたい方に届けたい——そんな思いで始めた企画です。
第1回は、ビジネスサイドのCS責任者・伊藤さん、テックリードの若松さん、プロジェクトマネージャーの万願寺さんの3名が、「GoNOW」について「センサーを信用できる状況をつくりたい」という一言から始まる、プロダクトの課題と技術的な挑戦についてお話しします。
※私たちが提供する「GoNOW」は、灯油タンクに専用センサーを設置し、残量をリアルタイムで可視化するIoT×SaaSサービスです。「そろそろ届けに行くべきか」を、配送員の勘や経験ではなくデータで判断できるようにすることで、配送業務の効率化を支援しています。現在、全国で100,000台以上のセンサーが稼働中です。
今回のメンバー
伊藤さん:ビジネスチームのCS責任者。お客様対応の最前線に立ち、プロダクトへの要望を開発チームに届ける役割を担う。
若松さん:テックリード。プロダクトチームの技術的な課題全般を解決する。誰がやるか決まっていないけど技術的に解決できそうなものを一通り引き受けるという意味で、本人曰く「総務のような役割」。
万願寺さん:プロジェクトマネージャー。開発の進捗管理からお困りごとまで、チームを支えるための雑務を何でも対応する、本人曰く「究極の雑用」。(「そういう意味では、みんな雑用だよね(笑)」by伊藤さん・若松さん)
「センサーを信用できる状況」って?
――今日は「一番リアルな現状」を見せたいので、かっこいい話は抜きでお願いします!伊藤さん、ビジネスサイドとして今一番の悩みは何ですか?
伊藤さん:一言で言うと、「センサーを信用できる状況をつくりたい」です。GoNOWのセンサーは、お客様にうまく使いこなしていただかないと、効率化や最適化の効果を実感できないんですが、その「使いこなせる環境」をどうやったら作れるか、日々悩んでいます。
――「センサーを信用できる状況」とは?センサーの精度に課題がある?
伊藤さん:それもありますが、センサーからのデータを信用して「使える」ようにすることにも課題があります。正直、今の状態を道具として例えると「よく切れる包丁」のようなニュアンスです。使える人は使えるけど、誰でも使える「万能包丁」にはなっていない。
――使える人と使えない人の差は、どこにあるんですか?
伊藤さん:新しいものが好きな方、PCやアプリの画面に慣れている方は使いやすいと思います。逆にそうでない方には、まだハードルがあります。
だから、これってセンサーのデータ精度の問題だけじゃなくて、UI/UXの課題も大きいと思っています。お客さんにとって最適なデータの見せ方って何だろう、というのは日頃から考えていますね。
――センサーの精度と、データの使い方。両方に課題があるんですね。まずは精度の部分から詳しく聞かせてください。
センサーデータの信頼性をあげる“技術”とは?
――若松さん、技術的な観点から「センサーの信頼性」について教えてください。そもそも、センサーのデータってどういう風に見えるんですか?
若松さん:まず前提として、お客さんがセンサーのデータを直接見ることはないんですよね。センサーのデータをいろいろと補正・修正して、「残量」や「猶予」という形でお見せしています。
若松さん:補正する前のローデータから、本当の液面位置を推定するのが私たちエンジニアの重要な仕事です。センサーの仕様、タンクや灯油の物理特性、時系列データといった様々な条件を元に、複数の手法を組み合わせて補正をかけています。
これは、データの信頼性につながる重要な過程です。地味ですが、ここの精度がサービス全体の信頼性を左右するので、腕の見せ所でもあります。
私たちは全国100,000台以上のセンサーを稼働させています。
センサーそのものを高価なものにすれば、精度はもちろんあがります。ただ、そのために1台あたりのコストが10倍になれば、お客様に提供できる価格ではなくなる。「今のセンサーで、いかに事業として成立するレベルの精度を出すか」——これが私たちの技術的な核心であり、大事にしているフィロソフィーでもあります。
――つまり、ハードウェアだけなく、ソフトウェアの力でも勝負しているわけですね。
「見えるけど、使えない」の壁
――センサーのデータが「見える」ことはわかりました。なぜ「使えない」という状況が生まれるのでしょうか?
伊藤さん:残量の数値は見えるんですけど、僕らが本当にやりたいのは、それを基に配送スケジュールを立てること。ただ、そのスケジュール機能が、うまく使えていない方が多いのが現状です。
――「配送計画機能」があまり使われていないのですね。どんな機能なんですか?
伊藤さん:GoNOWには配送スケジュール機能があって、センサーで「あと何日で切れそう」とわかったお客さんをドラッグ&ドロップで配送日に割り当てられるんです。緊急性が高い人を優先して、そうでない人は先延ばしにする、という使い方を想定しています。
――便利そうですが、なぜ使われていないんですか?
伊藤さん:いくつか理由があります。
まず、すぐにすべてのお客さんにセンサーをつけるのが難しい。コストの問題もあるし、お客様のご理解も必要です。だから「センサーがついているお客さんだけGoNOWで管理して、それ以外は従来のやり方で」と分けることになる。
でも、配送スケジュールを2つも3つも併用するのは現実的じゃないですよね。Googleカレンダーを使いながら別のカレンダーも使う、なんてできない。
さらに、「条件付き配送」に対応できていないのも大きいです。
――条件付き配送とは?
伊藤さん:たとえば「年金の支給日以降にお金を払いたい」というお客さんがいます。そういう条件を加味した配送計画を、今のGoNOWではうまく作れない。だから全部をGoNOWに移行できないんです。
――センサーの有無、お客さんごとの条件……なかなか複雑ですね。
技術で、どうやって解決する?
――若松さん、この課題にどうアプローチしていますか?
若松さん:大きく2つあります。
1つ目は、まっとうに配送計画を使えるようにすること。センサーベースのお客さん、既存のやり方を続けたいお客さん、ざっくり3〜4グループに分かれるので、ボリュームの大きいところから順番に対応していこうと。
2つ目は、お客さんの属性を効率的に登録できるようにすること。年金支給日の後に配送、といった条件をデータとして持たせる仕組みですね。今年中に実装して、動かしたいと思っています。
――ただ、これって「まっとうに使えるようにする」段階ですよね。その先は?
若松さん:ええ、ここはあくまで土台です。私たちが本当に目指しているのは、配送計画そのものの自動化。たくさんのお客さんを数十人の配送員で回すとなったとき、人間が手動でスケジュールを組むのは、いずれ限界が来ます。
需要予測とルート最適化を組み合わせて、AIが配送計画を提案してくれる——そういう世界を作りたい。ただ、そこに行くためには、まず「データが正しく入っていて、計画が回る状態」がないと始まらない。今やっているのは、その未来への足場を固める作業なんです。
――伊藤さん、エンジニアがその「見えない努力」をしている間、お客様にはどう説明しているんですか?
伊藤さん:「待ってもらっている」という感覚はないですね。今のセンサーと、お客様の運用方法の中で、最適な使い方を提案するというスタンスでやっています。
今の武器を最大限使いましょう、と。パブリックAPIも作ってもらっていますし、画面からデータを出力することもできる。やれない方法はないんですよ。ご意見はたくさんいただきますが、クレームという形ではないです。
――開発しながら、今あるもので価値を届ける。そのバランス感覚が求められますね。
「必要十分な“いい感じ”」を探す難しさ
――万願寺さん、技術的に100点を目指すのと、ビジネス的に早く出すの、このバランスはどうやって取っているんですか?
万願寺さん:「必要十分な“いい感じ”」をどこに置くか、というのがまさに難しいところです。
見えなかったもの(灯油残量)が見えるだけでも、すごく価値がある。
実際、センサー自体はお客様にかなり受け入れていただいていて、手応えを感じています。一方で、そのデータを使って配送を最適化するSaaSとしてのGoNOWは、まだまだこれからです。伸びしろしかない、とも言えます。
元々、センサーがない時代にも灯油配送は回っていたんですよね。注文しなくても届く、お客様からすれば“いい感じ”の状態がすでにある。それを配送業者の目線でもっと効率的にできないか、というのがGoNOWの挑戦です。
基本方針は「適切なものを適切な形で」。
すごくお金をかけて考え抜かれたものを作る、というよりは、ざっくり問題を解決して、足りない部分を必死に埋めていく。それが、お客様とっての価値である「気兼ねなく買える価格のセンサー」を、ハードとソフトの両面から実現する、という私たちのスタンスです。
――優先順位はどうやって決めていますか?
万願寺さん:お客様にたくさん使っていただけるようになって、いろんな現場がいろんな課題を持っている。一律には取り扱えない中で、「大多数の人が解決できる」ものを優先しています。
限られたリソースをどこに入れるか。ビジネスチームとプロダクトチームが一体になって考えて、優先度をつけて進めているところです。
――チームで足並みを揃えながら、課題に向き合っているんですね。
課題に向き合う、チームの「課題」は?
――組織としての課題も聞かせてください。ぜひ、率直にお話ください!
万願寺さん:はい(笑)。現在プロダクトチームには社員メンバーが6名います。パートナーエンジニア(副業・業務委託)は約15名ほどいますが、人月でいうと半分くらい。短い時間を繋ぎ合わせて作業してくださっているので、どうしてもやり取りの待機時間が延びてしまう。レビューも詰まりがちになってしまうことが課題です。
――スピーディな開発が求められる中で、この課題にどう対処しようとしていますか?
万願寺さん:いくつか動いており、まず、ドキュメント整備です。今まで明確な実装仕様書がなかったので、PRD(製品要求仕様書)からきっちり固めて、詳細な設計もドキュメントとして残していこうとしています。「ある人に聞かないとわからない」状態がボトルネックになっているので。
それから、最近は日中フルタイムに近いパートナーさんに作業してもらえるようにシフトしていっています。
若松さん:ちなみに、今までは開発チームを「プロジェクト推進」と「運用保守」の2つに分けていたんですが、今年度はプロジェクトチームをもう少し増やそうとしています。そうすると、ドキュメント不足やレビュー集中の問題がより大きくなるので、このタイミングで積極的に直していこうとしています。
――体制を整えながら、開発も進めていく。まさに今、変化の真っ只中なんですね。
こんな人に来て欲しい!
――これからどんな方にプロダクトチームに来てほしいですか?
若松さん:「構想力」のある方ですね。
3年後くらいの将来を想像しながら、そこに向けて今何をするか考えられる人。サービスとしてもチームとしても、どう寄り道しながら目標に近づくかを描ける方が来てくれると嬉しいです。
伊藤さん:僕は「通訳」ができる方ですかね。
ビジネスサイドとエンジニアで、会話の言語が違うんですよ。僕が言ってる意図とうまく繋がらないことが、社内であちこちで起きる。お客さんが持っている答えに飛び込んでいける方、プロダクトチームだから事務所にいなきゃダメ、とか思わない方がいいなと。
万願寺さん:整っていないところをひるまずに、整えながら進める人。
「整ってないからできない」じゃなくて、「整えながら進んでいこうぜ」というモチベーションを持った方。若松さんが言ってたんですけど、「やり方についてばっかり考えているチームはうまくいかない」と。サービスについて考える時間を増やしていきたいんです。
――ちなみに、若松さん。もし明日すご腕のエンジニアが入社したら、何を一緒にやりたいですか?
若松さん:個人的には、配送計画をより良く作る方法を一緒に考えたいですね。
これは現状の技術でどうやっても100点を取れない領域なんです。だから「いかに高得点を取るか」というアプローチになる。自分の知らないアプローチをしてくれる方が来たら、競いたいですね。楽しみにしています。
――最後に、この環境に飛び込んでくる方へメッセージをお願いします。
伊藤さん:ぶつかることもありますけど、それが楽しかったりします。みんな真剣だからぶつかってるだけで、意見はいろいろあっても、人として嫌うことはない。議論で揉めたその日に、一緒にお酒を飲みに行けるチームです。
万願寺さん:整っていない部分は山ほどあります。でも、それを「できない理由」にしない人と一緒に働きたい。
若松さん:答えがない問題に、一緒に挑んでくれる方をお待ちしています!
「率直にお話しますシリーズ」について
このシリーズでは、ゼロスペックのリアルな姿——技術的な挑戦、うまくいっていない部分、組織としての課題——を包み隠さずお伝えしていきます。
「変化のない日々」や「綺麗に整った環境」を求める方には合わないかもしれません。でも、「変化を楽しめる」「難しい問題を解きたい」という方には、きっと面白い環境です。
今回主題となったサービス「GoNOW」は、センサーそのものはお客様に受け入れていただいている一方、SaaSとしての配送最適化はまだ始まったばかり。AIやモバイル、需要予測、ルート最適化など、最新の技術を取り入れてアップデートし続ければ、本当にこの業界を変えられる——私たちはそう信じています。
次回の記事では、「必要十分な“いい感じ”」「ハードの制約をソフトで超える」プロダクト開発のフィロソフィーの原点や、GoNOWプロダクトの目指す「本当の姿」について、代表・多田のインタビューをお届けする予定です。お楽しみに!