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高校生が最先端のAIを学び、未来を創る。  やまがたAI部が目指す地方創生

山形県の企業・教育機関・自治体が連携して取り組む、AI教育を通じたデジタル人材育成プロジェクト『やまがたAI部』。県内の高校生に課外活動としてAIの学習・開発を実践してもらい、先進技術を身につけてもらうことを目的としています。

やまがたAI部の創設には、株式会社O2(以下、O2)や代表取締役社長CEO松本晋一の“地方創生”への思いが関係しています。やまがたAI部運営コンソーシアム中心メンバーのひとりであるO2尾形佳則に、同部設立の経緯や活動内容、今後の展望などを聞きました。

山形県内の高校生がAIを学ぶ、やまがたAI部とは

――やまがたAI部の概要についてお聞かせください。

やまがたAI部は、山形県内の高校生を対象として部活動/課外活動という形でAIを学んでもらうプロジェクトです。モノづくりとスポーツのクラスに分かれてAI学習・開発を実践し、参加校が集結してAI部での活動実績を発表するAI甲子園という場で、成果を競い合います。2020年から活動が始まり、昨年の6月から2年目の活動がスタートしています。

やまがたAI部を運営しているのはO2だけではなく、O2グループのIBUKIをはじめ、山形県内の企業や自治体、大学など、約30法人・団体で構成されるコンソーシアムです。コンソーシアムの会長は、O2の代表取締役社長CEOである松本晋一が務めています。

私はコンソーシアム事務局のマネージャーとして、コンソーシアム全体の企画・運営を担っています。カリキュラムの作成やスケジュール調整、クラウドファンディングでの資金調達、SNSでの情報発信など、やまがたAI部の運営全体に携わってきました。


O2の地方創生への思いと偶然の出会いが、やまがたAI部を生んだ

――やまがたAI部が誕生した経緯をお聞かせください。

松本が山形東高校を訪問し、校長先生とフェンシング部の活動を見学した際のことです。O2のグループ会社であるLIGHTzはAI事業を展開しており、日本フェンシング協会とオフィシャルサプライヤー契約を締結していることを松本は話しました。そこから「高校生がAIを学べば、将来の就職や起業につながり、意義が大きいですね」と盛り上がり、AIをテーマとした部活動の創設へと発展したのです。

松本は以前から地方創生に関心があり、都市部と地方との教育格差に課題を感じていました。また、他国と比較して日本のデジタル競争力が低いことも懸念していたのです。そうした思いが、校長先生とフェンシング部との出会いにより、部活動につながりました。松本が山形県内の経営者の方々へコンセプトを話したところ、多くの方々が賛同してくださり、コンソーシアムに参画していただいたのです。

――地方創生とありましたが、O2や松本さんはどんな課題を感じているのでしょうか?

現在、世の中ではさかんにDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が提唱されています。しかし、都市部と比べると地方はまだまだデジタル化への意識が薄いのが現状で、テクノロジー導入は思うように進みません。

いっそ若者にAIをはじめとするデジタル系のスキルを身につけてもらい、彼らが社会を変える方がスムーズに実現できるのではという思いがありました。O2は山形県に本社があるIBUKIというグループ会社を持つため、まずは山形から地方創生を進めていこうと考えました。

――尾形さん自身も、地方創生への思いは強いのでしょうか?

私がO2に入社をしたのは、松本の地方に対する思いを聞いたのがきっかけです。私は前職で監査法人に勤めており、アドバイザリーや内部統制の監査、上場を目指す企業や成長企業の支援業務をしていました。

松本とは同社の山形拠点に在籍中に知り合い、何度か話す機会がありました。そのときに松本が「O2は地方、特に日本海側の各県に売上100億円の製造業を10社ずつつくりたい」「もちろん上場企業にもしたい」と熱く語っていたのです。

地方を良くして、国を良くしたいという松本の思いに触れ「自分も力になりたい」と思い、O2への入社を決意しました。まさか高校生の部活に関わるとは思っていませんでしたが、やまがたAI部は私のビジョンにもぴったりの活動でした。

部活動を通して高校生のマインドや行動が劇的に変化

――2020年度の、やまがたAI部の活動内容をお聞かせください。

初年度は11校から63名の高校生が参加し、学校ごとにスポーツAIコースとものづくりAIコースに分かれ、それぞれAIのスポーツへの活用、ものづくりへの活用を実践してもらうという内容でした。2020年8月に活動を始め、12月くらいまではコースごとにオンライン部活を月2~3回ペースで計11回ほど行いました。

前半の時期は、AIの基礎を座学で学ぶ以外に、演習や実習を実施。実際にAIを動かす演習や、ゆでたまごをゆでる温度遷移をセンサーで測定し、取得したデータからAIで黄身の固さを判定する実習を行いました。その他にも、IBUKIに赴いてAIを使ったものづくりの事例を学んだり、プロサッカーチームのモンテディオ山形を訪問して強化部スタッフの方にデータ分析のお話をうかがい、実際に試合を観戦するといった実地見学もしました。


AIで黄身の固さを判定する実習の様子。

後半の時期は、3月に開催されるAI甲子園に向けて、県内のシステム開発会社から集結したコーチのサポートのもと、各高校で自主活動を行いました。スポーツAIコースのテーマは、AIを活用して自校の運動部を支援する活動。ものづくりAIコースのテーマは、カンナに加速度センサーをつけて様々なデータをとり、適切なカンナ掛けを分析・考察する活動です。また共通テーマとして、気象庁の気象実績データをもとに、天気予想をしてもらいました。

――高校生向けとは思えないほど本格的な内容ですね。

実はスタート時点では、AIの概論を座学で習得するカリキュラムを準備していました。しかし、生徒たちの「もっとAIを知りたい、使いたい」という意欲が強く、事前に準備した内容では期待に応えられないと考えて、ほぼ全てをつくり変えたのです。AI甲子園の課題も当初は入門的なものを想定していましたが、生徒の様子を見てよりレベルの高いものに変更しました。生徒たちのポテンシャルの高さを感じて、嬉しかったですね。


2021年3月7日に開催されたやまがたAI甲子園の模様は、YouTubeでご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=DTw30rZdGoU

――やまがたAI部の活動で、印象に残ったエピソードを教えてください。

AI甲子園の当日に、各校の代表1名ずつと、コンソーシアム会長の松本によるトークセッションを実施しました。そこでの生徒たちの話が、驚くほど高度な内容だったのです。例えば「入部前は、AIが人間の仕事を奪うなど怖いイメージがありましたが、結局は人間がAIをどう使うかが重要なのだと気づきました」「AIにインプットするためのデータの取得方法や前処理の方法が重要だと思いました」など、AIの本質を突く話をしていました。

また、やまがたAI部で初めてAIに触れた生徒が「将来AIに関わるような仕事に就きたい」と話しており、私たちの予想を遥かに上回るほど生徒のマインドや行動が変化したのを実感しましたね。終了後のアンケートでも、9割以上の生徒が「AIの認識が変わった」「AIへの理解が深まった」と回答しています。

――生徒たちの好奇心の強さやポテンシャルの高さを感じますね。

小さなころからデジタルに触れているデジタルネイティブだからというのもあるのかもしれませんが、部活の中での受け答えもすごいですし、将来に対する考えも明確。正直、圧倒されるほどでした。

AI教育の地域格差に課題を感じていましたが、AI部の活動を通して、地方にいてもやり方次第で十分にAIを学べると分かりました。高校生の活動という前提を抜きにしても、レベルの高い活動だったと感じています。収穫の大きい一年でしたね。2021年は初年度の活動を踏まえ、より充実した内容にしたいと考えています。


将来的な働き方の選択肢に“AI”が加わる

――学生時代にAIスキルを学ぶ意義とは何だと思われますか?

最も大きいのは、AI関係の仕事に就く選択肢を考えるきっかけになる点です。部活動を通じてAI研究に興味を持ち、その後も継続的に学んでくれる人が現れるかもしれません。AIのスキルがあれば、山形でも東京でも海外でも場所を問わずに仕事ができます。都市部の高校生と比べて就職の選択肢が少なくなりやすい地方の高校生にとって、選択肢を増やせる契機になるのは大きいことだと思います。

さらに、AIスキルだけではなく地元を知るという点でも、やまがたAI部の活動は意義があります。地元の会社を見学したり、働く人と話をしたりする機会があれば、地域の会社や経済について理解が深まります。

余談ですが、私自身も山形県の出身で、県外の大学に進学してから30歳を前に山形に戻ってきました。新卒の就職活動のときは、地元の就職先としてどんな会社があるのかほとんど知りませんでした。地元に戻ってこなければ、山形県の企業について知らないままだったかもしれません。だからこそ、やまがたAI部の活動を通じて地元企業のことを学べるのは、高校生の将来のキャリアにとって非常に価値のあることだと考えています。

地方創生により新しいエコシステムが生まれる

――やまがたAI部の活動を通じて、今後実現していきたいことを教えてください。

“やまがた”と銘打っているからには、活動によって山形県をもっと良くしていきたいです。やまがたAI部を卒部してくれた生徒たちが地域の会社に入って業績を伸ばしたり、IT関係の会社を起業したり。もしかしたら、AIのことを学んだ生徒がデータサイエンスのエキスパートになって、山形県を拠点にしながら世界中に価値を提供できるようになるかもしれません。

そんな地域の経済を支える社会人になってくれたら嬉しいですし、彼ら彼女らの活躍によって山形県のGDPが向上するくらいの結果が出たらと考えています。そうなれば山形県にとって大きなプラスになるでしょうね。将来的にはやまがたAI部の活動を通して、山形を「データサイエンス先進地」と呼ばれるくらいにしたいです。


――最後になりますが、企業が地方創生の活動を行う意義は何でしょうか?

地方には、人と経済の循環が機能不全に陥っている部分があると感じています。しかしながら、そういった領域は企業の普段のビジネス活動だけではカバーしにくい。企業による地方創生の活動は、そうした機能不全領域の回復を支援し、地域の人と経済の循環=エコシステムを生み出す意義があると思っています。

やまがたAI部の例で言えば、AIのスキルを身につけることにより、卒業した生徒たちの選択肢が広がったり、山形県を離れた生徒が帰ってくる可能性が生まれたりします。彼らの活躍によって地域の経済が活性化すれば、山形県の企業にとってもプラスになり、地域の人たちもより豊かに暮らせます。O2グループがそうしたサイクルづくりに携われるのはとても有意義ですし、個人的にも大きなモチベーションを感じています。

今後の展望としては、県内の大学生が高校生のコーチ役を担ったり、コンソーシアムに加盟している会社が社会人向けAI部を設立したりと、より幅広い活動を視野に入れています。今後もO2の地方創生活動の先駆けであるやまがたAI部に注力し、山形県の活性化に貢献していきたいです。

一方でO2グループのビジネスとしても、これからも地域の製造業の成長を支援していきます。これからの世代の皆さんの活躍の場を広げることにもつながりますし、近い将来、やまがたAI部のOB/OGと一緒に仕事ができたら最高ですね。

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