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持続可能なアルゼンチンタンゴ① 小学校教育の明るい呪縛

GPSSグループでコンストラクションマネジメントという仕事をしています。ニックネームはなーちゃん。サステナビリティに関わる記事を書いてくれと広報室より依頼されたので、普段踊っているアルゼンチンタンゴの話を中心に書いていきます。今回はとりあえず、自己紹介のようなものを。

「将来の夢」という雛形

「将来の夢」を問われたことのない人はいないんじゃないかと思う。他の環境ではわからないが、少なくとも国内の日本語話者においては、毎年「小学生の将来の夢ランキング」が発表されている。自分はというと、幼稚園ではピアニスト、小学校ではバレリーナ、中学と高校ではミュージカル女優、みたいな感じだった。

「将来=1つの職業を選ぶ」という雛形が当たり前で、基本的にはその時々で熱中していることの延長線にある既存の職業を答える人が多いと思う。バレエでは食っていけないから、音大芸大はコストがかかりすぎるから、などのよくある理由でとりあえず東京大学へ進学し、大学院で建築を学び国内ゼネコンに就職した7年後の今、私の肩書はタンゴダンサー兼コンストラクションマネージャーだ(カタカナが多いのはご愛敬)。

点から線へ

自分はいわゆる多趣味な人間らしい。ピアノ・ヴァイオリン・ドラム・ギターと管楽器以外は広く浅く経験したし、学生時代は繁華街のライブバーで昭和歌謡を歌うバイトもしていた。写真や美術はしっくりこなくて専ら被写体か鑑賞に落ち着いている。建築は今でも好きなので旅先の名物建築は必ず事前調査するし、海外ドラマや映画のお陰で英語が話せるのでパスポートのスタンプとfacebookの友人リストはまさに色とりどりだ。

無数の「好き」の中から職業・生業につながる分かれ道は、私の場合、何かゴールを決めて積み上げたというよりも、過去の一瞬一瞬で選んできたものが、社会との関わりによって相応しい場所へ納まっていく感覚に近い。その時々の選択も、自分が何を欲しいのかわからなかったり、楽な方を選んだり、派手なものを選んだり、一貫しているとは言いづらい。それでも結果的にすべての経験が今の自分に繋がっているのでちょっと怖いくらいだ。

例えばアルゼンチンタンゴを始めたきっかけは大学院卒業時の南米旅行だし、行先を南米にした理由は建築学科でのポルトガル留学中にヨーロッパを半周して更にポルトガル語とスペイン語がなんとなく理解できたからだし、建築学科を選んだのは工作好きな父親の影響だったりする。

東大に現役で入れる程度に学科試験が得意なのは、小学生の時点で4つの習い事をこなすため授業中に宿題を終わらせて読書までする効率厨だったから。学歴を捨ててダンサーに転身、なんてとんでもない。大学に行かなければタンゴにも出会っていなかったし、大学に行けたのは幼少期から音楽とダンスに熱中していたお陰でもあって、因果が複雑に絡み合っているのだ。

ありきたりなあれ

「好きなことで、生きていく」と某動画共有プラットフォームも言っているが、結局好きなことしか続かないし、好きなことでしか創造力を発揮して価値を生み出すことはできない。橘玲さんも『幸福の「資本」論』において、「石の上にも三年」という諺について身もふたもないことを書いていた。

3年も座っていられるのは、「好き」だからです。そうでなければ、誰もそんな拷問に耐えられないでしょう。

幸福の「資本」論 橘玲 ダイヤモンド社


ちなみに『幸福の「資本」論』は中身が濃い割に読みやすいので、費用・時間対効果が高く普段読書をしない人でもすぐに読み終わる。

職業とか肩書ってのは自分の「好き」と社会生活との折り合いを付けた結果の呼び名であって、夢や目標とは別のところにある気がしている。

タンゴダンサー兼コンストラクションマネージャーという肩書

諺なんか持ち出して説教くさく思われそうだけど、これは全部自分の話。「国立大学院卒で大手企業でのキャリアを捨てて(売れない)ダンサーに!」というとなんだか波乱万丈っぽいが、面白そうなものに突っ込んでいった結果、ぬるぬるとタンゴが生活の大部分を占めるようになっていた32歳の話。

「将来の夢=職業」という考え方に縛られると、どうしても好きなものから離れていって、自分自身や周囲に対して言い訳をするようになる。

私にとっての肩書とは、自分と社会が繋がるときの窓のひとつ。「仕事は?」「普段何してんの?」という質問へのとりあえずの答えであり、時間又はエネルギーの大部分をこれに割いていて、社会からはこのように認知されています、というだけ。

「将来の夢」という呪いから解放されると「人は結構自由になれるのでは?」と最近思っている。ピアニストにもバレリーナにもならなかったけれど、そもそも好きなものを無理やり職業に当てはめて答えていただけなので、やりたいことはもっと違う形をしていた、というかもともと形なんて無いのかも。

タンゴダンサーという肩書も、タンゴが好きで踊り続けていたら縁のめぐりあわせで少しずつ仕事をもらえるようになった今の状態を社会に便利な形で置き換えた言葉に過ぎない。コンストラクションマネージャーの方は、資本主義社会で当面の家賃を払うためにある程度自分に興味があって得意っぽいことを会社という雛形に合わせたものだ。

「将来の夢」は、少なくとも私には必要のないものだった。

サステナビリティにぎりぎり繋がる記事を連載します!アルゼンチンタンゴを知らない人が「おっ?これは」と感心を持てるようなコンテンツを目指すのでどうか期待せずに見守ってください!

同じく旧帝大出身のタンゴ仲間と一緒に、(インテリ)美女風アラサー2人による無料タンゴマガジン「明日のタンゴ」(あすタン)を配信しています。踊る人も踊らない人も楽しめる、実体験満載の記事です。こちらも是非ご覧あれ!

https://note.com/asu_tan/

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