「その案件、商流のどこにいますか?」創業1年目の経営者が、面談で必ず確かめる理由
Photo by Dylan Gillis on Unsplash
転職の相談に乗っていると、案件の話になったときに、私はよくこう聞きます。「今受けているその案件、商流のどこにいますか」と。
すぐ答えられる人は、実はそれほど多くありません。使っている技術や担当している機能はすらすら説明できても、自分がどの位置で働いているかは意識したことがない、という人が結構います。聞かれて初めて「そういえば、考えたことなかったです」と言う人も少なくない。
でも、この「商流のどこにいるか」は、日々の働き方や、身につくものに、想像以上に効いてきます。同じ言語を書いていても、同じ年数を過ごしても、後から差になって表れる。今日はその話をさせてください。
そもそも「商流」とは何か
ITの現場でいう商流は、ざっくり言えば「発注が何社を経由して自分のところまで届いているか」です。
システムを使いたい会社、つまり発注元がいて、そこから直接請けるのが一次請け。一次請けがさらに別の会社に出すと二次請け、その先が三次請け、と続いていきます。現場によっては四次、五次まで伸びることもあります。
イメージしにくければ、水が上から下へ流れる様子を思い浮かべてください。発注元から出た「作ってほしい」という依頼が、川の上流から下流へ、会社をいくつも通りながら流れてくる。あなたが働いている席が、その川のどのあたりにあるのか。それが商流の位置です。
座っている席は同じでも、その席が何段目にあるのかで、見えるものはかなり変わります。まずはそこを整理しておきたいと思います。
同じ開発でも、入ってくる情報が違う
一番わかりやすいのは、情報の量と鮮度です。
発注元に近いほど、「なぜこの機能を作るのか」「誰が、どんな場面で使うのか」といった背景が、生の状態で入ってきます。打ち合わせの席に発注元の担当者がいて、その場で仕様の意図を聞ける。「ここ、実は現場だとこう使うんです」という一言が、直接耳に入る。迷ったらすぐ確認できて、返ってきた答えをそのまま設計に反映できる。
商流が深くなるほど、この背景は薄まっていきます。手元に届くのは「この画面のこの項目を、こう直してください」という切り出された指示だけ。なぜそう直すのか、その先で何が起きているのかは、間の会社のどこかで止まっていて、現場までは降りてきません。伝言ゲームと同じで、伝わるうちに前提がすこしずつ削れていくんです。
たとえば、ある項目の入力チェックを「もっと厳しくしてほしい」という指示が来たとします。発注元に近ければ、「過去に入力ミスで事故が起きたから」という理由まで見えるので、他にも危なそうな箇所を先回りして提案できる。でも理由が降りてこないと、言われた項目だけを直して終わりです。同じ作業でも、生まれる価値がまるで違ってくる。
私自身、下のほうの商流にいた時期に、「これ、何のために作っているんだろう」と思いながら手を動かしていたことがあります。目的がわからないまま作ると、工夫のしようがない。言われた通りに作る以外の余地が、そもそも渡されていないからです。今振り返っても、あの時間はもったいなかったと感じます。
関われる工程と、任される範囲も変わる
情報だけではありません。任せてもらえる範囲も、商流の位置で変わります。
上流に近いと、要件を一緒に整理したり、設計に口を出したり、「この作り方のほうがいいのでは」と提案できる場面が出てきます。作る前の段階から関われる、ということです。要件を決める打ち合わせに呼ばれることもある。
下のほうになると、渡されるのはたいてい、すでに設計が終わって切り分けられた作業です。実装して、テストして、返す。それ自体はきちんとした仕事ですし、そこで磨かれる技術力もあります。ただ、「そもそもどう作るか」を考える部分は、上の工程で終わっている。自分の判断を挟む隙間が、どうしても少なくなる。
これは、本人の能力とは関係のないところで決まってしまう、という点が厄介です。設計ができる人でも、下流の作業しか渡されなければ、設計する機会そのものがない。どちらが偉いという話ではありません。ただ、同じ「開発」という言葉でも中身がずいぶん違うということは、知っておいて損はないと思います。
商流が深いと、間に人とコストが挟まる
商流の段が増えるほど、会社と会社の間には契約と管理が挟まります。間に入る会社は、ただ右から左に流しているわけではなく、それぞれ役割を持って手数料を受け取っている。これは業界の構造として、良い悪い以前に、そういう仕組みになっています。
問題は、段が増えるほど、実際に手を動かす人と、そのシステムを本当に必要としている人との距離が遠くなることです。距離が遠いと、現場でいい仕事をしても、それが発注元まで届きにくい。「あのエンジニアの提案が助かった」という声が、間の会社で止まってしまう。逆に、発注元がどれだけ困っているのか、その温度も現場には伝わりにくい。
この「伝わらなさ」が、離れた現場で働いていて感じるやりにくさの、けっこう大きな部分を占めています。頑張りが見えにくい、評価が返ってこない、何のために作っているのかわからない。その多くは、本人のせいでも、目の前の上司のせいでもなく、商流の距離から来ていることが多いんです。
商流の位置は、キャリアにも効いてくる
もう一つ、見落とされがちな話をします。商流の位置は、その場の働きやすさだけでなく、数年後のキャリアにも影響します。
背景を知りながら、設計や提案に関わってきた人は、「なぜその作りにしたか」を自分の言葉で語れます。転職の面談でも、そこがそのまま強みになる。「こういう理由でこう設計して、この結果になりました」と話せる人は、やはり強い。
一方で、切り出された作業だけを長く続けてきた人は、技術は確かに身についていても、判断した経験を語りにくい。「担当した機能」は挙げられても、「なぜそうしたか」になると言葉が出てこない。同じ年数を過ごしても、後から効いてくるものが変わってくるんです。
これは脅かしたいわけではなくて、知っていれば手を打てる、という話です。今いる位置を正しく知って、足りない経験を意識的に取りにいく。下流にいても、背景を自分から聞きにいったり、設計の意図を推測して確かめたりするだけで、渡されるものの受け取り方は変わります。
「気づいたら、ずっと下流だった」という相談
実際に、こんな相談を受けたことがあります。経験は五年ほど、技術的にはしっかりしている人でした。ただ本人いわく、「ずっと同じような作業をしている気がして、成長している実感がない」と。
話を聞いていくと、入った現場がどれも商流の深い位置で、渡されるのは切り出された実装ばかりだった。設計に関わったことも、発注元と話したこともほとんどない。技術は積み上がっているのに、判断した経験だけがすっぽり抜けていたんです。本人は「自分の頑張りが足りないのかも」と思い込んでいましたが、話を整理すると、そもそも機会が渡されていなかっただけでした。
その人に伝えたのは、「あなたのせいではないけれど、このまま同じ位置を選び続けると、差は開いていく」ということです。位置を変えるか、今の位置で背景を取りにいく動きを増やすか。どちらでもいいけれど、まずは自分が今どこにいるかを知るところからだ、と。この手の相談は、決して珍しくありません。
ただし、「浅い=正解」でもない
ここまで読むと、発注元に近いほどいい、と聞こえるかもしれません。でも、そう単純でもありません。
商流が浅い現場でも、任される範囲が狭かったり、いつも急かされていたりすることはあります。上流だからといって、必ずしも設計に関われるとは限らない。逆に、すこし下の位置でも、間の会社が背景をきちんと共有してくれて、質問にも丁寧に答えてくれるなら、十分に学べる現場になります。
結局は「商流の位置」と「その現場が情報をどれだけ開いてくれるか」の掛け算です。位置だけで決まるわけではない。だからこそ、位置を知ったうえで、中身まで確かめることが大事だと考えています。位置は入り口であって、答えそのものではない、という感覚が近いかもしれません。
だから、面談でここを聞いてほしい
もしあなたが今、転職の面談を受けているなら、案件の話が出たときに、遠慮せず聞いてみてください。
「この案件は、商流のどのあたりですか」「発注元はどんな会社ですか」「要件は、どこで決まって降りてくるんですか」。この三つを聞くだけで、かなりのことがわかります。
答えが具体的なら、その会社は自分たちが扱っている案件の中身を、きちんと把握しています。「二次請けですが、発注元の定例に一緒に出ています」といった答えが返ってくるなら、距離を縮める工夫をしている会社です。逆に、言葉を濁したり、「現場に行けばわかります」で終わらせたりするなら、すこし慎重になったほうがいい。会社自身が商流の位置を説明できないのは、案件をただ流しているだけの可能性があるからです。
聞きにくい質問に思えるかもしれません。でもこれは、あなたがこれからどんな仕事をすることになるかの話です。働く本人が確かめて、当然のことだと思います。むしろ、この質問にきちんと向き合ってくれるかどうかで、その会社の姿勢が見えてきます。
私たちが案件を見るときに考えていること
Codenceでは、案件を紹介するとき、商流の位置と、任される工程を必ず確認するようにしています。深い商流の案件をすべて断るわけではありませんが、少なくとも「この案件は商流のどこで、何を任されて、背景はどこまで共有されるのか」を、本人に隠さず伝えます。判断する材料は、働く人が持っているべきだと思うからです。
そして、受託開発の立ち上げを進めているのも、この距離を縮めたいからです。自分たちで発注元と向き合って作れば、間の伝言ゲームがなくなる。なぜ作るのかがわかった状態で、設計から関われる。作ったものへの反応も、直接返ってくる。商流の話をしていていつももどかしいのは、いい仕事をしても遠くの誰かに届かないことなので、そこを自分たちの手で変えていきたいと思っています。
まだ立ち上げの途中で、整っていないことも多い会社です。それでも、なぜ作るのかがわかる場所で仕事をしたい、という気持ちには、正直に応えられると思っています。
もし、商流の奥のほうで「何のために作っているんだろう」と感じた経験があるなら、一度話してみませんか。受託開発の立ち上げを一緒にやってくれる仲間を探しています。よかったら、下の募集ものぞいてみてください。