先日、転職を考えているエンジニアの方とカジュアルに話していて、こんな質問をもらいました。「今の現場、AIを使っていいのか分からなくて。御社はどうですか?」
一瞬、答えに詰まりました。私はてっきり、技術スタックや案件の話を聞かれると思っていたんです。でも、その人がいちばん知りたかったのは、コードの書き方ではありませんでした。自分がこれから毎日どんなふうに働けるのか、そこでした。
よく聞いてみると、今の現場ではAIツールの利用がはっきり禁止されているわけではないそうです。けれど、誰も使っていると公言しない。使っていいのか悪いのかが分からないまま、なんとなく使わずにいる。その状態が一年近く続いていると言っていました。手元では便利な道具が広がっているのに、現場ではそれをないことにして仕事をしている。本人もどこか居心地が悪そうでした。
この「分からないまま、使わずにいる」という空気は、今いろんな現場で起きていると感じます。そして転職を考える人にとって、現場がAIとどう向き合っているかは、もう無視できない判断材料になってきました。今日はその話を、現場を見てきた経営者の立場から書いてみます。
「AIを使える現場」と「使えない現場」が、はっきり分かれてきた
ここ一年で、開発現場の景色がずいぶん変わりました。AIにお願いすれば、動くコードはすぐ出てきます。設計の叩き台も、テストの下書きも、ちょっとした調べ物も、聞けば形になって返ってくる。手を動かす前の段取りが、目に見えて速くなりました。
ただ、その恩恵をどれくらい受けられるかは、現場によって本当に差があります。同じスキルを持ったエンジニアでも、片方の現場では当たり前のようにAIを使って前に進み、もう片方では誰にも言わずこっそり調べるだけで終わってしまう。働く場所が違うだけで、一年後に身についているものが変わってしまう。そういう時代になったと思っています。
少し前までは、現場選びで見るのはスキルが伸びる案件か、人間関係が悪くないか、そのあたりが中心でした。今はそこに、もう一つ加わりました。その現場が「AIを使って働くこと」をどう扱っているか、です。ここを見ておかないと、入ってから「思っていたのと違う」となりやすい。せっかく新しい道具が使える時代に、それを使えない現場で一年を過ごすのは、もったいないと感じます。
私は今、SESと受託開発の準備をしながら、いくつかの現場を経営者の立場で見ています。その中で、エンジニアが伸びる現場とそうでない現場には、いくつかはっきりした違いがあると気づきました。ここからは、それを転職前に見抜くための視点として、順番に書いていきます。面談で確かめられる聞き方も添えるので、現場選びの参考にしてもらえたらうれしいです。
見ているのは、誰が「使っていい」を決めているか
まず確かめたいのは、AIツールを使っていいかどうかが、誰の判断で決まっているかです。
いちばんつらいのは、誰に聞いても「分からない」と返ってくる現場です。情報システム部門は「現場に任せています」と言い、現場のリーダーは「それは上が決めることなので」と言う。結局、誰も責任を持って決めていないので、みんな様子をうかがって使わない。冒頭の方の現場が、まさにこれでした。明確に禁止されているより、この宙ぶらりんの状態のほうが、働く人にとってはやりにくいんです。
逆に良い現場は、使っていい範囲と気をつけることが、ちゃんと言葉になっています。社外に出してはいけない情報はこれ、この用途なら問題ない、判断に迷ったらこの人に聞く。完璧なルールでなくていいんです。むしろ最初から完璧なものは作れません。大事なのは、誰かが決めて、言葉にしてくれているかどうか。ここに、その現場が新しい道具とどう付き合っていくつもりなのかが、はっきり出ます。
面談のときは、「開発でAIツールはどのくらい使われていますか」と聞いてみるといいと思います。すらすらと具体例が出てくる現場と、言葉に詰まってしまう現場とでは、入った後の働きやすさがかなり違います。答えそのものより、答えるときの様子をよく見てみてください。
浮いた時間を、何に使っていいとされているか
AIで段取りが速くなると、時間が少し浮きます。この浮いた時間をどう扱うかに、現場の考え方がよく表れます。
浮いた分だけ、作業をどんどん詰め込む現場もあります。速くなったのだから、もっと多くこなしてほしい、と。それも一つの考え方ではあります。ただ、エンジニアの側からすると、少しずつ息が詰まっていきます。便利になったはずなのに、前より追い立てられている感覚になる。これでは長く続きません。
私が良いと感じるのは、浮いた時間で「考える」「試す」ことを許している現場です。設計をもう一段練り直す、テストを厚くする、前から気になっていた箇所に手を入れる。AIに任せられるところを任せて、人が考えるべきところに時間を戻していく。こういう時間の使い方ができている現場は、エンジニアが一年で確実に伸びていきます。同じ一年でも、ただ速く数をこなした人と、空いた時間で考える練習を重ねた人とでは、差がはっきり出ます。
転職前にここを直接聞くのは、少し難しいかもしれません。それでも、面談で「効率化できた時間は、何に使ってほしいと考えていますか」と尋ねてみると、相手の本音がのぞきます。即答で「もっと数を」と返ってくるのか、「考える時間に回してほしい」と返ってくるのか。その違いに、現場の価値観が出ます。
レビューで「なぜ」を話す時間が残っているか
AIが書いたコードは、たいてい動きます。でも「なぜその作りにしたのか」は、放っておくと誰の中にも残りません。動くからそのまま通してしまい、半年後に誰もその理由を説明できない。これは、AIを使う現場ほど気をつけたい落とし穴だと思っています。
だから私は、レビューで「なぜ」を話す時間が残っているかを見ます。この設計を選んだ理由、あえて捨てた選択肢、AIに任せた範囲と自分で考えた範囲。ほんの一言でいいので、それを言葉にして残す習慣がある現場は、コードと一緒に考え方も積み上がっていきます。後から入った人も、なぜこうなっているのかをたどれる。これは地味ですが、効いてきます。
逆に、レビューが「動くかどうか」の確認だけで終わっている現場は、少し注意したほうがいいと感じます。AIが書いてくれる量が増えるほど、判断の背景がどんどん抜け落ちていくからです。半年後、自分たちのコードなのに誰も理由を語れない、という状態になりかねません。入る前に「コードレビューはどんなふうにやっていますか」と聞いて、中身の話が出てくるか、形式やルールの話で終わるかを、よく見てみてください。
詰まったとき、AIの使い方を聞ける相手がいるか
AIを使い始めると、最初はうまくいきません。聞き方が悪くて見当違いの答えが返ってきたり、出てきたコードの良し悪しがうまく判断できなかったり。ここでつまずく人は、けっこう多いです。私自身も、最初は的外れな使い方をして時間を溶かしました。
このとき、近くに「こう聞くといいよ」と教えてくれる人がいるかどうかで、伸び方がまったく変わります。一人で延々と試行錯誤するのと、先に通った人から型を一つもらえるのとでは、半年後の差が大きい。道具そのものより、その道具をどう使うかの知恵が、人を通して伝わっていくんです。
良い現場は、AIの使い方そのものを共有する場を持っています。大げさな勉強会である必要はありません。「こういう聞き方をしたらうまくいった」という話が、雑談で流れてくるだけでも十分です。そういう会話が日常的に現場を流れているかどうか。これは入ってみないと分かりにくい部分ではありますが、面談で「チームの中でAIの使い方を共有することはありますか」と聞くと、ある程度は見えてきます。共有する文化がある現場は、一人で抱え込まずに済みます。
失敗を、個人のミスで終わらせない空気があるか
最後に、いちばん大事だと思っていることを書きます。新しい道具を使えば、必ず失敗します。AIの答えを鵜呑みにして間違えることも、最初のうちはあります。これは避けられません。
このとき、失敗を個人のミスとして責める現場では、だんだん誰も新しいことを試さなくなります。怒られるくらいなら、今まで通り全部手で書いたほうが安全だ、と。気持ちは分かります。でも、それでは現場全体が前に進みません。新しい道具を持っているのに、誰も怖くて使えない、という状態になってしまう。
失敗を「やってみたから分かったこと」として扱える現場は、強いです。一度の失敗から学びを拾って、次に活かす。同じ失敗を二度しないように、やり方を少し直す。この空気がある現場でこそ、エンジニアは安心してAIを使いこなしていけます。挑戦の数が増えれば、そのぶん伸びる速さも変わってきます。転職前にここを見抜くのは難しいですが、面談で過去の失敗をどう語るかに、その人や会社の姿勢がにじみます。失敗を笑い話として話せる相手なら、現場の空気もきっと悪くありません。
現場は選べる。そして、選ぶ目は鍛えられる
冒頭の「AIを使っていいですか」という質問に、私はこう答えました。「使っていいかどうかを気にするより、使えるように一緒に整えていきましょう」と。
私たちはまだ創業して間もない小さなチームです。立派な制度がすべて整っているわけではありません。それでも、新しい道具を一緒に試して、うまくいったこともそうでなかったことも、その場で言葉にして共有する。そういう現場でありたいと思っています。完成された環境を渡すのではなく、これからの環境を一緒に作っていく。今はちょうど、そういうフェーズにいます。
ここまで読んでくださった方は、たぶんもう、現場を選ぶ目を持っています。あとは、その目で実際に現場を見て、自分に合う場所を選ぶだけです。今日の視点が、その助けになればうれしいです。
もし、AIを当たり前に使いながら、設計やモダンな開発に踏み込んでいきたいと考えているなら、一度話してみませんか。下の募集に、私たちが今どんな開発をしているかを書いています。少しでも気になったら、のぞいてみてください。