株式会社Codence代表の西野です。
4月。新年度が始まるこの時期は、エンジニアにとって特別な季節だと思います。異動があったり、転職して新しい会社に入ったり、プロジェクトが切り替わったり。私自身もエンジニア時代、何度も経験してきました。
そして、そのたびに思っていたことがあります。
「ちゃんとやれるだろうか」
この一言に尽きます。新しい現場に入る前の夜、布団の中で何度もこの言葉が頭をよぎりました。技術的についていけるか。チームに馴染めるか。求められているレベルに達しているか。考え始めると止まらなくて、気づいたら朝になっている。そんな経験をした方は、きっと私だけではないはずです。
今日はそんな「新しい現場に入るときの不安」について、私自身の体験を交えながら書いてみます。エンジニア時代に感じていたこと、そして経営者になった今だからこそ見えることを、正直に話したいと思います。
初日の朝、胃が痛かった
私がエンジニアとして最初にたった一人の出向現場に入ったのは2021年のことです。Railsの案件でした。正直に言うと、スキル的に十分だったかと問われれば、まだ怪しい部分もありました。でも、それ以上にきつかったのは「知らない人たちの中に一人で放り込まれる」という状況そのものでした。
朝、勤務先のビルに着いて、エレベーターのボタンを押す瞬間。あの緊張感は今でも覚えています。フロアに着いて、案内された席に座って、周りを見渡すと、全員がもう何ヶ月も一緒に働いているチームメンバー。自分だけが「新入り」で、会話の文脈も、暗黙のルールも、何もわからない。
最初のミーティングで自己紹介をしたとき、声が少し震えていたかもしれません。
その日の昼休み、ビルの外に出てコンビニでおにぎりを買いました。午前中ずっと緊張していたせいか、あまり食欲がなかった記憶があります。でも、午後からまた戻らなきゃいけないので、無理やり食べました。
こうやって書くと大げさに聞こえるかもしれませんが、当時は本当にそのくらいの緊張感でした。
でも、振り返ってみると、あの緊張は無駄ではなかったと今は思っています。緊張していたからこそ、周りの動きをよく観察していた。誰がどんな役割で、どんな雰囲気のチームなのか。無意識に情報を集めていたことが、翌日以降の動き方に活きました。
不安の正体は「わからない」こと
何度か現場を経験して気づいたのは、不安の正体はいつも同じだということです。
それは「わからない」という状態に置かれること。
技術スタックがわからない。業務ドメインがわからない。チームの進め方がわからない。誰に何を聞けばいいかわからない。この「わからない」が四方八方から押し寄せてくる感覚が、不安の本質だったのだと思います。
逆に言えば、「わからない」を一つずつ潰していけば、不安は確実に小さくなっていきます。
私の場合、新しい現場に入ったらまず3つのことをやると決めていました。
1つ目は、最初の1週間で「質問しやすい人」を見つけること。どんなチームにも、聞けば丁寧に答えてくれる人がいます。その人を早い段階で見つけておくと、わからないことを放置しなくて済みます。放置すると「わからない」がどんどん積み上がって、ますます聞きづらくなる。この悪循環に入る前に動くのが大事でした。
2つ目は、コードを読むこと。ドキュメントが整備されている現場は実はそれほど多くありません。既存のコードベースを読むのが、その現場のルールや設計思想を理解する一番の近道でした。命名規則、ディレクトリ構成、テストの書き方。コードにはその現場の文化が表れます。
3つ目は、小さなタスクでもいいから早めに成果を出すこと。バグ修正でも、テストの追加でも何でもいい。「この人、ちゃんと動ける」と思ってもらえるだけで、チーム内での居場所ができ始めます。最初の1週間で一つでも成果物を出すと、自分自身の不安も和らぎます。「やれる」という実感が、一番の精神安定剤でした。
「慣れる」と「馴染む」は違う
ここで一つ、大事だと思っていることがあります。
現場に「慣れる」のと「馴染む」のは、似ているようで全然違います。
慣れるというのは、業務の流れが体に入ってきて、指示されなくても動けるようになること。これは時間が経てば大抵の人ができるようになります。2週間もすれば、朝の出社ルーティンも、ミーティングの流れも、ツールの使い方も体が覚えてくる。
一方で、馴染むというのは、チームの一員として認められること。困っているときに声をかけてもらえたり、雑談の輪に自然と入れたり、意見を求められたりする状態です。これは時間だけでは手に入りません。
SESという働き方をしていると、プロジェクトが終わるたびに現場が変わります。せっかく馴染んだチームを離れて、また一からやり直し。正直、これがしんどいと感じたことは何度もありました。
「また新しい人間関係を作り直すのか」と思う瞬間があります。チームの飲み会に呼ばれるようになって、冗談を言い合える関係になって、やっとチームの一員だと感じられたころに、プロジェクトが終わる。あの切なさは、SESで働いたことがある人なら共感してもらえるのではないでしょうか。
でも、今になって思うのは、あの「馴染む」までのプロセスを何度も繰り返したおかげで、人との距離の詰め方を覚えたということです。
初対面の相手に対して、どのくらいのテンションで話しかければいいか。どんなタイミングで自分の意見を出せばいいか。相手が忙しそうなとき、質問を後回しにすべきか、それとも今聞くべきか。ランチに誘うのはいつ頃からが自然か。
こうした判断を、経験の中で少しずつ身につけてきました。これはSESの現場を複数経験したからこそ得られたスキルだと思っています。転職市場で「コミュニケーション能力」と呼ばれるものの正体は、案外こういう地味な経験の積み重ねなのかもしれません。
技術の壁より、空気の壁のほうがきつい
不安の話をしていると、多くの人は技術的な不安を想像すると思います。「Javaの案件なのに、自分はJava歴が浅い」「Spring Bootを触ったことがない」「インフラの知識が足りない」。たしかに、そういう心配もありました。
でも、私が何度か現場を経験して実感したのは、技術の壁よりも「空気の壁」のほうがずっときついということです。
空気の壁というのは、そのチーム独自の暗黙のルールや、言葉にされないコミュニケーションの作法のことです。たとえば、Slackでの報告はどのくらいの粒度でやるのか。プルリクエストのレビューをお願いするとき、直接声をかけるのかメンションだけでいいのか。ミーティング中に質問していいタイミングはいつなのか。
こういったことはオンボーディング資料に書いてありません。誰も教えてくれないのに、知らないと「空気が読めない人」と思われるリスクがある。これがSESエンジニアにとって一番のストレスだった気がします。
対処法は地味ですが、とにかく「観察すること」に尽きました。チームメンバーがどうやってコミュニケーションを取っているかを、最初の数日は意識的に見るようにしていました。誰かがプルリクエストを出したときの流れ、朝会での発言の仕方、チャットのトーン。こうした細かい観察が、空気の壁を乗り越える手がかりになります。
技術は調べれば答えが見つかります。でも、チームの空気は自分で読み取るしかない。だからこそ、技術力だけを磨いても新しい現場で活躍できるとは限らないし、逆に観察力と適応力があれば、技術的なギャップはあとから埋められる。私はそう考えています。
不安を抱えたまま飛び込める人が強い
ここまで読んで、「結局、不安は消えないのか」と思った方もいるかもしれません。
はい、消えません。少なくとも私は、何度現場が変わっても完全に不安がなくなったことはありませんでした。
ただ、不安との付き合い方は変わりました。
最初のころは「不安をゼロにしてから現場に入りたい」と思っていました。完璧に準備して、何を聞かれても答えられるようにして、それからでないと怖い。でも、そんな状態は永遠に来ません。どれだけ事前に勉強しても、現場に入ってみなければわからないことが山ほどある。
ある時期から、考え方が変わりました。不安を抱えたまま飛び込んで、現場で一つずつ解決していけばいい。わからないことは聞けばいい。できないことはできないと言えばいい。
この切り替えができてから、新しい現場に入るハードルが少し下がった気がします。
完璧な状態で現場に入れるエンジニアなんて、ほとんどいません。みんな、多かれ少なかれ不安を抱えながら初日を迎えています。大事なのは、不安があるかどうかではなくて、不安があっても動けるかどうかです。
面白いことに、これはエンジニアの技術力とはあまり関係がないように思います。スキルが高くても新しい環境に入るのが苦手な人はいるし、経験が浅くても飛び込む力がある人もいる。どちらが現場で早く戦力になるかというと、後者のケースが意外と多い。技術は現場で追いつけますが、飛び込む力は自分で鍛えるしかないからです。
経営者になって見えた「不安の裏側」
会社を立ち上げてからは、今度は「送り出す側」になりました。
Codenceのエンジニアが新しい現場に入るとき、私は必ず声をかけるようにしています。「何かあったらすぐ連絡して」と。これは社交辞令ではなく、本気で言っています。
なぜなら、自分自身が「初日の朝の胃の痛さ」を知っているからです。
SES企業の中には、エンジニアを現場に送り込んだらあとは放置、という会社もあります。月に一度の面談すらまともに行わない会社も珍しくないと聞きます。でも、それでいいのかと私はずっと疑問に思っていました。
現場に入った後のフォローこそが、SES企業の存在意義だと考えています。「聞いてくれる人がいる」という安心感があるだけで、人はもう少し頑張れる。逆に、誰にも相談できない状態で困難にぶつかると、人は簡単に折れてしまいます。
実際、うちのエンジニアから「現場でこういうことがあって困っている」と相談を受けたことがあります。技術的な問題だったり、コミュニケーションの問題だったり、内容はさまざまです。でも、共通しているのは、相談してくれた時点で問題の半分は解決に向かっているということ。一人で抱え込んでしまうのが、一番まずいパターンです。
だから私は、相談のハードルをできるだけ下げたいと思っています。「こんなことで連絡していいのかな」と思わせないこと。些細なことでも話してもらえる関係をつくること。目の行き届く小さな会社だからこそ、それができると信じています。
送り出す側になって初めてわかったこともあります。エンジニア時代は、自分の不安にしか目が行きませんでした。でも今は、送り出すエンジニアが不安を感じているとき、その裏側にある「頑張りたい」という気持ちが見えるようになりました。不安が大きい人ほど、真剣にその現場と向き合おうとしている。その姿勢を見ると、この人なら大丈夫だと思えることがほとんどです。
不安は弱さの表れではなく、誠実さの表れです。私はそう思っています。
4月、新しい場所に立つあなたへ
もしこの記事を読んでいるあなたが、4月から新しい現場に入るエンジニアなら、一つだけ伝えたいことがあります。
不安で当たり前です。
技術力が足りないかもしれない。チームに馴染めないかもしれない。期待に応えられないかもしれない。そう感じるのは、あなたが真剣に仕事に向き合っている証拠です。何も感じない人は、たぶんそこまで真剣に考えていません。
だから、不安を恥ずかしいと思わないでほしい。
最初の1週間は、とにかく周りを観察すること。質問できる人を見つけること。小さくてもいいから成果を出すこと。それだけで、見える景色は変わります。2週間後には「あ、なんとかなりそうだ」と思える瞬間が来るはずです。
そして、もし今の環境で「不安を相談できる相手がいない」と感じているなら、それは環境を変えるべきサインかもしれません。
Codenceは小さな会社です。大きな組織のような手厚い研修制度はありません。でも、代わりに「困ったときにすぐ話せる距離」があります。
私自身がエンジニアとして感じてきた不安を、経営者として受け止める。それがCodenceのやり方です。
新しい場所に立つのは、いつだって怖い。でも、その怖さの先にしか、成長はありません。
あなたが次の現場で感じるであろう不安は、きっと私が感じてきた不安と同じです。でも、その不安は乗り越えられます。私自身が何度も経験して、そう断言できます。
4月、一歩踏み出すあなたを、私たちは応援しています。
もしCodenceという会社に少しでも興味を持ってもらえたなら、気軽に話を聞きに来てください。堅苦しい面接ではなく、お互いのことを知る時間にしたいと思っています。