目次
―― システム安全という職能の本質
こんな方に読んでいただきたい記事です
プロフィール
技術者人生の転機は、「スペシャリスト」として考えるようになったこと。
「安全第一」はスローガンではなく、設計段階で作り込むことが大事。
「安全」は誰かの意識の高さで守るものじゃない。
正解のない答えを、システム安全マネジメントに落とし込む。
「システム安全」に惹かれる人へ。
最後に
―― システム安全という職能の本質
こんな方に読んでいただきたい記事です
- 「安全第一、それって法規制を守っていればそれでいいの?」と考えている方。
- 安全って大事なことだし、「前から興味があってやってみたかったけど何から始めたらいいの?」と考えている方
- これまで培った知見や経験を、未来に向けて再定義したいと考えている方
- 「私にできることは何か」と問いながら、誰かと共に何かを創り出したいと願っている方
本記事では、将来宇宙輸送システムにて品質保証およびプロジェクト支援を担う森成史氏へのインタビューを通じて、宇宙開発における「安全」という概念の捉え方や、そこに向き合う技術者の思想と安全設計の奥深さをひもときます。
安全を“意識”ではなく“仕組み”で再現可能なものとするために、何が必要なのか。リスクと真正面から向き合い、時に全体設計と運用に介入しながら「問いを持ち続ける技術者」としての哲学に触れていただけたら幸いです。
プロフィール
森 成史(もり・しげふみ)/技術部 QA&PS(品質保証・プロジェクト支援)グループ
1980年生まれ、兵庫県出身。2025年4月に将来宇宙輸送システムへ参画。技術実証も安全体制もまだ手つかずのアーリーフェーズに魅力を感じ、組織創成フェーズからカルチャーづくりに関わることを目的に入社。 “ロケット開発と仕組みと組織をつくること”に強い関心を持つエンジニア。
趣味は葉山での海辺静養。家では、3歳になる娘と2匹の柴犬たちに召使いのように使われている一方、会社ではチームの成果を最大化すべく“使い勝手のいいリーダー”として環境づくりに奔走中。
技術者人生の転機は、「スペシャリスト」として考えるようになったこと。
前職では、システムグループの中に「安全チーム」があり、チーム全体として安全に対しても取り組んでいました。システム設計チーム・サブシステム設計チームとも連携しながら、安全に関する解析やアセスメントから自分たちで組み立てていくプロセスは、ものづくりに深く関わっているという実感がありました。
一方で将来宇宙輸送システムにおける現在のポジションでは、QA&PS(品質保証・プロジェクト支援)という組織の中で、安全業務を担う立場です。技術部の設計チームや生産技術の方々とは別部署ということもあり、物理的にも心理的にも少し距離のある中での業務です。
でも、だからこそ見える景色もある。自分がハブとなって社内の関係者や、外部の基準・制度、安全法規制とも向き合う必要がある。専門性は求められますが、その分「これは自分の責任領域だ」と思える感覚があります。
今の自分のテーマは、「どうやってこの会社の中に、安全という“仕組み”を根づかせるか」です。
「安全第一」はスローガンではなく、設計段階で作り込むことが大事。
将来宇宙輸送システムでは現在、米国での飛行実証や打ち上げを想定し、設計・運用体制・地上設備などが現地の安全法規制を満たすことが求められています。作業員が手順通り安全に作業を進められる環境を整える、というレベルを超えて、設計段階からどこまで安全を入れ込んで、ものづくり設計をつくり込めるかが問われます。
私はよく「安全第一っていうけど、それって設計として担保されてるの?」と自問します。つまり、誰かが「気をつけて」と言わないと守れない安全ではなく、故障が起こっても、ヒューマンエラーが起こっても安全になるロケットの構造と回路設計、生産と組立、そして飛行運用を想定して設計として仕込む。ここが真の意味での「安全第一」だと思っています。
ASCA1.0、そしてそれに続くASCA 1シリーズの開発においては、まず日本と米国の現場で働く人が、判断に迷うことなく安心して作業できること。それが安全技術とマネジメント技術を統合した「システム安全」の理想です。
「安全」は誰かの意識の高さで守るものじゃない。
リスクアセスメントの項目がひと通り埋まっていたからといって、「だからこのロケットは安全です」とはなりません。
私たちが向き合うのは「リスクゼロ」ではなく、「リスクとどう向き合うか」。設計や実装において、どのような前提を置いたか、どういったリスクを許容したか。その判断プロセスが共有・記録され、全体の判断基準として機能する状態をつくることが、私の役割だと考えています。
そして、それは一人の職人芸ではつくれない。チームで、会社全体で、「このプロジェクトにとっての安全とは何か」を言語化していく作業だと思います。
正解のない答えを、システム安全マネジメントに落とし込む。
こうした仕事に面白さを感じるのは、たとえば「マニュアルを読めば答えが出てくる」世界ではないからかもしれません。日本とアメリカでは基準が違い、技術的にも文化的にもすり合わせが必要です。
たとえば、今まさに直面しているのは、「世界基準を満たした上で、日本的なものづくりのやり方をどう実現するか?」という命題。安全と効率と現実性のバランスをどうとるか、日々思考錯誤しています。
それでも、「誰かの判断や経験に頼らずに、安全を再現できる設計をつくる」ことに意義があると信じています。
「システム安全」に惹かれる人へ。
自分が決めたことが全体の安全設計に影響を与えるような仕事をしたい人にとって、この仕事はとても魅力的だと思います。
安全という言葉から受けるイメージは、どこか静かで穏やかなものかもしれませんが、実際には、開発全体の設計思想に入り込み、組織安全カルチャー醸成と安全設計への関心の深さを変えていくための対話と交渉の連続です。
現場を回り、エンジニアと議論し、時には経営層とも対話しながら、「このやり方でいいのか?」を問い直し、進めていく。知識も必要、経験も必要、でも何より「問いを持ち続けられる人」でないと続かない領域です。
最後に
宇宙輸送の安全をつくるということは、ただ安全設計結果をチェックするだけではありません。「この会社が、このチームが、この方法で進めるべきだ」という判断を支える組織安全力を、一緒につくっていくことです。
そんな未来に、面白さを感じてくださる方とお会いできるのを、楽しみにしています。