関係人口を増やすと言っても、そんなに簡単に、目に見えて人は増えない。地方にわざわざ来るにもお金も時間もかかる。だから入り口をきっかけに、どれだけまた来たいと思ってもらえる場所と機会を作り込めるか。企業だけでは効果的じゃない、行政だけだとできることが限られる。官民一体が何より重要。
最近よく考えていることは、これです。
「関係人口がより増えやすくするにはどうすればいいか?」
関係人口とは定住している人とは異なる、地域づくりに欠かせない流動的に関わる人たちを意味する言葉です。地方創生の文脈でよく使われています。
指定管理者として、キャンプ場やスキー場、宿泊施設など行政施設の運営を請け負うようになって、どれだけ来る人を増やせるかの相談を受けることが多くなりました。
コロナ禍を境に地方移住が流行り始めた昨今、各市町村が補助金を出したり、国の制度である地域おこし協力隊を募集することで、首都圏からの移住者を増やす施策も増えています。
ただ、一人二人地域に住む人を増やせたところで、人口減少に向けた有効策にはなりません。限界集落は今も増え続け、数年後には人がいなくなっているであろう町が多数あります。
だから、ぼくたちはもっともっと訪れやすくしようと思いました。
移住ではなく、「地元に帰る」というきっかけを提案
移住で人を増やすのではなく、何度も訪れてもらえる「関係人口を増やす」というアプローチです。
まず見つめ直したのが「地元に帰る」ということです。シンプルに幼少期を過ごした地元、今もなお両親が過ごす地元に帰るきっかけを作ろうと思いました。
これまでは「移住」が大きなトピックでした。
それはやはりコロナが大きな要因になったと思います。
出社ができなくなり、リモートワークが余儀なくされ、働き方が多様になりました。在宅が主流になり、必ずしも都内や首都圏にいる必要はないことに気づかされたのです。
ただ一方で移住にはそれ相応のリスクや手間がかかることもわかっています。地域の人たちと合うかもわからないし、なかなか仕事が見つからな場合もあります。地域おこし協力隊も定着せず地域を離れてしまう人も珍しくありません。
また鳥取県は今も日本で一番人口が少ない県であって、今後もどんどんと人が減っていくことでしょう。そのときに住む人を増やそうとする施策が得策なのだろうか。移住からの定住という選択が本当に最善なのか。
一度立ち止まって考える必要があると思うのです。
地元を「地元の人たち」で盛り上げる
「地元に帰る」ことを見つめるきっかけとなったのが「地元出身の社員」でした。地元出身である社員が、偶然、鳥取市内で働く地元の同級生と約20年ぶりに再会しました。飲食店で働いていた同級生を「地元の宿泊施設で一緒に働こう!」と転職を勧めたところ、いま実際に一緒に働いています。
そんな二人のインタビュー記事があるので、ぜひこちらもお読みください。
「週末Wワーク」で地元に帰る
今年に発表したのが「わかさ氷ノ山で週末Wワーク」というものです。生まれ育った故郷を離れて県内外で働く鳥取県の若桜町出身者を対象に、気になる実家へ帰省して週末を過ごしながら働けるWワーク(複業)を提案しました。
まずその地域に思い入れがあるのは「地元出身者」です。地元に実家があり、両親が住んでいる。でもなかなか帰るには腰が上がらない。そんな時に、地元の慣れ親しんだ場所や人と働けると知ったらどうでしょう。
「週末時間があるから、実家にでも行こうか。ついでに働けるし、あいつらにも会えるし。」
支配人の山本(左)と、誘われて転職した料理長の岸本(右)
こういう熱いの、好きなんですよね。なんか、いいじゃないですか。
「地元を盛り上がる」のは地元の人たち
週末Wワークは募集開始の1月20日からすぐに応募をいただき、実際にすでに5名の方に働いてもらいました。
Wワークにきてくれた地元出身の人たちは「地元のために何かしたい」と本当に思ってくれていました。
二人を見ていても思いますが、やっぱり移住や仕事の関係だけではない、生まれ育った地元への思い入れというのは何物にも変え難いものがあります。
まずは、実家に帰るついでにでいい。二人に会いに来るでもいい。地元に帰るきっかけから、これからも関わり続けたいと思ってもらうことで、本当の意味での継続的な「地元を盛り上げる」につながっていくんだと感じました。
移住や地域に定着の前の、「おてつたび」
関係人口を作っていく入り口としてもってこいのサービスが「おてつたび」です。
一番人口が少なく、あまり知名度がない鳥取県で、どう人口を増やすか。またここに来たいと思ってもらえる「関係人口」を増やしていくしかありません。その最初の入り口としておてつたびはもってこいのサービスだと感じました。移住、地域に定着、の前の再訪。ここを作っていきたいなと改めて思います。
おてつたびはお手伝いをしながら、旅ができるサービスです。ぼくたちはおてつたびが始まったころから利用していて、キャンプ場に訪れたおてつびと(おてつたびの参加者)はのべ111名にもなります。
しかも2回以上来てくれたリピーターは12名。来てくれた方のうち約1割が再訪し、今も関わり続けてくれています。おてつたびで一緒に働いたおてつびと同士がおてつたび以後も連絡を取ったり交流が続いているそうです。
そういう報告をもらえるのも嬉しいですよね。
ただ旅するだけではなく、一緒に働いて過ごすことで人と人との関係性がちゃんと築ける。そうしてできた繋がりはまた訪れる理由になってくれています。
うちを選んでくれたから、より深い繋がりにしたい
おてつたびできてくれた人たちとは徹底的に交流するようにしています。最近では親睦会をやったり、夜遅くまでみんなで話し込むこともあったり。
この1回のおてつたびが、一生の繋がりになることだってあるでしょう。
これまでにおてつたびを7回利用して、キャンプ場のある琴浦町の地域おこし協力隊になってくれた方もいます。彼女は東京のキャリアウーマンでしたが、琴浦町の自然やサウナに惹かれて年に数回訪れるようになり、鳥取で新しい道を進もうと2023年に移住してきてくれました。
ほかにもライターとして関わってくれている人や、遠方からも「都築さん、また来ました!」と言って来てくれる人たちがいてくれています。
そんな繋がりが生まれるって、最高にワクワクするなと。
本当の”地方創生”とは何か
改めて「地方創生」とは何でしょうか?
移住者を増やすこと?
子育てのしやすい地域にすること?
大きなイベントごとを開催すること?
どれもたしかに大事です。
ただ、一時的なものであってはいけないと思うのです。人口減少が今後加速するのであれば、1人の人が1度ではなく、2度、3度と訪れる仕組みを作る。
その仕組みにはやっぱり「地元の人たち」がいなくてはならないのです。また来たい地域には魅力があって、その魅力を作っているのは他でもないその土地に思いを持った地元の人たちだからです。
関係人口を増やすための官民協働
ぼくたちは指定管理者として、地域の施設を活用しながら、地元の人たちとともに賑わいをつくる地方創生を目指しています。
ただ本当の意味での地方創生を目指すなら、町役場や市役所職員など地元にある「行政」との協働が必要不可欠です。
今回の週末Wワークも、これまでのおてつたびも行政と一緒になって取り組んできました。お互いに得意なこと、できないことをサポートし合いながら、すぐに移住や定住を実現することは簡単ではないけれど、その前の再訪は確かにつくり出せています。
改めて一民間企業だけでの地方創生は不可能です。これからの地方創生には官民協働がなくてはなりません。
「また来たい」と言ってもらえるように
とっとりキャンプではこれまで毎年拠点が増えてきました。
鳥取県内6拠点、10事業が展開されています。来年度以降もまた新たな施設を再生して鳥取県に面白い場所をつくっていきます。
使われなくなった施設はそのままもう人で賑わうものではなくなってしまいますが、民間企業であるぼくたちと、また磨けば光る有休資産を持っている行政とが協働していくことで、新しい楽しみが増えていく。
そんな盛り上がり方を、ここ地元の人たちや行政とともに鳥取県でつくりたいなと思っています。
ぼくたちのミッションは「鳥取の自然で遊ぶ」ということ。
そのために「また来たい」と思ってもらえる場所や施設をつくり、週末Wワークやおてつたびなど訪れるきっかけを創出してきました。それでもまだまだ、実際に再訪する人は少ないと思います。
一度訪れる、それは小さな一歩かもしれませんが、それでもこれからも関わりたいと思ってもらえるかもしれない”可能性”になってくれています。
まずは年に一回だけでも、自然をはじめとした鳥取県の魅力を楽しんでもらいたい。そしてそれが、多くの人が再訪する理由になってくれたら嬉しいです。