パスワードだけでウォレット作成!TORATが語る、Web3の課題と技術の「維新」
株式会社TORAT 代表取締役 OKAMOTO YOSHINOBU
システムインテグレーション企業を経て2010年7月にTORATを創業。TORATは、数多くの「売れるECサイト」を構築することを得意とし、主にECサイトの開発に焦点を当て、かつては難易度の高かったEC導入促進を推進する役割も果たす。自治体向けのシステム開発から大手企業のシステム開発に至るまで幅広いプロジェクトを手がける。さらに、Web3サービスの分野では、「YOAKE WALLET」とNFTマーケットプレイス「SAKOKU」などを手がけ、2023年8月からは光文社の「JJ」とオーディションNFTを「SAKOKU」上で展開中。
Peer to Peer(P2P)で感じた未来を再び
——TORATは創業期からECサイトに強みがあると伺いましたが、そこからNFTマーケットプレイスに進出された理由は何だったのでしょうか。
2002年ごろにWinnyをはじめとするPeer to Peer(以下P2P)(ファイル共有ソフト)が流行った時代がありましたが、この「自分のパソコンからノードを繋げて、各パソコン同士が繋がっている」というのが画期的で、すごく魅力的な仕組みだとずっと思っていました。
その後ビットコインが登場して、各パソコンに情報を持つプルーフオブワークという性質があると聞いたときに「それってP2Pだね?」みたいな。そうしたファイル共有ソフトなどを利用してみた体験も通じて、将来性があることにはかなり早い時点から気づいていました。
ビットコインが出てきた2017年ごろに価格が一気に高騰した時期がありましたが、あの時点で「この技術は来るだろうな」と。そこから自分でビットコインを買ってみるなどして知識をつけていきました。業務においては、2年ぐらい前にブロックチェーンの方の事業開発を始めました。
技術者の少なさと法整備が現状の課題
——Web2の開発とWeb3の開発で、大きく違うポイントや課題点はあるのでしょうか。
まず、今までのWeb2はデータベースの中に情報を蓄積していくため、世界的な大手企業が個人情報を全部握っていました。この状態はよくないという指摘は以前からあったのですが、これがWeb3になっていくと情報主体がユーザーになるので、どの企業やサービスに個人情報を開示するかを自分自身で責任を持って管理するという、「自律分散」の動きが強まってくると考えています。ここはWeb2から大きく変わる点だと思いますね。
また課題としては、ブロックチェーンの技術者がやはり日本に少ないことと、所有権周りの整備が追い付いていない点が挙げられます。特に法整備の遅れはマネタイズにも悪影響を与えており、実験的な研究開発の後にプロダクトを展開しようとしても利用規約も作れないというのが現状です。
これは仮想通貨が絡んでくる問題なのですが、仮想通貨は日本円などの法定通貨と交換しなくても決済ができるため、信頼性に欠けるとして日本では法律的な通貨と認められず、クレジット決済を導入しないと決済できませんでした。また今は多少変わってきているようなのですが、決算をまたいで暗号資産を持っていると、そこに対して税金がかかるということもありましたね。
こうした暗号資産の取り扱いも含めた日本のテクノロジー意識は、先進国よりも遅れているように思います。こうした逆境の中でも、現状の日本に合わせて自律分散させていくことがWeb3の理想なのかなと感じています。
クレジット決済の「鎖国」、暗号資産決済の「黒船」
机上の空論から一歩踏み出すために
——そうした状況の中で、2022年3月に「SAKOKU」と「KUROFUNE」をローンチされました。
「SAKOKU」は日本円で決済できる、ウォレット・仮想通貨不要の国内発NFTマーケットプレイスです。
本来なら暗号資産で決済できればグローバルに展開できるのですが、日本でまず導入して知ってもらうためにクレジット決済ができるようにしてあります。ネーミングについても、諸々の技術進歩の遅さに皮肉を込めて「鎖国」という名前を付けました。
——各企業が出方をうかがうなかで、早々に開発に挑まれたのですね。
そうなんです。というのは、たとえば大手企業と商談をしていても、担当者がWeb3に詳しくないと、なかなか話が進まないんです。我々は小規模な開発会社なので、具体的なものを形にして提案していかなくてはなりません。
Web3の話は抽象論になりがちなので、机上の空論的な議論を重ねるのではなく「ちょっとこんなものを作ってみたので、これベースに議論しましょうよ」という働きかけをしたいという思いがありました。
そして我々が接点を持つ大企業はどこも強力なIPを持っているので、このマーケットプレイスを使って何か儲けようという方針ではなく、「このIPをこう乗っけたらどうですか」という、アイディアベースでのご提案をしています。
ちなみに、KUROFUNEはイーサリアム上に構築されたNFTマーケットプレイスです。こちらは実証実験的に提供しているのですが、クレジット決済の代わりに暗号資産で決済できるグローバルスタンダードに対応しています。法整備が進めばもっと使いやすくなると思いますね。
新たなサービスでWeb3の夜明けを照らす
ファッション雑誌『JJ』とコラボ
——光文社が発行するファッション雑誌「JJ」とのオーディションコラボについても教えてください。
こちらはJJの新人オーディションを、NFTを使って行なおうという取り組みです。NFTの最大のメリットは「証明書を発行できる」点なので、今回の取り組みではJJのオーディションに参加したというイベントNFTや、ファイナリストとして残った証拠となるNFTを参加者の方にお渡しします。
NFTのような形に残るものを発行することで、他のオーディションでも「JJの新人オーディションに参加しました」「ファイナルまで残りました」とアピールできます。
また、ここは実験的な要素になるのですが、参加者の中にはすでに固定のファンがついている有名モデルやインフルエンサーもいるので、こうした固定ファンに向けたイベントNFTも発行する予定です。SNSマーケティングでは、我々の予想を超えた動きからビジネスが生まれることもあるので、そうした新しいビジネスモデルをWeb3で実現できたらと思いますね。
「長年ファンをやっている」「駆け出しのころから見ている」という特別感をビジネスに活用できるのもNFTの特性だと思うので、今回の取り組みではそのNFTが売れるかどうか、運用するときに何が大変だったかといった今後につながる知見を得たいと考えています。
とくに事務所所属のモデルさんは肖像権の帰属先など著作権に関わる問題があるので、そこも踏まえながら「契約ではこういう箇所に気を付けるべき」といった事例をJCBIと共有できればと思っています。
「とりあえず使ってみて」を実現するアプリ「YOAKE」
——他にも何か取り組まれていることはありますか。
また、イーサリアムチェーンとポリゴンチェーンに対応したWeb3ウォレット「YOAKE」も準備中です。例えば今回のオーディションでゲットしたNFTを、マーケットプレイスをまたいで取引したりすることも可能なアプリになります。
「YOAKE」にはNFTモードとウォレットモードの2モードが搭載されており、NFTモードはパスワードを設定するだけでウォレットを導入し、NFTをゲットできます。メールアドレスも取得しないので、パスワードさえ設定すればその場でもう使えるんです。使ってみてもし気に入れば、登録が必要なウォレットモードに切り替えることで、もらったNFTを他のウォレットへ移管したり、転売したりできるようになります。
Web3とかブロックチェーンのEXPOやイベントでよく問題になるのが「せっかく紹介しても、会場で登録してもらわないと使ってもらえない」というものです。手続きが煩雑なサービスは来場者の方も面倒なので「家に帰ったら登録します」となってしまいますが、結局登録してもらえない。
なので、我々はNFTやウォレットを「試しに使ってもらう」という障壁を限りなく低くすることでこのYOAKEを広めていこうと考えています。NFTをゲットしてもらうという体験がワンタッチでカンタンにできることが、他のウォレットとの大きな違いですね。
——最後に、Web3領域における貴社の今後の展望についてお聞かせください。
当社や当社のサービスはまだ名前が売れてない分、我々が形にしたものを色々な業種の方に実際に見て触ってもらって、一緒に開発研究を通してトライ&エラーを繰り返しながら未来を作っていきたいと思っています。
またWeb3で一番やりたかったのがウォレットだったのですが、鎖国⇒黒船⇒夜明けとストーリー性のある形にできました。この3種の神器で鎖国状態にある日本を洗濯し、この世の中をもっと面白くしたいですね。
※リカイゼン様より 転載させて頂いております。
取材:夏野かおる 執筆:中島佑馬