【リーダーインタビュー】理想は「よくわからないけど便利」な世界?経験豊富なエキスパートが語る、ブロックチェーンの可能性と社会実装へのこだわり
こんにちは!Digital Platformer株式会社(以下「DP社」)です 。
今回は、ブロックチェーンの豊富な知見を持つ五十嵐 太清さんへのインタビューをお届けします。
大学在学中にブロックチェーンと出会い、カンボジア中央銀行のデジタル通貨開発に携わった五十嵐さん。その後もエンターテインメント業界や自治体のDX、ブロックチェーンを活用したクリエイター支援など幅広い経験を積んできました。2022年からDP社に参画し、現在はデジタル通貨グループのプロダクトオーナーとして、デジタル地域通貨「トチツーカ」の拡充に力を注いでいます。
「ブロックチェーンは新しい“ツール”。大事なのはツールそのものではなく、どう使うか」と語る五十嵐さんに、ブロックチェーン技術の魅力や可能性、DP社の強みなどを聞きました。ぜひご覧ください!
デジタル通貨グループ PO(プロダクトオーナー) 五十嵐 太清
大学在学中からブロックチェーン関連企業にて、カンボジア中央銀行と協同でCBDC(中央銀行デジタル通貨)の「Bakong(バコン)」開発に従事。その後、エンタメ系IT企業、個人事業主を経てDigital Platformer 株式会社に参画し、「トチツーカ」の共同基盤化を担当。社内では勉強会を企画・運営するなど、知見共有にも取り組んでいる。
目指すは「よくわからないけど便利」な世界
――五十嵐さん、本日はよろしくお願いします!
五十嵐さんは大学3年のときにブロックチェーン技術と出会ったそうですが、どこに魅力を感じましたか?
五十嵐:一番惹かれたのは、「価値を伝送するプロトコル」であることですね。
現在のインターネットでは情報の送信はできますが、お金を送ることはできません。インターネットで決済しても、裏にはクレジットカードや金融機関の口座があり、最後は中央銀行が発行した通貨に帰着します。
これに対し、ブロックチェーン上のトークンの送り合いはインターネット上で完結させられます。つまり、「国」や「金融機関」といった中央集権的な存在が介在しない世界で、同じような価値の伝送を行えるわけです。このブロックチェーンを人類がいかに使いこなしていくかは、すごく面白い命題だと思いました。
――ブロックチェーンは難しいイメージがありますが、技術的にはどんな特徴がありますか?
五十嵐:ブロックチェーン自体は、コンピューターサイエンスの基礎さえ押さえていれば学びやすい技術ですよ。暗号や分散コンピューティング、ネットワーク通信、言語処理といった、すでに確立された知見を再構成してつくられたもので、「枯れた技術の集合体」とも言われています。
一方で、難しさも確かにあります。特にセキュリティ面はシビアで、数百億円が一瞬で盗まれることもある世界です。だからこそ、求められるリスク管理や品質保証のレベルは非常に高い。また、暗号技術には数学も使いますし、法律や規制との整合性も欠かせません。
――技術自体は難しくはないけれど、実装するのはハードルが高いと。ブロックチェーンを社会に浸透させるのは簡単ではなさそうですね。
五十嵐:現時点では、一般の生活に深く浸透しているとは言えません。PoCで止まっているものも多いですし、「ブロックチェーン」という言葉が一人歩きしている印象もあります。
本当に浸透するのは、技術自体が話題にならなくなったときだと私は考えています。誰も「HTTPでWebサイトを見ている」なんて言わないし、メールを送るときに「SMTPを使っています」とは言わないですよね。それと同じように、ブロックチェーンの存在を意識されずに、日常的なツールとして使われる。これが理想的な状態だと思います。
――どうすれば、そこまで社会に浸透させられると思いますか?
五十嵐:私はこれまでにエンターテインメント領域に携わってきましたが、新しい技術の浸透にはエンタメ的な“熱狂”が鍵になると確信しています。たとえば、推しのアイドルが「このウォレットを使って」と言えば、どんなに使いにくいUIでもファンは乗り越えるでしょう。熱狂があって、それが現象として広がっていく。その熱狂や現象をつくるためには、技術にとどまらない幅広い視点で取り組む必要があります。
中央銀行、エンタメ、自治体―さまざま分野で実装経験を積み、DP社へ
――続いて、五十嵐さんのキャリアについて伺います!まずはブロックチェーンと出会ったきっかけを教えてください。
五十嵐:きっかけは2016年、大学3年生のときに、ソラミツ株式会社(以下「ソラミツ」)から「一緒にブロックチェーンをやらないか」と声をかけられたことです。ソラミツは松田CEOがDP社より前に共同創業した会社ですが、当時ブロックチェーンエンジニアを探していて。そこで、ある競技会(ハッカソン)を機に私のことを知っていた東京大学の先生が、「面白い学生がいる」と推薦してくださったんです。
話を聞くうちに「ブロックチェーンはインターネットやスマートフォンに並ぶ大きなイノベーションになるかもしれない」と感じ、在学中にソラミツに入社しました。ソラミツで開発経験を積みながら大学院に進学し、ブロックチェーンを研究対象として、実践した内容を論文に落とし込んでいきました。
――学生の立場でありながら、実際の開発案件に参加されていたのですね。
五十嵐:ソラミツのメンバーと一緒にさまざまな案件に携わりましたね。中でも大きかったのは、カンボジア中央銀行のプロジェクトです。
カンボジア中央銀行と共同で、CBDC(中央銀行デジタル通貨)の「Bakong(バコン)」を開発しました。今では1,500万人もの人が使う世界最大規模のCBDCになっていますが、当時は「本当に中央銀行の通貨をブロックチェーンでつくれるのか?」という手探りの段階でしたね。
――壮大なプロジェクトですが、特に印象に残っていることはありますか?
五十嵐:関数名やコマンドを一つ決めるのに5時間くらい議論したことですね(笑)。たとえば、ユーザーの登録機能を追加するときに「ADD」を使うのか「REGISTER」を使うのか。中央銀行のシステムは向こう50年くらい使われる前提ですから、細部にもこだわり、みんなで時間をかけて話し合いました。私たち日本のメンバーの手を離れた後も開発は続き、全体の開発期間は5年ほどだったと思います。
――大学院卒業のタイミングでソラミツを退職したと伺いました。どのような道に進まれたのですか?
五十嵐:2018年4月にソラミツを離れ、知人が立ち上げたアイドル系のスタートアップに初期エンジニアとして入りました。当時はまだ、ブロックチェーンを国内で社会実装するには遠すぎて……。一度広い世界を見て、ITのエンジニアリングが社会に使える経験を積みたいと思ったんです。
芸能業界にはアナログな作業や文化が多く残っており、デジタルによる変革に挑戦したいと思い、参画を決めました。実際には、いろいろあって難しかったんですけどね。
――その後も、民間・行政の両方でさまざまな経験を積まれたそうですね。
五十嵐:2020年4月にアイドル系のスタートアップを退職して、しばらく個人事業主として活動しました。その中で産官学の「官」である福島県のDXを支援し、コンサルティングからプロトタイプの実装、導入支援まで一通りを担当しました。
また、株式会社ロイヤリティバンクを共同で立ち上げ、クリエイターと投資家(ファン)をつなぐプラットフォームなど、ブロックチェーンを活用した複数のサービスを開発・実装しました。
ちなみに現在もロイヤリティバンクでは取締役、同社の関連会社ではCTOを務めています。業務のウエイトはこの2社とDP社で3:7くらいですね。
――多方面で活躍する中、DP社に入社した経緯・理由を教えてください。
五十嵐:ある日、松田CEOから「DP社を立ち上げたから力を貸してくれないか」とメッセージがきたんです。私自身も「やっとブロックチェーンの社会実装に耐えうる地盤が整ってきたな」と感じていたこともあり、まずは業務委託として、顧問のような立場で参画しました。
2年ほど関わる中で、ある新規プロジェクトが始まる見込みになって。コアメンバーとして深く入った方がいいと考え、昨年(2024年)の9月に正社員になりました。
多様な仲間とともに、“使われるブロックチェーン”を社会に
――ここからはDP社での取り組みについてお聞きします。現在はどのような業務を担当していますか?
五十嵐:デジタル通貨グループのPO(プロダクトオーナー)として、北國銀行と共同で開発しているデジタル地域通貨「トチツーカ」(※)の共通基盤化を主に担当しています。顧客と開発チームを橋渡しする立ち位置で、「どんなアーキテクチャが最適なのか」「今後の展開を見据えて、どのブロックチェーン技術を使うべきか」といった、構想段階の設計や技術選定の提案を行っています。
※トチツーカ…北國銀行とDP社が共同開発したデジタル地域通貨アプリ。銀行口座からチャージできる預金型ステーブルコイン「トチカ」と、自治体から付与されるポイント「トチポ」を使用することで、石川県内のトチツーカ加盟店にてキャッシュレス決済を行うことができる
――トチツーカの共通基盤化に向けて、どのような課題に取り組んでいますか?
五十嵐:まずは処理速度の向上ですね。ブロックチェーンは分散システムなので、コンピューター間の通信がネックになります。ブロックの中に取引をいくつ入れるのが最適か、つくったブロックをどう配信するのが最適か……こうしたことを日々検討しています。
しかも金融領域ですから、金融庁のレギュレーションにも準拠しなければいけません。「速くて便利」だけではダメで、利用者が安心できる設計であり、データの保存・管理方法も法令に適合させる必要があります。
――ビジネス、技術、法令を総合的に考慮して対応する。総合格闘技のようですね。
五十嵐さんから見て、DP社ならではの強みは何だと思いますか?
五十嵐:最大の強みは、やはり社会実装していることですね。ブロックチェーン案件の多くはPoCかイベントにとどまり、生活の中で使われずに終わってしまうのが現状です。
この点、DP社では既にトチツーカを実際のプロダクトとしてリリースし、ユーザーはブロックチェーンを意識せずに使っている。さらに共通基盤化が実現すれば、さまざまな金融機関や自治体のサービスがつながり、「この店でも使える」「この街でも使える」と広がっていきます。
また、異なるバックグラウンドを持ったメンバーがいることも魅力です。鉄道、金融、エンタメ、行政――いろんな業界から人が集まり、それぞれの知見を活かしてブロックチェーンの社会実装に挑んでいる。松田CEOを中心に、多様な人が自然と集まるネットワークがあるのも、DP社の大きなアドバンテージだと思います。
ブロックチェーンが切り拓く、新たな世界
――これからのブロックチェーン技術の活用・発展について、特に注目している分野を教えてください。
五十嵐:最近の話題で言うと、AIエージェントとブロックチェーンの融合ですね。松田CEOとは以前から「決済の概念そのものをなくせないか?」と話していますが、近い将来、AIエージェントが進化して、人間は“欲望を伝えるだけ”で済む世界になるかもしれません。たとえば、人間が「こういうアニメを見たい」と伝えると、AIが最適な選択をして自動で決済してくれる、とか。
――AIが自動で決済する。少し怖さを感じますが……。
五十嵐:財布を全部預けるのではなく「このウォレットの中の5,000円は自由に使ってOK」としておいて、自動決済してもらう。当座預金みたいなイメージですね。AIが価値を自動でやり取りする――これを実現できるのは、今のところブロックチェーンしかありません。制度面や倫理面での課題はありますが、技術的には十分可能でしょう。
――ほかに、DP社と親和性が高いもので、五十嵐さんが興味のある分野はありますか?
五十嵐:まずはCBDC(中央銀行デジタル通貨)ですね。今後、カンボジア以外の各国でも、中央銀行がブロックチェーンを活用した通貨を発行すれば、多くの国民がその通貨を使うことになります。その人たちが外国に行ったときに、現地の通貨と相互互換できたらめちゃくちゃ便利ですよね。
また、DP社の2つの軸である「通貨」と「ID」の掛け合わせにも大きな可能性を感じています。IDがあれば属性が分かるので、それをもとにプライシングを変えたり、最適な通貨を提案したりできますし、より便利なインターフェースをつくれると思っています。
各地の自治体とも協力・連携しながら、いろいろと種を蒔いていけたら。ぶどうのように、一つひとつの実がつながって大きな房になっていく。そういう絵を描けるのが、ブロックチェーンの意義であり、面白さでもありますね。
技術以上に大切なのは、何に・どう使うか
――ブロックチェーン技術を学ぶにあたり、コツやおすすめの勉強方法があれば教えてください。
五十嵐:おすすめは、ハッカソンのように短期間でアイデアから物をつくることですね。ブロックチェーン業界でも大規模なハッカソンが年に数回開催されていて。提出されたプロダクトは公開されるので、「こういう技術をこう組み合わせるのか」と学ぶことができます。完成されたものではなくPoCをさらにシンプルにしたものなので、技術的にもマネしやすいと思いますよ。
――情報収集の方法としては何かありますか?
五十嵐:情報収集はほとんどX(旧Twitter)だけですね。ブロックチェーン業界は村社会っぽいところがあって(笑)。国内外問わず、発信力のある人を何人かフォローしておくと情報が入ってきますよ。
社内でも、最近は2週間に1回のペースで勉強会を実施しています。技術の話よりも、「ステーブルコインとは何か」といった社会的・制度的なテーマが多いですね。非エンジニアの方も参加していますよ。
勉強会以外にも、チャット(Slack)で記事を共有したり、出社時に雑談の中で話したり。誰かが先導するのではなく、情報を随時共有しながら、興味のある内容を深堀りしていく感じですね。
――技術にとどまらない、幅広い視点・視野での学びを大切にされているのですね。
五十嵐:自分たちが扱っている技術が、10年、20年、さらにその先でどういうポジションになっていくのか。実装する力も大切ですが、より広い視野をもって話せる組織になっていきたいですね。
DP社では、ブロックチェーンと社会との関係性について、何かしらの考えや想いを持っている人が活躍できると思います。ブロックチェーン自体には詳しくなくてもいいんです。技術は後からいくらでも学べますから。
ブロックチェーンは、新しくできた“ツール”です。金槌やハサミと同じように、大事なのはツールそのものではありません。「このツールは何のためにあるのか」「どこで・どのように使うか」を一緒に考えられる人を求めています。ぜひ、多様なバックグラウンドを持つ方に来ていただけたら。
――五十嵐さん、本日はありがとうございました!
今回は、豊富な経験を持つ五十嵐さんへのインタビューを通して、ブロックチェーン技術の魅力や可能性、DP社の強みについて紹介しました。
この記事を読んで、少しでもDP社について知っていただけたら嬉しいです。
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企画・編集:株式会社スリーシェイク 文・撮影:三谷恵里佳