株式会社WAKUの姫野と申します。石油業界(ENEOS)出身で、農業に全く縁のなかった私たちがいかにして農業分野で起業することになったのか。事業領域決定の経緯はもちろん、私たち創業メンバーの出会いの過程も含めて、一度まとめてみたいと思います。
目次
社内ベンチャーでの出会い
「グルタチオン」とは?
ENEOS植物工場事業
私たちの目指す世界
岡山県を拠点に本格始動!
WAKUの挑戦
社内ベンチャーでの出会い
私の所属していたENEOSでは、2019年より社内ベンチャー制度(名称Challenge X)が導入されていました。石油需要が減退する中、会社として将来の次なる事業の柱を創るという趣旨でスタートし、提案事業領域は特に問われていませんでした。
COO片野田とは元々ENEOSの同期で、何か新しい事業が創れないかと、社内ベンチャー制度が始まった2019年から毎週打ち合わせを重ねてきました。
そのような中、2021年、私は片野田とともに「国産アボカド植物工場事業」を提案しました。輸入産アボカドの引き起こす社会課題(環境面・人道面)に焦点を当て、国産化することによって課題解決を試みる事業です。
社内ベンチャーでは、最優秀賞のチームが実際に子会社を作り事業化に至るのですが、残念ながら「国産アボカド植物工場事業」は採択には至りませんでした。しかし、ここでCTO三橋と出会うことになります。三橋は「グルタチオン農業事業」で同じく社内ベンチャーに参加しており、同年の選考会が終わってから知り合いました。会社がダメなら自分でやる、と独自に活動を進めていた私は、社内の100人に対して国産アボカドと輸入産アボカドの食べ比べをお願いしており、その中で三橋にもたまたま協力をお願いしていたのです。
アボカドは①着果までに4,5年ほどかかること、②収量が少ないことがネックで、先進技術でなんとかならないかと考えていた矢先に、「グルタチオンがはまるのではないでしょうか?」と三橋から提案を貰いました。植物の光合成プロセスを活性化させる物質のグルタチオン。詳細は後述しますが、アボカドの生育速度向上、収量増加に寄与するのではないか。そう思い、愛媛県松山市でアボカドを生産されている農家さんにご協力をお願いし、グルタチオンの施用実験を行うことになりました。
施用から1ヶ月で効果は表れました。これは凄いと、この後対照区にまで施用してしまった生産者さんの同様、片野田と私も衝撃を受けました。
アボカドだけじゃなく、グルタチオンを農業全体で活用しよう。
「グルタチオンを農業領域で社会実装すれば凄いことが起こる」、そういう確信が3人の中で芽生えた瞬間でした。
「グルタチオン」とは?
グルタチオンは、「グルタミン酸」「システイン」「グリシン」という3つのアミノ酸からできた、小さくてパワフルな物質です。酵母から生産されるのが一般的で、医療、サプリ用途としては「還元型グルタチオン」に抗酸化作用があることから、すでに普及が進んでいます。
そんなグルタチオンの「酸化型」が、植物の光合成プロセスに関与することを発見したのが、岡山県生物科学研究所の小川健一先生です。植物に施用することで光合成が促進され、生育の向上、糖度・アミノ酸の向上など、通常の肥料の吸収とは異なるプロセスで、驚くべき効果があることは大きな発見でした。小川先生とWAKUとの出会いは、CTOの三橋がENEOS(旧JXエネルギー)在籍時代にとある学会で出会ったことでした。
ちなみに、三橋は元々ENEOSの研究所で長年バイオの研究(「燃料×バイオ×環境」をキーワードとした研究~事業化)に取り組む研究者でした。
ENEOS植物工場事業
実はグルタチオンはENEOSでも実装を検討していました。時は2014年、三橋が所属する部署で、ENEOSは新規事業として植物工場への参入を検討していました。全く畑違いの分野への参入であったため、「なぜENEOSが?技術的な優位性はあるのか?」という点で事業案を通すのに苦労していた中、白羽の矢が立ったのがグルタチオンでした。まだ農業用途には大きく活用された実績がないグルタチオンを植物工場で効率的に利用することができれば独自技術による競争力が得られる。そういった経緯で、ENEOSと岡山県生物科学研究所は、2016年に共同研究を開始することになります。
ENEOSから研究者を岡山に送り込んで2年以上に渡って共同研究を行い、一定の成果も得られましたが、様々な理由からグルタチオンをすぐに採用するのは難しいという結論に至りました。しかし、植物工場事業自体は、Jリーフという会社を設立し、2021年にレタス工場の操業を開始することになります。
その後、グルタチオンはENEOS社内ではお蔵入りとなりましたが、三橋はグルタチオンの可能性を信じ続け、なんとかして活用できないものかと検討を続けていました。そのような中で、創業メンバーが出会い、WAKUを創業することとなるのです。
私たちの目指す世界
ENEOS時代、石油製品を扱う事業に身を置く中で、本当にこれで良いのか?と思うことが頻繁にありました。自分たちが動けば動くほど、製品が認められれば認められるほど、本来地上にあるはずのない化石燃料を地中から引っ張り出してしまうことになるからです。
人間活動によって地上に炭素が増えて、温暖化してもいいじゃん。人間活動自体も自然の一部だから。そう考えるのも間違いではないのですが、それによって人間に実害が及んでくると話は違ってきます。(続きの議論はSDGsに委ねます)
グルタチオンで人類の食を守るー"Achieving Global Food Security by the Power of Glutathione"
私たちの目指す世界、ビジョンです。私たちが活動すればするほど、地球環境(人類を取り巻く環境)や、私たちと関わる人々に良い影響を与えたいという思いで活動しています。少しでも人類が長く生き延びられるように。
岡山県を拠点に本格始動!
2023年3月より、東京から岡山県高梁市に拠点を移し、活動を本格始動させました。オフィスは空き家となっていた武家屋敷調の古民家を改装して活用していました。
その後、新たな仲間が次々と加わり、プロジェクトの規模とスピードは加速。研究環境のさらなる充実と産学連携の機会を求め、2025年1月には岡山リサーチパークインキュベーションセンター(ORIC)へと移転しました。最新の研究設備を揃え、グルタチオンの社会実装に向けた開発を日々進めています。
現在は、岡山・東京・花巻・宮崎の4拠点体制を確立。岡山では研究開発、東京では資金調達やパートナー連携、花巻や宮崎では実証試験や農家との協業を進めています。小さな古民家から始まった挑戦は、今や全国規模のネットワークへと広がりつつあります。
WAKUの挑戦
私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
農業現場の課題は山積みですが、その一つひとつを科学と仲間の力で乗り越えることが、WAKUの存在意義だと信じています。
グルタチオンという一つの分子から広がる可能性は、作物の生育向上だけでなく、環境負荷の低減、そして未来の食料安定供給へとつながります。この力を社会の隅々まで届け、農業のあり方を次のステージへ――。
全国の拠点を結び、研究・実証・事業化を加速させながら、世界に通用する農業イノベーションを生み出す。その先に、より豊かで持続可能な未来が待っていると信じています。
もし私たちの挑戦に少しでも興味を持っていただけたら、ぜひご連絡いただけると嬉しいです!カジュアルにお話しさせてください!
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!