ピンと立った耳、ふさふさの尻尾
「ガッ、ガッ、ガッ」。帯広の市街地を歩いていると、こんな音を耳にすることがある。どうやら街路樹のほうから聞こえるようだ。そちらに目をやると、何か小さいものがサッと動いた。クリっとした目にピンと立った耳、ふさふさの尻尾。そうエゾリスである。スマートフォンで撮影しようと少し近づいても、特に気にする様子はなく、木の幹や枝を自由に動き回っている。
写真説明:市街地の街路樹を登るエゾリス
「リスに注意」の標識も
エゾリスは北海道に広く分布しているが、帯広では公園や街路樹など街の中で頻繁に見かける。帯広市街地にあるちょっと広めの大通公園。広いといっても街区1区画分で、周辺には住宅や店舗、会社などが並ぶ。この公園でも複数のエゾリスに出会う。早朝に行くと、エゾリスを狙ってか、大きなカメラを構えた人も見かける。エゾリスはちょこまかと道路を横断して時々車にひかれることもあるため、街角には「リスに注意」という交通看板がある。また、市内の稲田小学校前にはエゾリスが道路を横切るための橋「アニマルパスウェイ」もある。道内あちこち暮らしたが、こんな街は記憶にない。
写真説明:大通公園のエゾリス。複数で公園内を走りまわっていることもある
天敵から身を守り、餌を供給する樹木
「エゾリスが暮らすためにはいくつかの大きな樹木も必要だ。特に、松などの針葉樹の樹上に作られた巣は猛禽類やキツネなどの天敵から身を守れる。また、成熟した樹木は松の実やクルミといった餌を安定的に供給してくれる。帯広の街中にはそうした環境が整っている」。リスやモモンガなどの小動物を研究する帯広畜産大の浅利裕伸准教授はこう説明する。帯広の森、緑ヶ丘公園など帯広にはさらに大きな公園緑地があり、もちろんエゾリスが生息している。公園のほかに、碁盤の目の街区を斜めに横切るように通る緑地帯などもエゾリスに適した生息環境を提供している。浅利准教授によると、子育てをするメス以外は単独行動が基本という。
市街地の緑の成長とともに増加
市民にとっても、エゾリスは身近な存在だ。かわいらしい見た目や仕草に、思わず餌をやってしまう人もいるらしい。「エゾリスが街中で増えるのは本当にいいことなんでしょうか」とそんな現状に疑問を投げかけるのは、元帯広市の学芸員、池田亨嘉(ゆきよし)さん。市内で環境と街づくりを考える市民団体、その名も「エゾリスの会」のメンバーで、市内の公園でのエゾリスの生息調査などに取り組んでいる。
池田さんは、市街地のエゾリスの生息環境は、昔から残された自然は少なく、1965年以降の緑化によって形成されてきた、と指摘したうえで、「街中のリスは、生まれた時から人が近くにいることが普通になっており、不自然なくらい密度が高くなっている原因の一つだろう。人獣共通の感染症のリスクなど、野生動物と人間の接触は双方にとって良くないのでは」と問いかける。帯広のエゾリスをめぐっては、単純に「自然を守る」「動物愛護」とはちょっと違った事情があるらしい。(三浦祐大)
写真説明:帯広市内のアニマルパスウェイ。2019年に十勝歯科医師会が設置した