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IIJエンジニアリングは、これまでに蓄積した技術力と事業基盤を活かし、最先端のIT技術を活用した新たなサービスの提供にも取り組んでいます。
現在私たちが新たに注力しているのが『PTP時刻同期サービス』です。さまざまなシステムがネットワークで連携する現代において、システム間の「時刻」を正確に合わせることは、インフラが正常に機能するための基本要件となっています。本サービスでは、従来の常識を上回る「ナノ秒(10億分の1秒)」単位の精度が求められる領域に対応します。
この記事では、サービスの具体的な内容や現場目線での魅力、今後の展望などを幅広く紹介します。
私たちの日常生活や一般的なビジネス環境において、PCやサーバーの時刻同期には主に「NTP(Network Time Protocol)」が使われています。しかし、わずかな誤差も許されない特定の産業分野においては、NTPの精度では不十分なケースが存在します。そこで活用されるのが、さらに高度な制御を行う「PTP(Precision Time Protocol)」という技術です。ここでは、NTPとの具体的な違いや、高精度な時刻同期が不可欠とされる背景について解説します。
PTPの概要を理解するうえで、まず重要となるのが従来のNTPとの精度差です。インターネットを経由する標準的な仕組みと、専用のプロトコルを用いる仕組みでは、以下のように同期の基準が異なります。
◾️NTPの精度(ミリ秒単位)
1000分の1秒単位の精度。一般的なWebサービスや社内システム、PCの時刻合わせなどで十分に機能します。
◾️PTPの精度(マイクロ秒〜ナノ秒単位)
100万分の1秒から10億分の1秒単位の精度。ミリ秒以下のズレが重大な問題に直結する、極めてシビアな環境で活用されます
精密な時刻同期は、主に以下のような産業分野のシステムにおいて必須の技術とされています。
◾️金融業界(証券取引など)
1秒間に数千回の売買を繰り返すアルゴリズム取引(HFT)では、数マイクロ秒の遅延が損益に影響を与えます。また、取引の証跡となるログのタイムスタンプについても、法令等で厳格な精度維持が求められています。
◾️通信キャリア・電力業界
全国に点在する携帯電話の基地局の正確な同期や、各地の送電網における緻密なシステム連携など、時刻のズレが通信障害や停電などのインフラトラブルに直結する環境で利用されています。
◾️映像制作業界
IPネットワーク上で映像信号や音声、補助データといった役割の異なるメディアを同時に伝送する標準規格において、複数の機材間で正確な同期を保ち、データ伝送のズレを防ぐために導入されています。
一部の業界に限定されていた「PTP時刻同期」という最先端領域に、なぜIIJエンジニアリングが挑むのか。その背景には、大きく2つの理由があります。
一番の理由は、これまで限られた業界に閉じられていた高度な技術を汎用化し、IT社会全体の発展に貢献することにあります。
従来、PTPを利用するには、企業が個別に高額なアンテナや専用サーバーを調達し、複雑なネットワークを維持する必要がありました。私たちは、自社の「白井データセンターキャンパス」にあらかじめ設備を用意することで、お客様の初期投資と運用負荷を大幅に削減します。
このように、まだ広く顕在化していない高精度時刻同期のニーズを見据え、アウトソーシングサービスとして手軽に利用できる環境を整えることで、新産業におけるITインフラの可能性を広げていくことを目指しています。
もう一つの理由は、時代に合わせた企業の変革と、働くエンジニアの成長意欲に応えるためです。本プロジェクトの担い手となったのは、社内の情報システム業務やインフラ運用を担当していた「サービス開発本部」です。
社内で奨励されている「前例にとらわれず、新しいサービスを作ろう」という方針のもと、PTPに関する専門知識がゼロの状態から、自分たちの持つ周辺知識を活かして未知の領域へと挑戦しました。このプロジェクトはトップダウンの命令ではなく、現場のエンジニアが「自分たちの手で一から勉強してサービス化したい」と手を挙げたことで始まっています。年齢や社歴に関係なく意欲ある人に裁量を与え、安定した事業基盤の上でエンジニアの熱意を原動力に挑戦できるフラットなカルチャーが、この新しいサービスを形にしたのです。
PTP時刻同期サービスを確かな品質で提供するためには、物理的な設備の構築から、ネットワーク特有の制約をクリアするためのチューニングまで、さまざまなプロセスが必要です。ここでは導入から検証までの3つのステップを解説します。
時刻同期の起点は、GNSS(全球測位衛星システム)からの電波を受信する専用アンテナの設置です。GNSSの電波は微弱なため、周囲に遮蔽物がなく電波の反射(マルチパス)が起きにくい白井データセンターの屋上環境が適しています。このファシリティを活かし、安定したサービスを提供するために、次のような構成と手順で機器を設置しています。
白井DCCに設置されたGNSSアンテナ
◾️冗長化の確保
万が一、片方のアンテナの受信不具合やタイムサーバーの故障が発生した場合でも、時刻同期の機能を途切れなく提供し続けるための工夫です。確実な可用性と効率的な運用を両立させるため、一つのラック内で2本のアンテナと2台のタイムサーバーを組み合わせた二重化構成をとっています。
◾️時刻情報の劣化や遅延の揺らぎを防ぐ機器の接続
アンテナからの信号を同軸ケーブルでタイムサーバー(グランドマスター)に直接引き込み、そこから必ず「PTPに対応した専用スイッチ」を経由させます。これにより、お客様のラックへLANケーブルを敷設する際に、通信経路での遅延の揺らぎの発生を抑え込んだ状態で時刻を提供することが可能になります。
ナノ秒単位の時刻同期においては、ネットワーク上の微小な環境変化が精度に直結します。STEP1で触れた専用機器の配置に加え、機器同士を繋ぐネットワーク経路そのものにも、物理的な制約を考慮した設計が求められます。具体的には、精度低下の要因となる要素を排除するため、以下のような点に注意して経路を構築しています。
◾️通信経路上のノイズ排除
意図せずPTPに対応していない機器やモジュールが経路に挟まると、「ジッター」と呼ばれる遅延の揺らぎが発生します。そのため、お客様の環境に至るまで一貫して適切な機器構成が保たれるよう徹底します。
◾️非対称経路の回避
通信の行きと帰りで異なるルートを通ってしまうと、わずかな時間差が生まれ、遅延の揺らぎとなります。必ず同一の経路を行き来するようにネットワークを設計します。
◾️ケーブル長の考慮
機器間を繋ぐケーブルの長さそのものも遅延時間に影響を与えます。アンテナからサーバーに至るまでの距離から遅延時間を計算し、システム側で設定を補正します。
PTPはユースケースが限定的 であり、日本語の技術情報は限られていました。エンジニアたちは、海外の技術情報やAIツールを活用し、以下のようなサイクルで検証を進めています。
◾️仮説構築
PTPには複数の通信プロファイルや接続方式が存在し、設定の組み合わせによって精度が変動します。「どの通信方式を選び、どのように微小なパラメータを調整すればタイムエラーが縮まるか」という仮説をチームで立てていきます。
◾️実機検証
サーバー機器単体では実際の時刻誤差を正確に把握することができないため、専用の測定器を使用します。機器間で生じる「タイムエラー値」を可視化し、仮説に基づいて設定を変更しながら、少しずつ誤差を縮めて精度を高めていきます。
技術情報通りに設定しても物理的な問題で思い通りにいかないことがあり、この単純ではない難題 に対して試行錯誤を繰り返すプロセスは、難しく根気が必要な反面、うまくいった時の達成感はエンジニアにとっての醍醐味でもあります。
今後は、技術の適用範囲をさらに広げ、新たな市場価値を創造していくことを目指しています。具体的な展望を3つの視点からご紹介します。
これまでは金融やインフラといった限定された業界で自前で運用されてきた技術ですが、今後は新しい業界への普及を目指します。
具体的には、膨大な数のセンサーやデバイスが連携して稼働するIoT領域のコントロールシステムや、映像データをミリ秒以下の誤差なく正確に同期させる必要がある大量の監視カメラネットワークへの応用などを想定しています。このように、一般的な企業でも社内システムなどで直感的にメリットを感じられるような新しいユースケースを自ら開拓し、市場の裾野を広げていきます。
技術的な展望として、現在の白井データセンターキャンパス内での提供に留まらず、近隣のデータセンターや主要拠点へと回線を伸ばして提供するスキームを検討しています。
IIJグループでデータセンターの設備管理やネットワーク運用を主導しているからこそ、柔軟な拠点拡張やインフラの延伸を現実的に進めることが可能です。
今後は、サイバーセキュリティの観点からもPTPの価値を提案していきます。現在、多くの企業ではインターネット上の公開NTPサーバーを利用して時刻同期を行っていますが、この方式は外部ネットワークへの依存を前提としており、通信経路の改ざんや誤設定、DNSの不整合などによって意図しない時刻を参照してしまう可能性を完全に排除することはできません。
これに対し、当社の閉域網(プライベートネットワーク)内で完結するPTPによる時刻同期は、外部との通信を最小化または排除しながら、高精度かつ一貫した時刻基盤を提供できます。特に、インターネット接続を制限したいシステムや、運用上のセキュリティ要件が厳しい環境においては、安全に時刻を供給する手段として有効です。
このような閉域型の時刻配信基盤は、ITインフラ全体の信頼性とセキュリティを支える要素の一つとして、今後さらにニーズが高まることが期待されます。
今回のPTP時刻同期サービスの立ち上げは、IIJエンジニアリングの「挑戦するカルチャー」を体現する1つの事例です。私たちは長年培ってきたITインフラ運用のノウハウを土台としながら、新たな提供価値を模索し続けています。
急速に変化する社会に適応しながら、必要とされるサービスを生み出していく。
そんな取り組みに興味を持ってくださる方は、ぜひ一度お話ししましょう。
IIJエンジニアリングのあらゆるフィールドで実力を発揮できるはずです!
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