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シンセサイザーの開発をしていた坂巻匡彦が電通ビジネスデザインスクエアに参加した理由

電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)は、「愛せる未来を、企業とつくる。」をテーマに活動するビジネスクリエーション組織です。ビジネスデザイナー、アートディレクター、人事領域のスペシャリスト、若者文化やギャル文化を深掘りするリサーチャーなど……。あらゆる領域のスペシャリストが集まって、「企業の経営にアイデアを注入する」取り組みを実践しています。

そんなBDSで活躍する人材を紹介する本企画。第3回目は、デザインの視点で企業の課題を解決し続けるビジネスデザイナー・坂巻匡彦が、前職での経験やBDSとの出会い、仕事をする上で心掛けていることなどを語ります。

大学院を修了し、電子楽器メーカーの株式会社コルグに入社した

―BDSに参加する前は、電子楽器メーカーのコルグで「KAOSSILATOR」などの大ヒット商品を生み出していた坂巻さん。どのようなきっかけで、電子楽器のプロダクトデザイナーを志したのでしょうか?

坂巻:学生時代にプロダクトデザインを学んでいたこと、趣味で音楽をやっていたことがきっかけです。大学院の修了研究では、ニューラルネットワークを使ったデザインの評価手法を研究していました。簡単に言うと、人がモノを見たときの「似ている/似ていない」の認識と判断をコンピュータが自動的に行う技術を構築していたんです。

一方、プライベートでは、PCを使ってライブパフォーマンスを追求するような取り組みを行っていました。僕自身は楽器が弾けないので、元々はDTM(※)をやっていたのですが、それが発展してMax/MSPというオーディオ用のプログラミング環境を使うようになりました。音楽を作っていたというよりも、使いやすい楽器を自分で作って、それを披露するためライブするという活動をしていました。

デザイン学科の学生なのに、デザイナーらしくない変なことばかりしてたので、普通の会社でデザイナーになるのは難しいなと悩んでいました。ある日、コルグって面白い楽器を作っているなって気がついて、ホームページを見たらデザイナーを募集していて、応募したら受かっちゃったんです。

※DTM…Desktop Musicの略。PCを使って音楽を作曲・演奏・編集すること全般を指す

「まだ誰も気づいてないもの」を作りたい。誰でも弾けるタッチ式シンセサイザー、「KAOSSILATOR」を開発!

―坂巻さんといえば、楽器が弾けない人でも簡単に弾くことができるタッチパッド式シンセサイザー「KAOSSILATOR」ですよね。iPhoneのアプリにもたくさんあるタッチシンセの元祖と言われる「KAOSSILATOR」は、どのような思いから生まれたものなのでしょうか?

坂巻:コルグに入社してしばらくの間は、企画や開発から降りてきたものをそのまま形にするプロダクトデザイナーをやっていました。でも、決まっているもの、単純にかっこいいものを作るんじゃなくて、「世の中にないもの」「新しいもの」を作りたいなと考えていて。よくあるマーケティング的な視点ではなく、観察、傾聴、エスノグラフィー(※)から得られる共感的視点で、「まだ誰も気づいてないもの」を見つけて、それを製品化したいなと思い続けていました。その思いが、楽器演奏の難しさをすべてなくした「KAOSSILATOR」には詰まっていると思います。

開発するときに意識していたのが、「作曲し、演奏し、曲ができるまでのプロセスのなかで、人がどこを楽しんでいるのか」を見極めること。誰でも演奏や作曲できる楽器って単純にプロセスを排除するものばかりだったんです。それは楽器を「音を出す道具」として規定していたからだと思うのですが、僕は「演奏を楽しむ体験」だと定義してプロダクトに落とし込んだんです。実際に「KAOSSILATOR」が発売され、10万台以上売れて、タッチシンセ系の、ひとつの大きな流れは作れたんじゃないかなあと思っています。

※エスノグラフィー…人の行動を詳細に観察し、一緒に体験することで、課題やニーズを発見する手法。文化人類学や社会学で使われる研究方法のひとつ

スタートアップとのコラボに刺激を受けて転職を決意。

―坂巻さんが長年勤めたコルグを離れた理由について教えてください。

坂巻:ニューヨークにあるリトルビッツというスタートアップとコラボしたことがきっかけです。部品を組み合わせるだけで電子回路が作れてしまう、いわゆるSTEAM教育(※)向けの教材を作っている会社で、「面白そうだから一緒に仕事したいな」と思ってカスタマーサポートに「一緒に何かやりましょう!」って連絡したら、すぐに返事が来たんですよね。1か月後に会うことになって、2か月後には一緒に商品を作り始めて、メールしてから1年も経たないうちに、STEAM教育向け[a4] のシンセサイザーを発売してしまいました(笑)。

スタートアップならではの勢い、スピード感、フレキシビリティみたいなものが、とにかくすごく面白かったんです。「世の中にないものを出してやろう」という気概にも共感しました。それで、「クリエイティブな会社と一緒に仕事がしたい」「もっといろいろなメーカーと関わりたい」と思うようになり、転職を考えるようになったんですよね。

―恐らくさまざまな組織からオファーがあったのではないかと思うのですが、なぜBDSに入ることを選ばれたのでしょうか?

坂巻:完全に出来上がっている会社や組織が多いなかで、「出来上がっていない」ところが面白いなと思いました。初めてBDSリーダーの国見さんにお会いしたとき、「BDSはもともと部活動みたいな組織だった」「それがだんだん大きくなっていった」という話をお聞きして。創業メンバーの強い思いに共感して、人が集まり、新しいものが生まれていく、まるでスタートアップみたいな組織だなあと思ったんです。

堅苦しさやトップダウン感がまったくなく、メンバーの皆さん一人ひとりが、「それが必要だと信じているからやっている」という感じがすごくいいなあと思えて。あまり迷うことなく、「ここだ!」と思い、所属することを決めました。

※STEAM教育…Science、Technology、Engineering、Art、Mathematicの頭文字を取ったもので、科学・技術・工学・芸術・数学を重視した教育を指す

一人称がいっぱいあるような未来を、企業と一緒に作りたい。

―現在はBDSのビジネスデザイナーとして活躍していらっしゃる坂巻さん。どんなお仕事をされているのでしょうか?

坂巻:企業の経営に、デザインシンキングでアプローチする仕事をしています。もう少し噛み砕いて言うと、僕はとてもミクロな視点で、ユーザーを近くで見て、「人々というのはこういう活動をしている」「だからこんなサービスや商品があり得るんじゃないか」というようなことを考えて、事業やプロダクトに落とし込んでいます。少し電通の仕事のイメージと異なるかもしれませんが、実はプロダクトデザインの仕事は少なくないんですよ。

プロデューサーやプランナーがロジカルシンキングの得意な「左脳」だとしたら、クリエイターは豊かな感覚や発想力を持つ「右脳」で、僕はそのどちらとも違う「手」のような存在なのかなあと。人に近づき共感することによって、人の手触り感を感じて、それを実際に作ることで確認し、さらに深めていく。人に共感して考えを深めるのがデザインシンキングというアプローチですが、多くの企業は、誰に共感して、何を見つけたらいいかわからない。僕はそういったわからない部分を見つける手伝いをしています。

豊富な人材とクリエイティブパワーが集まる電通という場で、右脳、左脳、手が混ざり合う……。これによって新しいケミストリーが生まれつつあり、その刺激を楽しみながら日々仕事に向き合っています。[a5]

―なるほど、これまでの電通にはなかったポジションでお仕事をされているのですね。ちなみに、今、坂巻さんは、具体的にどんな分野の案件を手掛けられているのでしょうか?

坂巻:企業の経営に近い部分で仕事をしているため、言えない案件ばかりでして。それは秘密ということにさせてください(笑)。ただ、楽器はまったくやっていません。分野にとらわれず、新しいビジネスをデザインしています。

―最後に、坂巻さんにとっての「愛せる未来」とはどんなものか、教えてください。

坂巻:個々人の顔が見える、一人称がいっぱいあるような未来。社会や組織ではなく、そこにいるたったひとりの誰かが確実にいいなと思えるような未来を、企業と一緒に作っていきたいと思っています。

BDSは電通のなかでもちょっと変わった、インディーズのような組織です。新しいことをやりたいという強い意志を持った人、専門性を武器に殴り込んでくるような人にぴったり。熱い思いやスペシャリティを持つ人と一緒に、「愛せる未来」を作っていきたいですね。

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