写真館の仕事とは
写真館の仕事において、99.99%の割合で幸せなお客様を撮影しています。結婚、出産、お子様の成長 etc。いわゆる記念写真以外にも、家族の成長の記録やお祝い事、ポジティブな瞬間を記録に残すのが主な仕事だからです。
末期癌の母親にひと目花嫁姿を見せたい
あるとき、ご結婚が決まったというお嫁さんがご来店されました。「実は…。」と浮かない表情にどうしたのだろ?とお伺いしてみると。「母親が末期癌でずっと入院しています。結婚式に参加することはおろか、余命幾許も無い状態なんです。その母親にひと目私の花嫁姿を見せてあげたい。一緒に写真に写りたい。なんとかできないでしょうか?」というお話しでした。
私たち写真館には衣装もあります。美容師もいます。もちろん日本全国出張可能です。「病院に行って撮影しよう。」そう決めた僕は二つ返事で引き受けました。お母さんが入院されていた病院も事情を話すと気持ちよく撮影許可を出してくださり、それどころかお支度用の個室、広い面会ルームまで提供してくださりました。
奇跡が起こった瞬間
さて、撮影当日。朝から美容用具や衣装一式をスタジオから病院まで運び、お嫁さんのお支度がはじまります。お昼前には出来上がったのですが前日から昏睡状態のお母さん、意識が戻りません。待つしかない…。時間ばかりが過ぎていきます。今日はもうダメか…、諦めかけたその時「目が覚められました!」と看護師さんの声。面会ルームにベッドごと移動されてこられたお母さんが一言「綺麗やなあ。」僕たちも他に言葉がでません。
お母さんの闘病生活を一緒に支えてこられてきたお父さんの感無量。
看護師さん、お医者さん、その他の病院スタッフの方も総出でお祝いに駆け付けてくださいました。口々に「結婚おめでとうございます!」の言葉。昔の結婚式披露宴では定番だった「てんとう虫のサンバ」まで歌ってくださりご家族の大切な日をお祝い。
最後にはみんなで記念の集合写真を撮影です。
朝の苦しそうな顔とは一転して、本当に嬉しそうなお母さんの表情が忘れられません。
お客様と一緒に作り出す大切な時間
もちろん、病院内での撮影ですので、スタジオや奈良公園のロケーションフォトのように綺麗な写真を撮ることはできません。お医者さんではないのでお母さんの病気を治すこともできません。でも今回の数時間は、このご家族にとってかけがえのない貴重な時間。その時間を一緒に作り出せたこと。写真に残せたこと。それが僕たち写真館にとって本当に大切な仕事。「自分や自分たちにしかできないことは何だろう?」といつも考えますが、当たり前のように「出来ると思っていること」も実際に「やる」のは難しい。
大切なものは目に見えない
そこに「やり遂げたい」「お客様の役に立ちたい」という情熱を持てるのか。今回は写真館という仕事に携わる私達ならではの仕事だったんだ、と心から思える撮影でした。その仕事に対する気持ちや心、そんな見えないものが自分たちの人生においても大切なんだとあらためて感じましたし、日々の仕事の中でこの情熱を忘れないように持ち続けることを再確認しました。