皆様こんにちは。今回はマッキンゼーアンドカンパニー、アクセンチュアを経てSYNTHESISのChief AI Officerを務めるJohn Larson (ジョン・ラーソン)に、これまでのキャリアの転機やAI 業界の進化、そしてSYNTHESISでの挑戦について語ってもらいました。
John Larson - Chief AI Officer
SYNTHESISのChief AI Officerとして、ロサンゼルスと東京を拠点に、AIプラットフォーム開発および AIを活用したコンサルティングモデルの再構築に取り組み、経営戦略の策定・実行にも深くコミットしている。マッキンゼーアンドカンパニーでは、AI ラボの北米地区のリードを務め、AI およびクラウドを活用したGrowth Strategyの案件を多数手がけた。それ以前はアクセンチュアにて、大手クライアントのデータプラットフォーム構築、Machine LearningおよびAI 活用によるビジネストランスフォーメーション等のプロジェクトを主導。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)電気工学修士課程修了。
エンジニアからAIリーダーへ
──これまでのキャリアを振り返ってお聞かせください。
私はこれまでのキャリアを通じてMachine LearningとAIの分野に取り組んできました。マッキンゼーアンドカンパニーには約7年間在籍しましたが、カスタマーエクスペリエンス領域におけるクラウドソフトウェアとAI活用、更にはAIを活用したプライベートエクイティ業務の変革に取り組んできました。それ以前のアクセンチュアでは、最大4,000万人のカスタマーを持つ大手企業向けに、顧客ごとに最適な対応を提示する「ネクスト・ベスト・アクション」のプラットフォームの設計に取り組んでいました。このようにして、企業の中核事業とAIを結びつける経験を積み重ねてきました。UCLAで電気工学を学んだことが、今でも私の思考の基盤になっています。大学で得た理論と実践の経験は、キャリア全体を通じて役立っています。
──キャリアを形作った重要なターニングポイントはありましたか。
最初の転機は、私が初めてMachine LearningとAIを活用した大学でのプロジェクトでした。これは、怪我からの回復をサポートする歩行補助の杖で使用者がどの程度の力をかけているかを測定するものでした。リハビリ中の患者は杖に十分な体重をかけずに歩くことが多く、それが回復の遅れにつながることがあります。このプロジェクトは、杖に適切な体重をかけることで回復を促進する目的で開発されました。これが初めて、Machine Learningを活用することで人々の生活環境を改善できることを実感した瞬間でした。
もう一つの大きな転機は2019年です。大規模言語モデルを初めて実際の顧客向け本番環境に展開したことです。多くの人が2022年のChatGPTで初めて大規模言語モデルに触れましたが、私は幸運にもその3年前からこの技術に携わっていました。
2020年から2021年にかけては、それまでの純粋な技術分野から、投資家やテクノロジー企業とより密接に関わる方向へとシフトしました。企業の経営陣が抱える課題を深く理解し、それをどのようにテクノロジーで解決できるのかを考えることに多くの時間を費やしました。
──AI 分野は過去15 年でどのように変化しましたか。その進化を間近で見てきた視点から教えてください。
15年前のAI業界といえば、「AI をどのように活用すれば価値を生み出せるか」「どの分野にそれを活用すべきか」という模索の時代でした。当時、私は運動や健康管理向けのウェアラブルデバイスに組み込まれるセンシングシステムの開発に取り組んでいました。その頃のAI研究は、現在とは異なり、「何が正しいかを見つける」というよりも 「何がうまくいかないか」を見つけ出す試行錯誤の連続でした。
現在では生成AIやスケールを活用したAIの有効性が広く認識され、成功モデルの拡大に多くのリソースが投じられています。しかし、研究開発の本質においては「何が機能するのか」だけではなく、「何が機能しないのか」を突き止めることも同様に重要です。この試行錯誤を繰り返すプロセスこそが、AIの継続的なイノベーションを支える原動力なのです。私たちは常に失敗から学び、それを次の成功につなげています。
AIの進化がもたらすビジネスの変革
──最近取り組まれたプロジェクトで特に印象に残っているものを教えてください。
通信企業のカスタマーサポート改革は特に印象深いプロジェクトでした。チャットサポートにAIを導入する取り組みだったのですが、単にAIで回答を自動生成するという表面的なアプローチではなく、オペレーターの業務全体を再設計する視点で臨みました。例えば、AIが会話の要約を行い、オペレーターが複数の会話をスムーズに切り替えられるようにしました。また、過去の対応履歴をAIが分析することで、一人ひとりのカスタマーに対してパーソナライズされた対応を可能にしました。
もし回答の作成だけにフォーカスしていたら、同じ成功を収めることはできなかったでしょう。AI の導入が成功するかどうかは、単に直接的な問題を解決するだけでなく、人間にとっての総合的なエクスペリンスをいかに向上させるかにかかっています。
──AI とデザインの関係についてどのようにお考えですか。
興味深い質問ですね。多くの企業がウェブサイトやアプリ開発でデザイナーを重視する一方で、AIプロダクトを設計する際には、デザインの視点を開発プロセスに組み込んでいない企業が多いと感じています。これは企業側の認識不足もありますが、AIプロダクトデザインという分野自体がまだ新しいからかもしれません。
一方で、Anthropic、Perplexity、Notionなどは、AIと優れたデザインを融合させている先駆的な企業です。特にNotionの例が面白いですね。Notionはシンプルなノート機能から始まり、ユーザーが様々な情報を蓄積していきます。使っているうちに「どこに何を保存したか」 を忘れてしまう。そこでAIが自然とサポートに入る流れが生まれます。つまり、ユーザーは「AIを使おう」と意識することなく、自然な体験の一部としてAIの価値を感じる。これこそが理想的なAIプロダクトデザインであり、今後求められる視点だと思います。
SYNTHESISへの参画と未来への展望
──AI業界の現在のトレンドと未来についてどのようにお考えですか。
AIに関する情報は日々膨大に流れています。新たな資金調達のニュースや最新の研究発表、一方では懐疑的な意見も目にします。こうした中、大局を見失いがちですが、現時点で既にある技術をベースに考えてもAIには計り知れない価値が存在すると思います。
今後、その価値は企業の専門領域ごとに、より明確に表れていくでしょう。過去20年間、企業の主力事業は効率化・最適化が進んでいます。マイクロソフトの最近の調査によれば、約80%のビジネスリーダーが競争力を維持するためにAIの導入が必要だと考える一方で、約60%が自社に適切な計画やビジョンが欠けていることを懸念しています。私は、成長戦略として投資しつつも、まだ十分なリソースを割けていない新規分野にこそ、AIが飛躍的な成長をもたらす可能性があると考えています。AIの真価は、過去10年では見られなかった全く新しいビジネスカテゴリーが誕生し始めたときに明らかになります。今後AIが引き起こす変革の可能性は無限に広がっていると考えています。
──企業がAIを効果的に導入するためには、どのようなアプローチが必要でしょうか。
これは本質的な問いですね。私が常に企業に伝えているのは、「3 年後のビジョン」と「3 ヶ月後の第一歩」の両方を同時に考えることの重要性です。未来を描くだけでは実現できませんし、目先の改善だけでは大きな変革は起こせません。この2つの視点をどうつなげるかが、企業が変革を遂げるための鍵です。
短期的には、日常業務の中で反復的に行われる手作業をAIで効率化する。これは比較的取り組みやすく、すぐに効果が見えます。しかし、それだけにとどまらず、AIから得られるデータとインサイトを活用して、より大きなビジネス変革のヒントを見つけることが重要です。多くの企業では、大規模な業務改革は数年に一度のプロジェクトとしてしか取り組まれませ ん。しかし、AIを活用すれば、日々の業務改善と並行して、将来のビジネス変革に必要なインサイトを継続的に蓄積できます。こうして点と点を繋ぎながら、3~5 年後に目指すべきビジネスの姿へと、確実に近づいていくことができます。
──SYNTHESISに参画する決め手となったものは何でしょうか。
私は、国際市場にはまだ見過ごされている大きなチャンスが数多く存在すると強く信じていま す。適切な機会と独自の強みが組み合わされば、大きな成功の可能性が生まれます。私がSYNTHESISに魅力を感じたのは、3つの要素が揃っていたことでした。プロフェッショナルサービス業界における確かな専門性、データ管理のAIへの応用という先進的なアプローチ、そして東京・日本市場が持つ独自のポテンシャルです。
アメリカでAIやテクノロジーの先進地域といえば、多くの人はシリコンバレーやニューヨークを思い浮かべるでしょう。「成長を牽引する都市」として東京がすぐに思い浮かぶ人は多くないかもしれません。しかし、東京は世界第2位の都市経済圏であり、マッキンゼーの調査によれば、アジア太平洋地域(中国を除く)では人口の約 60%が生成AIを利用しており、これは他のどのグローバル地域よりも高い普及率です。実際、東京には高度なプロフェッショナルサービスとデータ管理の専門性、そして独自の市場特性が組み合わさった、成長を促進する理想的な環境が整っています。
SYNTHESISは若い企業でありながら、すでに顕著な成長を遂げています。このタイミングでチームに加わり次の成長フェーズを共に創っていける機会は、非常に魅力的でした。異なる視点と経験を持つメンバーが集まり、新たな価値を生み出していく。そんな環境に身を置けることに大きな期待を感じています。
──CEOの武藤氏のマネジメントスタイルについてどのような印象を持っていますか。
「尊敬されるリーダーシップ」これが、武藤さんを見て最初に浮かぶ言葉です。リーダーシップにはさまざまなスタイルがありますが、彼はチームから自然に尊敬と信頼を集める希有な魅力を持っています。チームとの協力を大切にし、多くのコラボレーションを育み、メンバーが彼と一緒に働くことを楽しみ、自発的にベストを尽くそうとする雰囲気が生まれています。リーダーに対する尊敬が、強い組織を生み出す大きな要素であることは、様々な研究でも証明されていますね。
特に印象的なのは、武藤さんが現場とのつながりを大切にしていることです。多くの企業では、組織の階層を登るにつれてフィールドから遠ざかりがちですが、彼は常にクライアントと直接対話し、チームに実践的なフィードバックを日々提供しています。こうした姿勢が、 SYNTHESISの学びと成長のスピードを加速させていると感じます。リーダー自身が学び続け、成長し続ける姿を見せることで、組織全体に前向きな影響を与えていると思います。
──最後に、SYNTHESISでの働く環境についてお聞かせください。
私がキャリアを通じて学んだ最も重要な教訓は、人々が互いに学び合い、高め合う環境がいかに貴重かということです。SYNTHESISには、まさにそうした文化が息づいています。実は私自身、コンサルティングの世界に入った当初は 2〜3 年で次のキャリアに移るつもりでした。しかし、多様な課題に取り組み、優れた同僚から学ぶ環境があまりに刺激的で、気がつけば 7 年、9 年と続けていました。SYNTHESISにも、同じような魅力があります。多様な背景を持つ人材が集まり、互いの強みを活かしながら挑戦的な課題に取り組む。そして、その過程で急速に成長していく。
私自身も、この環境で新たな挑戦に取り組み、チームと共に成長していきたいと思っています。SYNTHESISは、人材の力を最大限に引き出し、人とAIの知恵、想像力を融合させる場として、これからさらに大きな飛躍を遂げていくはずです。その一員として貢献できることを心から楽しみにしています。