バイネームは、デジタルプロダクトのUI/UXデザインを中心に手がけるデザインファームです。そんな私たちが2024年秋、東京・神田にオープンしたのが、シーシャカフェ・バー「mock」。少し不思議に思われるかもしれませんが、ここにはデザイン会社だからこそつくりたかった理由があります。
「デザイナーが気軽に立ち寄り、ゆるく会話が始まり、自然と輪が広がっていく場所をつくりたかった」。そう語るのは、バイネーム代表の井上。なぜデザイン会社がシーシャバーを運営するのか? その思いや狙い、今後の展望までを聞きました。
── バイネームが運営する「mock」とは、どんな場所なんですか?
mockは、バイネームが神田で運営しているシーシャカフェ・バーです。オープンしたのは2024年の秋で、「デザイナーが集まるバー」というコンセプトです。
ただの飲食店ではなく、デザインやクリエイティブに関わる人たちが自然と集まり、ゆっくり語らえる場所にしたいと思いはじめました。
── なぜ「デザイナーが集まる場所」をつくろうと思ったのですか?
一口にデザイナーといっても、グラフィックやWeb、UI、UX、プロダクト、インハウス、イラストレーター、会社員、フリーランスなど、本当に多岐にわたります。それぞれの界隈で小さなコミュニティはあっても、領域をまたいだ横のつながりは意外と希薄だと感じています。なんなら少し各領域での分断を感じるくらいです。
専門性が近い人同士で仲良くするのも大事なんですが、それだけだと共感は生まれても、新しい視点はなかなか見えてこない。自分が仕事で本当に困るときって、たいてい自分の守備範囲外のことが原因なんです。そんなとき、自分とは違う強みを持ったデザイナーたちとつながっているとすごく助かる。だからこそ、異なるジャンルのデザイナーがフラットに出会い交流を深めるきっかけとなる場所が必要だと思いました。
各社が開催している規模が大きいイベントに行くという手段もありますが、その場で出会って深く話せる相手って10人もいないし、その中でも継続して関係を築ける人はさらに限られます。途中で話が遮られることもあるし、なかなか距離が縮まらない。だからこそ、もっと気軽に、でもちゃんと深く話せる場所をつくりたかったんです。
mockには経営者層やデザイナー以外の職種の人たちも来てくれています。来るたびに「こんな会社もあるんだ」とか、「自分に足りない視点ってこういうところかも」と気づけるような、そんな場所にしていきたいと思っています。
── なぜシーシャバーという形を選んだのですか?
もともと自分はシーシャが好きなんです。どうせやるなら、自分が好きなことを軸にしたほうが、気持ちが入るし、継続するモチベーションにもなると思って選びました。
お酒を飲める場所は世の中にたくさんありますが、実際にはお酒が得意じゃない人も多いし、飲まないと参加しづらい場も少なくない。シーシャって、その点でちょうどいい存在なんですよね。お酒を飲まなくても楽しめるし、飲んでもいいし、選択肢がある。しかも、シーシャを吸いながらの会話って、お酒よりも記憶がはっきりしていて、ゆっくり深く話せる時間になりやすいんです。
mockでも、シーシャは必須ではなくて、ドリンクだけでも大丈夫。食事の提供はしていないんですが、持ち込みも出前もOK(匂いが強すぎるもの以外なら)。気軽に集まれる自由な空間を大切にしています。ワイワイしたい人向けには2階の貸しスペースもあるので、静かに話したい人と使い分けもできます。
── デザイナー同士の交流を促すために、お店としてどんな取り組みをしてきたのですか?
たとえば「UIかるた」というゲームを軸にデザイナーを集めて、みんなで遊ぶイベントを開催しました。UIデザインに関するあるあるや用語をネタにしたかるたなんですが、デザイナー同士、初対面の人とも自然に会話が生まれて盛り上がりました。
今後はお客さんと一緒に企画しているイベントもあります。たとえば、日本の伝統工芸品の認知を広げたいという想いを持つお客さんと、会津地方の工芸品を飾ったり実際に触れたりできる展示を企画しています。今年の冬から来年にかけて、ワークショップも含めて開催できればと思い準備中です。
mockには、ちょっとしたギャラリー的な要素もあるので、ただのシーシャバーではなく、活動や表現を持ち込める空間にもなっていると思います。事前に相談してもらえれば貸し切りもできますし、デザインやITの界隈の人たちに、自由に活用してもらえる場所でありたいと思っています。
2階のコミュニティスペースにて開催された「UIかるた」のイベント
── 社員はどのようにmockの運営に関わっているのでしょうか?
週に1回、お店の売上や方針についてメンバーと共有する時間を設けています。お店の方向性や従業員の雇用といった運営に関わることも、すべて社員と相談しながら決めているんです。
内装デザイン自体は外部のデザイナーにお願いしましたが、ブランディングに関しては社内メンバーが手がけています。コンセプトの軸は自分が持ちつつ、細かなクリエイティブや表現部分は、社員たちのこだわりで作り込んでいます。
社員が運営に関わることで、お店の数字にもリアルに向き合うようになります。実際、mockはマイナスからスタートした赤字事業なんですが、今はようやくプラマイゼロに近づいてきています。まずは継続できることが第一目標。今後利益が出せるようになれば、社員にも利益を還元する仕組み、いわばストック・オプションのようなイメージで、売上の一定割合を還元する制度をつくっています。
↑社員が作ったロゴ
── 今後、mockはどのような発展を目指しているのでしょうか?
まずは、今の神田の店舗でしっかりと売上を出せるようになることが第一です。認知度を高めて、より多くの人に存在を知ってもらいながら、もう少し場所の条件なども見極めつつ、ゆくゆくは店舗を増やすことも視野に入れています。シーシャだけでなく、たとえばバーやダーツといった別の業態に広げていく可能性も検討中です。もちろん、それには数年かかると思いますが、まずはmockを安定させて、そこから横展開していけたらと考えています。
── 実際にお店を運営してみて、良かったことはありますか?
いろいろありますが、一番大きかったのは「人に会える場」を作れたことです。オープン当初は自分も頻繁に店に出ていたんですが、「お店をやってると聞いて来たよ」と訪ねてきてくれる人が本当に多かった。そこから会話が生まれて、また新しいつながりができていく。中には5〜6年ぶりの人もいましたし、偶然見かけて来てくれた新しい出会いも楽しく、この輪が広がっていく感覚は、やってみてこそ味わえたものだと思います。
一方で、飲食店の経営は想像以上に大変です。店舗の運営、従業員のシフトや教育、仕入れなど、普段のITやデザインの仕事とはまた違った難しさがある。その分、学びも多くて、たとえば売上や利益の成り立ち方が全然違うのも面白いところです。もちろんプレッシャーもありますが、ここでの経験はクライアントワークにも活かせるものかと思っています。
mockはまだ発展途上で、だからこそ面白い。今後も色々な人を巻き込みながら、より良い場をつくっていけたらと思っています。
【店舗情報】
シーシャ カフェ&バー mock
営業時間:月〜土 18:30-23:00 ※ 金・土は場合によっては5:00まで
定休日:日曜
住所:東京都千代田区内神田3丁目10番地9号
Google Maps: https://maps.app.goo.gl/wUaVq29w2Kzd7Bc3A
Webサイト:https://mockbar.in/