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ステーブルコインが当たり前の社会に"無い"もの

こんにちは、DecentierリサーチャーのWeb三郎です。

日本円ステーブルコイン、楽しみですか?

6月に改正資金決済法が施行されました。詳しい状況は日経の記事を読んでいただくとして、クリプトに関心をもたれる人の多くは、今か今かと日本版USDCの登場を待っているのではないでしょうか(筆者も早くUniswap v4で円建取引してみたいです)。

ステーブルコイン、日本で年内発行へ 1000兆円市場開拓 - 日本経済新聞
米ドルや円など法定通貨を裏付け資産とするステーブルコインが日本で発行できるようになる。ステーブルコインを電子決済手段と定義した改正資金決済法が6月1日に施行され、地方銀行などが年内にも発行する見通しだ。モノの取引と決済を同時に済ませられるようになり、年間1000兆円規模の企業間決済の効率化につながりそうだ。ステーブルコインは法定通貨や国際商品などを裏付け資産にすることで価格が大きく変動しないよ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2819F0Y3A520C2000000/

ところで皆さん。ステーブルコインが当たり前に流通している社会、しっかりとイメージできていますでしょうか?

学生時代の友人にさっきの日経の記事をシェアしてみてください。きっと「へー」とか当たり障りのない返事が返ってくるだけでしょう。それなりに詳しい人でも「クリプトネイティブなデジタル円」くらいの認識でしょうし、金融畑の人であっても「新しい銀行業」みたいなひねくれた見方で満足されていることでしょう。

それらの認識は間違っていませんが、もっと身近な体験のレベルにまで落とし込めないと、このチャンスをみすみす逃してしまうかもしれません。

本稿ではステーブルコインの遍在する社会と今の社会との決定的な違いについて、身近な事象を取り上げながら解説していきます。

前にステーブルコインの解説記事を公開しましたのでそちらも併せてどうぞ。

ステーブルコインこそweb3世界へのゲートウェイ|Decentier
こんにちは!Decentierでリサーチャーをしてます、聖・マーくんです! ...
https://note.com/decentier/n/n2d91774f78ce

多すぎるKYC

日々、様々な新しい金融サービスが生まれていますが、それらを試すのは、他のサービス――たとえば「ほにゃららGPT」――を試すよりも少し面倒で抵抗があります。

たとえば、QRコード決済の乗り換えを考え、Line Payを新たに試してみようにも、いちいち免許証の提出と自撮りを求められます。これらのプロセスは一般にKYC(Know Your Customer = 本人確認)と言われますが、現代において、金融サービスはKYCなしに利用できません。

しかもKYCは(基本的に)事業者ごとに行う必要があるため、ユーザーは新しいサービスに触れる度に免許証を提出し、スマホの前で右を見て、左を見て、まばたきをしなければならないのです。場合によっては書留ハガキが届くのを自宅で何日も待たなければなりません。

ステーブルコインは単体だとかえって不便

では、ステーブルコインを使い始めるのにKYCは必要なのでしょうか。

現在流通しているUSDCやDAIなどのステーブルコインは、KYCをしなくても友人から購入すればすぐに使い始められます。国内でもJPYCというステーブルコインは法的に「前払式支払手段」という枠組みで整理されるため高額取引などの例外はありますが、基本的にKYCをしなくても利用できます。

しかし、これを日本円やドルなどの法定通貨(または銀行預金)に戻そうとすると、どうしてもKYCが必要になります。今後は改正資金決済法に基づいたステーブルコインが発行されると予想されますが、ここでも発行と償還については基本的にKYC必須です(※)。再び自撮りと免許証の出番です。

※資金移動業者と信託会社によって発行されるステーブルコインの場合は、発行・償還においてもKYC不要で取り扱える範囲が定められているようですが、現状、法解釈は定まっておらず、実運用については取扱業者が規制当局と折衝しながら定まってくるものと予想されます。

一般的に、ステーブルコインは「便利な決済手段」として認知されています。実際、送金手数料はほんのわずかなガス代程度しか必要ないですし、また、オープンな金融市場であるDeFiにおいては、そのブロックチェーンネイティブな性質が重宝され大量に流通しています。

しかし、現代において、ユーザーが決済において手数料を支払うケースはかなり減ってきています。スマホ決済もクレカ決済も基本的に導入事業者側が手数料を負担しているので、ユーザーからすると決済は無料でできて当たり前のものです。DeFiも「Metamaskがどうたらこうたら」と説明しなければいけない以上、マスアダプトは先の話でしょう。さらにKYCも必要となればステーブルコインの勝機は薄いです。

現在の決済インフラは便利過ぎるくらいに便利です。ステーブルコインはこれよりもさらにたしかな利便性を提供しなければならないのですが、ステーブルコイン単体でそのメリットを発揮するのは難しいかもしれません。

では、ステーブルコインは何と組み合わさることでそのメリットが活かせるようになるのでしょうか?

ステーブルコインには「ID」が必要

その答えはステーブルコインが「ID」と紐づくことで見えてきます。

お財布というアナロジーで考えてみましょう。物理的なお財布には、免許証や保険証、マイナンバーカードなど、あなた自身のアイデンティティを担保するドキュメントが入っています。私たちが何気なく使うお財布には、アイデンティティを持ち運ぶという役割があるのです。

しかし、それらが担保するのは、住所や氏名、顔写真などの最低限のアイデンティティに限られます。学歴証明書や履歴書、資産状況などの広義のアイデンティティは、お財布に収められません。

他方でブロックチェーンに基づくウォレットアプリは、この「広義のアイデンティティ」を表現し、格納するのにうってつけのアプリケーションです。

長くなるので詳しいことは別の機会に解説しますが、社会的な信用情報をウォレットに格納できるようにするための取り組みが、現在、世界中で進んでいます。

たとえば、ウォレットには、あなたが過去にマネーロンダリングに関与していないことの証明書や、いままでにKYCをn回完了したという証明書などを格納できます。それがあれば、いちいち新たな決済手段を導入する度に本人確認を行う必要はなくなります。

KYCやマネロン周りだけではありません。たとえば、あなたの支払能力を示す証明書などもウォレットの残高や銀行預金の残高証明書などから生成することができるので、ステーブルコイン建てローンの与信も迅速かつ精確になります。法人の場合は、取引先などから「このステーブルコイン建取引はたしかに事業に関わるものである」という証明書を発行してもらうことで、経費の仕訳を明確化し、税務調査で突っ込まれるリスクを軽減できます。

これらの細やかなアイデンティティ(やクレデンシャル)は、現在のお財布や決済アプリには格納できません。ブロックチェーンというオープンな仕組みの上に成り立つウォレットだからこそ「お財布=お金とアイデンティティの携帯装置」をブレイクスルーできるのです。

もう何もかも「要らない」

上述したような高度なアイデンティティの格納庫としてのウォレットと、ステーブルコインが組み合わさることで、まったく新しい社会像が見えてきます。

マイナンバーカード(=行政発行のクレデンシャル)もウォレットに格納できるかもしれません。自治体や事業者はそのウォレット内のマイナンバーカードに関連するアイデンティティデータを元に、税金の電子請求書を発行し、ふるさと納税の税務処理や確定申告を行います。電子カルテやお薬手帳などの医療情報もウォレットと紐づけたり、あるいはウォレットそれ自体に格納することすら可能です。

またステーブルコインで色々な支払いができるようになってくると、今度は既存の決済インフラの「手数料」が問題化してきます。ステーブルコインを取り扱うチェーンや決済額にもよりますが、ガス代の安価なチェーンと比較したとき、既存の決済インフラの手数料(1~3%程度)は高過ぎます。ATMの引き出し手数料などもってのほかです。

少しはお金から離れた領域でも、たとえば人事部門であれば、採用候補者の学歴・職歴を証明するためにウォレットを繋ぎこむだけでよくなるかもしれません。採用する際の社会保険や家賃補助の手続きも全自動化できるかもしれません(もちろんステーブルコイン決済です)。

カードも、ATMも、スマホ決済アプリも、お薬手帳も、保険証も、履歴書も何もかもがウォレットをコアとしたシステムに集約されていったとき、わたしたちが当たり前に感じている社会の様々な機能・システムが必要なくなってしまうのかもしれません。

おわりに

ステーブルコインはIDと紐づくことで、既存の決済手段やそれを取り巻くシステムの利便性を超えた、革新的なコアテクノロジーとしてのプレゼンスを獲得する性質のものです。

そのような見地に立つとき、ステーブルコインをビジネスチャンスとして捉えるならば、何が決済を魅力的なものとし、そのためにどのようなアイデンティティ(=あなたの個性)を表現し流通させなければならないのかを考えることが肝心なのかもしれません。

わたしたちDecentierは、法定通貨とクリプト経済圏を橋渡しする役割を担い、皆様とともにステーブルコインの未来を切り拓いていきたいと願っています。ご興味のある方は、いつでもお気軽にお問い合わせください。

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