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生命の痕跡にシャッターを切る。『太田 順一』 アート × ブレーンセンター

人間存在の「有限性」と「唯一性」を肯定するため、
生命の痕跡にシャッターを切る。

(伊奈信男賞受賞理由より引用)

1950 年、奈良県生まれ。フリーカメラマン。
早稲田大学政治経済学部中退 大阪写真専門学校卒業
[写真集]
1987 年「女たちの猪飼野」晶文社、1988 年「日記・藍」長征社、1989 年「佐渡の鼓童」ブレーンセンター、1996 年「大阪ウチナーンチュ」ブレーンセンター、1999 年「ハンセン病療養所 隔離の90 年」解放出版社(第12 回写真の会賞受賞)、2002 年「ハンセン病療養所 百年の居場所」解放出版社、2003 年「化外の花」ブレーンセンター(日本写真協会賞第1 回作家賞受賞)、2007 年「群集のまち」ブレーンセンター、2010 年「父の日記」ブレーンセンター(第34 回伊奈信男賞受賞)、2015 年「無常の菅原商店街」ブレーンセンター
[著書]
2005 年「ぼくは写真家になる!」岩波ジュニア新書、2012 年「写真家 井上青龍の時代」ブレーンセンター
[共著書]
1993 年「いつか見た風景」ブレーンセンター


「父の日記」

消失と生成の運動としての痕跡、 干潟と父の日記を重ね合わせるようにして編まれた写真集。(日本カメラ・評...上野修)

書かれたものを撮る。 太田順一が昨年開いた写真展 『父の日記』 は、 ひとことでいうなら、 いっけん退屈なその行為に貫かれた作品だった。

今回写真集として出版された 『父の日記』 では、 人口の干潟を撮った写真 「ひがた記」 が併せて編まれている。 父親によって書かれた文字を撮ったモノクロームの 「父の日記」 と、 変化に富むカラーの 「ひがた記」 。 これらは対照的にも思えるが、 そうではない。太田は次のようにいっている。

「干潟で私がこころひかれたのは、 棲息している生き物の姿それ自体よりむしろ<痕跡>のようなもの、 例えば小さな貝が這い回った跡や鳥が飛び立ったあとに残した糞、 それに波や風の力でつくられた泥砂の文様である。 それらは潮が満ちてくると、 たちまち消失する。 あっけないものである。 しかし次に潮が引くと、 顔を出した地面には必ずまた別の新たな<痕跡>がしるされるのだ。 この太古の昔から繰り返される自然のいとなみに、私は命のはかなくも、 しかし脈々とした確かな連なりを見る思いがするのだった」

消失と生成の運動としての痕跡。 これはまた、 「偏執的に同じ文言、 記述が繰り返され」 ていったという、 「父の日記」 にも共通することである。 人は何かを残すために、 書き記すのだろうか。 そうではなく、 書くこともまた、 消失と生成の絶え間ない運動なのではないだろうか。

書かれたもの=痕跡を撮る、という太田の行為は、 同時に、写真に定着されるのはつねに痕跡である、 という本質を照らし出す。 写真に現実が痕跡として定着されるのではない。 そうではなく、 痕跡のみを定着できるということこそが、 写真の現実性なのである。

「父の日記」 と 「ひがた記」 の対位法によって浮かび上がる、書かれたもの=痕跡=運動というエクリチュールとしての写真は、 写真=いまここ=現実=痕跡=物質という、 巷にあふれる生ぬるいファンタジーを揺るがすものでもあるだろう。反復=運動のエクリチュールとしての 『父の日記』 は、 呼吸のように単調な写真集だ。 だがそれゆえに、 生きることのように躍動している写真集でもある。


『無常の菅原商店街』
写真集(1「無常の菅原商店街」2「無常の大和風景」)
◆2015年。震災20年、神戸市長田区菅原商店街。
 時代をこえて、足元には同じ地面が広がっている。
判形:タテ198×ヨコ210 ソフトカバー 168 頁



『写真家 井上青龍の時代』
ノンフィクション
◆1960年代。凄い写真家がいた。孤独な記録者「井上青龍」。
 今や伝説となった人を、清廉なる写真家が足跡をたどる。
判形:四六判 上製 432 頁



『父の日記』
写真集(伊奈信男賞受賞作品)
◆老い。その生命の痕跡、その本質。
 判形:タテ198×ヨコ210 ソフトカバー 117 頁



『群集のまち』
写真集
◆不思議な写真である。
判形:タテ198×ヨコ210 ソフトカバー 228 頁



『化外の花』
写真集(日本写真協会賞第1回作家賞受賞)
◆「化外の民」であり続けたいという写真家が撮った、
 かれんで、けなげで、崇高ですらある花々。
判形:タテ198×ヨコ210 ソフトカバー 102 頁



『佐渡の鼓童』
フォトエッセイ集
◆世界的太鼓集団の素顔を活写する。
判形:B5判 ソフトカバー 135 頁



『大阪ウチナーンチュ』
フォトエッセイ集
◆大阪・大正区に息づく沖縄……。
判形:B5判 ソフトカバー 163頁



『いつか見た風景』
毎日新聞学芸部 編・フォトエッセイ集
◆貴重な保存写真とエッセイで時代を映す。
共著:太田順一・後藤正治・谷口弘行・松澤壱子・道浦母都子・若一光司
判形:A5判 ソフトカバー 203頁

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