2024年2月、一部販路限定の新商品として「いり番茶ボトリングティー」を発売しました。茶葉と、お茶を楽しむ道具類のみ、を扱ってきた一保堂にとり、「お茶の抽出液」を販売するのは、初めての試みです。丁寧に抽出したお茶を無添加で、熱殺菌のみで基準を満たし、ボトル詰めした飲料です。

はじまりは2020年

京都にお越しになる事はもちろん出来ず、誰しも外出することさえ、ままならなかった時。お付き合いのある京料理のお店さんにお声がけ頂き、ご自宅でも美味しいお料理とお茶を楽しんで頂ける特別商品を考えることになりました。お茶は、お料理と違い「半製品」。お手元で茶葉にお湯を注いで頂き、美味しさを引き出す必要があります。それがお茶の面白さだと私たちは思っているのですが、今回ばかりは、お料理が簡単に味わえるように、お茶も淹れたての美味しさが直ぐに味わえるようにしたい。そう考え、一保堂の看板のお茶の1つ「ほうじ茶」をボトルに詰めた特別なお品物を、ほんのひと月だけご用意いたしました。

この取組は好評を頂き終了しました。その時、私たちは、こういった製品を、継続して取り扱いを続けるかどうか、とても悩みました。同じようなボトル詰めのお茶飲料は、他に専門とされる会社様が既にあり、敢えて一保堂が取り組む意義がどこにあるのか。また、茶葉の持つ魅力、茶葉から淹れるからこそ楽しめる面白さをお伝えしたい、そんな一保堂の想いから反れるのではないか。悩んだ結果、取り扱いは継続しない、と決断しました。

ボトリングティー　×　いり番茶

しかし、私たち法人営業部は、このプロダクトに魅力と可能性を感じていました。

一つは、日本茶の価値を高める取組に繋がっていく、と思ったこと。飲食店では「日本茶は無料で出す/出てくるもの」と思われていることも多いです。アルコールドリンクがあって、ソフトドリンクがあって、無料のお茶があって。ですが、お料理と合わせたり、空間を彩ったり、お茶にはソフトドリンクとして有料で提供頂くポテンシャルが十分にあるのです。お料理とお酒を楽しむのも良し、お料理とお茶を楽しむのも良い。そんな風な景色が、ボトリングティーを通じて一層広がっていくのではと思いました。

もう一つは、ホテルや飲食店のお取引先様からの切実なお声からです。「急須を使い、茶葉から丁寧にお茶を淹れたいが、人手不足がそれを許さない」「習熟の浅いスタッフでも美味しく提供できる商品が欲しい」そんなお声をお聞きします。私たちは、茶葉から丁寧に淹れましょうよ、そんなに難しくないですよ、淹れ方レッスン承りますよ、と日々営業活動に勤しんでいますが、それは果たしてお取引先様の為になっているのか？世の中の変化に合わせて、変わっていく必要があるのではとも思ったのです。

私たちがボトリングティーとして製品化したのは「いり番茶」というお茶です。皆さま、ご存じですか？京番茶、などとも呼ばれる、知る人ぞ知るローカルティーなのです。京都やお茶好きさんの間では愛されていますが、知名度は低く、初めて飲む方は、このダイナミックな茶葉の見た目と個性豊かな香りに、たいてい驚かれます。焚き火のような、強い香りがいたします。この豊かな個性は非常に魅力的だと、されど個性が強すぎてはお料理の良さを損ねてしまうだろうと、茶葉の量や抽出温度、抽出時間を細かくテストし、使用する製造原水にもこだわって、柔らかくまろやかな味わいに仕上げました。

いり番茶は、もともとは抹茶、玉露の栽培が得意な京都だからこそ生まれた、いわゆる「始末のお茶」が始まりなのではないか、とも言われます。

※茶樹を休める為に刈り落とした葉や枝を、捨ててしまうのではなく、再活用しサッと仕上げたお茶

そのストーリー性、京都に根付く固有のお茶、そして個性的な味わいは、この新しいプロダクト「ボトリングティー」にぴったりではないかと考えました。いり番茶は、お茶の生産者にとっても、私たち加工者にとっても、実は非常に手間のかかるお茶です。その割に、毎日飲んで頂きたいお茶として、安価に販売しており、このいり番茶自体の価値をもっと高めたい！との思いもあります。

試行錯誤の末、とっても良いものが出来上がり、始まりから３年以上、遂に会社からも承認を得、正式に販売スタートすることが叶いました。

これから

出来上がったいり番茶ボトリングティーは、さっそく鰻料理店、鮨店、フレンチレストラン、京都のホテルなどで活躍してくれています。まだまだ、営業部一丸となって、色々なお客様へご紹介し、実績を作り、商品として育てていきたいです。嬉しい想定外は、ホテルや飲食店だけでなく、小売の世界でも活躍しそうなことです。一保堂は、2024年2月16日から4月14日まで、東京ミッドタウンで期間限定ショップを開いており、そちらで限定商品として、このいり番茶ボトリングティーを販売しています！好評いただき、瞬く間に売り切れ、ただいま追加生産中です。ご自宅用にも、ご友人への贈り物にも、喜んで頂けています。皆様も、宜しければ東京ミッドタウン店へ、ぜひ遊びにいらしてください（ガレリア地下１階のPOP UPスペースです）。

私たち「チーム一保堂」の良いところは、バランスだと思います。300年以上続く会社として、大切にしていること、変わらないことが勿論あります。昔から一保堂を愛してくださるお客様に、ガッカリさせるわけにはいきません。そして、世の中に合わせて変化すべきところは勿論あり、それも大切に思っています。新しいお客様ともお出会いし続けないと、事業を継続することは叶いません。そのあたりのバランス感を大切に、スタッフ一人一人が思いを持ってお仕事に励んでいます。営業部は営業だけをするにあらず、商品開発や店舗作りまでも手掛けます。次号では、営業部が手掛けた東京ミッドタウンの期間限定店舗について、ご紹介しようと思います。

100～200人程度の会社だからこそ、様々な仕事を出来るチャンスがあり、個人の成長の機会があります。面白いかも？と思って頂ければ、ぜひまずはカジュアル面談でお目にかかりましょう。皆さまとお出会いできること、楽しみにしています。