「それだと、人間の想像力がAIの上限になってしまいます」
以前、僕は社長にそんな話をしたことがあります。
ピクシスでCTOをしている田代です。普段は社内のAI活用や、SEOに関わるシステムの設計・開発をしています。
社長は当時からAIをかなり使い込んでいました。自分で実装するよりも速く仕事を進められるようになり、AIを使った開発にも積極的に取り組んでいました。
ただ、その使い方を見ていて、まだAIの能力を引き出せる余地があるように感じていました。社長自身が「自分ならこう進める」と考え、その手順をAIへ伝えて実装させる。結果を確認したら、次に進むための指示を出す。
僕の中では、山登りに近いイメージです。
一合目までの道が見えているので、まずAIに一合目まで登ってもらう。到着したら、次は二合目までの道を考えて指示する。
この方法でも、仕事はかなり速くなります。
ただし、人間が想像できるところまでしかAIに任せなければ、人間自身の想像力がAIの上限になります。
AIがどれだけ高い能力を持っていても、人間の考えた道を速く進むだけになってしまう。
僕がAIに期待しているのは、その先です。
自分が想像できないところまでAIに考えさせる
僕は社長に、こんな話をしました。
「自分が想像できる範囲をAIにやらせるんじゃなくて、自分が想像できないところまで設計させるんですよ。そのアウトプットを見てからAIと議論するんです」
AIに正解を決めてもらいたいわけではありません。
自分なら置かなかった前提や、自分では考えなかった選択肢を出してもらう。そこで初めて「その発想はなかった」という状態になります。
その案をそのまま採用するのではなく、なぜその案が出たのかをAIに聞き、人間側でも考える。違和感があれば反論し、別の可能性を出してもらう。
その往復を繰り返すことで、人間だけでもAIだけでも辿り着けなかったところまで進める。
僕にとってAIは、自分ができる仕事を速く処理してくれるだけの存在ではありません。
自分の脳を拡張するためのパートナーです。
AIの本質を知らないと活用しきれない
ChatGPTやClaudeを使うだけなら、Transformerの仕組みまで勉強する必要はありません。
Transformerは、現在の生成AIを支えている仕組みの一つです。仕組みを知らなくても、質問を入力すればAIは答えてくれます。
それでも僕は、AIを使い始めてからTransformerを含めた仕組みそのものを勉強しました。
理由はシンプルです。
「AIを活用するなら、AIの本質を知らないと活用しきれない」
そんな直感があったからです。
仕組みを学ぶ中で、AIは与えられた文脈を材料にして出力を組み立てていることが、以前より具体的に理解できるようになりました。
だから、何を指示するかだけでなく、どんな情報や前提を渡すかが結果を大きく左右します。
細かく手順を指定すればするほど、AIを正確に動かせる一方で、人間が作った枠の外には出にくくなることもあります。
Prompt EngineeringやContext Engineeringなど、新しい言葉は次々に生まれます。もちろん、そうした情報を知ることには意味があります。
ただ、新しい言葉が出るたびに小手先のテクニックとして覚えるだけでは、いつまでも誰かが発見した使い方を追いかけることになります。
AIがどう動くのかを理解していれば、後から名前が付くような考え方に自分で辿り着けることがある。
僕が身につけたいのは、流行しているAI活用法をたくさん知る力ではありません。
まだ名前の付いていない使い方を自分で考えられる力です。
トピッククラスターモデルという前提を外した
この考え方が具体的に現れたのが、SEOの記事やキーワードをどう設計するかを社長が検討していたときでした。
当初は「トピッククラスターモデルを使う」という前提で、AIとの議論を進めていました。
トピッククラスターモデルは、中心となるテーマの周りに関連コンテンツを配置していくSEO設計の一つです。
社長はその手法を使うことを前提に、どのような記事群を作るか、どのキーワードを選ぶかをAIに考えさせていました。
設計自体は進んでいました。
ただ、僕には少し違和感がありました。
「トピッククラスターモデルを使って考えて」と伝えた時点で、AIが考える範囲まで人間側が決めているからです。
そこで社長に聞きました。
「社長が本当にやりたいのは、トピッククラスターモデルでキーワードを選ぶことじゃないですよね」
もちろん、特定のSEO手法を使うこと自体が目的ではありません。
本当に実現したいのは、顧客の売上を最大化することです。
それなら、手法を先に決める必要はない。
「トピッククラスターモデルを使って記事を設計して」ではなく、「この顧客の売上を最大化するには、どのようなキーワードやコンテンツの設計が必要なのか」からAIに考えさせる。
この議論をきっかけに、社長もAIへの依頼を、手法を指定する形から目的を共有する形へ変えていきました。
するとAIは、与えられた手法をどう実行するかだけではなく、公開されている最新情報まで調べながら、そもそもの前提を見直す提案まで出すようになりました。
ここで重要なのは、トピッククラスターモデルが良いか悪いかではありません。
人間が知っている手法を最初から正解として渡せば、AIもその手法の中で答えようとする。
一方で、本当に実現したい目的を共有すれば、AIは人間が最初に置いた枠の外まで考えられる。
AIに与える指示を曖昧にすればいいという話でもありません。
細かく管理すべきところと、AIに広く考えさせるところを分ける。そのうえで、人間が最終的に判断する。
その設計が重要だと思っています。
思想は仕組みにする
「AIと議論する」というのは、僕個人の使い方だけの話ではありません。
ピクシスのSEO記事制作でも、AIが作ったものをそのまま最終成果物にはせず、人間が編集し、判断する工程をワークフローの中に組み込んでいます。現在開発している社内アプリも、基本的な考え方は同じです。
AIの出力を人間が確認するのは、単にAIの間違いを防ぐためだけではありません。
AIが出した案を見て人間が考え、その判断を再びAIへ返す。その往復によって、人間だけでもAIだけでも出せなかったところまで進めると考えているからです。
AIと人間が議論するなら、その議論が自然に起きるように仕組みそのものを設計する。
僕はそこまで含めてAI活用だと思っています。
「良いモノなのに売れない」をなくす
この話は、ピクシスがマーケティングで大切にしていることともつながっています。
僕たちが掲げているのは、
「良いモノなのに売れない」をなくす
という言葉です。
マーケティングのテクニックだけで、本来価値のないものまで無理に売ることを僕たちは目指していません。
本当に良い商品やサービスがある。でも、その価値がうまく伝わらず、必要としている人に届いていない。
その状態をなくすことが、僕たちの仕事です。
だからマーケティングでも、最初に「どの手法を使うか」から考えるわけではありません。
SEOなのか、広告なのか、コンテンツなのか。それらはすべて手段です。
最初に考えるべきなのは、顧客が何を実現したいのか、その商品にはどんな価値があるのか、その価値を誰へ届けるべきなのかということです。
AIについても同じです。
話題のAIツールを使うことや、流行している手法を取り入れること自体が目的ではありません。
まず、何を実現したいのかを考える。その目的のために、AIの能力をどう引き出すかを考える。
マーケティングでもAIでも、ピクシスが大切にしているのは、手法を目的化しないことです。
AIの次の使い方を考える側へ
僕もXやYouTubeでAIの情報を見ます。誰かが考えた使い方から学ぶこともたくさんあります。
ただ、そこで紹介されているテクニックには、必ず最初にそれを考えた人がいます。
誰かがAIの本質を理解し、新しい使い方を考え、実際に試して発信する。その内容が紹介され、やがて多くの人が「最新のAI活用法」として知るようになります。
僕は、紹介された使い方を覚えるだけで終わりたくありません。
「本当に分かっている人が発信した内容を、さらに誰かが紹介したものから学ぶだけじゃなくて、一番最初に発信する人になろうぜ」
ピクシスに来る人が、最初からAIの専門家である必要はありません。
ただ、新しいツールを触るだけでは満足できない人とは一緒に働きたい。
誰かが作ったBest Practiceを覚えるだけではなく、なぜそれがBest Practiceなのかを考えたい人。
自分ができる仕事をAIで速くするだけではなく、自分だけでは辿り着けないところまでAIと考えてみたい人。
そういう人にとって、ピクシスは面白い環境だと思います。
逆に、流行しているAIツールやテクニックを効率よく覚えれば十分だという人にとっては、少し面倒な会社かもしれません。
僕たちはAIに答えを出してもらうだけではなく、そもそも何を正解とするのかから一緒に考えます。
人間の想像力をAIの上限にしない。
僕たち自身も、AIとのより良い仕事の仕方を探している途中です。
同じようにAIの可能性をもっと引き出したいと思っている人とは、一度話をしてみたいです。