丸山尚貴
シグマアイ:開発担当
東北大学大学院 情報科学研究科 情報基礎科学専攻 博士後期課程 在籍
凸版印刷さまとの共同プロジェクトとして、量子コンピューティングによる物流業務の効率化に向けた実証実験をスタートしました。グループ会社である株式会社トッパン・コスモさまが提供している、業務効率化・見える化システム「MITATE」に量子アニーリング技術を適用し、計画立案機能の拡張を図っています。そのプロジェクトでの開発業務を担当する丸山尚貴が、3月6日放送のNHK「サイエンスZERO」に出演。収録後に話を聞いてみました。
NHK「サイエンスZERO」は、3月12日(土)午前11:00-11:30にて、再放送予定です。
量子アニーリング技術を活用した、配車計画ソリューションを披露
−まずはNHKでの撮影を振り返っていただけますか。
取材自体、初めての経験でした。凸版印刷さまの担当者の方とZoomをつないで、普段通りのディスカッションを行いながら、量子アニーリング技術を活用した配車計画ソリューションのデモを動かしました。「車両台数を減らしてみてはどうか」「新たな制約を追加したらどうか」など、担当者の方からの提案を受けて、デモ上で対応しました。配車計画に量子アニーリングを使っている事例は、ほかの会社でもたくさんあります。ただし、実際に動かしているシーンをテレビを通じて放映するのは、たぶん初めてだったと思います。貴重な機会を与えてくださり感謝しています。
「システムの開発は、ほとんど私一人に任されています」
−凸版印刷さまとのプロジェクトがスタートした背景は、どのようなものだったのでしょうか?
スタートしたのは、2021年の秋くらいです。シグマアイ側のメンバーは、代表の観山さん、執行役員の田口さん、事業開発リーダーの羽田さんと私です。システムの開発については、ほとんど私ひとりで担当させてもらっています。
私自身は、東北大学でのJFEスチールさまとの共同研究で、配船計画の最適化に携わっていました。その経験が、凸版印刷さまとのプロジェクトでも活かせています。アサインが決まって、すぐにお客様の物流会社を訪れました。凸版印刷さまが提供する業務効率化ソリューション「MITATE」のユーザーさんと、現地でディスカッションしたり、工場を見学させていただきました。そこから、一気に「自分ごと化」して開発が進んだのです。
−「自分ごと化」とは、どういう気持ちの変化なのでしょうか?
物流現場の皆さまがどういうことに困っているのか、その生の状況に触れたことで、このソリューションで幸せにしたい人が明確にイメージできたのです。運び手のドライバーさんがいて、計画を組む配車係の方がいる。その配車係の方たちは、ドライバーの皆さんのスキルや性格まで考慮していたんですよ。不公平にならないように気を遣っている姿を目の当たりにして、システムで効率化・平準化することで、もっと気持ち良く働いてもらいたいなと。ドライバーの皆さんも含めて、「この方たちの役に立ちたい」と心の底から思えました。
実データを用いて、量子アニーリング技術でどれくらいパフォーマンスが出るのか、検証を重ねている
−では、実際にどのようなソリューションを開発しているのでしょうか?
ドライバーさんに最適な配送タスクを割り当てるソリューションです。凸版印刷さまの関連会社、トッパン・コスモさまと共同で、量子アニーリング技術の検証を行うフェーズからスタートしました。実データを用いて、どれくらい量子アニーリングでパフォーマンスが出るのか、検証・PoCを行っている状況です。トッパン・コスモさまは「MITATE」という業務を効率化・可視化するシステムを提供していますので、そこにプラグイン的に接続する方向で考えています。
量子アニーリング技術で、合理化と平準化を可能にしたい
−既存のソリューションと連携することで、発展性を担保できそうですね。
そうですね。凸版印刷さまとのプロジェクトと並行して、配車を最適化するソリューションのパッケージ化にも取り組んでいます。このサービスのポイントは現時点で「平準化」と定めています。先ほどの話と同様で、ドライバーの皆さんの稼働量、稼働時間帯に不公平さが感じられないようにしたい。単純に、走行距離、台数、コスト面、経済合理性の最適解を作ることは、そこまでは難しくありません。そのような合理的な最適解を見つけ出すのと同時に、感情面にあたる「ドライバーの働きやすさ」を実現する。シグマアイの量子アニーリング技術を活用すれば、その双方の問題を解決できると考えています。
さらに「ドライバーの働きやすさ」だけでなく、「配送する荷物の平準化」「車両の平準化」という観点でも、量子アニーリング技術を活かしています。「荷物の平準化」は、車両に積む荷物の差を均等にすることで、全体としては少ない台数に多く積めて効率化ができます。「車両の平準化」はドライバーの稼働時間と近いのですが、車両ごとの走行距離の差をなるべく縮めることで、全体最適を図るソリューションです。
生産現場ともつなげて、一貫したソリューションを展開したい
−今後も、様々な最適化が期待できますね!では、最後に、今後の展望はいかがでしょうか?
量子アニーリング技術で効率化を進めることで、より働きやすい物流業界を作ることに貢献していきたいですね。世の中の配送量が増え続けている中で、ドライバーや配車係の皆さんがより活き活きと働けるようになれば、業界自体が活性化して、社会に与えるインパクトも小さくないと感じています。
社内では、「物流を最適化するだけでは、うまくいかない場合があるよね」という話をしています。工場で製品を作るところから一気通貫で最適化できないか。サプライチェーン全体を俯瞰しながら、量子アニーリング技術を活用することで、人々がより幸せに働ける。そのような取り組みを今後は進めていきたいですね。