こんにちは!アンティル中野です。前回の記事「2027年、AIエージェントが変えるユーザー購買行動」では、私たちの買い物習慣がAIエージェントによってどう変わっていくのかについてお話ししました。あれから1年、2028年には、その変化はさらに私たちの日常に深く浸透し、特に二つの大きな流れが私たちの買い物行動を劇的に変えています。
それが「あなたの気持ちがわかるAI」と「あなたの代わりに買い物するAI」です。今回は、これらの新しい流れが私たちの買い物体験をどう豊かに(そして時に複雑に)していくのか、そしてビジネスパーソンとして何を考え、どう行動すべきかを、一緒に探っていきましょう!
感情AIがもたらすパーソナライズとブランドの感情接点
「空気を読む」AIの登場
「この人、ちょっと迷ってるな」「今日はテンション高そうだな」―――優秀な販売員なら、お客さんの表情や声のトーンからこういった気持ちを感じ取り、接客に活かしていますよね。
2020年代後半に入り、そんな「空気を読む力」をAIも身につけ始めます。人間の表情や声、さらには心拍数などの生体情報から感情を読み取る「感情AI(Emotion AI)」が、私たちの買い物シーンに静かに、しかし確実に浸透しています。
スマートフォンのECアプリやリアル店舗のキオスク端末が、あなたの表情を見て「今日は疲れてるのかな?リラックスできる商品はいかが?」と提案したり、ちょっと戸惑っているような表情を見せたら「もう少し詳しくご説明しましょうか?」と声をかけてくれたり。かつては人間にしかできなかった「気持ちに寄り添う接客」が、デジタルの世界でも実現します。
あなたの「気分」に合わせた提案が当たり前に
「今日の気分は?」って聞かれたら、何と答えますか?「元気」「疲れてる」「ちょっと落ち込んでる」...私たちの買い物は、実はこんな「その時の気分」に大きく左右されているものです。
2028年の今、AIはこうした「今日のあなたの気分」を察知して、それに寄り添った提案ができるようになりました。以前のAIはあなたの過去の購入履歴や検索履歴を分析して「似たような商品」を提案するだけでしたが、今やあなたの声のトーンや表情、さらには心拍数といった生体データも手がかりにして、「今のあなた」に最適な提案ができるようになったのです。
例えば、あるファッションアプリは「今日はちょっと元気がないな」と感じると、明るい色の服でテンションを上げるコーディネートを提案したり、反対に「落ち着きたい気分かな」と感じると、リラックスできるナチュラルテイストの服装を提案したり。あなた自身も気づいていなかった「今の気分に合う服」を見つけてくれるんです。こんな体験、あなた専用のコンシェルジュみたいだと思いませんか?
「あなたの気持ちを分かってくれるブランド」の時代
「この商品を買うとき、あなたはどんな気持ちですか?」
興味深いことに、私たちは特定の感情状態のときに特定のブランドを選ぶ傾向があります。疲れているときに選ぶお気に入りのカフェ、達成感を味わいたいときに開くフィットネスアプリ、癒しを求めるときに手に取る特定のスキンケアブランド...。あなたにも、「こんな気分の時はこれ」という、自分だけのルーティーンがあるのではないでしょうか。
2028年になると、ブランドはこうした「感情とブランド選択の関係」を深く理解し、マーケティング活動に活かし始めます。あるドリンクブランドは「リラックスしたいとき」の選択肢になることを目指したマーケティングを展開し、あるアパレルブランドは「自信を持ちたいとき」の同伴者になるようなメッセージを発信しています。
さらに進んだブランドは、その時々のあなたの気分に合わせて、話し方や見せ方まで変えてきます。同じブランドのチャットボットでも、あなたが落ち込んでいるときには優しく共感的に、わくわくしているときには同じようにノリよく対応してくれる。まるで気のおけない友人のように、あなたの感情に寄り添ってくれるブランドとの出会いは、単なる「買い物」を超えた深い絆を生み出しています。
気持ちを読まれることの両義性
「ちょっと待って、私の表情や声から気持ちを読み取っているの?それって少し怖くない?」
そう感じる方も多いのではないでしょうか。確かに、感情AIの広がりは新たな懸念も生み出しています。私たちの微妙な表情の変化や声の震え、心拍の乱れといったデータは、非常にプライベートなものです。うれしい時、悲しい時、イライラしている時...こうした感情の機微を企業に「見られている」と考えると、少し不安になりますよね。
2028年の今、多くの企業はこの懸念に真摯に向き合っていきます。欧州を中心とした規制の広がりもあり、「あなたの感情データを分析しています」という明確な通知や、オプトアウトの選択肢の提供、データの匿名化と厳格な管理など、使う側の責任ある姿勢が強く求められます。
結局のところ、感情AIの成功は信頼関係にかかっています。「このブランドは私の気持ちを大切にしてくれる」という安心感があってこそ、私たちは自分の感情をAIに委ねることができるのです。そして信頼を築いたブランドは、より深い顧客理解という恩恵を受けることができます。これは技術だけでなく、人間同士の関係と同じなのかもしれません。
仮想エージェント経済の拡大とチャネル戦略の再編
「私の代わりに買い物してくれる」AIの普及
「あ、シャンプーがもうすぐなくなりそう。いつものを注文しておいて」 「了解しました。いつものブランドのシャンプーを注文しておきました。明後日の午前中に到着予定です」
こんな会話が一般的になります。前回の記事で予測した通り、AIはもはや企業側のツールだけでなく、私たち消費者の「買い物パートナー」として日常に溶け込んでいます。ある朝、「今日は雨が降りそうですね。お気に入りのコーヒー豆が切れていますが、注文しておきましょうか?」と、あなたのAIアシスタントが気遣ってくれる...そんな風景が当たり前になるでしょう。
この流れはただの便利な機能ではなく、経済的にも大きなインパクトを持っています。アジア太平洋地域では2028年までに消費者がAIエージェント経由で支出する額が320億ドル(約3.4兆円)に達するという予測もあるんです。特に若い世代の支持が熱く、Z世代の63%が「AIに自分の買い物を任せたい」と考えているとか。私たちの「買い物の仕方」が根本から変わりつつあるのを感じますね。
「一緒に選ぶ」という新しい買い物体験
「新しいノートパソコンを買いたいんだけど、何がいいかな?」 「予算と主な用途を教えてもらえますか?あと、最近はデザインにもこだわりがあるようですね」 「うん、予算は15万円くらいで、主に動画編集に使いたいな。あと、やっぱりスタイリッシュな方がいいかも」 「分かりました。あなたの好みと使い方に合いそうなモデルをいくつか見つけました...」
検索窓に「ノートパソコン おすすめ」と入力して、何十ものレビューサイトを自分で比較する...そんな買い物の仕方が、いつの間にか古風に感じられるようになってきました。2028年には、私たちは、まるで知識豊富な友人と相談するように、AIと会話しながら買い物をすることができます。
面白いのは、私たちがAIに伝えるのは具体的な商品スペックだけではなく、「今日はリラックスしたい気分」「新しいことに挑戦したい」といった心情や価値観まで含まれるようになること。AIはこれらの言葉から私たちの潜在的な希望や期待まで読み取り、時には「こんなの欲しいんじゃないかな?」と私たち自身も気づいていなかった選択肢を提案してくれるんです。
買い物の最終判断も、以前の「全部自分で調べて決める」から「AIと一緒に考えて決める」という新しいスタイルに変わりつつあります。AIが私の好みや過去の選択をもとに候補を厳選してくれるから、選択肢が多すぎて疲れる...というストレスから解放されますね。私たちは最終的な「これがいい!」という直感的な判断に集中できるようになったのです。
企業の新たな課題:「AIに選ばれるブランド」になる
あれ?少し立ち止まって考えてみてください。これまで企業は「消費者に選んでもらうには?」を考えてきましたが、2028年には「消費者のAIに選んでもらうには?」という新たな課題に直面することになります。ちょっと不思議な世界ですよね。
例えば、あなたがAIに「手頃な価格の良質なヘッドフォンを探して」と頼んだとき、AIはどのブランドを候補に挙げるでしょうか?その判断基準は何でしょう?評価の高さ?価格と品質のバランス?ブランドの信頼性?
これまで、各企業はGoogleの検索結果の上位に表示されるためにSEO(検索エンジン最適化)に力を入れてきました。2028年になると、それが「AEO(AIエージェント最適化)」とでも呼ぶべき新しい戦略に取って代わられるようになってきます。自社の製品情報をAIが理解しやすい形で整備し、AIとの会話の中で「そういえば、このブランドがいいかも」と推薦してもらえるようにすることが、新しいマーケティングの要になるのです。
「買い物している」と気づかない究極の便利さ
想像してみてください。朝起きたら、「コーヒー豆を注文しておきました。木曜日に届きます」というメッセージだけがあり、あなたは「ああ、確かに切れかけてたな」と思うだけ。冷蔵庫の牛乳が減ってきたら、わざわざ「買わなきゃ」と考える前に、自動的に注文されている。誕生日が近づく友人へのプレゼントも、AIが好みを分析して候補を絞り、あなたの最終確認だけで贈り物が届く...。
2028年には、このような「意識せずとも最適な買い物が自動的に行われる」体験が広がっていると思われます。専門家はこれを「ゼロUX購買」と呼んでいます。UXとはユーザー体験(User Experience)のこと。つまり、「買い物している」という体験自体を感じないほどシームレスな購買体験なのです。
AIエージェントはあなたのスケジュール、健康データ、過去の消費パターン、さらには天気予報まで考慮して、「そろそろこれが必要そうだな」と予測し、黙々と準備してくれます。「買い物」というタスクから解放された時間で、私たちは何をしたいでしょう?家族との時間?趣味?仕事?それとも...新たな「買い物体験」でしょうか?
「あなたの価値観」で買い物するAI
「環境に優しい商品だけを候補に入れて」 「この企業は人権問題で批判されているから、除外してね」 「地元の小さな生産者を優先的に応援したいんだ」
あなたも似たようなことをAIに伝えたことはありませんか?2028年には、私たちは単に「何が欲しいか」だけでなく、「どんな価値観に基づいて買いたいか」をAIに託すようになっています。
これは単なる好みの問題ではありません。私たちの多くが、自分のお金がどこに流れていくのか、どんな企業や価値観を支援することになるのかを、これまで以上に意識するようになっているのです。ある調査によれば、消費者の約3割が社会問題や政治的立場に強い関心を持ち、自分の価値観に合致するブランドを意識的に選んでいるといいます。
2028年にはこの傾向がさらに進み、AIエージェントは初期設定の段階であなたの価値観フィルターを組み込むようになるでしょう。「カーボンニュートラル認証のない商品は表示しない」「フェアトレード認証のあるものを優先」「動物実験をしていないブランドのみ」...こうした価値基準が、AIによる商品推薦や自動購入の際にも自然に反映されるようになっています。
つまり、企業にとっては「良い商品を作る」だけでなく「どんな価値観を持った企業であるか」を明確にする必要があるのです。
おわりに:二つの潮流の融合
感情AIと仮想エージェントという二つの潮流は、一見対照的です。感情AIは人間の感情に寄り添うことで体験価値を高め、仮想エージェントは人間の関与を省くことで利便性を極限まで追求するアプローチと言えます。
しかし2028年の購買行動においては、この両者が融合し共存しています。高度にパーソナライズされた心地よい体験と、限りなくシームレスな購買プロセスという理想を、テクノロジーが同時に実現しつつあるのです。
マーケターや経営層にとって重要なのは、これらの変化を単なる未来予測ではなく現在進行形の現実として捉え、自社戦略に組み込むことです。感情AIで得られる洞察を商品開発や顧客コミュニケーションに活かしつつ、エージェント経済に対応したチャネル設計や価値提供モデルへと俊敏にシフトする企業こそが、新たな消費時代において顧客との強固な関係を築けるでしょう。
※本記事(及び本連載)の作成にあたっては、情報収集や構成案の検討においてAIを活用しています。
<過去の記事はこちらから>
【PR×AI 第一回】AIは広報の仕事を奪うのか?PR「再定義」
【PR×AI 第二回】2026年の消費者購買行動の変化と新技術の影響を展望
【PR×AI 第三回】2027年、AIエージェントが変えるユーザー購買行動
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