「果物が好き」から始まった
高校2年のとき、家の近くのスーパーで「アルバイト募集」の貼り紙を見つけました。
軽い気持ちで応募して、配属されたのが青果部。
魚をさばくのは苦手だったけど、果物が好きで、野菜を食べるのも好きだった。
それだけの理由で始まったのが、たこ一の仕事でした。
あれから6年。
今では八尾店の青果主任として、仕入れ・企画・売り場づくりを任されています。
果物を並べる手が、いつの間にか“仕事の手”になっていた。
好きが、仕事になり、責任になり、やりがいになったんです。
「これは売れる」と思った瞬間の高揚感
市場で並ぶ果物を見ていると、心が動く瞬間があります。
光の当たり方、香り、手に取った時の重さ──
そのわずかな違いで、「これは売れる」と感じるんです。
仕入れるのは、自分が“お客様だったら買いたい”と思える商品だけ。
どんなに安くても、自分が納得できないものは並べない。
その目利きが当たって、お客様が「美味しかった」「また買いに来たよ」と言ってくれたとき、心の中で小さくガッツポーズをしてしまうんです。
商品を大切にするということ
かつての僕は、売場の“スピード”ばかりを追っていました。
けれどある日、先輩の大上さんに言われた一言が、今でも忘れられません。
「痛んだ商品を出した瞬間、お客さんは店を離れる」
その言葉が胸に刺さった。
それからは“速さ”より“丁寧さ”を優先するようになりました。
毎朝、売場を一巡し、傷みがないか、色が変わっていないか確認する。
一つひとつの果物と向き合っていると、
まるで“仲間”みたいに思えてくる瞬間があります。
売場は「会話」でできている
青果売場は、八尾店の入り口にあります。
通路に面していて、お客様との距離が近い。
だからこそ、声をかけやすい空間にしたいと思っています。
「この果物、どうやって食べたらいいの?」
「どこの産地がおすすめ?」
そんな会話が日常です。
僕はポップにも工夫をしています。
値段だけじゃなく、「この時期で終わり」「次は長野産に切り替わります」といった情報を添える。
すると、お客様が“今しかない”旬を感じて、
「じゃあ今日買って帰るわ」と笑ってくれる。
その一言が、たまらなくうれしいんです。
「自分でやってみる」が信頼を生む
八尾という地域には、昔ながらの行事を大切にするお客様が多い。
梅干し、らっきょう、山椒──毎年その季節になると、決まって聞かれるんです。
「どうやって漬けたらいいの?」
正直、最初は答えられなかった。
だから僕、自分でやってみました。
10キロの梅を買って、塩をまぶし、アカシソを混ぜ、干して、漬けて…。
手間も時間もかかるけれど、ようやく完成した梅干しを食べた瞬間、
「この仕事に似てるな」と思いました。
時間をかけて丁寧に向き合うほど、味わい深くなる。
それは商品も、人との関係も同じです。
これからの夢
次の目標は、「次期仕入れ担当者の育成。」
まだまだ勉強中ですが、自分の手で“ゼロから売場を作る”挑戦がしたい。
市場の香り、売場の温度、仲間との呼吸──
その全部を、自分の手でデザインしたいんです。
果物が好き。
その気持ち一つで始まった仕事が、
いつの間にか、人とのつながりや信頼を育てる仕事になっていました。
梅干しも、信頼も。
どちらも“時間をかけて育てる”もの。
今日もまた、僕は市場に向かいます。
八尾の街に、“おいしい”を届けるために。