Intent Exchangeはデジタル地上リスク評価技術を開発しました。
地上リスク評価とは、万が一ドローンが制御不能になったとき、飛行経路の下の地上リスクを評価することです。
今回開発したデジタル地上リスク評価技術は、飛行経路の各点の地上リスクを評価する技術と周辺空域の地上リスクの度合いを可視化する技術からなります。前者はドローン運航者が設計した飛行経路の地上リスクに関する安全性の評価を支援するものであり、後者はドローン運航者が地上リスクの低い飛行経路の設計を支援するものとなります。
地上リスク評価はJARUS(*1)が策定をしているSORA(*2)と呼ばれるガイドラインがあり、我が国でもそれをもとにした安全確保措置検討のための無人航空機の運航リスク評価ガイドラインで評価モデルおよび評価方法について制定しています。
ドローン運航者は、ドローンの飛行申請をする際、その飛行経路下の地上リスクを評価し、地上リスクが高い場合は立入管理区画を設定するなどの対処が必要となります。
これらのガイドラインでは、ドローン運航者が、地上リスク評価をフローチャートや表を用いて、なるべく簡便にできる方法を提示しています。しかしながら、この方法はドローン運航者の主観的な判断に頼ったものであるため、その判断根拠を示していくことはドローン運航者にとって大きな負担であります。また、飛行経路全体にわたって評価することは手間がかかるものであり、粗くならざるを得ませんでした。
今回開発した、デジタル地上リスク評価は、JARUS SORAの地上リスク評価モデルの数式に立ち返り、一般に入手可能なデジタルデータを用いて、シミュレーション技術で評価することで、地上リスクの高低を可視化する技術になります。ドローン運航者にとっては、ビジュアルとして地上リスクを把握できるようになることで、地上リスクが高い空域を避けた飛行経路を設計できるようになるほか、地上リスクが高い区間においては、適切な対策をとる必要があることがわかるようになります。
*1 JARUS: Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned Systems. 各国の航空当局から構成される組織で、無人航空機の安全かつ効率的な運航に向けて、ルールメイキングを行っている。
*2 SORA: Specific Operation Risk Assessment: 無人航空機の空中リスクおよび地上リスクの評価のガイドライン
技術の概要
地上リスクの評価モデルは、JARUS SORAで制定されています。
この中で、目標安全レベルは、機体が制御不能となる頻度、制御不能になったときの地上影響範囲、人口密度の積として定義されています。
これらの各項の掛け算の結果、目標安全レベルより下回れば、地上リスクは十分小さいとみなされます。一方で、大きい場合は対策をとる必要があります。
第一項の機体性能に関わることであり、第二項と第三項は飛行経路に関わることになります。本技術では、この第二項と第三項の数値を評価するものになります。
制御不能になったときの地上影響範囲を算出するために、今回、墜落シミュレーション技術を開発しました。墜落シミュレーションでは、風速や機体の速度の他、機体の種別を考慮して、墜落の経路をシミュレートしています。例えば、マルチコプター型のドローンは放物線を描くように墜落しますが、固定翼型のドローンは、らせんを描くように墜落します。墜落シミュレーションを実行する際に、パラメータを変動させることで、落下する可能性のある範囲を算出します。
人口密度に関しては、国土地理院が提供している人口密度のデジタルデータや、携帯電話会社が提供する空間統計データを活用しています。特に、空間統計データはリアルタイムの人口密度を得ることができるため、その時々に応じた地上リスクを評価できるようになります。
これらのシミュレーション技術および人口密度のデジタルデータを組み合わせることで、与えられた飛行経路の各点の地上リスクを評価できるようになりました。
一方で、ドローン運航者が飛行経路を設計する際には、飛行予定の周辺空域の地上リスクの状況を事前に把握しておきたいです。そこで、その地域の人口密度マップから逆算でその空域の地上リスクマップを生成する技術を開発しました。この技術は、前出の墜落シミュレーションの入出力データを反転して、深層学習技術でパターン認識させることで実現しました。
機体の種別の違いにより、生成される地上リスクマップが変わります。左側はマルチコプター型で、右側は固定翼型になります。固定翼型は墜落時に滑空するため、マルチコプター型と比べて、なだらかな斜面のような形状になることがわかります。
今後の展望
現在、JARUSはSORAの新しいバージョンである2.5を策定中であり、その中で、リスク評価の支援するサービスプロバイダーの役割を定義しています。
Intent Exchangeは、新しいバージョンに準拠するように本技術のブラッシュアップを図るとともに、地上リスク評価サービスのαリリースを目標に開発を進めております。
ぜひ、新しい空のインフラの技術や事業の開発に参画しませんか。