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MTGのための未来への歩み:託された想いとカード

《Time Walk》というカードは、私にとってとても思い入れのあるカードです。

今回はそのカード関する、大切なお話をさせてください。

2021年4月、以前カードの取引をしたことがあるSさんからご連絡をいただきました。

Sさんいわく「残っているカードを手放したい」とのこと。

以前の取引がかなり大量だったので、あれで完全にコレクションを手放されたのだろうと思っていましたが、まだお気に入りのカードが残っていたようなのです。

Sさんに指定されたお店で、食事をしながらカードを確認させていただくことになりました。

テーブルにつくと、Sさんがアルバムを2冊出します。

「もうそんなに大した量じゃない」と言うものの、まあまあな量です。

さっそく私はアルバムをチェックします。ページをめくっていると、とんでもない品が出てきました。

《Time Walk》

《Phelddagrif》

《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》春夏秋冬

《Candelabra of Tawnos》

《Blacker Lotus》

これらすべてのカードが『アーティストプルーフ』でした。

アーティストプルーフを知らない方のために説明しておくと、アーティストプルーフは原画イラストレーターにのみ配布されている貴重なカードです。

その特徴をいくつかあげると、

1:50枚程度しか存在しない(多少の例外はある)

2:裏側は真っ白でMTGのロゴは無い(その余白部分にアーティストにイラストやサインを描いてもらうことが多い)

3:WotC社がアーティストにプルーフの販売を許可しているカードである(GPなどの大会で購入する機会がある)

4:表面には基本的にサインが入っている

といった感じで、とても特殊なコレクターズ・アイテムなのです。

特定のアーティストのファン、または特定のカードが好きな人が最後に行き着く「究極のコレクションアイテム」とも言われています。

なので一般流通はとても少なく、大半のカードショップでも取り扱いはありません。

理由は簡単で、まず商品登録や入手が困難ですし、販売金額も付けにくいからです。

もちろん私が経営するCardshop Serraも例外ではありませんでした。

「どうしよう…査定価格をいくらにすればいいのかサッパリわからない…」

私は悩みました。

有名かつ貴重なカードだらけで、しかもそのうち1つはパワー9(MTGの黎明期に販売されていた最上位レアカード9枚のこと)の一角《Time Walk》です。

ミシュラの春夏秋冬だって相当に貴重。だいたいアンティキティのカードのアーティストプルーフなんて、この長いMTG歴の中でも数えるほどしか見たことがありません。

私「参考価格が何も無い品なのですが、どうやって価格を付けましょう」

Sさん「このカードたちは君に寄付する」

私「え?!」

Sさん「君はいつか博物館をつくりたいと思っているのだろう?実はね、私はこの生涯の中でいくつかの博物館や美術館を監修してきたんだ。だから、今後の君の活躍に期待してこれを託し、そして私の持つ知識も少し力になれればうれしい」

私「…本当にいいんでしょうか?」

Sさん「ああ。他のところにカードが行ってしまうより、君に持っていてもらったほうがいい」

私「…ありがとうございます!!」

Sさん「それとね、私はもう長くないんだ」

私「それは…どういうことですか?」

Sさん「癌だよ。ステージ4なんだ」

癌のステージにはステージ0、1、2、3、4があり、4は最終段階です。

ステージ4の5年以内の生存率は10%を切ると言われていて、完治または5年以上の生存例も無くはありませんが、統計としてその数はとても少ないのです。

Sさん「つまり1年後もわからない状態なんだ。だから身の回りの片付けを始めたという一面もある」

私「そうだったんですね…。現状お身体の具合はどうなんでしょうか」

Sさん「1箇所転移した場所がある。それを考えても長いとは言えないだろうね」

私「それほどの状況だったとは知りませんでした」

Sさん「ま、暗くなってもしょうがないしさ、前向きに博物館の話をしようじゃないか。これで本当にキレイさっぱり、手元のカードは多分もう無いと思う。最後のカードを君に託せてホッとしているよ」

結局、私はSさんから貴重なカードを頂き、さらにそこでの食事代(かなりの高級店だった)もSさんが奢ってくれたのでした。

Sさんとは取引後も何度かやり取りをしていたのですが、3ヶ月が経過した頃、LINEが既読にならないことがありました。

2週間待ちましたが、返信は無く、既読にもなりません。

私はまさかと思いながら、不安になって電話をかけます。

「この電話番号は現在使われておりません」

自動音声を聞いたとき、私が感じていた不安は確信に変わりました。

それでも一縷の望みをかけ、Sさんの職場に電話をかけました。

電話に出たのはSさんの奥さんで、自分が何者かを説明すると

「ああ、カードの方ですね…。主人は亡くなりました」

と教えてくれました。

わかっていたのです。

わかっていたけれども、違う言葉が出てきてほしいと願っていました。

「主人は2年の闘病生活の中、仕事ばかりの時間でした。亡くなる2日前も仕事をしていましたよ」

精力的に仕事をされていることは知っていたものの、2年にもわたる闘病生活であったことは初耳でした。また、奥さんはこうも言ってくれました。

「あなたのことも聞いています。4月に食事をした方ですよね。主人がとても楽しそうに言っていました。『カードで博物館をつくろうと頑張っている人だ』と。あの日の主人はいつもよりうれしそうでした」

私はSさんが亡くなったことと、こんな風に思ってもらえていたことを知った感動とで、うまく言葉が出てきませんでした。

Sさんは本当に自分の残された時間が少ないことを知っていたのだと思います。

最後まで残していた2冊のアルバムには、Sさんが好きなカードだけが詰まっていました。

Sさんは《Time Walk》のイラストレーター・Amy Weberさんの大ファン。本当にSさんらしいコレクションでした。

その大切なコレクションを託す相手として、他の誰でもなく、私を選んでくれたのです。

この件を受けて、私は決意しました。

「必ずカード博物館をつくる」

まだ何もわからないし、お金も人もそれ以外のものも足りないものだらけです。

けれども、こうして自分に最後を託してくれる人がいたのです。

とても貴重な品であることよりも、心を託してくれたことのほうがが大切です。

その気持ちに応えたいと思いました。

MTGの著作権はもちろんWizards of the Coast社にあるので、カード博物館の実現にはWizards of the Coast社との交渉が必要になるでしょう。ゴールまでには様々なハードルがあると思いますが、どうにか形にしたいと思っています。

ここまで読んでくれたあなたへ。

私はこれから真剣にカード博物館をつくるために動きます。

そのために一緒にやろうという人を募集させてください。

ただ共感してくれるだけでも構いません。

博物館をつくろうと思った理由については、下記のサイトでもお話をしています。

もし興味のある人はそちらも見ていただけるとうれしいです。

参考:なぜ私は博物館をつくろうと思ったのか

一緒にやろうという人、共感してくれる人、良かったら自分の気持ちを書いて連絡してください。

連絡手段は、メール、Twitter、HPの問い合わせ、facebookなど、どれでも構わないですし、直接会って話したいという方もちろん歓迎です。

一緒にMTGを100年後の未来に届けましょう。

きっとそこにSさんもいると信じて。

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