今の私の仕事は、セキュリティ製品の検証です。
新しいバージョンがリリースされるたびに、機能が正しく動くかを確かめる。設定やポリシーに問題が出ていないかを確認する。そんな仕事を毎日やっています。
でも、2年前の私は美術品オークションの会場にいました。
転職前のリアルな生活
前の職場でやっていたのは、美術品オークションの補佐業務です。
カタログに載せる商品情報を入力して、オークション当日は担当ジャンルの案内係をやる。私が担当していたのは西洋美術。アンティークのオルゴールや、ガレ・ドームのガラス作品——普通に生きていたらまず手に触れることのないものたちが、日常でした。
その仕事を、2〜3年続けました。
当時の生活を正直に言うと——ひとり暮らし、バーテンダーとの掛け持ちフリーター。
合わせて月収は20万円近い、そんな暮らしでした。
転職を考え始めたのは、コロナがきっかけです。バーテンダーの仕事がなくなった時に、「ちゃんと手に職をつけよう」と思いました。いろんな仕事の方向を考えたけど、最後に「IT系だったら、もしその会社がダメになっても、学んだことを他のところで活かせる」という話になって、IT業界を選びました。
IT業界に転職しようと考えた時、不安はそこまでありませんでした。父親がIT系だったので、昔から身近に話を聞いていたからです。ただ、父親の時代は「デスマーチ」という言葉が飛び交っていた頃。「会社に泊まるんじゃないか」という昔のイメージだけは心配でした。
入社・研修のリアル
研修は、まず「LPIC」から始まりました。
最初に感じたのは「これ、実際の仕事で本当に使えるようになるのかな」という感覚です。コマンドを覚えて、実際にCLIで設定を変えられるようになるのか——正直、イメージが湧かなかった。
研修の中で一番難しかったのは、CCNAです。
ルーティング、SNMP、スパニングツリー……聞いたことのない用語が次々と出てきて、当時は「何を言っているのか」という感じでした。意味が分からないまま、とにかく覚えていた。
OSI7階層も、SNMPも、今の業務の中でそうやってだんだんとつながってきています。研修の形式はグループ指導で、1人の先生が4〜5人を受け持つスタイルでしたが、特に不便は感じなかった。
ひとり暮らしで、研修を受けながら給与をもらう——その状況に対して、不安はあまりなかった。「後から返せと言われたらどうしよう」とも考えなかった。給与をちゃんと事前に提示してもらっていたので、逆に「ちゃんとした会社だな」と思ったくらいです。
初めて現場に配属された時は、先輩方が長くいる方ばかりで、OJTも手厚くやってもらえました。上司の方がセキュリティ用語を積極的に共有してくれて、すんなり業務に入れた気がします。
ホワイトハッカーという夢と、今
今の仕事——セキュリティ製品の検証——は、「この製品は安全か」を毎日確かめる仕事です。新バージョンがリリースされたとき、新機能や変わった機能を検証して既存の設定・ポリシーに問題がないかを確認する。問題があればメーカーへ問い合わせ、手順書を修正したりもします。
美術品オークションをやっていた自分が、セキュリティの仕事をしている。入社前の自分が聞いたら、びっくりするだろうな、と思います。
ホワイトハッカーを目指そうと思ったのは、配属後しばらくして、他の部署の作業を横から見ていた時のことです。
ホワイトハッカーを目指している理由を一言で言うなら——「パズルみたいで面白そうだから」。
その夢は、まだ会社に話していません。「資格を取ってから言おう」と思っているだけで、言えない雰囲気があるわけじゃない。「情報処理安全確保支援士を受けたい」と上司に話した時も、「いいじゃん、むしろ頑張ってほしい」と言ってもらえた。こういうことが言える会社なんだ、と思っています。
今、具体的にやっているのは「情報処理安全確保支援士」の勉強です。試験で一発合格を目指しています。
今の検証業務は、ホワイトハッカーというキャリアにちゃんとつながっていると思っています。今積んでいる経験は、無駄じゃない。
生活の変化
転職前と今で、一番変わったのは——在宅勤務になったことです。
通勤がなくなり、昼夜逆転もなくなった。バーテンダー時代は深夜帯の仕事が多かったので、それが解消されたのは大きいです。出勤する日も昼からなので、気楽です。体重はちょっと増えたけど(笑)。
この仕事・この会社を選んでよかったと思うのは、「やりたいことが見つかった」ことです。ホワイトハッカーという目標ができて、張り合いがある。ふわっと日々をこなすより、「これをやりたい」と思いながら働く方がずっといい。
コロナ禍で実感したこともあります。IT系は、社会情勢で仕事がゼロになることが比較的少ない。観光客が来なくなったから仕事がなくなる、お店が営業できないから収入がなくなる——そういうリスクが低い。「手に職をつけた」という安心感が今はあります。
同じ状況にいる人へ
「IT未経験だから無理かも」と思っている人に伝えたいのは、「とりあえずやってみるのがいい」ということです。
学歴は関係ないです。コミュニケーション能力の方がずっと大事。分からないことを「分かりません」と言える人の方が、一緒に仕事がしやすい。飲み屋や接客で得た経験が強みになる。
「朝起きて、ご飯食べて、平日5日間ちゃんと働ける」——そのくらいのことができれば、全然無理なくやれます。そんな業界です。