2024年11月、滋賀県高島市にある築40年の空き家をリノベーションした共創スペース『Rin Takashima』がオープンしました。
総合建設会社・株式会社澤村(SAWAMURA)とケノビ株式会社との共同プロジェクトです。Rin Takashimaは「働く」を起点に地方創生の場づくりを目指すプロジェクトです。テーマは「つながりと重なり」で、人と人、人と企業をつなぎ、新たな取り組みや事業が生まれるきっかけとなる場を目指します。
Rin Takashimaには、地方で活躍の場を求める人たちが集まり作業ができる「コワーキングスペース」、タビノネが運営する『MAMEBACO』のコーヒースタンドに、働き方や暮らし方の可能性を広げる本を集めたライブラリーが併設されました。
『Rin Takashima』のプロジェクトのきっかけ、地方創生やコミュニティづくりへの思いについて、SAWAMURAのブランドコミュニケーション課の和田山さんと、ケノビ株式会社の代表中野とのインタビューをお届けします。
和田山 翔一 さん
株式会社澤村 ブランドコミュニケーション課 コミュニケーションディレクター
広告制作会社のディレクターを経て、2019年にSAWAMURAに入社しブランド推進室の立ち上げ、デザイン経営の基盤づくりに携わる。クリエイティブディレクションやワークショップデザイン&ファシリテーションなどのスキルを活かした社内外の課題解決をミッションとし、領域を横断した取り組みと情報発信を行う。
中野 敢太
ケノビ株式会社 / 代表取締役CEO
東京生まれ東京育ち、滋賀県大津市在住。会社員として新規事業担当役員を拝命しつつ、起業や他社事業支援を複数社実施。滋賀への移住を機に、会社員としての籍は辞し、経営及び経営改革・業務DX・事業開発を行う。
お互いの強みを活かした、新しい地域共創の形。
――建築会社として、共創スペースを作りたいと考えた背景を教えてください。
和田山:SAWAMURAの社屋の隣にある『Rin Takashima』(以下:Rin)の建物は、築40年を超える自転車屋さんの店舗兼住宅でした。弊社社長をはじめ、高島の街で生まれ育った人たちや長く暮らしている人たちにとって、とても馴染み深いお店でもあったので、会社として有意義なものにできないかという話がきっかけで購入した建物でした。全国的に空き家問題が深刻になっていますが、滋賀県高島市も例外ではありません。住む人がいなくなり、貸したり売却されることなく老朽化していくのを待つだけの建物が増えています。
建物があるのに人が住んでいない状態のままでは、街に人の姿がなくなってしまいます。こうした状況に対し、建設会社として何ができるのかと考えました。そして、この地域の人が集まるところ、この場所を目指して人が集まりたくなるような空間をつくりたいとアイデアが出ました。
中野:私は現在、東京都から滋賀県大津市に拠点を移し、家族と共に生活をしています。滋賀県や湖西エリアの魅力も実感し、たくさんの方々との新しい関係性を構築するなかで澤村社長と出会いました。『SAWAMURA』といえば、湖西エリアを中心に面白い取り組みを行っている会社。「高島市のためになにかできないか」という澤村社長のお話のなかにちょうど社屋の隣にある建物の話が出て、「ぜひ高島の地域のために一緒にやりましょう!」という話になりました。
和田山:最初から共創スペースの計画があったわけではありません。物件を購入した当初は、弊社のリノベーション住宅のモデルハウスとして使用する予定でした。でも、それが今のSAWAMURAにとって本当にいいことなのか、なかなか答えが出なかったんです。
SAWAMURAは、まちづくりや地域コミュニティの活性化に積極的に参加してきた会社です。その代表的なものが、毎年秋(コロナ禍以前は年に2回)に開催している『SAWAMURAマルシェ』。これまで最大で1800人の集客があり、企画や運営の全てを他社にお願いすることなく社員たちが協力して行ってきました。建設会社ということもあり、SAWAMURAは昔からなんでも自社で完結してしまう性質。私たちの強みでもあるのですが、これからは外部の方々と協力しながら新しいアイデアをどんどん取り入れていかないと、会社としても地域にとっても可能性が広がっていかないという危機感のようなものを、弊社の社長もずっと感じていました。
中野:地域だけにこだわらず、人が集まる場所、すなわちコミュニケーションには、コーヒーやお酒が必要不可欠だと常々思っています。幸い、当社には『京都珈琲焙煎所 旅の音』というカフェ事業がありましたし、僕自身も以前東京でコワーキングスペースの運営経験があります。お互いの強みを活かして、建築や地域のつながりづくりはSAWAMURAさんが、新たなコミュニティづくりに必要な機能面はうちが提供する形でプロジェクトが発足しました。
和田山:うちにとっては、まさに渡りに船でしたね。
中野:実際の運営は弊社が行っていきますが、完全に分けているわけではなく、デザイン的な部分で弊社の意向を取り入れてもらったりRinの空間を作る際にはSAWAMURAさんに一部負担していただいたり、Rinのオープン後もSAWAMURAさんとはコンテンツの連携をどんどん行っていきましょうというお話をしています。
地方で共創を目的とした取り組みをやるからには、その場所に住む人と、その地域に関わる人たちに信用されないと継続的な運営ができない、というのが僕の考えです。そのため、Rinという空間をどのように展開していきたいか、地域とどのように関わっていきたいかという大きな方向性は、SAWAMURAさん含めて地域の方々が主となって考えるべきだと思うんです。
おそらく、今いろいろなところで行われている共創プロジェクトとは形が異なるかもしれません。今まで通りのことをしていても意味がないので、お互いの強みを活かした最適な落としどころを見つけながら計画を進めてきました。
「地方で何かをはじめたい」という想いを持った、あらゆるプレーヤーが活躍できる場所に。
―――どんな想いを持った方にRinを活用していただきたいと想定していますか。
中野:Rinは「働く」を起点にした共創スペースです。誰かと何かを協働したい、新しいことをやっていきたいというクリエイティブな人に集まってほしいですね。ビジネスマンはもちろん、デザイナーやアーティスト、プランナーなど業種は問いません。また、ここに集まることで地元の企業や地域の人と結びついて、新たなイノベーションが起きるような場所になって欲しいと考えています。あらゆるプレーヤーが活躍することが、地域活性化には絶対に必要ですから。
和田山:いろいろな人の考えが合わさって新しいものを作るって、今後必ず必要になってくると思っています。ここ数年、共創スペースと呼ばれる場所がすごく増えています。都市部で大企業が運営しているものも多く、そこで行政などもイベントを開催し、普段出会うことのない大企業とクリエイターを繋ぐ取り組みを行っています。とてもいいことではあるのですが、こうしたイベントが増えると「やっぱり面白いことって都会にあるんだな」って、人がどんどん都市部に流れていってしまいます。では、地方に同じようなことができる場所があるかというと、リソースや人脈が足りないなど課題は山積みで、やりたいという思いを持っていても実現できません。
こうした地方で課題となる部分を、Rinのプロジェクトでは中野さんが丸々持ち込んできてくださるので、場所に関しては僕たちが用意をして、お互いに良いバランスで実現へと進めていけたのではないでしょうか。
中野:魅力ある食材や素材など、高島は可能性に満ちています。この街で挑戦したいという思いを持った人たちを引き合わせ、人で溢れる都市部では味わえない時間の流れ方や経験、コミュニケーションの形など、この場所にしかない価値観が生まれたら、都市部から「一度高島に行ってみよう」という人が出てくるかもしれないし、そこから新たな取り組みが生まれるかもしれません。
和田山:そういった意味では、Rinのライブラリーはとても特徴的です。弊社が手掛けた施設としての見え方や広報的な面も含めて、SAWAMURAのセンスを表現できるものが欲しいという考えから、本棚を設置することになりました。実際に手に取った方々の意見なども踏まえ、定期的に新しい本を入れていけると良いなと思っています。また、専門のブックディレクターさんに選書いただいたり、運営メンバーそれぞれが自分自身の感性で選書したりもしています。この場所でしか読むことのできない本や、利用される方の感性が本棚に並んだもので表現されていくと、Rinにしかない価値が生まれるはずです。
どんなものが生まれるかは、これから、この場所に集まる人次第。
―――コワーキング・コーヒー・本などを目的に、この場所を目指して人が集まる空間。Rinから今後どんなイノベーションが生まれると良いと考えていますか。
中野:この場所にどんな人が集まり、何が生まれるのか、全く想定できていないですね。でも、新しいモノを生み出すには、この先集まってくる人を主体に考えていくことが大切なんじゃないかなと思います。
和田山:未来や理想が不確定なまま一歩踏み出す、というのは、まさに建設会社が苦手なことです(笑)僕も正直まだ未知数なところはありますが、自社だけのプロジェクトだと「先のことがわからないならやめておこう」となるところが、「中野さんができると言うなら挑戦してみよう!」と思える。外部の方と協力して思い切った挑戦ができることが、共創プロジェクトの意味だと感じています。
中野:「高島のために一緒に何かやろう!」という思いだけでなく、ビジネス的な設計もちゃんとあるんですよ。運営を行う我々としては、利用人数が増えればマネタイズができるので継続した運営ができます。コワーキングスペースにたくさん人が来てくれてコーヒーをたくさん飲んでくれるよう、できるだけ多様な人が来てくれる場所であった方がいい。
そのためにも、いろいろなイベントを開催して、高島周辺の人をどんどん巻き込んで、人と人のネットワークが広がっていくような種まきが必要です。今考えているのは、Rinが主体になって行う「毎月第2水曜日開催」といった定期イベントです。ベンチャー企業同士の集まり、クリエイターの交流イベント、バックオフィス関係の人たちが集うイベント、単純に「高島が好きです」という人たち。この4つは、地域創生を担っていく人たちの重要な特性だと思っています。ただ交流会を開くのではなく、ちょっとしたトークセッションやワークショップなどを取り入れながら、ここに集まる人を支援して、この地域で働くことや移住の後押しができればいいですよね。
地方創生成功のカギは、地元企業が新たな取り組みを受け入れる度量
―――さいごに、高島という地域の持つ可能性について教えてください。
中野:主要地域以外の場所、いわゆる「じゃないほう」の場所に目を向ければ、魅力にあふれた主役級の地域って日本全国にいくらでもあります。そのなかで、地方創生を成功させるためには地域のいろんな人の協力を得なければならないという一方で、SAWAMURAさんのような地元企業が、こうした新たな取り組みを受け入れる度量があることが絶対条件だとも言えます。
これまで自治体が行ってきたようなトップダウン型の地方創生とは違うコミュニティの作り方や、場所を作るだけでなく維持させるための場所づくりを行っていかなければいけません。Rinのようなビジネスモデルが成り立てば、他の地域でも再現できることになり、地方創生を成功させる新たな一歩になると考えます。
和田山:Rinの場所は商業的に有利な場所ではないと私たち自身も感じています。そんななかで地元の建設会社として何ができるのか。有力な方や著名な方とつながりができたり、新しい事業が生まれたりするというよりかは、このような取り組みや姿勢を地域のみなさんに見ていただけることに価値があると思っています。
お互いに協力し、サポートし合いながら、たくさんの人が集まる拠点としてできるだけ長く続けていける取り組みになることを願っています。
中野:自分が暮らす場所、そこで過ごす時間をどれだけ有意義にしていくかという「豊かさ」を我々は「淑やかな時間」として定義づけています。
この高島のように、地域の持つ可能性と淑やかさを兼ね備えている地域で、Rinをはじめとしたさまざまな取り組みが生まれていくと、その地域にとっても本当の意味での地方創生になる。すごく面白いことが生まれると思っています。
【店舗情報】
Rin Takashima
住所:〒520-1121 滋賀県高島市勝野1111-3
アクセス:JR湖西線 近江高島駅から徒歩約5分
営業時間:9時〜21時
HP:https://www.rin-takashima.jp/
Instagram:
Rin takashima @rin_takashima_base
Rin mamebaco @mamebaco_rin
執筆・編集:suu編集部