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スタンフォード発「ワイヤレス給電技術」で未来を変える。エイターリンクの創業ストーリー

米・スタンフォード大学発のスタートアップである、エイターリンク株式会社。

現在のIoT(Internet of Things)社会の次は、IoE(Internet of Everything)といわれており、センサーが必要なモノの数は爆発的に増えるはずです。そして来るべきloE社会に欠かせないのがワイヤレス給電技術であり、エイターリンクの持つ技術は、欠かせないインフラになると注目されています。

そんなエイターリンクが持つ、長距離ワイヤレス給電技術(AirPlug®)はどのように誕生したのか。エイターリンクの創業には、どのようなプロセスがあったのか。創業者である、代表取締役CTO(Ph.Dr) 田邉勇二と代表取締役COO 岩佐凌が、創業までのキャリアや二人の出会い、事業について語ります。

目次

  1. スタンフォード大学で誕生した、ワイヤレス給電技術
  2. 「ワイヤレス給電技術は工場に必ずニーズがある」。そう確信した田邉氏との出会い
  3. 世界トップクラスのエンジニアと折衝のプロが二人で代表を担う理由
  4. 注力するのは、FA・ビルマネジメント・バイオメディカルの3分野
  5. 「テクノロジー」×「新しい概念」×「ワイヤレス給電」で新たな市場を創造

スタンフォード大学で誕生した、ワイヤレス給電技術

―お二人の経歴、創業以前の活動について聞かせてください。

田邉 僕はシリコンバレーで生まれました。4歳から日本で暮らし、大学は早稲田の情報生産システム研究科に進みました。電磁波や音波など波長への関心がもともと高く、この分野を突き詰めたいと思っていたのですが、大学に電磁波の専門家が少なかったので、3D CADや電磁解析シミュレータを使って、ほぼ独学で実験していました。ただ、もっとも学びとなったのは2011年、スタンフォード大学でリサーチアソシエとして働きはじめてからです。アンテナクラスの授業を受け持っていたので、学生に分かりやすく教えるために、さらに必死に勉強しました。

―スタンフォード大学で働くきっかけになったのは?

田邉 エンジニアの地位は日本ではさほど高くはありません。せっかくなら良い環境と良い条件で、という思いがありました。野球選手がメジャーリーグを目指すのと同じように、エンジニアならシリコンバレーを目指すのは当然、と思っていました。シリコンバレーには幼少時に住んでいた家がまだあり、近くにスタンフォード大学があったことも決め手になりました。とりあえず行ってみよう、くらいの気持ちで渡米したのですが、日本の大学とはまるっきり違う学びの環境に大いに刺激を受けることになりました。ここで出会ったのが、当社アドバイザーであり、スタンフォード大学 Electrical Engineering学部准教授のエイダ・プーンです。彼女とメディカルインプラントのスタートアップを一緒に立ち上げ、以来、今日まで一緒にやってきました。

この会社では、排泄をコントロールするデバイスの開発と研究をしていました。簡単にいうと、膀胱にデバイスを取り付けて電気信号を流し、排泄を促す仕組みで、このデバイスに電気を送る方法としてワイヤレス給電を活用する、というものです。ただ、メディカル領域のビジネスはものすごく時間がかかります。そのため、2015年辺りから商用利用を模索しはじめました。最初に考えたのはバッテリーのリプレイスです。たとえば、テレビリモコンの電池、スプリンクラーを作動させるセンサーのバッテリーをワイヤレス給電に置き換えようと挑戦したのですが、そんな技術を使わなくとも、手動で交換すれば済む話であり、大きなインパクトはありません。さて、どうしたものか、と考え込んでいたとき、岩佐に出会いました。

岩佐 僕は小中高と野球をしていました。父も祖父も理系というバックグラウンドで育ったのですが、あまりにも野球にのめりこんでしまい、数学の受験勉強が間に合わず、学習院大学の経済学部に進みました。いわゆる普通の大学生でしたが、父が会社を経営していまして。それを近くで見てきたからか、いずれは起業したいと思っていました。実際、大学時代もいろいろな経営者に話を伺うなど、経営の考え方はことあるごとにインストールしてきたのですが、当時は「いまは起業するべきじゃない」と考えていました。周りにはアフィリエイトで何千万と稼ぐ人もいましたが、世の中に富を生んでいるとは思えなくて。本当に大きな会社をつくるのであれば、世の中で流行り始めたものではなく、これから流行るものを見つけなければと思い、岡谷鋼機に就職しました。何でも扱う商社にそのヒントがあると考えたからです。

入社後は、営業、管理、人事など、いろいろな部署を経験しました。営業時代は自動車メーカーを任されていましたが、ここでの僕のミッションは、数年後の車を作るのに必要な要素技術(製品の開発に必要な基本技術)を世界中から見つけてくること。加えて、月に100万台もの自動車を量産するため、製造ラインをビジネス的にどうマネージするのかも僕の仕事でした。実際、工場では製造の多くの工程を機械が担っています。アームなど可動部の動きはセンサーで制御していますが、可動が多いぶん電源ケーブルが断線しやすく、そのたび製造ラインが止まる事態を何度も目の当たりにしてきました。自動車メーカーは1分間に300万円の利益を生み出すといわれていますから、断線によって作業が止まると、たとえ20分でも大きな機会損失になります。これが長く語られ続けている課題であることを知りつつ、FA(Factory Automation)をどうやって実現するのかを考えていた矢先、半年ほどアメリカに赴任することになりました。この時期に田邉と出会ったことが大きなターニングポイントになりました。

「ワイヤレス給電技術は工場に必ずニーズがある」。そう確信した田邉氏との出会い

―二人はどうやって出会ったのですか?

田邉 2017年末、シリコンバレーでテニス仲間に誘われた送別会の場で、知り合いました。

岩佐 そこでは20分くらい話し、連絡先を交換して別れたのですが、このときに聞いた田邉の持つワイヤレス給電の技術や構想が、頭からずっと離れませんでした。絶対、FAに使えると思ったんです。そこで、帰国後は現場で使えるのかどうか、工場内をインタビューして回りました。すると、やはり感触がよかったんですよね。そこで上司に導入を進言したのですが、「どこの馬の骨かわからないものはダメだ」と、一蹴されてしまって。

田邉 このときは、製品もまだなかったですし。自分は工場の知見をまったく持っていなかったので、当時、岩佐の話も、そうなんだくらいに聞いていたのですが、半年後に突然連絡が来て「商品を取り扱いたい」と。

岩佐 上司にああ言われてしまったから、もう勝手にやってしまおうと思って。それで、田邉が年末や夏休みに帰国するたび自動車メーカーの人に会わせ、感触をつかんでもらいました。その時の顧客の反応から「これはいける」と感じたので、2019年末に思い切って会社を辞めました。

田邉 僕には特に相談もなく(笑)。岩佐から聞かされたときは、さすがに驚きました。「会社もまだないのに辞めてしまったのか!」って。

岩佐 その後は、毎日30分単位のミーティングを15~20件入れ、本格的なマーケティング調査を開始しました。実際、ワイヤレス給電を工場に導入するとなると、何千万円、何億円と出資してもらう必要があります。その顧客に出会うため、ひたすらミーティングをこなす一方、ピッチイベントにも登壇していました。このとき、参加者の中にTV局の人がいて、2020年5月、報道情報番組の1コーナーで取り上げていただいたことを機に問い合わせがグッと増え始めました。

田邉 そのなかには、FAの中心になるお客様もいらして、取引をすることも決まったので、口座を用意する必要にかられ、会社を設立しました。2020年8月のことです。

―このときは、田邉さんはまだアメリカに?

田邉 そうですね。僕はこの年の10月に帰国しました。4月に帰る予定がコロナで帰れなくて。

―アメリカで起業する可能性もあったのでは。

田邉 アメリカでもピッチに参加していました。ですが、向こうはコンシューマー志向が強く、FAの話をしても理解してもらえないんですよね。事業内容からも、モノづくり大国である日本がメインになると思いました。

岩佐 FAのニーズは、もちろん日本以外にもあります。ただ、スタートアップ企業はまず、センターピンを倒さなければ。ここを倒せば次が倒れていく、というものを押さえることが非常に重要です。僕たちは、ワイヤレス給電のセンターピンはFAの可動部のセンサーになると思っています。しかし、アメリカにはセンサーの生産メーカーはなく、一方、日本は50%以上のシェアを持っているので、日本での展開が最適と考えました。

世界トップクラスのエンジニアと折衝のプロが二人で代表を担う理由

―ちなみに、お二人はそれぞれお互いをどう思っていますか?

岩佐 田邊は、アンテナの領域では世界トップクラスのエンジニアです。それだけでも頼もしいのに、「どうすれば市場で受け入れられるのか」という顧客視点も持っています。田邊がビジネスのできるエンジニアだからこそ、スタートアップが成り立つと考えています。

田邉 岩佐のビジネスセンスも抜群ですよ。VCとの折衝なんて僕はほぼノータッチでしたから。役割がはっきり分かれているので、安心して自分のことに打ち込めます。

―エイターリンクがツートップなのも、そういう理由からですか?

田邉 アメリカでは、一つのポジションを6人や7人で担うこともザラです。各々の役割が明確なぶん、チームと経営陣が一体となって動くことができます。だから、会社の考えが社内に浸透するスピードが速いし、横のつながりも強い。もっとも、現在のビジネスにおいてワントップやワンマンオーナーで会社のかじ取りするのは、スピード的に難しい。こうした考えもあって、この体制にしています。

注力するのは、FA・ビルマネジメント・バイオメディカルの3分野

―改めて、エイターリンクの事業内容を聞かせてください。

岩佐 マイクロ波を使った長距離のワイヤレス給電を行う会社です。15~20mの距離でワイヤレス給電を行えるので、双方向のデータ通信ができ、角度依存もないため動いている物体にも給電できる強みがあります。

現在は、ここまでお話してきたFAのほか、ビルマネジメント、バイオメディカルの三つに絞って事業を展開しています。国内外の大手メーカーとパートナーシップを組み、市場に浸透させる取り組みをしています。

FAは今後1年以内の実用化がスタートする予定ですが、ビルマネジメントはすでに導入が始まっています。竹中工務店さんとの協業で、同社静岡営業所の床下に電力送信機を、椅子に「温度湿度、照度、CO2センサー」を配置し、これをワイヤレス給電によって稼働させることで、センシングデータをビルシステムと連動することに成功しています。これまではセンサーを動かすのに電池または配線の二つしか選択肢がなかったため、物理的に多くのセンサーを入れることが不可能でした。そのため、空調も大まかにしか監視できず、同じフロアでも窓側と内側で温度ムラが起こっていましたが、ワイヤレス給電になることで、フロア内をさらに細かく監視できるようになり、個々人に合った対応が可能になります。電気代の削減、作業効率の向上に寄与できることに加え、配線のようにイスに引っかけて危険といった制約もなく、あらゆる場所に活用できる点が強みです。

もう一つのバイオメディカルは、田邉のアメリカ時代の流れを汲み、埋め込み型医療機器の研究開発を行っています。具体的には薬だと解決の難しい病気、または副作用の出る病気の解決をテーマにしています。最初に手がけたのは心臓のペースメーカーです。当社は米粒大の機器を開発し、カテーテルによって心臓に設置し、体外から体内にワイヤレス給電して動かすことの一連の研究に携わっています。現在は、この範囲にとどまらず、汎用性を見込める分野にも取り組んでおり、2025年以降のスタートを目指しています。

「テクノロジー」×「新しい概念」×「ワイヤレス給電」で新たな市場を創造

ー今後、世界はどう変わり、エイターリンクの技術はその世界でどう活かされていくのでしょうか。

IoT(Internet of Things)の次は、IoE(Internet of Everything)といわれており、サイバー空間とリアルな空間を行き来するような世界観が生まれようとしています。この二つの空間を結びつけるゲートウェイとして注目されているのが、センサーです。画像をはじめ、温度や湿度、震度など、リアルな空間で取得したあらゆるデータをサイバー空間に反映するために用いられるのですが、このセンサーを配線やバッテリーで設けることは現実的ではありません。ですから、2029年にサービス開始が見込まれる6Gの規格のなかには、こうした世界の到来を踏まえ、ワイヤレス給電が盛り込まれています。エイターリンクの持つ技術は、まもなく訪れるIoE社会において切っても切れないインフラになると考えます。

田邉 昔はイーサネットでコンピュータとインターネットをつないでいましたが、いまは wi-fi が当たり前です。それと似たような感覚が起きるだろうと言われています。

岩佐 いま、世界中で使われているセンサーは2兆から3兆個といわれていますが、2040年には45兆個まで増えるといわれています。これは爆発的な数です。ゆくゆくは、コンセントと同じ感覚でワイヤレスの送信機が設置され、ここと見えないプラグがつながるような社会に変わるでしょう。

またこうした技術は、今後、サプライチェーンの中でも求められるようになると思います。たとえば、スーパーマーケットの電子棚札です。日にちや天候、気温、人流などから需要予測を行い、リアルタイムで価格を変動させるダイナミックプライシングが採用されるようになれば、店内にセンサーやカメラが何千個と必要です。電子棚札に表示する価格も刻々と変わりますから、バッテリーの消耗も早まります。こうした場合に、ワイヤレス給電は非常に有用です。また、物流でも厳密な温度管理を行ううえで、たくさんの配線やバッテリーで動く測定機器をトラックの荷台に搭載するのは難しい。やはり温度センサーを使ってワイヤレス給電で動かすようになると思います。このように、センサーで情報を取得・管理するようになり、購入者が商品を開けたタイミングまで分かるようになると、最適な在庫計画、最適な生産計画の立案に反映されるようにもなります。これを僕たちは「バリューチェーンOS」と呼んでいます。さらに、生体の情報を取得できれば、その人が食べた物、食べたことによる体の状況も把握できるようになる。すると、今度は食品のリコメンドへとつながっていきます。

これらを突き詰めていくと、いずれは、デジタルとデジタルをつなぐアナログな作業すらなくなる世界が訪れます。ちなみに僕たちは、バイオメディカル事業において、BMI(Brain Machine Interface)と呼ばれる分野にも進出しています。これは、アルツハイマー病をターゲットとしたもので、短期記憶と長期記憶の中間にチップを入れ、短期記憶に蓄えた情報を、デバイスを介して長期記憶に送ることで患者さんをサポートする技術です。ゆくゆくは、脳内に入っているチップをインターネットと接続して直接情報をインストールすることも考えています。

田邉 こうした技術が確立されていくと、ヒトの脳内の情報を取り出し、他の人にインストールしたり、サーバ上で半永久的に保存できたりといったことも将来的に起こりうるかもしれません。そうなると、IoEは「Intelligence of Everything」になるのではないかと。つまり、すべてのデバイスに魂が入ってエンジンデバイス化していく。そういう方向に世界は進み出すのではないか、と思います。

岩佐 これらの構想のとおり、僕たちはいまあるものの代替品をつくるのではなく、新しい市場の創造を目指しています。既存のものでは解決の難しい課題に対し、「新しいテクノロジー」×「新しい概念」×「ワイヤレス給電」で挑戦しています。この思いを重要視しながら事業に取り組んでいます。




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