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デジタル戦略で野球界を革新!パ・リーグ躍進の舞台裏と未来
2023年のWORLD BASEBALL CLASSIC™(WBC)における日本代表の劇的な優勝、そしてメジャーリーグベースボール(MLB)での日本人選手の目覚ましい活躍は、国内に再び野球熱を呼び起こし、長らく低迷していた野球人気に新たな息吹をもたらした。その熱狂は、プロ野球誕生90周年となる2024年に、年間総入場者数が過去最多となる26,586,977人を記録する形に結びついた。
特に注目すべきは、パシフィック・リーグ(パ・リーグ)の躍進だ。2007年、6球団の出資により設立されたパシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM社)は、他リーグに先駆けてデジタル戦略を積極的に展開し、これまで野球に興味を持たなかった層を含む、新たなファン層の開拓に成功した。試合のハイライトやスーパープレーはもちろんのこと、選手の試合中の何気ない仕草やユーモラスなリアクションなど、従来の野球中継では捉えられなかった魅力を独自の視点で切り取り、編集したコンテンツを配信する公式YouTubeチャンネル『パーソル パ・リーグTV』は、登録者数140万人を超える人気チャンネルへと成長した。
日本最大のファンベースを持つプロ野球界において、デジタル戦略をいち早く成功に導いたPLMは、どのようにして困難を乗り越え、新たな地平を切り開いてきたのか。
今回は、『パーソル パ・リーグTV』の責任者である園部氏へのインタビューに成功。戦略と苦労の軌跡を詳細に紐解いていく。
園部 健二
パシフィックリーグマーケティング株式会社
大学卒業後、営業会社、出版社、ゲーム会社を経て2017年9月にPLMに入社。人材紹介事業「PLMキャリア」の立ち上げを担当した。現在は執行役員COO(最高執行責任者)として、会社全体の事業に携わっている。
登録者数140万人超え!「パ・リーグTV」独自の視点がファンを惹きつける
—— 『パーソル パ・リーグTV』について、教えてください。
園部氏 パ・リーグ6球団の主催試合を配信するインターネット動画配信サービスになります。有料会員向けの動画配信サービスになり、公式YouTubeチャンネルでは配信していないパ・リーグ6球団主催試合のライブ配信等も見ることができます。
—— サービスが始まったきっかけは何でしたか?
園部氏 もともとの始まりは、「プロ野球24」というサービスになります。2005年の球界再編時に、パ・リーグは新たにスタートしていこうというタイミングがあり、携帯電話でパ・リーグの試合が観られるサービスの立ち上げが提案され、2006年から開始しました。2010年には、「パ・リーグ ライブTV」という『パーソル パ・リーグTV』の前身となるサービスを外部委託で始め、2012年に『パーソル パ・リーグTV』の自社運営を開始しました。競合サービスの中でも、パ・リーグに特化することで、オリジナルコンテンツを充実させることができ、他サービスとの差別化にも成功しました。
ローリスク・ローリターンからの脱却!自社運営への大胆シフトが飛躍の鍵
—— なぜ自社運用を開始することになったのでしょうか?
園部氏 それまでPLM社として運営した事業が、球団公式CMSのディレクション、リーグスポンサーの営業など、6球団の意向を取りまとめて外部と交渉する、所謂代理店的な動きが中心でした。「パ・リーグ ライブTV」も外部のベンダーに運営していただき、その取りまとめをしており、レベニューシェアで収益の一部を得る「ローリスク・ローリターンモデル」で運用していました。
しかし、PLM社として本事業の成長可能性は高いと判断し、基幹事業として内製化していったほうが将来的な金銭的なリターンやナレッジの蓄積も大きくなると考え、自社での運用を決断しました。
—— サービスが進んでいく中でどのような課題がありましたか?
園部氏 サービスを運用していくなか抱えていた課題は、サービスはあってもナレッジが溜まっていなかったことです。各コンテンツの管理方法がモノリス設計となっていたので、ほかのサービスへ転用する際、新たなシステム開発がなかなかスムーズにいきませんでした。
そこで、データという資産を自社に残すというところから、パ・リーグクラウド(以下、PLC)を作ることになりました。 ベンダー頼みの各パーツを突貫工事で組み合わせたサービスにするのではなく、PLCを一つ作ることによって、将来的なサービスの拡張性を見据えた、様々な開発ができるようになりました。
「PLC」で加速するリーグビジネスの未来
—— PLCとはどういうものか教えてください。
園部氏 いわゆる機能の集合体です。
『パーソル パ・リーグTV』のライブ配信を行う上で、コンテンツの管理、Webサービスの管理、動画情報の管理、ユーザー情報の管理、公式情報の管理など、様々なサービスに拡張できるように必要な機能を集合させたものです。将来的なサービスの拡張性に備えたマイクロ設計になっています。機能単位でサービスが作られているで、それぞれの改修やメンテナンスが容易になりました。
また以前は、外部ベンダーのエンジニアへ「今日の視聴者数は何人ですか?」といったことから細かく問い合わせ、一つ一つ確認しながら資料に落としていくといった作業が発生していました。しかし、PLCでは AWS( Amazon Web Services )をベースとして設計しているので、ナレッジがベンダーに依存することなく、自社内で意思決定ができ、また外部への依頼もしやすくなりました。
—— サービスを開発した効果は他の面にもプラスになったと伺いましたが、詳しく教えていただけますか?
園部氏 バックエンド側の大きな改修や、新たな開発を行うことなく、TVアプリやネイティブのスマホアプリ、アーカイビングサービス(アーカイブセンター)の開発や配信基盤のリプレースを実現することができました 。
エンドユーザー向けのサービス開発だけではなく、データの活用も進み、自社内でBIツールを使ったダッシュボードの開発やデータの可視化が可能になりました。
サービスの拡張性というところはキーになっています。
—— 開発段階で苦労したことは何かございますか?
園部氏 経営陣への説明には苦労しました。グランドデザインの策定からロードマップ設計の部分、そして、システム構築まで、JBG社とは一緒に取り組んでおり、社内承認のフローまで伴走していただきました。
その後の実績からも、一定の理解は得られたと思っています。
パ・リーグデジタル戦略の現在地と未来
—— 今後の展望について教えてください。
園部氏 最初の構想に今のものは完全に近づけているわけではないと思っています。
スモールスタートではないですが、今後のステップで成長していくものと捉えています。
未だない価値を創出するために、こういうデータを使おうという意見が社内でも出ているので、ファンを広げられるようなデータ基盤になっていければと思います。
Webサービスやスマホアプリで、ユーザーの声を反映して機能面をブラッシュアップさせながら、ユーザーにプロ野球を見る、好きになるという体験を近づけられるようなクラウドになるように考えています。
具体的にやりたいことはいくつかあり、データの活用、個人にパーソナライズした機能の提供、運用の筋肉質化、映像資産の活用などを、パ・リーグ クラウドを使って拡張していく予定です。
また、このPLCがリーグビジネスをやっていく上で、デジタル領域に関していうと、特に、肝になっていくと考えています。球団単体でできないことを、リーグが構築して使いこなせるようになれば、リーグビジネスの力が発揮できる領域だと思うので、そこを目指していきたいですね。
最後に
「リーグとして、球団単体ではできないことに挑む」
PLM社が取り組んできたのは、単なる動画配信やクラウド構築にとどまらず、ファンの体験そのものを変革する挑戦でした。
『パーソル パ・リーグTV』を支えるPLCの開発には、目の前の課題を解決するだけでなく、未来のプロ野球をどう描くかという長期的な視点と、強い意志が込められていたことが伝わってきます。
スポーツビジネスの現場で、デジタルを武器に新たな価値を創出し続けるその姿勢は、他業界にも通じる示唆に富んでいます。PLM社の挑戦が、これからどのような未来を切り拓いていくのか、今後も注目していきたいと思います。