〜仕組みだけでは3ヶ月で元に戻り、文化だけでは現場は回らない〜
「立派なマニュアルが完成したのに、誰も見ていない」 「最新のITツールを導入したのに、結局みんなExcelで管理している」
数千万、時には数億円を投じた改革が、私たちが現場を去って数ヶ月後には、元の姿に戻ってしまうことがあります。コンサルタントとして、私は何度もこの「魔法が解ける瞬間」に立ち会ってきました。
その原因は、仕組みが「外から与えられたもの」に過ぎず、そこで仕事をする「人」が置き去りになっていたからです。
私は現在、「コンサルティング」と「コーチング」を同時に行うスタイルをとっています。なぜなら、この二つが掛け合わさったときに、組織に本当の「化学反応」が起きると確信しているからです。
仕組みという「形」と、文化という「心」
私は、組織の変革には「業務(仕組み・制度)」と「文化(人・組織)」の両輪が不可欠だと考えています。
かつての私は、戦略コンサルタントとして「仕組み」こそがすべてだと思っていました。無駄を削ぎ落とし、効率的なフローを設計し、KPIで管理する。論理的には完璧です。しかし、どれだけ優れた「正論」をぶつけても、現場の人々の感情が動かなければ、その仕組みは維持されません。人は、納得していないものに対して、無意識に「抵抗」し、慣れ親しんだ古いやり方に戻ろうとする強い力(組織の慣性)を持っているからです。
一方で、コーチングを通じて「心」や「マインドセット」だけにアプローチしても、また別の限界にぶつかります。 どんなに個人の意識が高まり、「よし、頑張ろう!」と情熱が燃え上がっても、日々の業務フローがぐちゃぐちゃで、属人化した非効率な作業に追われ、毎日数時間の残業を強いられていたらどうでしょうか。せっかくの熱意も、物理的な疲弊によって数週間で摩耗してしまいます。
「動ける」仕組み(業務)と「やりたい」という心(文化)。 この両方が同じ熱量で整わない限り、組織の変革は一過性のイベントで終わってしまうのです。
実録:現場で起きた「化学反応」
私が現場に入るとき、まず行うのは、綺麗に整理されたヒアリングシートを埋めることではありません。一人ひとりと向き合う「対話(コーチング)」です。
「今の仕事であなたが変えたいことは、何ですか?」「今の仕事を通して、あなた自身は何を実現したいですか?」 「あなたがこの仕事をする意味は、何ですか?」
もちろん「業務」も大事なので、それを理解すべく、さまざまな質問を投げかけます。しかし、その業務に携わる「人」も大切にしたい。だから対話を通して、より深い問いを投げかけます。
「業務」に対する質問は、「問い質す(ただす)」の文字通り、答えはひとつです。けれども、「人」に対する問いの答えは、人の数だけあります。上記の問いのように、同じ仕事に携わっていたとしても、その仕事に対する意味づけは、AさんとBさんとでは異なるでしょう。だから、最初は距離を置いていたお客さまも、自分の想いを受け止められるように感じて、少しずつ柔らかな表情を見せてくれるようになります。『実は、ずっとこう思っていたんです』。そんな本音が聞けたとき、張り詰めていた現場の空気が、前向きな熱量へと変わっていくのを肌で感じます。
ここで化学反応が始まります。 私が提案する業務改善(BPR)やDXの推進は、単なる「コスト削減」ではなく、お客さまが抱いている「もっとこうしたい」という願いを叶えるための手段へと変わるのです。
「自分たちの声を反映して、自分たちの手で仕組みを作る」
この当事者意識が芽生えたとき、コンサルティングのロジックは、現場の人々にとっての「自分たちの武器」になります。指示されたからやるのではなく、自分たちの自由のために、新しい仕組みを使いこなそうとする。この転換こそが、私の言う化学反応の正体です。
私が「LIBERATE(解放)」したいもの
私が解決したいのは、単なる業務の非効率ではありません。 「忙しすぎて、次に何をすべきか考える余裕がない」 「自分の意見を言っても無駄だと諦めている」 「古い慣習に縛られて、本来の力が発揮できない」
そんな、組織の中に潜む「不自由」からの解放です。
業務が整い、時間に余白が生まれれば、人は新しい挑戦への意欲が湧きます。 文化が整い、心理的安全性が確保されれば、対話を通じて互いを高め合えます。
この両輪が回っている状態を、私は「自走」と呼んでいます。
私が去った後に残るもの
私たち外部のパートナーは、いつか必ず現場を去る存在です。 コンサルタントやコーチがいなければ回らない組織を創ることは、私たちの本望ではありません。
一番大切なのは、私が去った後に、その組織に「自分たちで課題を見つけ、自分たちで対話し、自分たちで仕組みをアップデートし続けられる文化」が根付いているかどうかです。
「コンサルは冷たい」「コーチングは理想論だ」 そんな既存のイメージを、私たちは現場の化学反応を通じて塗り替えていきたい。
「業務と文化の両輪を整えること」は、現場の人々に、仕事を通じた「誇り」と「主体性」を取り戻してもらうプロセスそのものです。
これからも私は、誠実に現場に寄り添い、一人でも多くの人が「自分らしく、自由に」働ける組織を、一社でも多く増やしていきたいと考えています。