モバイルゲーム市場の成熟と開発費の高騰により、新規タイトルを「当てる」ことがかつてないほど難しくなっています。そのような環境下でセガは2024年、運営に特化した新組織「オンラインモバイルパブリッシング本部」を設立しました。第3事業部・第4事業部から「運営」という機能を切り出し、GaaS(Game as a Service)タイトルのグローバル展開と長期運営を専門的に担う横断組織として始動したのです。
今回は、本部長の吉原琢朗氏と、オンラインモバイル運営戦略部 部長の藤田知之氏に、組織立ち上げの背景からグローバル展開の難しさ、この組織で活躍できる人材像まで、幅広く話を聞きました。
ゲームの運営の最前線を担う2名の歩みと現在地
――お二人の経歴と、現在の役割について教えてください。
吉原:広告代理店を経験したのち、2013年にセガに中途入社しました。ネットワーク運営部(当時)に入り、プロジェクトマネジメント部やマーケティング部を経て、複数のタイトルでプロダクトマネージャーやマーケティングプランナーを担当してきました。2022年にはSega of Americaへ出向し、北米市場での運営を経験。帰国後に副本部長を務め、2026年4月からは本部長として、オンラインモバイルパブリッシング本部全体の運営を担っています。
藤田:私は2013年1月にセガネットワークスの編成局(当時)に中途入社しました。入社後まもなくセガに転籍し、『ファンタシースターオンライン2』や韓国オンラインゲームのライセンス事業といったPCオンラインゲームのビジネスサイドを約3年担当しました。その後、六本木のセガネットワークス(当時)に移り、バンダイナムコエンターテインメントとセガゲームス(当時)で開発した『聖闘士星矢 ゾディアックブレイブ』というタイトルのセガ側の開発プロデュースに携わったのが、プロデューサーとしてのキャリアの始まりです。以来、『北斗の拳』などのIPタイトルのプロデュースを経て、2026年4月からオンラインモバイル運営戦略部の部長に就任しています。
吉原:ふたりとも入社時期がほぼ同じで、同じネットワーク系の部署からキャリアをスタートさせているんです。私がマーケティング寄りのキャリアを歩んだのに対して、藤田は開発寄りのキャリアを積んできました。それぞれ異なる専門性を持つふたりが、2024年のオンラインモバイルパブリッシング本部の立ち上げで合流したのです。
専門性の高まりとグローバル戦略を背景に「運営」機能の独立
――オンラインモバイルパブリッシング本部を立ち上げた経緯を聞かせてください。
吉原:オンラインモバイルパブリッシング本部は、第3事業部・第4事業部から「運営」という機能を切り出して独立させた組織です。背景には大きく2つの理由があります。
1つ目は、運営そのものの専門性と領域が広がってきたこと。以前は日本市場だけを見ていればよかったのが、グローバル展開を視野に入れると、国ごとの文化やユーザーの特性まで考えながら運営しなければならない。運営という仕事自体が、以前とは比べものにならないくらい高度化してきたのです。
2つ目は、新規タイトルのチェック機能を持たせることです。昨今、いいものを作っても当たりにくい市場環境になっています。開発と運営が一体になって進んでいると、どうしても立ち止まってチェックするストッパーがいない状態になってしまう。「本当にこれは市場に刺さるのか」「このまま投資して大丈夫なのか」を、開発とは独立した目線でチェックできる組織が必要だという判断がありました。
藤田:開発・運営・マーケティングはそれぞれ役割が異なります。開発はゲームとしての面白さ、つまりプリミティブな体験の質を高めることに集中する。それに対して私たち運営の役割は、ユーザーにゲームを続けてもらう理由、もう一度戻ってきてもらう理由を作ることです。
各タイトルチームの構造としては、開発・運営・マーケそれぞれからメンバーが集まり、横串で入るマトリックス型になっています。私たちは商材の設計や毎日プレイしてもらうサイクルの設計を主に担っています。
――組織として、どのようなミッションを掲げているのでしょうか?
吉原:GaaSと呼ばれる運営型タイトルを、グローバルで届け、長く運営し続けることが私たちのミッションです。最終的な目標は、このGaaSモデルの運営においてセガをグローバルトップレベルに引き上げていくこと。何百万・何千万人ものユーザーが日々プレイするメガサービス的なゲームをベンチマークに置いています。
そのために、組織内には3つの役割があります。1つ目が事業性の検証で、新規タイトルが本当に当たるのか、投資対効果はどうかを見る役割です。2つ目が運営推進で、市場の状況を把握しながらキャンペーンや施策を実行する。そして3つ目がエンゲージメントです。ユーザーに長く遊んでもらうための施策と、SNSやストアレビューといったゲーム外でのユーザーの声をキャッチし、開発にフィードバックするループを担っています。
藤田:現在、GaaSタイトルの運営は新規も含めて20タイトル近くあるのですが、タイトルごとに担当チームがあるわけではなく、本部として横断的に全タイトルの運営を担っているのです。
文化を理解し、信頼を積み重ねる── グローバル運営に必要な視点の切り替え
――グローバル展開を進めるうえで、特に注目している市場を聞かせてください。
吉原:まず地域として最も重視しているのは北米です。セガとしての成長性を考えたとき、北米をしっかり攻略できるかどうかが大きな鍵になります。ただ正直なところ、私たち自身もまだまだ学んでいる段階です。
日本では一定の成功体験がありますが、それをそのままグローバルに持ち出しても通用しません。たとえばユーザーが意見を活発に発信する文化の国もあれば、あまり発信しない文化の国もある。その違いを理解した上で、文化圏やコミュニティごとに適切な関係を築いていく必要があります。
藤田:一番大事なのは文化の理解だと思っています。欧米でも東南アジアでも、それぞれの生活様式があって、その上でゲームが遊ばれている。違和感のない形でゲームを届けるためには、私たちがそれぞれの文化を理解し、合わせに行くという姿勢が必要です。
ユーザーエンゲージメントの観点で言うと、「この運営なら意見を受け止めてくれる」という信頼関係を作ることが最も重要です。日本だけでなくアメリカやヨーロッパでも、運営への意見や評価をユーザーがSNSなどで発言する文化があります。その中でセガの運営だったら安心だという信頼を積み重ねていくことが、長期運営の基盤になると考えています。
――グローバル市場で戦うにあたって、競合環境をどう見ていますか?
吉原:中国のゲーム企業は近年ますます存在感を強めています。国内で大量にテストして成功を確認してから、莫大な広告費をかけてグローバル展開する。同じ土俵で量と予算の勝負をするのは難しい状況です。
だからこそ私たちは、セガが元来持っているファンベースを武器にしたいと考えています。セガサターンやメガドライブを子供の頃に持っていた世代の方々を中心に、セガのプロダクトに大いに期待をしてくださるファン層が、特に海外に厚く存在しています。また、ソニックというIPのファンの大半がセガ自体のファンでもあるという構図が他社にはなかなかない強みで、旧来のセガ・ソニックのイメージをいい意味で上書きしていくことがセガの戦い方だと思っています。
藤田:コアなセガファンは30代後半から40代がボリュームゾーンですが、『プロジェクトセカイ』のように若い世代が中心のタイトルも出ています。タイトルを通じたコミュニティ活動や信頼関係の構築を積み重ねることで、タイトル単体のファンではなくセガブランドのファンを増やしていく。それが今後何十年という単位での基盤になると思って取り組んでいます。
「リリースは始まり」長く愛されるゲームを生むための"柔軟な開発"
――ゲームを長く運営するうえで、大事にしている考えを聞かせてください。
藤田:私たちが最も意識しているのは、ユーザーに続けてもらう理由と、戻ってきてもらう理由を作り続けることです。開発がゲームとしての面白さにフォーカスするとすれば、私たちは「また明日もやろう」「久しぶりにまたやってみようか」という気持ちを設計するのが仕事です。
そのために、毎日のコンテンツ提供やプレイのサイクル設計、モチベーションが上がるような報酬設計まで、細かく考えています。たとえばここまでプレイしたらこういうものがもらえる、だからもっと先に進みたいという気持ちになってもらえるかどうか、その設計の精度が運営の専門性だと思っています。
吉原:タイトルをまたいだノウハウの共有も、この部署ができたことによる大きな成果の一つです。以前は各タイトルの成功事例がそれぞれの現場で止まっていましたが、今は一箇所に集約されて分析・横展開できるようになりました。
たとえばグローバルのイベントタイミングに関しては、北米であればサンクス・ギビングデーに合わせてセールを打つべきだという判断を、全タイトルに横展開できます。タイトルごとのユーザー属性は違うので全く同じことをやっても成功するわけではありませんが、「何がよかったか」を分解して他のタイトルにも活用できるようになったことが、この組織の大きな価値だと感じています。
――新規タイトルの成功確率を上げるために、どのようなアプローチをとっていますか?
吉原:まず企画の段階から私たちが入って、今の市場に合っているかどうかをチェックします。そしてローンチ直前には、セガの運営ノウハウが全てタイトルに組み込まれているかを確認する。この初動のフェーズをどれだけ高い水準で立ち上げられるかが最も重要で、今まさにそこに力を入れていて、実績が出ています。
現在は、新規タイトルのリリースについて私たちがYESと言わないと進められない仕組みになっています。開発が「リリースしたい」と言っても、運営側の目線でまだ整っていないと判断すれば、しっかり意見を出す。それが受け入れられるような関係性と、成果の積み重ねを作ってきました。
藤田:ローンチの手法としても、ソフトローンチやアーリーアクセスの活用が重要になっています。ソフトローンチであれば、文化的に近い国でまず先行テストして、メインの市場でのリリース時には改善済みの状態で出せる。アーリーアクセスであれば、コアファンの意見を吸い上げてレビューを高めた上で正式リリースできます。
一度悪いレビューがつくと、評価を立て直していくのは本当に大変です。最初から良いレビューをもらえる状態を作ることが、海外市場でも長期運営につながる大事な一手だと思っています。
生成AIは万能じゃない。企画・運営に求められる"問いを立てる力"
――生成AIは、どのように取り入れていますか?
吉原:私たちの部署では、生成AIはスピードを上げるためのツールとして活用しています。たとえばユーザーの意見を要約したり、数字をまとめたり、キャンペーン施策が景品表示法に抵触していないかを事前チェックしたり。今まで時間をかけていた確認作業を省略できるようになって、施策の柔軟性が上がっています。
何かイレギュラーなことが起きたとしても、スピード感を持って対応できる。運営においてこの素早い対応力はとても重要で、そこにAIをうまく使っていけると感じています。
藤田:一方で、AIを信じすぎることには注意が必要です。数字をまとめてもらったり、翻訳に使ったりする分には非常に助かっています。ただ考察や分析を任せると、もっともらしく見えて間違っていることがある。あくまで補助的なツールとして向き合うスタンスは崩さないようにしています。
技術はどんどん進化していくと思うので、より上手い使い方は今後も模索していきたいですが、今の段階では「AIが出した答えを人間が判断する」という役割分担を大事にしています。
世界基準で"セガらしさ"を届ける。目指すは自律型×共創チーム
――今後、組織としてどのような姿を目指していくのでしょうか?
吉原:グローバルトップレベルの運営力を持つ組織になることが目標です。ただ単に数字を追うのではなく、ユーザーと継続的に向き合いながら、データと感性の両方でサービスを育てていける組織にしたいと思っています。
中国企業のスピードや合理性から学ぶべきことはありつつも、私たちにはセガが長年かけて築いてきたファンベースと信頼があります。「セガのゲームなら長く続く」「セガの運営なら安心だ」と思っていただけることが、他社にはない強みです。その信頼を守りながら、世界で戦える運営力を身につけていきたいと思っています。
藤田:チャレンジと慎重さのバランスも大事だと感じています。新規タイトルが当たりにくい時代に、大きな投資をして勝負しなければいけないプレッシャーもありますが、常に新しいことに挑んでいかなければなりません。AI活用も含めて、変化に対して臆せずチャレンジしていく姿勢を、組織全体として持ち続けたいです。
――それらを踏まえて、どんな人がこのチームにマッチすると思いますか?
吉原:まず大前提として、ゲームが好きで、ユーザーの気持ちがわかる人です。私たちの仕事は最終的に「どうすればユーザーに届くか」に行き着くので、そこへの感度は欠かせません。
その上で、3つのスキルが特に重要だと思っています。1つ目は数字の分析力。ユーザーの動向を定量的に捉えて分析する力が必要です。2つ目はロジカルな説明力。分析した内容を開発側にも納得してもらえるよう、筋道立てて伝えられることが求められます。そして3つ目が柔軟性と共感力です。市場もユーザーもSNSの使われ方も、常に変化しています。その変化をキャッチして、ユーザーに届きやすい形に対応し続けられる人が活躍できる組織だと思っています。
藤田:私が大事だと思うのは、気づきを発信できる人です。データを見て何かを感じ取る感度はもちろんですが、それを自分の中だけに留めないで、他の人が理解できるように発信できること。提案がうまくいかなくても、へこたれずに改善してまた出していける粘り強さも必要です。
セガは「何を言ってるんだ」と跳ね返すような雰囲気はなく、懐が深い。新入社員でもタイトルの企画に関わるチャンスがあるし、提案し続けた結果として今の自分たちの立ち位置があると感じています。ゴールへの手段にこだわらず、ゴールそのものにこだわれる人。そういう柔軟さと粘り強さを持った方に、ぜひ来てもらいたいですね。