【アニメ制作会社の中の人#06】プロデューサーインタビュー/どんな作品であれ、アニメという土壌に入った瞬間に、アニメとして面白いものを作っていきたいと、私は思っています。
番匠公一(ばんしょう こういち)。大阪芸術大学映像学科卒。『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』アニメーションプロデューサー、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』、『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』制作デスク。
Production I.Gの人気タイトル『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの制作デスクやプロデューサーを務め、現在はシリーズ最新作『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』の制作デスクを務めている番匠さん。数々の現場を率いてきた、いわば“業界の先輩”に、アニメ制作の仕事について伺った。
番匠さん、本日はよろしくお願いいたします!現在どんな仕事をしているか教えていただけますか?
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』、『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』(以下、ともに『サイコパス』)の制作デスクをしています。『ジョーカー・ゲーム』や『PSYCHO-PASS サイコパス
Sinners of the System』などではプロデューサーをやっていましたが、今回は現場の要請に応えて制作デスクに回りました。
作品によって変わるんですか?
I.Gはアニメーションプロデューサーと制作デスクの仕事の垣根が低いので、作品ごとに自分がやれることをやっていく感じで進めています。今回は現場で動ける人が少なかったので、制作デスクとして現場に入りました。久しぶりだったので、なかなか大変でした。笑
プロデューサーを何度も経験したうえで、制作に戻って仕事ができるというのはすごい柔軟性ですね。それぞれ、どういったモチベーションでお仕事をされていますか?
何度も経験したくはないと言いつつも、やっぱり納品した瞬間の気持ちよさじゃないですかね。麻薬みたいなものなのかもしれないですけど、どんな現場でも俗に言うサウナのゾーンみたいに、ずっとアドレナリンが出ていて、そこから解放されるような感覚を味わえるんですよね…。
クセになっちゃうんですね。笑 たくさんの現場を担当された番匠さんだから思う、良い現場の条件はなんだと思いますか。
手の空いた制作が、ほかの人の仕事のフォローに入るという気概がある現場ですかね。たとえばいま新卒で働いている大江くんは、自分に時間ができたら、その都度いろんな制作の横について「今自分は時間あるけど、手伝ってほしいことないですか?人手足りてますか?」と聞いて回るんですよね。見ていて成長の伸び率も高いです。そういう人が一人現場にいると、周りも影響されて、自然とフォローしあうような環境が生まれます。
逆に、なにかと理由をつけて、スケジュールや作品の質にあきらめの早い現場は、どんどん空気が悪くなっていきますね。
『サイコパス』はファンからの期待が大きい分、プレッシャーもあったかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?
私個人の感覚としては、作品に対するプレッシャーというものはないのですが、ただ一つ、塩谷さん(塩谷直義監督)とどう渡り合うかというプレッシャーはありました。
近くから見て、塩谷監督のすごさはどこにあると思いますか?
まず第一に、出来上がる作品が圧倒的に面白いところです。クリエイターがついてくるのも、つまるところ作品が面白いからではないでしょうか。そして、それを形作っているのが、それぞれの過程でのディレクション力だと思います。塩谷さんって圧倒的に頭がいいんです。記憶力もいいし。その上で、打ち合わせで100%を伝えようと努力をされる方なんです。あんなにわかりやすい打ち合わせはないと思います。「何をしたいのか」が一番わかりやすいのが、塩谷さんだと思います。
また塩谷さんの特徴は、冲方さん(冲方丁)、深見さん(深見真)、吉上さん(吉上亮)という優秀な脚本陣がつくった脚本をもとに、絵的な落とし込みがされている、絵コンテを書きやすい“シナリオ調整稿”を作られるところにも見られます。脚本そのままだと絵的な表現や、予算感が見えづらい部分があるため、全体が破綻しないように塩谷さんがコントロールしています。
会社でドリップコーヒーを入れるのが日課だという番匠さん
そんな過程があって、あのサイコパスは作られているんですね。話は変わりますが、どんな人にI.Gに入社してほしいと思いますか?
普通に働いてくれる人、ですかね。でも、普通に働くっていうのが実は難しいことで、この業界はずぼらな部分もあるし、時間にもルーズだし、クリエイターもぶっ飛んだ人が多いので。そういった中で、普通の基準をもって普通に仕事をするというのが、一番大事だったりすると思います。
今後、どういう作品を作っていきたいですか?
アニメには、クリエイターの合わせ方だったり、盛り上げ方だったりによって、「作品を面白くできる力」があります。たとえば『黒子のバスケ』なども、原作とアニメ両方の力でビッグタイトルになっていった作品だと思います。
言い換えるならば、アニメという土壌に入った瞬間に、アニメとして面白いものを作っていきたいと思っています。その意味で、私は作品のタイトルは問いません。『ジョーカー・ゲーム』が映像化したときも、ああいう風になるとは私も思わなかったですもん。題材の活かし方、落とし込み方が、面白い作品だったと思います。
番匠さんだからこそ聞いてみたいと思ったのですが、アニメの面白さ、魅力とは何だと思いますか?
手描きアニメーションのすごいところは、描くだけで映像が出来てしまうことだと思います。描けさえすれば、なんでも映像にできてしまう、どんなものでも映像化できちゃうわけです。においぐらいじゃないですかね、映像化できないのは。それがアニメの魅力だと思います。
本日はお話聞かせていただき、ありがとうございました!