2026年5月20日、ファッション業界の事業会社・CVC担当者8社が集まり、BASECAMPのクロスフォーラムを開催しました。
テーマは「ファッション業界におけるオープンイノベーション」。
スタートアップとの協業、AIの活用、店舗の価値変化、サステナビリティ。
どれも業界の人なら一度は議論したことのある話題です。
でも今回の場で浮かび上がったのは、そうしたテーマへの「答え」ではありませんでした。
「分かっているのに、動けない」という、構造的な停滞感でした。
AIを使いたいが、許可が下りない
参加者のひとりが正直に打ち明けました。
「社内のシステムが保守的で、新しいツールを入れようとするとブロックされる。
でも現場のみんなは絶対に使っている。その乖離をどう埋めるか、ずっと考えている」
この言葉に、何人もがうなずいていました。
ファッション業界では、AI・データ活用の必要性は共通認識になっています。
・在庫の最適化
・接客のパーソナライズ
・顧客データの統合
・サステナビリティの可視化
どれも「やりたい」と思っている。
でも「誰がどのツールを選ぶのか」「ROIをどう証明するのか」「現場に定着させるにはどうするか」—
その手前でプロジェクトが止まってしまう。
「サービスやツールは増えている。でも、どれが自社に合うのか判断できる人材がいない」
そんな声も出ました。
店舗はなくならないが、役割は変わる。
海外のリテールカンファレンスのレポートが共有される中で、一つの問いが場を貫きました。
「エージェンティックコマースが来るとして、リアル店舗の価値は何になるのか?」
AIが顧客に代わって商品を探し、比較し、購入まで完了する時代。
それでも参加者の多くは、「店舗の価値は下がらない」という確信を持っていました。
ただし、それは「商品を売る場」としての店舗ではない。
「AIが理解した上で来店する顧客が、最終的に触れて、確かめて、納得する場所になる」
「店舗は、体験とコミュニティの拠点として再定義される」
実際、ラルフローレンが取り組むのも、
AIで接客を高度化しながら、最後の意思決定は人との対話で行うというモデルです。
一方で、課題も率直に語られました。
「リアル店舗に新しいオペレーションを導入しようとすると、500店舗×スタッフへの教育コストが跳ね上がる。
ROIが見えなくて、ECの改善が先になってしまう」
ファッション業界特有の難しさ
議論の中で、他の業界とは異なるファッション固有の構造課題も浮かび上がりました。
在庫の非効率性
過去のデータを元に生産するが、残品はセールとアウトレットで処理するしかない。
営業利益率が15%を超えにくい構造が、長年変わっていない。
人材の定着と育成
店舗スタッフのキャリアパスが見えにくく、優秀な人材が離れやすい。
インセンティブ制度の改革は進んでいるが、成果主義と組織文化の摩擦がある。
サステナビリティへの対応
廃棄の透明性、素材のトレーサビリティ、温暖化に伴う季節感の変化。
「守備範囲が急に広がった感がある。大手SIerもいない領域で、ベンチャーと一緒に解くしかない」
そして何より、時間軸の問題
「いいものを作って長く使ってほしい」という価値観と、
「新しいものを買ってもらわないと事業が続かない」という現実の間で、
業界全体がジレンマを抱え続けています。
「この場で一緒に考えたい」
今回のフォーラムは、答えを出す場ではありませんでした。
でも、それでよかったと思っています。
「全部の回が全然違う展開になる。自分たちもハンドリングできないくらい。
皆さんと一緒に作っていく、そういう場にしたい」
この会の本質を表す言葉も聞かれました。
同じ課題を持つ人たちが、同じ部屋で、正直に話す。
それだけで「自分だけじゃなかった」という気づきが生まれる。
そしてその気づきが、次の一歩を踏み出すきっかけになる。
次回は、サステナビリティ、AIと店舗体験、異業界との越境対話—
いくつかのテーマ候補が挙がっています。
「課題は分かっている。でも動けない」-そう感じていた人たちが、この場で少しだけ前に進んだ。
それが今回のフォーラムで起きたことだと思っています。
次回も、同じように正直に、同じように率直に。
業界の壁を越えて、一緒に考え続ける場を作っていきます。