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【開発秘話】国内最大級の医療ビッグデータで経営課題を発見。現場に寄り添い進化する「病院ダッシュボードχ」

Photo by charlesdeluvio on Unsplash

※経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」に関するプレスリリースを再編集し掲載しました※ 

 膨大な医療ビッグデータを紐解き、コロナ禍の『医療崩壊の真実』(詳細はこちら)に迫ったことで知られる株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC=本社・東京都新宿、代表取締役社長・渡辺幸子)。本業の病院経営コンサルティングにおいても「日本優良コンサルティング会社」(詳細はこちらを受賞するなど高い評価を得ています。

 同社はコンサルティングのほか、最大1000病院超と国内最大級の医療ビッグデータを用いて、病院のさまざまな課題解決を支援する経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」シリーズを提供しています。今回は同システムの総責任者である冨吉則行、開発責任者の太田衛に、システム開発の経緯や病院経営特有の課題、同システムの強みなどについて話を聞きました。

多方面で活躍する急性期病院の経営コンサルティングファーム

 GHCは、主に重症患者を治療する「急性期病院」(DPC病院)の経営コンサルティングファーム。国内最大級の医療ビッグデータを軸に、データドリブンかつ実行支援型のコンサルティングを行っています(事例詳細はこちら)。近年は製薬企業などヘルスケア企業向けコンサルティングにも参入しています(詳細はこちら)。

 国内最大の病院団体日本病院会」と業務提携して経営分析レポート「JHAstis(ジャスティス)」の執筆・配信を担当。がん診療連携拠点病院等の約半数が参加する「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」の事務局や米メイヨークリニック(関連情報はこちらとの共同研究(詳細はこちら)など国内外の医療機関等との研究事業も精力的に行っています。

 財務省の「財政制度等審議会 財政制度分科会」(詳細はこちらこちら)や日本集中医学会の活動に必要なデータ分析を手がけた(詳細はこちら)ほか、「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」では委員も務め(詳細はこちら)、今後の持続可能な医療提供体制の構築に向けて、国家戦略を支える極めて重要なデータ分析を担当してきました。



膨大な医療ビッグデータの分析と関係者への取材に基づき執筆した『医療崩壊の真実』(エムディーエムコーポレーション出版、渡辺さちこ・アキよしかわ著、2020年)

日本に広めた米国の経営手法「ベンチマーク分析」 

 多方面で活躍するGHCの主力事業は現在、コンサルティングと経営分析システムの提供です。コンサルティングファームである同社はなぜ、主力事業の一つに経営分析システムの提供を位置づけているのでしょうか。同社の創業期からコンサルタントとして活躍する冨吉は、経営分析システム提供までの経緯について、次のように説明します。


コンサルティング部門シニアマネジャーで「病院ダッシュボードχ」総責任者の冨吉則行

 「当社のコアバリューは、他病院のデータと比較することで課題と改善策を探る『ベンチマーク分析』です。米国では当たり前の経営分析手法だったベンチマーク分析を、当社が日本に持ち込み、広めました。当初はコンサルティングのみでしたが、ベンチマーク分析の重要性が認知されるにつれて需要が高まり、本格的にシステム提供することになりました」

 同社が提供する経営分析システムは、主に院内の診療プロセスが分かる「DPCデータ」を用いたシステムです。そのため当時の医療界の反応は、「『ベンチマーク』と言えば『GHC』。『GHC』と言えば『DPC』という状況」(冨吉)。ただ、時の流れとニーズの変化とともに、同社が提供する経営分析システムは、段階的な進化を遂げていきます。 

 「最初の段階は、当社が2004年にリリースした日本初のベンチマークシステム『DAVE(デイブ)』です。当初は我々コンサルタントが利用することを前提にシステム開発しました。やがて病院の担当者が『自分たちでもベンチマーク分析したい』というニーズが高まってきました。そのニーズに合わせて2006年に開発したのが『EVE(イブ)』(メディカル・データ・ビジョンと共同開発)です。

 ただ、『EVE』は使いこなすのに時間がかかり、『誰でも簡単にベンチマークしたい』というニーズが顕在化してきました。また、『DPCデータ以外のデータも含めて分析したい』というニーズも出てきました。これらニーズに対応するため2011年に開発したのが、『病院ダッシュボード』です。さらに、新機能の搭載や機能改善など開発スピードを飛躍的に高めるため、2017年にリリースしたのが現行の『病院ダッシュボードχとなります」(同)。

病院経営の課題と「病院ダッシュボードχ」の強み

時間も知識もない:病院経営の課題(1)

 ベンチマークシステムの進化形である「病院ダッシュボードχ」は何がすごいのか。ここからは「人」「組織」「環境」に分けて病院経営特有の課題を確認しつつ、それら課題を「病院ダッシュボードχ」がどのように解決できるのか、そのイメージを確認していきます。

 まず、病院経営にかかわる関係者の多くは、経営改善にかける時間もなければ、そのために必要な知識を吸収するための時間もないことがほとんどです。コンサルタントで「病院ダッシュボードχ」開発責任者の太田が説明します。


Multi Disciplinary マネジャーで「病院ダッシュボードχ」開発責任者の太田衛


 「ここでは詳しく述べませんが、日本は病院が多すぎることで、医師や看護師などの医療従事者が分散し、病床あたりの医療従事者数が極めて少ないのが現状です(『【序章全文公開】コロナ禍のデータが暴いた医療資源の「分散」―医療崩壊の真実』参照)。つまり、大半の医療現場は常に超多忙を極めています」

 この超多忙な現状に、さらに医療界特有の事情も重なります。

 「特別な訓練を受けず病院経営にたずさわる医師も存在します。極端なことを言うと、臨床一筋だった医師がある日突然、『明日から経営にもかかわってね』と言われるようなイメージです。常に多忙な医師が、時間も知識もない中で、臨床と経営の二足のわらじを履くのは、極めて困難なことだと想像できるのではないでしょうか。

 現場スタッフにも医療界特有の事情が影響します。意識が高く、人手もある民間病院であれば、専属の経営スタッフがいます。ただ、大半の病院は人手不足で、経営を担うスタッフは『兼任』が実情です。しかも公立病院であれば、さまざまな業界間で定期的な事務職員の人事異動があるため、『昨日まで水道局で働いていました』など医療との接点が全くないスタッフが病院経営を担うことも珍しいことではありません」(太田)。

誰でも簡単に使えるユーザビリティ:「病院ダッシュボードχ」の強み(1)

 こうした医療界特有の「人」の問題を解決するため提供する「病院ダッシュボードχ」の強みの一つが、誰でも使えるユーザビリティです。

 「病院ダッシュボードχ」にログインすると、「症例数」や「1日単価」などさまざまな病院経営の重要指標を一目で俯瞰することができます。各項目は他病院と比較した「S」から「E」の6段階評価の成績が示され、それぞれ成績が一段階上がると、どれくらいの増収効果が期待できるのかも瞬時に把握することができます(図表)。


「病院ダッシュボードχ」のトップ画面。「急性期」「地域包括ケア」「回復期リハビリテーション」「療養」などの病床別、「外来」「地域連携」のテーマを選択してぞれぞれの経営重要指標を確認することもできる

 気になる経営の重要指標は、各項目を深掘り分析できます。例えば、どの診療科のどの疾患が伸び悩んでいるのか、どの病棟の生産性が低いのかなどを、マウス操作で簡単にドリルダウンし、重大な経営課題を発見する支援をします。

 サポート体制も万全です(詳細はこちら)。看護師や医療事務経験者などがスピーディーに疑問やお困りごとに回答するサポートデスクを完備。専門用語やデータの取り扱いなどについて丁寧で分かりやすい説明文が、「病院ダッシュボードχ」のページの随所に掲載されているため、事前学習なしでも新しい知識を得ながら分析を進めることができます。

 一方で診療プロセスが分かるDPCデータ以外のデータにも対応しており、外来や手術、「重症患者割合」のデータを可視化できます(詳細はこちらこちらこちら)。自病院の財務データの可視化はもちろん、周辺医療機関における患者動向を可視化する「マーケット分析」や「地域連携分析」などの機能もあり、幅広い経営課題を瞬時に把握できる機能を、誰でも簡単に利用できるユーザビリティを実現しています。

閉ざされた専門領域:病院経営の課題(2)

 次いで病院経営特有の課題として挙げられるのが、閉ざされた専門領域です。 

 病院は大きく入院と外来の医療に分かれて、それぞれ細分化された診療科で日々、医療が提供されています。そのため、各科の関係者が他科の診療実態をほとんど把握していないのが実情です。

 加えて診療科や医師の「独自ルール」の存在が、閉鎖性をさらに深める一因になっています。ベンチマーク分析していると、他院はほとんど行わない検査、特定の医師しか処方しない薬剤などの独自ルールが次々と見つかります。こうした独自ルールの理由をたずねると、特に明確な理由がないことがほとんど。こうした閉ざされた専門領域の弊害について、太田は次のように説明します。

「ある診療科に事務職員が改善提案したら、『現場の実態を分かっていない』と言わんばかりにあしらわれることは珍しくありません。院長など幹部クラスの医師でさえ、自分の専門ではない診療科の医師には意見しづらいというのが実態です」


最大で1000病院超との主要経営指標や診療プロセスをベンチマーク。「青」「黄」「赤」のシグナルで改善すべき項目が瞬時に把握できる。

フラットな議論を実現する「ベンチマーク分析」:「病院ダッシュボードχ」の強み(2)

 これら病院特有の閉鎖的で専門分化された「組織」にまつわる課題について、その突破口となるのが、大病院の約半数の医療ビッグデータに基づくベンチマーク分析です。

 ベンチマーク分析は、他病院の状況を知ることができる最も有効な手段です。各診療科の専門家である医師に行動変容を促すのは非常に難しいことですが、ベンチマーク分析に基づくデータで「他病院と違う」ということが示せれば、耳を傾けざるを得なくなります。

 「医師は科学者であり、自らの診療行為に誇りもあるので、提案した内容とデータに納得感さえあれば、すんなりと改善提案を受け入れることも多々あります。その際に重要なのは、データの質と量です。当社が保有する1000病院超のデータのほとんどは急性期病院であり、病院数も国内最大規模。病床規模や設立母体、地域別などさまざまな条件や切り口でベンチマーク分析できるので、納得感を得やすいデータを簡単に得ることができます」(太田)。


DPCデータにとどまらず、病院経営に関係するさまざまなデータを用いて多岐にわたる分析結果を確認することができる(画像は「地域連携分析」。周辺のどの医療機関からどれだけの患者が紹介されているのか、紹介数などに応じてランク分けしている)

 質と量が担保されたデータに基づくベンチマーク分析で、閉鎖的で専門分化された専門家ともフラットな議論ができるきっかけを作れるのです。

国から求められている「病院大再編」:病院経営の課題(3)

 最後の病院経営特有の課題は、高齢社会と財政危機を背景に、国から大がかりな「病院大再編」を求められているということです。

「世界一の高齢社会、世界で最も病院数が多い日本の病院は今、国の医療費抑制策の大波とともに、病院大再編を迫られています。自病院が本当に急性期病院の立ち位置のままでいいのか、近隣の病院と役割分担する連携を深めるべきか、あるいは病院の統廃合の可能性まで考えるべきなのでは――。目の前の経営改善だけではなく、大胆で思い切った中長期戦略の立案も、待ったなしで迫られているのです」(太田)

 病院経営におけるベンチマーク分析は非常に有用なのですが、それと同じくらいに重要なことは、病院間での情報戦を制することと、二歩三歩先を見据えた経営判断を遅滞なく断行することです。

 「コロナ禍で一時的に病院大再編の議論は失速しましたが、コロナが落ち着き、いわゆる『コロナ補助金』もなくなりました。病院大再編の議論が本格化しそうな今こそ、病院経営を担う関係者には、正しい情報の入手と、それに基づくスピーディーで的確な経営判断が求められています」(同)


周辺医療機関の詳細データも分かるため、「地域で自病院がどのような役割を果たすべきか」などの分析もできる(画面は「マーケット分析」。診療科や疾患ごとの患者数の推移を周辺医療機関と比較できる)

経営改善の最前線で活躍するコンサルタントの存在:「病院ダッシュボードχ」の強み(3)

 「病院ダッシュボードχ」最大の強みは、全国の病院の経営改善の最前線で活躍するコンサルタントの存在です。単なるシステムの提供ではなく、随時、コンサルタントが重要な情報を発信するとともに、コンサルタントの判断で、必要な機能の追加、アップデートが行われます。

 会員制で毎月発行するベンチマークレポート「LEAP JOURNALでは、その時々の旬なネタを取り上げ、なぜそれが重要なのか、何がポイントでどのデータを確認すべきなのかを、コンサルタントがデータ分析とレポート執筆を担当し、分かりやすく解説します。「病院ダッシュボードχ」ユーザーに向けた年2回の「経営分析レポート」も発行しています。


「LEAP JOURNAL」のTOPページ

 毎回数百人が参加する「ミニウェビナー」や「病院ダッシュボードχ」のユーザー限定で毎月開催するウェビナー「GHC病院経営データ分析塾」もご好評いただいております(詳細はこちら)。ミニウェビナーでは着目すべき病院経営のテーマについてコンサルタントが30分程度のレクチャーを実施。分析塾では「病院ダッシュボードχ」の各機能と使い方を分かりやすく解説します。「病院ダッシュボードχ」を使い始めた方に向けた「スタートアップ研修」も用意しています。

 さらには、コンサルタントの視点で必要と判断した機能が随時、追加・更新されます。直近では、院内に掲示する義務があるいくつかの手術件数を手間なく集計できる「院内掲示(手術件数)」をリリース。2024年4月には既存のオプション機能「外来分析」を大幅にリニューアルします(詳細はこちら)。

 「当社では、クライアントが解決したい課題を『ジョブ』と呼称し、その解決に役立つ『院内掲示(手術件数)』のような機能を随時、実装します。また、全国の医療現場を知るコンサルタントが、『今後、このテーマは重要になる』と判断した課題についても、新機能追加や機能更新の開発を優先させています。『外来分析』の大幅リニューアルは、今まで以上に外来診療を効率化する必要性が高まると、コンサルタントが現場感覚から確信したためです」(冨吉)

完全無料で始められる「病院ダッシュボードχ ZERO」

 病院経営特有の課題に寄り添いながら進化し続けてきた「病院ダッシュボードχ」。2022年12月には、ついにその一部機能を完全無料で始められる「病院ダッシュボードχ ZERO」をリリースしました。「病院ダッシュボードχ」のように課題の深掘り分析まではできませんが、重要な経営指標の俯瞰やモニタリング、「院内掲示(手術件数)」のような院内のジョブ解決までは無料で提供するというコンセプトのシステムです。


「病院ダッシュボードχ ZERO」の画面。重要な経営指標を確認できるほか、「院内掲示(手術件数)」「看護必要度」「後発医薬品」「病床・外来機能報告」「病院指標」など病院経営を担う担当者の「ジョブ」に寄り添った機能を無料で利用することができる

 「リリース当時、2023年からコロナが落ち着き、本格的な病院大再編への対応が求められることが予想されていました。多忙を極める病院経営の現場に向けて我々にできることは何か。そのような思いから画期的な完全無料の経営分析システム『病院ダッシュボードχ ZERO』のリリースに踏み切りました」(冨吉) 

 病院経営の現場に寄り添いながら、国内最大級の医療ビッグデータと現場を知る専門家の強みを生かし、進化し続ける「病院ダッシュボードχ」シリーズ。病院大再編時代の今だからこそ、その進化を止めることはできません。

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