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日本の常識は世界の非常識?日米の不動産取引の違いから見えてくる日本特有の商慣習や市場構造

Photo by Hunter So on Unsplash

今回は日本とアメリカの不動産取引の違いというニッチな内容に注目したいと思います。

欧米などの海外の不動産業界で勤務経験のある方や不動産取引をしたことがある人は口を揃えて「日本と海外の不動産取引の違いにびっくりした」と言います。アメリカだけではなく、イギリスやフランス、ドイツなどのヨーロッパ先進国であっても日本と異なるようです。

おそらく世界標準で見ると日本の不動産取引の商慣習や市場の構造は少し異常なようです。今回は海外の中でも最も顕著に違いが見えてくるアメリカと日本の不動産取引の違いを解説したいと思います。

両国の違いの中でも特に注目に値するのが不動産取引を依頼する先、そして消費者が住宅を購入する時の新築・中古志向です。

日米の違い①会社で選ぶ日本と担当者で選ぶアメリカ

アメリカで不動産取引をしたことがある人は日本との違いに驚かれるかもしれません。

会社と従業員の関係について、「我社の日本」と「個のアメリカ」と言われることがありますが、それは不動産取引でも鮮明に出ており、お客様が不動産取引を希望する時に依頼する先が異なります。

これは日本とアメリカの違いと言うこともできますが、おそらくヨーロッパ先進国はどちらかといえばアメリカ型を採用しており、日本の不動産取引が世界標準と異なるということが言えると思います。ここからは、不動産取引において依頼する先を選ぶ時の日本とアメリカの違いについて解説します。

会社で選ぶ日本

日本で不動産を購入したい、もしくは保有する不動産を売却したいと考えている人は、まずは不動産会社に連絡を取る人がほとんどです。

インターネットで検索して上位表示される不動産会社、もしくは「三井」「三菱」「住友」などの財閥系企業=安心というイメージからか、これらの企業に連絡を取る方もいます。

つまり、お客様が不動産会社を選ぶ基準は不動産会社のブランドや知名度、業歴の長さといった要素です。

担当者で選ぶアメリカ

一方で、アメリカの場合には不動産の「営業マン」を基準に選びます。

営業マンは「エージェント」と呼ばれ、各エージェントは不動産会社(ブローカー)に所属しています(エージェントとブローカーの関係については後述します)。

エージェントはブローカーに所属していないと営業活動ができないので、仕方なく会社に所属する営業マンという形式ですが、社内ではそれぞれの営業マンが個人事業主のように働いています。

ブローカーのホームページでは、エージェントの過去の実績や経験年数などが公開されていて、アメリカ人はエージェントの経歴を見て、所属するブローカーに連絡を取ります。

つまり、完全な個人事業主であり、ブローカーとエージェントは会社と従業員というよりは芸能事務所と所属タレントのようなものです。

エージェントが成約した案件はブローカーとエージェントで売上を分配します。

完全に折半する場合もありますが、優秀なエージェントであれば、7:3や8:2のようにエージェントの取り分が大きくなります。ブローカーとしても取り分が少なくなっても優秀なエージェントに所属してもらった方が結果として売上が上がります。

日本では、「依頼した不動産会社が財閥系企業で安心だ」と思っていても担当する営業マンが使えない、ということは珍しくありません。

しかし、アメリカではそのようなエージェントは早々にリストラ対象になります。

また、アメリカのエージェントは成約実績が上がるほど、報酬の取り分が増え、お客様の紹介によって新しいお客様を獲得し、さらに稼ぐことができます。そのため、エージェントの間では熾烈な競争が繰り広げられます。 このように日本では「不動産会社」を基準に選び、アメリカでは会社よりも「エージェント(営業マン)」で選びます。

そして、このような違いが生じるのはアメリカのブローカーとエージェントという制度が関係しています。

アメリカでは担当者=エージェント

上述のように日本とアメリカでは不動産会社と営業マンの関係性が異なります。

日本では、営業マンは不動産会社に所属しており、固定給をもらっています。もちろん、業績連動給やボーナスという形で実績が反映されますが、基本は固定給です。

一方でアメリカでは、不動産会社や宅地建物取引業者を「ブローカー」、ブローカーと契約する営業マンを「エージェント」として、エージェントは会社とは別個の個人事業主という位置づけです。ブローカーは不動産会社の事務所を構えていますが、そこに所属するエージェントは州政府から不動産業の許可を得たプロフェッショナルです。エージェントはブローカーから固定給をもらっていません。

完全なるフルコミッションであり、エージェントの成約した案件から生じる売上をブローカーとエージェントで分配します。

日本では不動産会社がお客様から報酬を受け取り、そこから営業マンに固定給を支払いますが、アメリカではエージェントが報酬を受け取り、ブローカーが自分の取り分を受け取ります。つまり、エージェントが受け取る報酬は完全に個人の手腕に依存しています。

ブローカーは営業マニュアルを用意したり、エージェントにお客様を振るということもありません。あくまでもエージェントが過去の実績やお客様からの紹介によって、新規のお客様を獲得するのです。

これは芸能事務所と所属タレント、またはサッカーチームとサッカー選手のような関係であり、人気の高いエージェントはブローカーからスカウトされて、より好条件で移籍します。

逆に実績の上がらないエージェントはリストラされるか分配の割合でブローカーに有利な契約を締結しないと残れません。

日米の違い②新築の日本と中古のアメリカ

続いての違いは消費者の不動産に関する選好です。日本では不動産市場に流通している住宅の8割以上は新築物件です。消費者の新築志向が強く、市場にも豊富に供給されています。

一方でアメリカでは中古住宅が8割を占めています。新築の供給数は少なく、消費者に新築志向があるわけでもありません。

そのため、富裕層の日本人がアメリカで新築住宅を探そうとすると物件の少なさから大変苦労をします。

日米の不動産取引を見てみると、このように消費者の新築・中古志向が大きく異なることに気が付きます。

それでは、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。その理由について解説します。

新築志向の強い日本

国土交通省が公表している「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」によれば、日本で流通している住宅の80%以上が新築住宅であり、中古は14.7%に過ぎません。

日本では消費者の新築志向が強いと言われており、一説ではアメリカは中古住宅の割合が9割、イギリスも同様に9割、フランスでは7割となっており、2割に満たない日本はある意味で異常とも言えます。

日本では戦争中の空襲の影響で住宅が極度に不足し、「質より量」で住宅が建設されました。住宅の品質が劣悪で、20年経過すれば無価値になることから、消費者の間で「買うなら新築」というマインドが生まれました。もちろん、高度経済成長期の「男なら新築住宅を買うべし」という風潮もあります。

また、日本独特の経済状況や規制環境も影響しています。

プラザ合意の円高不況以来、内需刺激策として住宅ローンの融資額が大きく増加します。そして、バブル崩壊後は金融緩和の中で住宅ローンの金利が下がり、新築住宅でも購入できる環境が整います。日本は都市部であっても都市計画の基準が厳しくなり、無造作に住宅を建築できることから、不動産業者はあちこちに新築住宅を建築し、手当り次第に売るという状況を呈していました。

このような日本独特の事情によって、中古住宅が住宅流通数の2割以下という欧米先進国と比べると異常な低さになっているのです。

中古購入=投資のアメリカ

国土交通省が公表している2015年の住宅着工戸数は103.3万戸です。

一方で同時期にアメリカの商務省が公表している「annual estimates of the resident population for the united states」によれば、住宅着工数は117.7万戸です。つまり、1年間で市場に出回る新設住宅の日米比は1:1.13となり、日本はアメリカの9割程度です。

しかし、世界銀行が公表している世界の人口統計によれば、アメリカの人口3億3,315万人に対して、日本は1億2,583万人、つまり日本の人口はアメリカの40%にも満たない数字です。

それにもかかわらず、新築住宅の流通数がアメリカの9割程度ということは単純計算で人口あたりの新築住宅数はアメリカの2倍以上ということになります。ちなみにアメリカの住宅市場に注目すると、都市部や田舎の区別なく住宅の流通数の8割が中古です。

アメリカ人の中古住宅志向の理由①住宅の購入=投資

それでは、なぜアメリカは住宅に関して新築ではなく、中古が主流なのでしょうか。

一番のヒントは日本人にとって住宅とは「住む場所」でしかないが、アメリカ人にとっては「住む場所+投資である」という点です。

S&Pケース・シラー全米住宅価格指数という指数があります。

これは、全米主要10都市の一戸建て住宅価格の再販価格の推移を調査したもので、世界的な格付け会社であるS&P社が公表しています。

簡単にいえば、アメリカ中で実際に売買された不動産価格をまとめたものです。この指数を見れば、リーマンショックなど一部の時期を除いて、アメリカの不動産価格は右肩上がりであることがわかります。

例えば、2012年から2022年の10年間で不動産価格は2倍、1992年から2022年の30年間では約4倍に上がっています。 一方で国土交通省が公表している公示地価を見てみると、1990年代にピークを迎えた不動産価格は2020年には4分1程度に下落しています。

つまり、アメリカでは「不動産価格は上がり続けるもの」であり、日本では「不動産価格は下がり続けるもの」なのです。

したがって、アメリカ人は住む場所として不動産を購入し、引っ越しの時には値上がりした不動産を売却し、利益も獲得していくのです。

アメリカ人の中古住宅志向の理由②新築物件の建設規制

アメリカでは中古の住宅は住む場所としてだけではなく、投資対象として購入されていることを解説しました。しかし、「別に中古でなくても新築を購入して、数年後に売却すればいいのではないか。マイホームを購入するなら、新築の方がいいに決まっている」と思う方もいるかもしれません。

それでは、なぜアメリカ人の8割以上が中古住宅に住んでいるのでしょうか。

答えは簡単で新築住宅がほとんど供給されないからです。新築住宅の日米比較で、アメリカの新築住宅の建設数が少ないことを指摘しました。アメリカでは連邦政府ではなく、州政府のレベルで建物の建設について厳格な要件が規定されています。

アメリカに住んだ人なら知っているかもしれませんが、アメリカには「ゾーニング」という用途制限があります。これは、ある地区に建設できる不動産を決める規制です。例えば、この地域には住宅が建てられるが、その地域は禁止、といった具合です。さらに一定の面積のなかで、建設できる住宅の数も指定されています。ゾーニングがあるということは、日本のように無造作に新築物件がポンポン建設されることがありません。

「住宅街にコンビニがあったら便利なはずだ」という発想でコンビニを建てることもできません。

このように新築物件を建設できる地域が決まっているため、供給数が少ないのですが、たとえ新築物件を建設できる地域であっても建設許可に莫大な時間がかかります。所掌する行政の許可を得るために時間がかかるので、中古住宅の方が流通しやすいのです。

ゾーニング制度はアメリカならではですが、新築の建設を制限する規制はどこの国にもあります。

例えば、ヨーロッパ諸国では歴史ある町並みを保存するために新たに建設する住宅に強い規制がかかっており、新築物件の供給が少なくなります。このようにして見ると、新築物件がポンポン建設され、誰もが新築物件を購入したがる日本の状況はグローバルスタンダードでは、異常だということがわかります。

アメリカ人の中古住宅志向の理由③根強いDIY文化

アメリカに住んだことがある人なら分かるかもしれませんが、アメリカでは至るところにDIY用品を販売するホームセンターがあります。日本では内装のリフォームを行う時にリフォーム業者に依頼して、リフォーム業者が資材を木材点などから仕入れています。

しかし、アメリカではホームセンターで内装用の資材はなんでも手に入ります。エアコンの取り付けや屋根、壁の塗装、ドアの設置などなんでも自前でやる環境が整っているのです。アメリカのDIYの市場規模は約42兆円と日本の10倍を超えています。

このようにDIYが盛んな理由もまた「不動産購入=投資」という価値観によるものです。アメリカ人は住宅を住む場所としてだけではなく、将来的に売却して、儲けを出すことを考えています。

ボロボロの状態で売りに出すよりもこまめにDIYをして、付加価値を高めることで資産価値の向上を狙っているのです。数年後に売却しようと考えている場合にはホームセンターでトレンドの色や部材を購入して、おしゃれな内装にしてしまいます。それによって、家を手放すときに購入時の価格よりも高く売ることができます。

このように購入してすぐや売却の前にDIYをして、きれいにするので中古の物件でも抵抗がないのです。

まとめ:日本の不動産取引もアメリカ化していく?

この記事では、日本とアメリカの不動産取引の違いについて、解説しました。紹介した日米両国の違いは主に以下のとおりです。

  • 日本では不動産会社を見て決めるが、アメリカではエージェント(営業マン)をみる
  • 日本では新築住宅が人気だが、アメリカ人は中古物件を購入する

これらの違いは現地当局による規制によるところもありますが、それ以上に消費者のマインドの違いが大きいといえます。どちらの不動産取引が優れていると一概には言えませんが、アメリカ式の取引方法には学ぶところも大いにあります。

最近では、不動産セミナーなどの影響で日本でも不動産会社だけではなく、営業マン個人に注目する動きがあります。

未経験の方で不動産を始める時、会社員に属するのではなく、自分で学びたい人をみつけ、優秀なエージェントから学びことも大事ではある。



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