「無視。」と聞くと、
あまり良い印象のある言葉ではない。
でも、フランスでは「無視する」というのが、交渉術のひとつらしい。
これを ignorer(イニョレ) と呼ぶそうだ。
反応する価値があるものを選び、
言葉を交わしてもうまくいかないと感じる場面では、徹底して話さない。
相手の土俵に乗らない。
「聞く」と答えなければならなくなるから、あえて聞かない。
そんな外交技術があるらしい。
そういえば、フランス映画を観ていると、
「なんで返事しないんだろう。」
と、やきもきする登場人物がたまにいる。
あれは、この「イニョレ」を切り取ったものだったのかもしれない。
ちなみに英語では ignore(イグノア)。と呼ぶそうだ。
この話を読んでいて、ひとりの同僚を思い出した。
昔、六本木でサラリーマンをしていた頃。
前職でセールスフォースのトップ営業だったという同僚がいた。
その男は、とにかく話さないで有名だった。
提案もしない。
雑談もしない。
なのに、商談が決まる。
一度だけ、打ち合わせに同席したことがある。
こちらからの提案だったため、どう展開するのか学びたいと思っていたが、
同僚が口を開かないので、沈黙が続き、
クライアントの方が気を遣うように話し始めるという不思議な展開になった。
自ら課題を話し、
自ら悩みを話し、
最後には、自分たちで結論までたどり着いていた。
あの時、何をどう参考にしていいのか分からなかったが、
今思えば、あれも一種の「イニョレ」だったのかもしれない。
今振り返っても、肝が据わっているなと思う。
沈黙は、意見を持っていない人ではなく、意見を持っている人ほど使える技術なのかもしれない。