店舗を中心に商品やサービスを提供する「館業」から、一人のお客さまと時間や場所を越えてつながる「個客業」へ。三越伊勢丹グループでは、百貨店そのものの進化に向けて、IT基盤のモダナイズと開発の内製化を進めています。
今回は、「ITmedia Enterprise IT summit 2026 summer」でお話しした「三越伊勢丹が描く百貨店の進化〜段階的モダナイズと内製化の実践」の内容から、その取り組みをご紹介します。
百貨店は「館業」から「個客業」へ
三越の前身である越後屋は、1673年に創業しました。当時一般的だった得意先を訪ねる商いに対して、店頭で商品を選び、現金で購入する販売の仕組みを広げていきました。その店構えは、当時の浮世絵にも描かれています。
奥村政信 駿河町越後屋呉服店大浮絵
それから約350年。お客さまと百貨店との接点は、店舗の外へ大きく広がりました。
三越伊勢丹アプリ、海外のお客さま向けの「MITSUKOSHI ISETAN JAPAN」、Web決済など、店舗に来なくても利用できるサービスが増えています。こうした変化の中で三越伊勢丹が目指しているのが、店舗を中心とした「館業」から、一人のお客さまと時間や場所を越えてつながる「個客業」への進化です。
館のITから、個客のITへ
その実現には、顧客接点だけでなく、裏側のITも変えていく必要があります。
必要な機能から、段階的にモダナイズする
三越伊勢丹グループは2019年に社内外の有識者を集め、レガシーシステムを今後どう刷新するかを議論しました。
そこで採用したのが、共通基盤を整備し、必要な機能から段階的に移行するストラングラーパターンによるアプローチです。2019年の先行プロジェクトを経て、2020年から「ビジネスプラットフォーム(BPF)」という名称で整備を進めています。
BPFは、DXサービスやレガシーモダナイズを支えるクラウド基盤です。マネージドサービス、サーバーレス、コンテナを活用し、インフラ構築の自動化を進めており、現在は約700のサービスノードが稼働しています。
ビジネスプラットフォームとは
既存のレガシーシステムを稼働させるクラウド基盤とBPFは分離し、新たなDXサービスやモダナイズした機能はBPF上に構築します。その間をブリッジAPIでつなぎ、必要な機能から移していく「ストラングラーパターン」を採用しています。
既存システムの複雑さをそのまま引き継がず、今の事業に必要な機能を見極めながら更新していく考え方です。
物流改革で実践する段階的モダナイズ
その実践例の一つが物流です。
三越伊勢丹では、店舗、中元・歳暮、ECなど、それぞれのチャネルに合わせて物流の仕組みが構築されてきました。物流センターも複数に分かれ、運用方法も異なります。
一方、お客さまの購買経路が広がるにつれ、物流にもチャネルを越えた対応が求められるようになりました。
現在は、配送依頼システムと物流関連システムをブリッジし、必要な業務機能を小さなサービスとして構築しています。完成した部分から順次切り替えることで、現在の業務を止めずに物流全体を更新しています。
小さくつくることで、社員が最後まで関われる
機能を小さなサービスに分けることは、開発のあり方にも影響します。
巨大な基幹システムでは、一つの変更でも影響範囲が広く、多くの関係者との調整が必要です。サービス単位であれば、開発チームが理解し、責任を持てる範囲を限定できます。
物流改革では、社員が物流部門と直接話し、現場の課題を理解するところから開発に関わっています。その内容をもとに設計し、社員とベンダーの混成チームで実装。リリース後は、実際の使われ方を確認しながら改善につなげています。
現場を知る。考える。つくる。使われ方を確かめる。
こうした一連の流れに関われることが、段階的モダナイズによって生まれている内製化の形です。
内製化によって、業務とシステムの両方が見える
内製化によって、社員が見る範囲も広がっています。
実装だけを切り離すのではなく、その機能がどの業務で使われ、何のためにつくられているのかまで理解する。さらに現場で使われるところまで関わることで、自分たちの仕事が業務にどう影響したのかも分かります。
三越伊勢丹グループでは、こうした経験を通じて、業務とシステムの両方を理解する人材を増やしています。
IMDLが、新しいサービスとIT基盤をつなぐ
三越伊勢丹グループでは、三越伊勢丹ホールディングスの情報システム統括部、三越伊勢丹システム・ソリューションズ(IMS)、弊社アイムデジタルラボ(IMDL)の3組織が役割を分担しています。
グループ全体のIT統制や技術戦略を担う情報システム統括部、BPFとレガシーシステムの開発・保守・運用を担うIMSに対して、IMDLはDXサービスの開発を担いながら、IMSによるBPFの整備も支援しています。
顧客向けのサービスと、それを支えるIT基盤の両方に関わることが、IMDLの特徴の一つです。事業の変化を、実際のプロダクトやサービスへつなげていく役割を担っています。
「個客業」から、百貨店の次のビジネスへ
「個客業」を考えるうえで、百貨店が長く培ってきた強みの一つが外商です。
勝川春章《かゐこやしなひ草 第十二》
外商では、お客さまの好みやライフスタイルを理解し、その人に合った商品やサービスを提案してきました。三越伊勢丹では、この関係を「店の専属セールス」から「ONEグループ外商」へ広げようとしています。
一つの店舗に閉じず、グループ各社の商品やサービスを組み合わせながら、一人のお客さまと長く関係を築いていく。そのために、顧客情報や商品情報を活用し、お客さまに合った提案を生み出す仕組みづくりを進めています。
外商は、その変化を考える一つの入口です。
店舗、EC、外商といった接点を越えてお客さまとつながることができれば、百貨店の役割も広がります。商品を販売する「館」を運営するだけでなく、お客さまとの関係を起点に、新しいサービスや事業を生み出していく。
AIをはじめとする新しい技術も、そうした可能性を広げていきます。
350年以上続く百貨店の、次をつくる
約350年前、越後屋は新しい店舗販売の仕組みを広げました。今、三越伊勢丹はデジタルを使い、お客さまとの関係を起点に百貨店の新しい形を模索しています。
そのために、既存システムを段階的にモダナイズし、現場とともにサービスをつくれる開発体制を整えてきました。
百貨店の仕事を知り、技術を知り、その両方を使って次の百貨店をつくる。
IMDLで関わるのは、既存システムの刷新だけではありません。長い歴史の中で培われてきた百貨店の強みを生かしながら、新しいサービスや事業を形にしていく仕事です。
アイムデジタルラボでは、現在、DX推進を一緒に進める人材を募集しています!