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雑誌 『装苑』 2024年3月号:インタビュー VOL.6 最終回 ポケコロクリエイターズ×ha|za|ma 松井諒祐 座談会

この記事は「『装苑』 2024年3月号」に掲載された記事の一部を許諾を受けて転載しています。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup : Kanna Hidaka

仮想空間で活躍するファッションデザイナーになるには?

VOL.6 最終回
ポケコロクリエイターズ×ha|za|ma 松井諒祐 座談会

仮想空間で過ごすための「アバター」への注目度がぐっと高まっている今。その中で、アバターを取り巻く仕事は、新時代の職業として熱視線を浴びています。ポケコロシリーズで有名なココネさんとともに、アバターデザイナーの仕事を知る連載。その最終回は、ゲストにha | za | ma(ハザマ)のデザイナー、松井諒祐さんをお迎えし、ポケコロのデザイナー陣とともに「ストーリーのあるアイテムの作り方、伝え方」をディスカッション! クリエイターとして共鳴する部分も多い両者のお話をたっぷりお楽しみください。



ストーリーのあるアイテムの作り方、伝え方

クリエイションの醍醐味はお客さまの反応を知ること

広瀬恵未(以下、広瀬) ハザマには、勝手ながらずっとポケコロとの親和性を感じておりました。それは、ある一つの世界観をベースにアイテムが考えられていることと、一着一着に物語性が反映されている部分なのですが、いつもコレクションを作る時、テーマをどのように考えていらっしゃいますか?

松井諒祐(以下、松井) 架空の世界をつくってしまえば、テーマは無限に広がっていくな、というのは最近すごく感じていることです。例えば、既存の小説をテーマにしたり時事的な問題をテーマにすると、どうしても実際にあるものを掘り下げていくことしかできなくなりますよね。それが自分でつくった世界のお話なら、どこまでも枝葉を広げることができます。そして、その世界観に入ってもらうために「服の手前で伏線を張っておく」というのも、よく意識していることです。

高松麻実(以下、高松) ポケコロでも、物語を考えてからそこに出てくるキャラクターの性格は?お洋服は?と、広げていくことが多いです。私の場合、その時々の流行や、周囲から受ける影響も大切なインスピレーションになっています。最近の傾向として感じるのは、世界線の全然違うものが一緒にあることが普通に受け入れられやすくなったということです。

長沢和恵(以下、長沢) コロナ禍以降の傾向として、インテリアも、お洋服のコーディネートも、自分のリアルな生活に近いナチュラルなテイストを楽しむお客さまが増えたようにも思います。今まではお姫様のような格好をする、などどこか理想を投影したようなコーディネートを楽しまれる方が多かったのですが、どんどん皆さん自身の近くにアバターが来ていることを感じます。

松井  お客さまの動向をよくリサーチされているんですね。僕も相当エゴサをしていて、LINEで質問を受け付けて全部手動で返事をしたりしていますが──要望にはあまり応えません(笑)。コレクションラインでは自分のやりたいことをとにかくぶっ飛んでやることを大切にしていて、それをお客さまに楽しんでいただけたらいいなと思っています。ただ、フィードバックを生かせる部分は絶対に生かしたほうがいいと思っているので、知りつつ自由にやる、というバランスですね。

広瀬  私も、とてもエゴサしてしまいます! 自分や仲間たちが作ったものをお客さまにお届けした時に、よい反応も悪い反応も、厳しい言葉も含めてどういった反応がいただけるのかを見るというのは、作り手にとっての醍醐味だと思っているんです。


広瀬恵未


松井  醍醐味っていうのは本当にそうですね。作っているのにお客さまの反応を見ないなんて、逆に何のために作ってるんだろう?って思っちゃう。自分のためにお客さまの反応をリサーチしているところがあります。

長沢  私はお客さまにプレゼントを手渡ししているような気持ちで一つひとつのアイテムを作っているので、喜んでいただけたら本当に感動しますし、よい反応が返ってこなかったとしても、私はまだまだ魅力を伸ばせるんだ!と燃えて、逆に元気になります。

広瀬  前向きで素敵!


ha | za | ma(ハザマ)とは?

松井諒祐さんがデザイナーを務める、2014年設立のブランド。着る人の想像力を刺激する物語性とものづくりへの真摯な姿勢が支持を集め、SNSを中心に多くのファンを獲得。’23年、セカンドライン「は | ざ | ま。」をスタート。
写真は、ハザマ 2023 ランウェイコレクション「UNKNOWN UNKNOWN(未知の未知)」より。ブランド史上2度目となるショー形式の発表を行ったシーズン。下は、高松さんが好きだという一着「見えないものを見ようとして見上げた夜空に駆ける透明彩度のワンピース」。


松井諒祐(ha|za|ma デザイナー)


創作の核にある「ギャップ」と「概念的デザイン」

松井  それで言うと、自分が「超いい!」「最高!」「絶対伸びる!」と思ったものが案外伸びなかった……っていうことはよくあります。逆に意外なものが人気になって伸びたことも。

高松  「意外に伸びたもの」はなんですか?

松井  手のひらのヒールのパンプスは、絶対に売れないって思っていました。

一同  ええ〜!(驚)

松井  あの靴はもともとショー用に、10足だけ作る予定だったもので。だけど結構伸びたので商品化することになったんです。

長沢  パンプスシリーズで、ヒールが引き金になっているものがありますよね。それを見た時、とても驚きました。女性らしいヒールの靴に、男性的なアイコンと思える銃を組み合わせるミスマッチ感。足もとだけでこれほどのインパクトを与えられるんだという感動があったので、反響が大きかったのはよくわかります。


ハザマを代表する人気アイテムが、デザインヒールのシューズ。上 長沢さんが衝撃を受けたという「惹き鉄となるヒールパンプス」、下 「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」。これらの靴はカプセルトイとしてミニチュアが販売され、それも大きな話題に。


松井  もともとは天使の羽がついた魔法少女のおもちゃの銃のような靴を作ろうとしていたところから、羽がなくてもデザインが完成してるねと、そぎ落としたのがあの形。先ほど、世界線の違うものの組み合わせが人気だという話がありましたが、「ギャップ」は僕自身のデザインやものづくりの最も根幹にあるものだなと思います。

広瀬  ギャップといえば、私が驚いたのは2021-’22 年秋冬の「虚空を紡ぎ、織り成す物語のワンピース」。素敵なシルエットの美しいワンピースだな、とスマホで画像を拡大したら、なんと柄が虫っぽい! 私は虫が本当に苦手なので、この虫のモチーフを素敵と思ってしまった感情は取り消せないと思ったら悔しくて(笑)。いい意味で裏切られた、大好きなワンピースです。

広瀬さんが印象に残っているハザマのアイテムは、2021-’22年秋冬「legendary clan(伝説の一族)」より、「虚空を紡ぎ、織り成す物語のワンピース」。エレガントなワンピースの柄のモチーフが、図案化された虫のモチーフだったという意外性に驚いたそう。


松井  それもギャップですね! あの時は、クモや蜂がモチーフにあるから展示会に来ないっていう方もいました(笑)。クモは無限に糸をはき出せて、蜂は待ち針のよう……という架空の民族が暮らす場所の虫たちという設定があってキャラクターとしてかわいかったので、僕としてはアリだと思っていたんです。
 僕は「ポケコロ」で遊んだら、「このデザイン、すごいわかるわ」っていうものばかりでした。概念としてしっくりくるものが多くて、着せ替えをするのが本当に楽しかったです。

一同  ありがとうございます!

松井  概念的な表現っていいものだなと思っていて。例えば、’23 年冬に映画『ゴジラ ー1.0』とコラボレーションして、ヒールがゴジラの手のパンプスを出したのですが、あの手はゴジラですと言い切ることで刺さる人もいる一方で、言わなければ恐竜やドラゴン、モンスターが好きな人にも刺さる可能性があるんです。概念的なデザインは、見る人の好きなものに、自由に置き換えが可能なんですよね。

長沢  とってもわかります。漫画やアニメにヒントも得ながら、ポケコロの中には概念的なアイテムを増やしていきたいと常に思っています。そうすることで、たとえ共通の認識でなかったとしても「私にはこう見えるから好き」という広がりが生まれる。あえて明言しないことでその人のヒストリーに刺さり、独自に楽しんでいただけるよさが生まれます。

長沢和恵


松井  余白を持たせることは大事ですよね。

高松  余白という言葉は、とてもしっくりきます。過去に自分がディレクションしたガチャに、アダムとイブを題材にしたものがあったんです。林檎や失楽園の退廃的なイメージを使ったりと、それらしいモチーフは随所にあっても、はっきり題材を示さずに「忘れられたメリーゴーラウンド」というタイトルをつけていました。遊んでくださる方の想像をかき立てて、物語を探究していただく楽しみを作るために考えた結果の「余白」でした。

広瀬  お客さまがこう捉えてくださったんだ!というのは作り手側としても新たな発見になって面白いんですよね。裏設定まで詰めていても、それはあえて見せすぎないようにすることが多いかもしれません。

高松  デザインを訴求する際に言葉の作用も大きいかと思いますが、ハザマのお洋服についているタイトルは、デザインの前と後、どちらのタイミングでつけることが多いですか?

松井  結構どちらもありますね。「ニートニット」などは完全にタイトルからで、お察しいただいているとおり、ただのダジャレです(笑)。でき上がった後につけることも本当に多いです。なぜ洋服に名前をつけるかというと、それは僕がSNSでルックを発表してきたからという側面が強いです。通常、ルックはコレクションとして一気に見せちゃうと思うのですが、SNSでは1アイテムずつじっくり発表したほうが注目していただけるので、その際にインパクトを出すためにもつけ始めたのが最初です。これも結構すんなり決まるんですよ。考える時は概念に対する類語を調べ、字面を決めた後、ほかの文字に置き換えられないかも考えます。ありがちな言葉も、漢字を変えるだけでよく見えることがあります。

長沢  ガチャのタイトルは、みんなで相談して素敵なものになることもあれば、最初から決まっているパターンも結構あります。’23 年5月に「わるいこ×♡よいこ」というガチャを出したのですが、これは案出しの時からずっと同じタイトルでした。このタイトルが皆の共通認識になっていて、これ以上のものはないねと。松井さんがつけるタイトルもお客さまに共通認識を生みやすいものだなと感じていたので、すんなり決まると聞いて納得しました。


ポケコロのガチャ。上「忘れられたメリーゴーラウンド」、下「わるいこ×♡よいこ」。


言葉から発想するデザインの生み出し方

松井  タイトルは最初に出た直感的なものがいちばん強いっていうのはあるかもしれませんね。デザインする時にも、僕は言葉をたくさん書き出しているんです。言葉と言葉をどんどんつないでいって、そこから派生する言葉をまた書いて……というようにノートに書いていく。だから名前を決めるのが早いのかもしれませんね。

長沢  視覚的なことではなく単語同士の組み合わせから生まれる発想には、新しい面白さがありそうです。それらは連想ゲームのように書いていくのでしょうか?

松井  連想で出てきているものもあれば、単なる言葉の羅列という部分もありますね。全然関係ないところに書いた言葉同士をつなげて「決定」となれば、一つデザインの核ができ上がります。頭の中にビジュアルやイメージはあるのですが、それをよい形で伝えるだけの絵のスキルが僕にはあまりないので、この方法に行き着いたのかもしれません。
 ’21 -’22 年秋冬の「legendary clan(伝説の一族)」の頃のノートを見ると、〝獣人ハンドドレス〟と書いてあります。もう、ここでは「ゴジラ」コラボレーションでやったようなことを想定していたのですが、この時にはやっていなかった。ノートからアイデアの萌芽の時期がわかります。

広瀬  面白いですね。ポケコロのデザイナーの中には、こうしたデザイン方法をとっている方はまだ見たことがないのですが、全体の世界観をつかさどるテーマを考える時には、こんなふうにたくさんのワードを並べて、合うものを拾っていくことがあります。

長沢さんが好きなハザマのアイテム。2021-’22年秋冬「legendary clan(伝説の一族)」より、「見えないものを見ようとして見上げた夜空のファーダッフルパーカー」。リアルな服でここまでボリュームのある服をデザインして、まるで2次元のようなかわいさを表現できるなんて、と胸を打たれたという。


松井さんの私物ノート。写真は「legendary clan」のページで、あらゆる単語や装飾技法、素材などが書き連ねられ、関連する単語同士が線で結ばれている。


創作のモチベーション、ストーリーを生み出すものづくり

高松 私の場合、創作において自分を表現したいというよりは、自分とは全然違う立場で同じものを見たらどういう解釈をするのか? どんなふうに色をのせるのか?というのが表現したいポイントなのかなと思っています。

高松麻実


松井  それを聞いて思い出したのがルックの撮影。撮影は、アートディレクター、カメラマン、ヘア&メイクなどたくさんの人が一緒に表現してくれるんです。それを「見たい」という思いが僕も強いですね。撮影だけでなく、あらゆる制作に関わってくださる方々に対しても同じです。自分の妄想をトップクリエイターの人たちの考えや表現を交えて、現実のものとして見られるなんてあまりにも贅沢なことで、それをどんどん見たいという気持ちが強い。皆の解釈を知りたいし、その先にどんな景色があるのかを見たい。僕も、「自分をわかってくれ!」っていう作り方ではなく「自分が見たい」んです。だから、作る動機は〝楽しいから〟ですね。つらいとかはあんまりなくて……売り上げを気にしなきゃいけない時は結構つらいんですけど(笑)、基本的に楽しいから作っている、というのが大きいです。

長沢  私には、創作の原点となる記憶があって……。それは小学生の頃、ショッキングピンクのコートを着て学校に行ったら、クラスメイトから笑われてしまった、という思い出。自分の好きなピンク色をそのまま表現したら周りに不思議に思われてしまった、というのがすごく悔しくて。それで、絵の中の世界は現実よりも自由なので、絵としての表現に惹かれるようになっていったんです。ただ、今は、それがイラストのお洋服だとしても実際のお洋服だとしても、皆と同じものを作らないことで誰かの「好き」を肯定できたり、その人の人生のストーリーを膨らませられるんじゃないか、と考えるようになりました。「共感」も大事にしていますが、ただ「わかる、わかる」と思われるだけではなく、二度見、三度見していただけるようなものを作るアプローチも大切にしています。

松井  僕は共感は狙っていないところがあるので、最後のお話はよくわかります。100人に刺さらなくても、一人に100人分刺さればそれでいいかなって思っているんですよね。熱量としてはその両方とも同じだと思っていて、むしろ一人に100人分刺さったほうが熱狂的なファンができるという点で強い。共感を呼ぶのも大事だけど、ただ共感だけでは満たされない人も絶対にいるので、知らなかったものに触れられたという感動を与える気概も、作り手には必要かなと思います。


今月のまとめ

ストーリー性のあるアイテムは、一人の中に100人分の熱狂を生み出し得る!




『装苑』 2024年3月号

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