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日本の研究開発はイノベーションの種に溢れている、Co-LABO MAKERが事業を行う理由

研究開発実験のシェアリングサービス、LaaS(Lab as a Service)という概念を元に、日本の研究開発現場のアップデートを目指す株式会社Co-LABO MAKER。創業から6年たち、事業をともにする大学は23を超え、マッチングの事例も400を超えてきました。改めて、事業を伸ばすに辺り、代表取締役の古谷優貴さんにこれまでの経歴と事業の立ち上げ期を振り返って感じることについて聞きました。

古谷優貴
Co-LABO MAKER 代表取締役 / 株式会社C&A 主任研究員 / 東北大学工学研究科博士課程/東北大学特任准教授(客員)。
大学ではシンチレータ(放射線検出用結晶材料)を研究した修士の2年間で、査読つき主著論文8本執筆(他に特許5本、国内外学会発表・共著論文多数)。2011年より昭和電工株式会社にて、パワー半導体結晶(SiC)の研究開発・事業立ち上げに従事。第2回MVPアワードにて最優秀賞を獲得。趣味は釣り。

工学部から大手の化学工業メーカーへ

――代表である古谷優貴さん、ご自身のご経歴を教えてください。

古谷:出身大学は東北大学工学部の材料科学総合学科です。耐熱合金・ゴム金属・スピントロニクス・生体材料・電池材料など様々な新材料を生み出してきた学部で、学部4年生のときは人口筋肉、修士ではシンチレータ(放射線検出用結晶材料)を専門にしていました。シンチレータは病院のX線や飛行機の手荷物検査で放射線を感知する材料ですね。

その後、2011年に昭和電工に入社し、半導体結晶を作るパワー半導体プロジェクトに5年間従事していました。他社さんと技術を学び交換をして、結晶成長工程の立ち上げを工場で行っていました。

研究設備は稼働していなくてもったいない

――Co-LABO MAKERを立ち上げるにはどんなきっかけがあったのでしょうか?

古谷:大学で研究していたときも、社会人になってからも「研究設備はフル活用せずに余っていてもったいない」という課題感を持っていました。研究の世界は属人化しがちです。一台、何千万円~数億円の装置や機械があってもその研究を引き継ぐ人がいなければ、その装置の稼働率は下がってしまいます。企業内でも「必要だから保有しているけれど、実際に稼働するのは月に数回のみ」といった装置はたくさんあります。

また、「研究者には選択肢がない」という課題感もありました。「アイディアを思いついたから……」と実験をしたいときにすぐに実験できる環境がないのです。企業内に実験設備がなければ予算を取るべく、経営陣に説明をして説得ができても、「今年は予算ないから」と言われたら翌年になる……といった制約が生まれてしまいます。「他の部署が使いたい装置を持ってるから借りよう!」と交渉しても、意外と製品の製造に使っていたりするので社内で実験できる環境になかったりします。すると、「あるものでなんとか実験しよう……」と思考が落ちてしまいます。

研究におけるハイパフォーマンスは「環境」が大事である

――あるものでなんとかしよう、という構造に陥ってしまうのは日本企業のあるあるかもしれません。

古谷:かもしれませんね。ただ、私には強烈な原体験があります。自慢になると恐縮なのですが、私は大学修士課程の2年間で、査読つき主著論文8本執筆(他に特許5本、国内外学会発表・共著論文多数)という成果を出せました。一般的な認識では修士の期間に1本論文を出せたら「かなり頑張っている研究者」という感じです。

確かに自分自身もすごく頑張って研究に打ち込んだのですが。こんなに成果を出せたのは環境要因が大きいと思っています。同じ研究室内に複数の専門家が居て、師事する先生もネットワークが強かった。自分の研究も、すぐに結晶を作り、翌日には隣の部屋の装置を使い評価をし……と数日単位の早いサイクルで回すことができました。一般的な修士の学生にはネットワークもノウハウもないので、どこかの研究室と共同研究契約を結び、アポが取れて実験ができ、評価してもらうためのサンプルを作ってフィードバックをもらい……と数か月かかるものです。

研究でハイパフォーマンスを出すためには「どこにどんな機材があり」「誰がそのノウハウを知っているか」をクリアになればいい。本来、装置などのリソースは余っているので、環境さえクリアになれば研究の生産性は遥かに向上すると思ったのです。

稼働していない装置や実験設備と、それを借りたい企業をマッチングさせれば……日本の研究開発の現場にある負をいくつも解決した上で、より大きな成果が得られる。このアイディアを思いつき「日本の学術研究のポテンシャルをまるで変える事業になる」と思い、Co-LABO MAKERを創業しました。

――ご自身の研究に対して未練はなかったのでしょうか?

古谷:研究自体は楽しいですし、成果も出ていましたからね。仮に起業に失敗してもいつでも研究者に戻れると思っていました。ただ、研究に没頭することで自身の視野が狭まっていく感覚は持っていましたね。それから「なぜ研究が好きか?」を自分に問うてみたら、「新しい価値がある発明を見出して実際に形にする」のが好きだったことに気が付きました。これは、「事業を作る」のも一緒なこと。LaaS(Lab as a Service)というこのエコシステムを作れたらすごく面白いと思った次第です。

変化を起こすのは時間がかかる

――事業を行っていて難しさを感じることはありますか?

古谷:創業から6年経ち、今改めて「変化を起こすのはすごく時間がかかる」と実感しています。特に大学では学内での規約や予算の制約が難しい。国立大学ならば国からお金を得て研究を行っていますから、正当に使わなければならないプレッシャーもあります。そのなかで、民間企業が入って効率化していくのは大学としても踏み出しにくいものです。

また、事業を作るに当たってLssSという「研究開発リソースのシェアリング」は変わっていませんが、小規模なピボットはたくさんしています。創業当初は実験設備の時間貸しにしていたのですが、なかなか採算が合わなかったりしていましたね。それから、2020年からのコロナ禍によるダメージも受けました。緊急事態宣言下では大学も立ち入りができなくなり、大企業も出張が禁じられるなど八方塞がりでしたね。なんとか、感染対策に気をつけながら中小企業同士をマッチングし、資金調達をしながら乗り切りました。

SDGsや地方創生にも繋がっていく

――事業を行っていくなかでのやりがいや、今後について教えてください。

古谷:Co-LABO MAKERは立ち上げの泥臭いフェーズを乗り越えて、段々とスマートにしていくフェーズに差し掛かっています。お付き合いしている大学も全国23大学になり、マッチングの事例も400を超えてきました。大企業と国立大学のマッチングは両者ともにレギュレーションが厳しいのですが、それを乗り越えてきて、スケールするフェーズに入ってきています。

それから、マッチングした案件によって論文が書けた方がいたり、Co-LABO MAKER経由で受注を見込み、改めて実験設備を拡張してくださった企業などもあり本当にありがたい限りです。大学発のベンチャー企業やバイオベンチャーも非常に増えており、研究開発のニーズは高まっています。毎日のように、マッチングの借り手側からも受け手側からも感謝や応援のご連絡を頂きます。日本の研究開発の現場が非常に活気づいていることに嬉しさを感じます。それから、イノベーションの最先端に居られることにも喜びを感じますね。

昨今はSDGsが注目を集め「脱炭素社会」の実現のために何ができるかが重視されていますが、その脱炭素社会のためには、化石燃料に変わるエネルギーの研究開発が必須です。また、地方大学でのラボが稼働することによってその地方で雇用が生まれたり、新たな拠点ができたりする可能性も感じています。Co-LABO MAKERはSDGsや地方創生にも寄与していると思うと本当にこれからが楽しみ、ですね。

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