初めまして、アートのサブスクCasieを創業し、代表を務めている藤本翔(@shofujimoto)と申します。このnoteではぼくがCasieという会社(事業)をどんなキッカケ、想いではじめたのかという理由を書きます。実はこうして、改めてちゃんと書くのは初めてです。
アートのサブスクは創業当初、誰に相談しても無理だと言われ続けてました。
・画家の需要はありそうだけど、ユーザーニーズある?
・日本でこのビジネス無理なんじゃないか?
・強い意志よりも確固たる市場の方が大切だよ
・Tamがデカく見えないとVCも資金出さないよ
・絵画サブスクなんて今まで皆失敗してるじゃん、何で今更?
ある一定の市場が存在し、成功確率の高いところで勝負する方が賢明だと多くの人に止められましたが、ぼくにとってこの事業は「ビジネス」というよりも「革命の戦い」に近かった。すごく考え抜いた結果、ある結論にたどり着いたんです。「ぼく以外にこの事業を本気で人生かけてやれる人はいない。」
最近になって、「絵画レンタルは色んな会社が挑戦したけど、皆ダメだった。Casieさんは上手くやりましたね!」とありがたい言葉をいただくことが増えてきましたが、正直まだまだ求める場所にたどり着けてないです。誰もが「絶対無理だ!」と言い続けた挑戦をぼくが始めた理由と、続ける理由をお伝えします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
アーティストだった亡き父親の意思を受け継ぐと決めた
よく「あなたもアーティストですか?」と聞かれるけど、ぼく自身はアーティストでもなければ美大出身でもない。社会人としてのキャリアも特にアート文脈なものはない。普通のサラリーマンだった。だけど自分の父親が絵描きだった。小さい頃からよく父のアトリエ、、、と言っても家族で住んでたマンションの一室だけど。そこで絵を描いてる父の隣でよく宿題をしてた。今でも絵の具の匂いを嗅ぐとそのころの記憶が鮮明に蘇る。
▲ 左:藤本翔(小学2年生) / 右:藤本幸三(31歳)
父はぼくが小学5年生の時に病気で亡くなった、34歳という若さだったのでアーティストとしてだけでなく、父親としても無念が多かったと思う。ぼくにとって父は孤高の芸術家というイメージで、あまり周囲とは馴染めない感じだった。芸術家としてのセンスは今でも素晴らしいと感じるけど、商売が上手とは言えず、創作活動だけで生計を立てていくことができなかった。家族の大黒柱として稼がないといけないので、当時はテレフォンカードのデザインやどこかの設計事務所から依頼されたリゾート施設やマンション、商業施設などの完成予想図を描いて収入を得ていた。
だけどこれらは依頼人が明確にいる「受託仕事」だったので、父が本当に描きたかったものではなかったと思う。また、数少ない父の友人もアーティストだったけど、これもやっぱり生計を立てていけないという理由で結婚や出産のタイミングで企業に就職していく。そしていつの間にか創作活動自体を辞めていく人が多かった。
それを見てなのか、父はぼくに「サラリーマンにだけは絶対になるなよ!」って言ってた。小学生のぼくはサラリーマンが何かよく分からなかったけど、「サラリーマンはアーティストの天敵」という印象だけ勝手に持ってた(笑)。父は生涯、アーティストとして人生を全うした。めちゃくちゃカッコいい父親だった。だけど決して有名なアーティストではなかったため、代表作という作品を残すこともできなかった。
もし父がもっと自分が描きたい作品に集中する時間と資金があれば、チャンスはいくらだってあったかもしれない。日本には創作活動だけで生計を立てる術があまりに限定的すぎるため、せっかく作り上げた作品を流通するチャンス自体がなかった。このやり場のない悔しい思いを持ったアーティストは多分、たくさんいるはず。そんな彼らのために、全く新しいアートの流通エンジンを作り上げたい。そう中学生になったばかりの頃から漠然と考えるようになった。
どうしたらいいか具体的なプランがないぼくは、何となくアーティストとは全く別の道を歩みはじめた。「新しいアートの流通エンジンを作る」という想いは持ち続けたまま。自分1人じゃ10人のアーティストは応援できるかもしれないけど100人、10,000人のアーティストを応援する仕組みは作れない。
だから社会に出て一緒にこの夢に心底共感してくれる、そして力のあるパートナーを11年間探し続けた。そこで出会ったのが清水と小池の2人。ぼくら3人はお互いの足りたいところを補い合える仲だったので、この3人でなら「アートの新しい流通エンジンを作る」という不確実性の高い戦いに挑めると思った。そして2017年夏に3人でCasieを創業、この時ぼくは父親が亡くなった34歳という年齢を同じくして迎えたタイミングだった。
■まっさらで誰も知らない会社が掲げたビジョンとミッション
ビジョン:「自分らしく生きる」
ミッション:「表現者とともに、未来の市場を切り拓く」
▲ 左から / 清水宏輔 / 藤本翔 / 小池勝(卒業)
父がよくぼくに言ってくれた「人生とは表現活動である」これがぼくのライフポリシーになってる。「真っ白いキャンバスの上に自分だけの人生を描け!」って意味なんだけど、分かってはいても周りに合わせちゃう人が多い。皆が大学に進学するから受験勉強したり、皆がやるから就職活動をしたり。そして気づかない間に自分のキャンバスが他人によって描かれている。
でもほとんどの人はそれに気がつかずに進んじゃう。別に幸せだったらそれでいいと思うんだけど、「自分の人生をちゃんと表現できてるのか!?」って常に自分に問う。これって決してアーティストだけに限った話じゃなくて、地球上に生まれた人類すべてに当てはまると思う。絵が描けなくても、美大を出ていなくても、「人生とは表現活動である」ってこと。
特にアーティストは表現活動が上手なわけで、オリジナルの方法を持ってる。1人でも多くのアーティストが、その表現活動を上手く世の中にデビューさせることができたら、これに影響される人が必ず出てくると思う。まずはそれらを「共有」できる場としてCasieが存在する。共有の場をたくさん作り出せたら、その作品に「共感」を覚える人が出てくる。
すると自分も人生の表現活動をするために動かなければ!って「共振」が生まれると思う。アートによってたくさんの共振が生まれれば、日本はもっとクリエイティブで個性ある人が増える。心が温かく、人の気持ちを考えてあげられる優しい人が増える、豊かな国になると心から信じてる。それを実現する仕組みとしてCasieを育てたい。
▲ 30年以上前に描かれた父の作品。オフィスに飾られている
「絵を買う」って難しい。。。という原体験
▲2012年ごろ妻と作品探しで路頭に迷ってた時
話は変わり、アートのサブスクリプションというサービスが爆誕した僕の原体験を紹介しようと思う。母子家庭だったこともあり、実家を出るのがかなり遅かったぼくが初めて親元を離れたのは結婚してからだった。
夫婦ともに暮らしに対するこだわりが強かったので、最初の賃貸マンションを選ぶのにもすごく時間がかかった。やっとのことで物件が決まったすぐ後に、壁に飾る絵を買いに行こうと妻に相談すると、「何で絵を飾る必要があるの!?そこにお金かける必要あるの!?」という価値観の違いから小さな衝突が始まった。幼いころから父のおかげでアートが暮らしの中にあったぼくにとっては、新居に家具を揃えるのと同じくらい絵を飾るのはあたりまえだったので、理解してもらうのに苦労した。
恥ずかしい話だけど、僕が初めてアート作品を自分のお金で購入する経験がここになる。それまでは美術館や展覧会など鑑賞の場に足を運んではいたものの、グッズ購入くらいの経験しかなかった。(申し訳ない!今絶賛取り返しています!)
一番最初にぼくら夫婦がとった行動が、家具・雑貨を買いに行ったついでにIKEAに置いてあるアートポスターを手に取った。しかしフレームはそれっぽいけど中身に熱量を感じなかったので、やっぱり原画がいい!って僕が却下した。
新居にある程度家具がそろい始めたところで、Googleで「絵画」って検索してみたのが第2段階。当時検索して出てきたのがヤフーオークションで販売されてるポスターアートの数々だった。「S,M,L,XL,XXLサイズから選べます!」って書いてあったけど、これも原画じゃないよな?ってことでスルーした。続けてGoogleで調べてみるが、やっぱりヤフオクと楽天市場で売られてるイケてないアートポスターばかりが出てくる。ん?思ったよりすんなりたどり着けないぞ?という印象を持った。
しばらく月日が流れて、夫婦で休日にFacebookのフィードで見かけたアーティストさんの展覧会や、ちょっと敷居の高い画廊さんに足を運ぶようになった。しかしそこで目にしたのは圧倒的予算オーバーの作品たち。そういえば特に推しアーティストがいるわけじゃなかったので、「この作品に決めた!」と意思決定することができない自分たちに原因があることが分かった。諦めずに引き続きGoogleで検索するも、やっとたどり着いた気になるアーティストさんの作品リストを眺めるも、ほとんどが「SOLD OUT」で次の展覧会情報を待つべきなのか、新作がいつかのタイミングでアップされるのか眺めてるだけでは全然わからなかった。そもそも画像だけで作品を見て、数万円以上する作品をポチるのは自分たちにとって無理があるような気がした。
またまた月日が流れて、Facebookで素敵な作品を描いてるアーティストさんをたまたま見つけたので夫婦で彼女の作品リストを見ながら「これいいね!でも一体いくらんだろう?」という話し合いをしていた。やっぱり現物を見て決めたいという心理が働いたため、勇気を出してDMしてみたところ、作品をいくつか持って会ってくれることになった。
心斎橋のスタバで待ち合わせをし、そのアーティストさんが来るまでドキドキしながら夫婦で待ってたら想像してたよりも普通の女性がやってきた。勝手にアーティストは皆奇抜なんだと思い込んでた自分たちが恥ずかしかった。
その場でいくつか作品現物を見せてもらい、やっぱり現物を見ることによる納得感や満足感を知った。そしていよいよ作品の販売価格を聞かせてもらう時がやって来た。当時の記憶を覚えている範囲で伝えると、こんな会話だった。
ぼく「惚れ惚れする作品がめっちゃいっぱい!この中から選ぶの難しいけど、このAという作品だとおいくらですか?」
アーティストさん「・・・・・。私、自分の作品を販売した経験がないので、値段のつけ方が分からないんです。」
ぼく「えっ!? ・・・・・・」
アーティストさん「逆に、いくらだったら買っていただけますか?」
彼女の名誉と今後の活躍のために名前と購入金額は伏せることにしますが、この時ほど困ったことはなかった。5万円だと安すぎるのか、10万円でも安すぎるのか。。。相場が分からなさ過ぎて背中に変な汗をびっしょりかいた。
結局彼女の作品を購入させていただくことができたのだけど、新居に住み始めてから何と1年半の歳月が過ぎていた。作品をたった1つ購入するのがこんなにも大変で、道が閉ざされていることを知った。正直かなり疲れた。
「鑑賞対象」だったアートが「購入対象」に変わる体験サービスをつくる
▲ 創業前に描きなぐった図
どうしてこんなに、たった1つのアート作品を自宅に迎え入れるのが大変なんだろう?この大変さがアートを楽しむひとつの要素だとわかる反面、「もっとこういうの欲しい!」と考えるようになった。
・原画だけを扱っているWebサービスが欲しい
・直感的な検索で自分が何となく探してる作品とすぐ出会える
・面倒な手間がなく今すぐアートのある暮らしを取り入れられる
・自宅展覧会を家族で楽しめる(飾り比べ、複数展示)
・好きな作品があればそれを購入できる
・推しアーティストが見つかる
・推しアーティストの挑戦や成功を自分事のように喜べる
・推しアーティストの限定情報が手に入る
・サービスを通してアートの世界を学習できる
・自分の変化や成長記録を観察できる
・意味のない消費ではなく、意味のある消費活動に参加したい
当時のぼくは美術館やバーゼルに登場する推しアーティストは数人いたものの、自分の予算で購入できる対象ではなかった(経済状況は今も特に変わらないけど)。では自分の予算内で購入できる推しアーティストがいたか?というと恥ずかしながら当時は皆目見当もつかない状態だった。だから自宅に飾るたった1つの作品と出会うまで1年半もの歳月を費やした。
文字にすると誤解されちゃうかもしれないけど、好奇心は旺盛なのに面倒くさがり屋さんという性分があるので、時間をかけて色んなアーティストの展覧会に足を運んで情報収集するのではなく、サービス料金を払うかわりに自分の推しアーティストと出会えて、彼らの情報が自動的に入ってくるようなものが欲しかった。人によっては、アートを冒涜している!と厳しい意見をいただくこともあるけど、決して冒涜なんかしてない。当時のぼくだってアートやアーティストに対するリスペクトは間違いなくあった。ただ、分からないことが多すぎて何から始めたらいいかすら分からない。そんな自分の課題を丸ごと全部解決してくれて、家族や暮らしの幸福度が高まるようなものが欲しかった。
「鑑賞対象」のみであったアートを「購入対象」として見れるそんな新しい体験サービスを作れば、アートに夢中になれる人がめちゃくちゃ増えるんじゃないか?そんな思いでサービスの構想を描き始めた。
まとめ
最後までお読みいただき本当にありがとうございます。ここまで正直な創業ストーリーを描いたのが初めてで、ドキドキしてます。Casieが毎月トラッキングしている重要な経営指標の1つに「月間アーティスト報酬支払総額」があります。僕たちのビジネスモデルはユーザーの皆様から頂戴するご利用料金の一部(サブスク35%、販売60%)を毎月アーティスト報酬として彼らにお支払いを続けています。
▲ Casieのビジネスモデル図
まだまだCasie1本で生計を立てることに成功している!と胸を張って紹介できるアーティストの存在はいませんが、毎月20-30万円ほどの報酬を定期的に手に入れるアーティストたちが徐々に誕生しています。彼らの才能が経済的理由で諦められることがないように。ぼくたちもサービスの拡大を諦めません。誰にどんな酷いことを言われ続けようとも。
Casieのサービスが10万人、100万人に使われるスタンダードなモノに成長した世界をよく想像します。100万世帯のお家でごく普通にアートが飾られている素敵な世界では、きっと暮らしの豊かさがアップデートされ、そこに暮らす家族は仲が良く、人の気持ちを考えてあげられる心豊かな子供たちがたくさん育つ。日本は今よりもっと豊かでクリエイティブな国になるでしょう。
そして作り手の世界にも大きな変化が生まれる。国内でも職業として画家が成立する世界になってて、小学生のなりたい職業ランキングの上位に画家がランクインする。ぼくはその職業ランキングを通信簿として手に持って、親父と同じお墓に入りたいと思ってます。