CAMPFIREグループは、世界でも類を見ない多種多様のクラウドファンディングサービスを展開している。購入型クラウドファンディングでは国内最大規模を誇り、個人や非営利団体、スタートアップを含むさまざまな挑戦を資金調達の面から支援している。
2020年8月にローンチした「CAMPFIRE Angels」は、「あらゆる事業創造=スタートアップ」を株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)の力で加速させる存在となることを目指し誕生した。
これまでスタートアップ企業や非上場企業のエクイティでの資金調達手段は、VCやCVCからの資金調達が一般的だった。ここ数年で、日本でも公募によって多くのエンジェル投資家より出資を募ることが可能なECFが登場し、シード、アーリーステージにあるスタートアップの新たな資金調達の選択肢として注目を集めている。
今回は、誰もが個人投資家になれる現代よりも前からエンジェル投資家として活動する家入一真に、真のエンジェル投資家とは、エンジェル投資家としての家入一真が目指す世界について単独インタビューを試みた。
投資の判断軸はリターンよりも「起業家の強い思い」
株式会社CAMPFIRE 代表取締役社長 家入一真
2003年株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業、2008年JASDAQ市場最年少で上場。2011年クラウドファンディングサービス運営の株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。2012年Eコマースプラットフォーム運営のBASE株式会社を設立、共同創業取締役に就任、2019年東証マザーズ上場。
ーー今回は、CAMPFIREの代表としてではなく、エンジェル投資家としての家入さんにインタビューをさせて頂きます。先ず、家入さんがエンジェル投資家として活動しようとしたきっかけ、ルーツを教えて下さい
家入一真(以下、家入):私自身は、22歳でレンタルサーバサービスpaperboy&co.(現GMOペパボ)を創業しました。それまで地元・福岡で活動していましたが、2004年に株式の一部を売却して拠点を東京に移しました。個人的にも資金が入り、起業家の活動をサポートしようと思ったのがきっかけです。
ーー家入さんのこれまでの投資家としての活動内容をお聞かせ下さい。
家入:初めてスタートアップに投資をしたのは26歳でした。正直、最初は投資に対してあまり深く考えていなかったんですよね。
当時、自分の周りには「将来会社を作りたい」と夢を持つ大学生や、若手クリエイターが多く集まっていました。彼らを応援する形で出資をして、そこから少しずつ投資の機会が増えていったという感じです。
私が初めて起業した当時は、VCもエンジェル投資家も今ほどメジャーではありませんでした。経営のノウハウもなく、貯金と融資で立ち上げたため資金面で苦労した経験もあります。振り返ると「頼りになる先輩がいたらもっと事業をドライブできたのに」と思うこともありました。ですから、投資は起業家の可能性を広げるきっかけだと考えています。
ーー家入さんが投資を判断する際の決め手とは何でしょうか?
家入:これまで100社を超える企業に投資してきましたが、昔も今も一貫しているのは「まずリターンありきの投資は一度もない」ということです。私の場合、まず起業家その人自身とチームを見ます。
起業は上手くいかないのが当たり前です。会社が成長する過程で、ピボット(事業転換)したり社員が辞めたりと困難も伴います。若くアイデアにあふれた起業家は誰しも「初打席で特大ホームランを打ちたい」と意気込んでいるでしょう。でも、それが実現するのはごく稀なケースです。
バットをいくら振っても三振を繰り返し、時にはデッドボールを受けることもあります。メンタルが落ち込むのも当たり前です。それでも、起業家自身がどれだけ強い思いを持って打席に立ち続けられるかが大切だと思っています。
想いは個人によってさまざまです。「なぜ起業したいのか」「なぜこの領域で課題に立ち向かいたいのか」という根底にある強い意思。言葉を変えれば、社会に対する理不尽や不便さ、怒りに似たものかもしれません。
想いさえ絶やさなければ、今はビジネスがうまくいかなくとも、何度でも打席に向う原動力になります。それがやがて新しいビジネスを切り拓く一歩になる。投資相談を受ける際もそこは一番深く掘り下げる部分ですね。
投資を通してスタートアップが綴る“物語”に参加する
ーー単体の「投資家」と「エンジェル投資家」の言葉の定義と違いはなんだと思いますか。
家入:投資家にもさまざまなスタンスがあります。上場やM&Aによるリターンが目的の人もいれば、次世代の経営者を育てたい人もいる。
エンジェル投資家を定義するならば、個人の経験や知見、人の繋がりをお金と一緒に次世代へバトンを渡せる人だと思います。これまで私も先輩起業家には何度もお世話になりました。経営者・起業家としての経験を投資の形で手渡し、社会の新陳代謝を促す。この循環の仕組みはある意味“生態系”に近いですよね。
シリコンバレーでは、エンジェル投資家やシリアルアントレプレナー(連続起業家)がスタートアップを支援する「エコシステム」が既に確立しています。向こうでは循環の規模もスピードも桁違いで、日本はようやく2周目に入ったくらいですね。
ーー今や誰でもがエンジェル投資家になれる時代になりましたが、真のエンジェル投資家とはなんだと思いますか?
家入:短期的なリターンよりも、10年、20年と長いスパンで関わる姿勢がエンジェル投資家には求められているように感じます。会社の成長にじっくりと向き合い、伴走していくイメージですね。CAMPFIREも創業してまだ10年ですが、数年で成功する会社はごくわずかです。
投資はビックマネーです。融資と違って自分のお金がゼロになる可能性もあります。そのリスクを背負えるかがまず前提です。
一方で、その分リターンもあります。投資ってある意味、スタートアップが綴る“物語”に参加する感覚に近いと思うんです。リスクを引き換えにしても「彼らと一緒に新しい世界を見たい」「未知の経験を体験したい」といった面白がる気持ちが必要ではないでしょうか。でないとただの貸付になってしまいますからね。
投資を受ける側も、必ず返さなきゃいけないお金ではありませんが、エンジェル投資家の「想いが乗ったお金」をどう捉えるか。しっかり向き合って事業に活かして欲しいと思います。
ーーエンジェル投資家としての「成功」と「失敗」といえる事例はありますか?
家入:「成功」で言うと、例えば数人で立ち上げた小さな会社が数百人にグロースしてIPOを果たした。これも一つの成功事例です。売上や時価総額も指標ですね。ですが私はそれよりも、起業家の「成長率」を重視しています。数値化は難しいですが、失敗を繰り返しながらも成長した姿や発言、自分の方が教えられることが多くなった感覚などですね。
今、第一線で活躍している起業家も、学生時代はいわゆる普通の大学生でした。特別光るものがあったかというと案外そうでもないんです。起業を悩んでいる頃から相談に乗ったりファイナンスを教えたりとサポートしてきましたが、彼ら自身が経験を重ね、難しい局面を乗り越えた結果が、今に繋がっているんだと思います。経験は人を変えますし、人はどこまでも変われるんです。
一方で「失敗」は定義にもよります。投資先が100社を超えると、資金がショートしたり、社員が辞めてしまったりしてうまくいかなくなる会社も当然出てきます。
以前投資したある会社は、3人で創業して社員が50人まで増えたものの、事業が縮小してしまいました。現在3人はそれぞれ地方で頑張っていて、次のチャンスを狙っています。起業家があきらめない限り、小さく生き残る戦略も選択できるんです。特にIT領域は、他の業界に比べて大規模な設備投資が必要ありませんしね。
悲しいことは、会社の不振を原因にして起業家が心を病んでしまうことです。日本はまだまだ「自己責任論」が根強く、会社を立ち上げたら一生続けなきゃいけない雰囲気が漂っています。
私は、メンタルに問題を抱えるくらいなら、リタイヤの選択肢を取るのも一つだと思います。自分を責めずに次のチャンスに挑んでほしいと思っています。海外では、起業する会社も多ければ潰れる会社も当たり前にあります。ある意味健全なカルチャーです。これは今後日本でも変えていかなければならない課題です。
ーーエンジェル投資家になるためには、まず何から始めればいいでしょうか?
家入:個人的には、何かを得ようとするなら、まず自分がはじめに与えることが大事だと思っています。行動することではじめて得られる出会いや経験も多いからです。
コロナ禍では対面で会うことは難しいですが、起業家が集まるコミュニティやサークルはたくさんあります。初めは、ボランティアやスタートアップのインターンとして現場に関わってみるのも一つの手です。自分の起業家に対する想いや専門知識をアピールしたいのであれば、SNSで発信してもいいと思います。自分にも膨大な数のメッセージが届きますが、相手のSNSをチェックして「この起業家面白いな」と興味を持って会いに行くこともあります。
エンジェル投資家の第一歩はまずアクションしてみること。そこからすべてが始まります。
ーー最近では資金調達の方法も多様化しています。
家入:起業家がVCに直接コミュニケーションを取って会うことも可能ですが、スモールスタートしながら小規模な出資を受けつつ、自分の視座をあげていくことも可能です。今は資金調達と並行して事業をグロースできる時代になったのかもしれません。
投資は「恩送り」。個人受け取ったバトンをお金と一緒に次世代へ渡す
ーーエンジェル投資家として抱える課題とはなんですか?
家入:一つは投資をする側、受ける側双方のリテラシー向上です。
資金を持った人がスタートアップに投資するケースも増えていますが、中には出資者が「500万円出資するから株式の半分がほしい」と提示した条件を、経営者が深く考えず受け入れてしまうケースもあります。これは投資のバリエーションや持ち株比率、株主の権利など出資に関する基本的なインプットが足りていないからです。
資金調達は不可逆的で、決定事項を取り消すことはできません。投資家・起業家のリテラシーを高められたら「エコシステム」の循環も日本全体に広がり、地方でも魅力的なスタートアップが生まれる可能性があります。
もう一つは、私も5年ほど取り組んでいる課題ですが、起業家のメンタルヘルスケアです。「起業は自己責任」の風潮が当たり前だと起業家一人が背負うものも大きいんですよね。でも、しんどいときはしんどいんですよ。会社とプライベートの悩みが重なることもありますしね。周りに相談できる人がいないと、どんどん悪循環に陥ってしまう。
経営や新しいサービスの創出を通じて、持続可能かつよりよい社会を作りたいと夢を描く起業家はたくさんいます。そのためにも起業家自身の心の持続性をケアしていく仕組みが必要です。一人の投資家としてではなく、より大きな枠組みで取り組みたいと考えています。
ーーエンジェル投資家を続ける目的、意義、ゴールを教えて下さい
家入:一言でいうなら「恩送り」ですね。自分が受け取ったバトンを、次世代を担う人に渡していく。投資は起業家への資金提供に限りません。関心があるNPOへ支援する、ギャラリーに足を運んで気に入ったアートを購入する。これも私に取っては投資と同義です。
どうしたら投資家になれるのか、その定義は決まっていません。かつては一部の富裕層や資産家など限られた人のための手段でしたが、今は誰でも少額から投資ができる時代になりました。
起業家でなくても、NPOやアーティストなどでもいいと思います。自分が「心から応援したい」と思える相手に出会えたら、まず勇気を出して関わることからは始めてみてはいかがでしょう。投資から見える世界は確かにあります。それは金額の大小は問いません。小さな行動から視野も気づきも広がります。
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