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これからのデザイナーに求められるものとは?ゲスト:Takram 河原さん / TBS 野田 さん/ Nstock 上谷さん

BCG Digital Ventures ※(現BCG X)でPartner & Director, Experience Designを務める花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。

2022年最後のセッションは、これまで登場した3名を再度お招きして「その後」を伺いました。コロナ禍から、本格的に「ニューノーマル」が動き出した2022年。ゲストの皆さんはそれぞれの課題にどう向き合ってきたのでしょうか? 1年の振り返りとともに、パネルディスカッション形式で未来のデザインについて語り合いました。

※ 本イベントは2022年12月にBCG Digital Venturesとして主催されたものとなります。

BCG Digital Venturesは、2022年12月に、他のデジタル専門組織とともに統合され、新たにBCG X(エックス)と名称変更致しました。

■プロフィール

河原香奈子(かわはら・かなこ)Takram / デジタルプロダクトデザイナー、ディレクター

UI/UXデザインとブランディングデザインを中心に活動。使い勝手だけでなく使い心地を大切に、幅広いカテゴリーのデジタルプロダクトのデザインを手がける。ITスタートアップにて新規事業立ち上げからグロース、デザイン領域のリーダー・役員などの経験を積み、2020年よりTakramに参加。

野田克樹(のだ・かつき)TBSテレビ / デザイナー

千葉県木更津市出身、千葉大学工学部情報画像学科 卒業後、プロジェクトマネージャー / UXデザイナーとしてGoodpatchへ入社。約2年間UXデザイナー/プロジェクトマネージャーとして主に日系大企業のデジタル新規事業の立ち上げに携わる。2018年にはTBSテレビの新規Webメディア「Catari」の立ち上げからリリースまでを担当し半期社内MVPを受賞。2019年6月からはUXデザイナーのマネジメントに従事。2021年4月にTBSテレビのデザインセンター デザインマネジメント部に転職。

上谷真之(うえたに・まさゆき)Nstock / デザイナー

制作会社からキャリアをスタートし、複数スタートアップの創業期で事業立ち上げを経験、その後2017年に自ら起業。2022年よりNstock株式会社にデザイナーとして参画し、その傍らでD&Experimentという屋号でデザインを軸とした事業支援や、後進デザイナーの育成を行う。

花城 泰夢(はなしろ・たいむ)BCG Digital Ventures / Partner & Director, Experience Design

2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo(現:BCG X)の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。2022年12月、日経ムック『BCGデジタル・パラダイムシフトに寄稿。

2022年、手がけたプロジェクトから得た学び

花城:今日は「振り返り編」と「フューチャー編」の二本立てでお送りしたいと思います。まずは簡単な自己紹介と、最近取り組んでいることについてお聞かせいただけますか?

河原:私はTakramというデザイン・イノベーション・ファームで、デジタルプロダクトデザイナー、プロジェクトディレクターという肩書きで活動しています。ここ数年は「KINS WITH」という犬猫の腸内環境に着目したD2Cブランドの立ち上げなど、デジタルを中心に様々なプロジェクトに取り組んできました。「ブランディング」と「UI/UXデザイン」の両輪で魅力的なデジタルプロダクトを作ることを目指して活動しています。

野田:前回登壇したときはTBSテレビに転職して1ヶ月たらずだったのですが、今はTBSで主にデジタルタッチポイントでのUIUXデザインを担当しています。デザインのディレクションをしたり、ときには自分で手を動かしてデザインを作ったりと、TBSのデジタル分野を底上げする役割を担っています。最近は全国のTBS系列のニュースサイト「TBS NEWS DIG」のクリエイティブディレクションをしたり、採用サイトを作ったりと、とにかくいろいろと作りまくっていた1年でした。

もう一つ、Bison Holdingsというエンジニアリングとデザインの力でビジネス課題を解決する組織にも非常勤取締役として関わっています。

上谷:私はNstockという2022年1月に設立されたSmartHRのグループ会社に、デザイナーとして創業時から携わっています。前回このイベントに出たときは、newnという主にD2Cブランドを手がけるベンチャーに所属していました。スタートアップの空気感がすごく好きで、約10年間ずっとスタートアップに関わり続けています。個人の活動として、若手から中間層くらいのデザイナーに無償でメンタリングをしていたりもします。

花城:皆さん、よろしくお願いします。早速一つ目の質問ですが、最近取り組んだプロジェクトで学びがあったことは何ですか?

野田:会社の中で、「デジタルのデザインといえば野田」と企画段階から関わらせてもらうことが増えました。その結果 落ち着いた結論は、意思決定者にデジタルやデザインがわかる人がいることが重要だということ。意思決定が歪まないようにする体制づくりは、デザインそのものの良し悪しと同じくらい大切なのだというのが最近の学びです。

花城:体制づくりは大切ですよね。普段はどんな人たちと一緒に働いているんですか?

野田:デザインマネジメント部という部署の所属なのですが、例えば、ドラマのセットを作っている人、リアルイベントの空間設計をしている人、オフィスのデザインをしている人など、空間や建築に強みのある人が多いです。なのでデジタル領域では僕にお呼びがかかることが多くて、あらゆるデジタルプロジェクトでディレクターのように立ち回っています。

花城:野田さんみたいなデザインディレクターのニーズって事業会社にすごく多いと思うんす。でもなかなか採用も難しいし、採用してもうまく機能するかわからない。野田さんがうまくいっている秘訣は何だと思いますか?

野田:「良いものを良いと言う勇気」ですかね。根性論で申し訳ないんですけど、僕は優れたデザインを速攻で作れる人ではなくて、ただこうしたほうがいいと思うことを10歳、20歳上の人たちに臆せず提案しているだけなんです。微妙な反応がきても、こういう理由でいいんだと主張する。泥臭く戦い続けることが、結果的に周囲を動かしているのではないかと思います。

花城:河原さんからも回答をいただいています。「エモーショナルUIデザイン」というワードが出てきましたね。

河原:「エモーショナルUIデザイン」は、使い勝手とトーンを融合させて、ユーザーの感情に作用するようにUIをデザインすることと定義しています。D.A.ノーマンという認知心理学者の『エモーショナル・デザイン』という本から着想を得ました。UIデザインについて語るときって、どうしても使い勝手の部分に議論が寄りがちだと思うんです。ですが、ユーザーが使っていて楽しい、嬉しいと思うポジティブな感情は、使い勝手とトーンが絶妙にマッチしたときに生まれるもの。それが唯一無二のそのプロダクトらしさにつながるとも思っています。

花城:使い勝手とトーンって担当する職種が違うこともあってバラバラになりがちですよね。「エモーショナルUIデザイン」という考え方に行き着いたきっかけはあるのですか?

河原:Takramでいろいろなプロジェクトに関わる中で、自分の活動の軸になるような考え方が欲しいと思うようになりました。自分が今まで大切にしてきたことを振り返ったとき、ユーザーの気持ちに寄り添って情緒的にUIをデザインするということがありました。それをフレームワーク化できないかと挑戦しているのが「エモーショナルUIデザイン」ですね。

デザイナーに求められる「機敏性」

花城:次の質問です。デザイナーのキャリアとして変化を感じるところはありますか? 上谷さんは「変化に反応する機敏性(アジリティ)と挙手力」と書いていますね。

上谷:ここ数年ずっとこれを言い続けているんですけど、機敏性はわかりやすいですよね。変化の激しい環境下だからこそ、機敏に動かないといけない。当たり前なことではありますが、実践しようとするとこれがなかなか難しい。デザイナーは専門職であるがゆえ、スキルや方法論への執着が足枷にもなります。機敏でいたいがために、これまでの成功体験やバイアスに囚われて価値観や方法を固定させてしまうこともあるかもしれません。そこに縛られず、意識的に手のひらを返す力もけっこう大切なんじゃないかと思っています。

花城:これは皆さん感じることかもしれないですね。以前はデザインを頼まれたら一旦持ち帰って、提案するまでにシンキングタイムがありました。でも今はアドリブ力というか、会議の中で「こんなのはどうですか」と即答したりどんどん前に進めたりする力が求められているように僕も感じます。

上谷:僕は過去のキャリアでも社内唯一のデザイナーというケースも多かったので、他のデザイナーと協業しながら意見を吸い上げる機会も少ないんですよね。だからこそ、自分のバイアスと向き合い、あえて「物差しを持たない」ことを意識しようとしています。

もう一つの「挙手力」も大事だと思っていて。ソフトスキルって、実践の場や一定の責任を伴わないとなかなか伸びづらい能力だと思うんです。だからこそ、その希少な機会が目の前に落ちていたときに、厚かましいくらいに「それ私がやります」と取りに行く力はめちゃくちゃ大事。周りで活躍している人たちも、みんなそういう能力が高い気がしますね。

2022年、出会った一冊

花城:次はおすすめの本について。2022年、皆さんが読んだ本の中で最も印象に残った本があれば教えてください。

河原:ヴァージル・アブローというファッションデザイナーの『ダイアローグ』です。彼はファッションデザインを民主化しようとしたデザイナーで、既存の業界の常識を打ち破るために、声を荒げる方法ではなく、ファンを増やしながら表現の力で世界を変えようとした人。デザイナーとして、「やさしいパンク」のような彼の姿勢に共感した一冊でした。

野田:僕が選んだのは、最近の本で『銀行とデザイン デザインを企業文化に浸透させるために』です。大企業の中でどうデザインを浸透させていくかに迫った本で、抽象論も具体論もどちらも書かれています。実際のプロジェクトの中でどうUXデザインのプロセスを回しているかとか、デザインシステムはどうだとか、大企業にかかわらず組織にデザインを浸透させることに悩んでいる方にはすごくおすすめです。

上谷:ちょっと前の本ですけど、めちゃくちゃ面白かったのが『良い戦略、悪い戦略』ですね。事業会社でデザインをワークさせるとき、マクロな視点を持つことが大切です。これまでの仕事を振り返ると、デザインが悪い戦略の渦中にあったこともあったなと。それぞれの過去と重ねながら読むとすごく面白い一冊だと思います。

花城:手前味噌になりますが、最近『BCG デジタル・パラダイムシフト』というムック本に寄稿しました。「未来のデザイン」と題して、日本企業・社会におけるデザインの力について書いています。

「いいデザイナー」が生まれるために必要なもの

花城:ここからは、未来について話していきたいと思います。デザイナーとして成長したり、デザイナーを育成したりするにあたって、どんな環境や取り組みが必要だと思いますか?

河原:責任を持ってチャンレンジできる環境が大切だと思います。Takramでは最近、プロジェクトディレクター制度という、ライセンスを取得することで誰でもリーダーとしてプロジェクトを計画・実施できる制度が導入されました。過去は一部のディレクターしかプロジェクトをリードすることができなかったのですが、社内の講座を受けたりシニアのサポートを得たりしながら挑戦できるようになりました。

課題が複雑化するなかで、成長のために自分で手を動かすことももちろん大切ですが、全体を俯瞰して捉える経験も重要になってくると思います。この取り組みで、デザイナーとしての動き方をアップデートできるのではと考えています。

花城:社会や組織から求められる理想のデザイナー像は今後どうなっていくと思いますか?

河原:企業のビジョンや誰かの想いを一番素直に受け取れるのはデザイナーなのではないかとずっと思っていて。想いを真っすぐに抱えて、旗振り役となって周囲を巻き込みながら、ものづくりができるデザイナーが社会にとって重要な存在になるのではないかと思っています。

個人的にも作るだけではなくて、作ったものが世の中にとってどういう意味を持つのか、どう人を幸せにするのかというのが大きいテーマなので、それを考え続けていきたいです。

花城:河原さんは「ビジョンを可視化する」ところを立ち位置とされていますよね。

河原:そうですね、いかにクライアントさんの想いを受け取って形にしていくかに注力しています。作ったものを出した時の社会の反応は一時的なものだったりするので、それが良かったかどうかは数年経って分かることもありますが、デザイナーやプロジェクトに関わる人が、自分の中に答えを持てている、ということが大事なのかと思います。

花城:信念や価値観といったことが大事なのかもしれないですね。野田さんはいかがですか?

野田:「観察する目」と「可視化する手」があるデザイナーはいつも強いですよね。その二つをどう活かすかが理想のデザイナーやデザイン組織の話につながっていくのではと思っていて。

今後デザイナーは、大きく分けてアウトプットのクオリティを追求する職人型のスペシャリストと、不確実性を下げる意思決定をサポートするジェネラリストの二種類になっていくのではないかと思っています。二者択一ではないものの、前者はひたすら人の心を動かす最終成果物に責任を持つ人で、後者はプロセスやリサーチなど上流部分に責任を持つ人。スキルの軸足としては、この二つになるのではないかと。

花城:その二つの役割を一人でやるのか、チームでやるのか、組織でやるのか。仕組みやコラボレーションでうまく解決していきたいですよね。スタートアップだと一人で「縦」も「横」も担うことになると思いますが、上谷さんはどうですか?

上谷:自分が組織の中でどんな責務なのか、どうアサインされ、どうコストを分散していくかという話かなと思います。一人で縦も横も100%発揮するのは無理だと思うので、それを一人でマネジメントしていくのか、組織規模に応じてどう広げていくのか、チューニングする力が大事なのかもしれないですね。

非デザイナーと働くときに大切なこと

花城:ここからはお互いが聞きたいことを聞くスタイルでいきたいのですが、河原さんは最近直面している課題はありますか?

河原:良いものづくり、良いコラボレーションをするために、皆さんが実践していることがあれば伺いたいです。

上谷:所属しているNStockは、デザイナーは一人で、フルタイムの社員もまだ10人。だからこそコミュニケーションを取るときにはあまり自分をデザイナー扱いしないよう心がけています。具体的には、専門用語を使わないとか、デザインのハードルを下げるような話し方をする。デザインへの壁があるとスピード感が落ちますし、自分でも気づかないうちに孤立して情報が共有されなくなってしまうので、そこはかなり気を遣っています。

野田:僕もUIデザインに携わってこなかった人と仕事をすることが多いので「UIなしにUIを議論しない」を心がけています。言葉だけで議論すると絶対に認識にズレが生じるので、雑でもいいからモノを作って、触りながら話すようにしています。

花城:BCGDVではキックオフのときのチームビルディングをかなり丁寧にやるようにしています。チームキャンバスというものを作って、チームにおけるゴール、役割、価値観などを擦り合わせた上で、それぞれと1on1をする。そうすることでプロジェクトに対するエンゲージメントが変わるように思いますね。

デザイナーとしてのキャリア観

野田:僕からは、シニアの皆さんだからこそ、5年後、10年後に何をしているか今後のキャリアについて聞きたいです。デザイナーでい続けるのか、はたまた違う何かをしているのか……。

上谷:僕はキャリアが進めば進むほど、キャリアの意思決定が雑になっていく現象があって(笑)。本当にいつもノリで決めているので、先々のことは考えていないんですよね。計画すると「こうあるべきだ」に縛られる気がして。しいて言うなら好きな人と、好きな事業で、好きなフェーズで働きたい。だからこそ選ばれるように日々頑張らないといけないなと思っています。

河原:私は一人で実現できることには限界があることを強く感じているので、いちデザイナーとして成長することは大前提として、引き続きディレクションの力をつけていきたいですね。Takramには多彩なプロフェッショナルが多く在籍しているので、それぞれの力を束ねてより良いアウトプットへとつなげられるよう、方向性を示せる人になりたいです。

花城:この質問は僕にとってもけっこう難しくて。コンサルでありながら、デザイナーでもある。両極端にも思える二つの職種ですが、デザイナーとして学びながらインパクトを可視化する作業と、クライアントに伴走するコンサルは、アウトプットは違えどやっていることは意外と似ているのではとも思い始めました。ここ数年で少しは道を作ってこられたかなという自信もついて来たので、まさにキャリア像を切り拓いている段階ですが、これからも二つの領域の接着面を開拓していきたいです。

※ 本イベントは2022年12月にBCG Digital Venturesとして主催されたものとなります。BCG Digital Venturesは、他のデジタル専門組織とともに統合され、新たにBCG X(エックス)と名称変更致しました。

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